機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第55話

 

 

 

 

 

地球連合大学‥‥それは地球連合政府が設置した国際大学で、主に軍士官の育成を目的としている大学であり、木連との戦争中には初代ナデシコの艦長だったユリカ、副長だったジュンもこの大学を卒業している。

そして、ユリカは在学中、戦略シミュレーションで無敗を誇り、才色兼備の逸材として、大学卒業後は、宇宙軍に任官せずに、ネルガル重工にスカウトされてナデシコの艦長に就任した。

ジュンの場合も当時はユリカに対して恋愛感情を抱いており、彼女を追いかける形で、軍には任官せずに、ネルガルのスカウトに応じて、ナデシコの副長となった経緯がある。

その地球連合大学では、卒業を間近に控えている生徒たちはそれぞれ軍艦へ乗艦しての実地研修、司令部や基地にて、軍務研修を受けることになっていた。

木連との戦争時には、宇宙軍が幅を利かせており、地球連合大学の卒業生たちはそのほとんどが宇宙軍へ任官していた。

しかし、木連との戦争が終わり、統合軍が組織されてから、連合宇宙軍の他に連合空軍、連合陸軍、連合海軍はその規模を大きく収縮され、地球連合大学の卒業生たちも統合軍への任官が増えた。

特に統合軍は、今年の夏に草壁の反乱事件で統合軍は全体の三割に造反者を出したので、その穴埋めため、人材を必要としていた。

そんな、地球連合大学の通路を卒業間際の実地研修希望を書いた紙を手にした一人の学生が歩いていた。

 

「おーい!!ジーク!!」

 

その学生に通路の向こう側から、声をかける別の学生が居た。

 

「ん?ああ、アストルフォか‥‥」

 

声をかけた学生、アストルフォは一見、美少女と見紛う容姿をしているが、れっきとした男性であり、在学中は、入浴時間が特別にずらされたり、水泳の時間でも、プールサイドに居る際は、何故か身体にバスタオルを羽織ることが徹底されたりしていた。

そして、アストルフォが今声をかけた学生、ジークは大学に入ってから、アストルフォとはルームメイトであり、互いに親友の仲だった。

 

「ねぇ、もうすぐ、実地研修だけど、ジークはどこに行くのか決めた?」

 

「あ、ああ」

 

「たしか、ジークは艦長候補生だったよね?やっぱり、統合軍の宇宙戦艦に乗るの?」

 

「いや、俺は宇宙軍の方にした」

 

そう言って、彼はアストルフォに研修先についての希望調査票を見せる。

そこには確かに、

 

希望先 連合宇宙軍

コース 艦長候補生研修コース

氏名  ジーク・ブレストーン・ユグドミレニア 

 

と、書かれていた。

 

「ええぇっー!!どうして!?君の成績なら、宇宙軍じゃなくて、てっきり、統合軍の方に行くかと思ったのに‥‥」

 

「統合軍の方はどうも、派閥争いやらで、人付き合いがめんどい‥‥」

 

「確かに君はあまり人付き合いが得意じゃないもんね」

 

「そう言うアストルフォ、君はどうなんだ?」

 

「僕?僕は‥‥まぁ、成績がアレなんで、宇宙軍の方‥‥」

 

アストルフォは後頭部を掻きながら「たははは‥‥」と笑みを浮かべながら、自分の研修場所は統合軍ではなく、宇宙軍の方であることをジークに伝える。

統合軍は人材を多く欲しているが『誰でも』というモノではない。

成績不良や人格面に問題がある者はお断りと言う態度をとっている。

 

「操艦については、君は成績がよかったじゃないか」

 

「それだけしか取り柄がなかったからねぇ~僕は‥‥」

 

アストルフォは操艦技術に関しては一日の長があったが、その他の成績はどうも芳しくなく、留年ギリギリの成績だった。

その為、統合軍の方からはお断りの知らせを受けて、彼は宇宙軍の方への研修となった。

 

「まぁ、僕は統合軍だろうと宇宙軍だろうと気にしないし、むしろ、ジークと同じだから、嬉しいかな?」

 

「同じ宇宙軍と言っても研修する艦が同じとは限らなぞ」

 

「わかっているよ」

 

和気あいあいとしながら歩く二人の姿は一見すると恋人同士に見えるが、実際は同性同士‥‥腐った女子ならばきっと興奮するようなシチュエーションに見えただろう。

 

 

卒業間近の生徒たちがそれぞれ、実地研修が進められていく中、

一人の生徒が教官室で教官ともめていた。

 

「これはどういうことですか!?教官!!」

 

「どう?とは?」

 

「なぜ、自分の研修先がここなんですか!?」

 

バンっ!!と、デスクにたたきつけられた研修希望先の用紙には、

 

希望先 統合軍 第501ステルンクーゲル部隊

コース パイロット研修コース

氏名 アキレウス・オデュッセイア

 

と、書かれていた。

 

「何が不満なのかね?」

 

「自分は戦闘機部隊を希望したはずです!!それが何故!!ステルンクーゲルの部隊なんですか!?」

 

「オデュッセイア生徒、この時代に戦闘機なんて、もう時代遅れだよ」

 

教官は呆れたようにアキレウスに言う。

教官の言う通り、戦闘機は既に過去の時代の遺物となりつつあった。

かつて、陸の戦闘において、主力とされた戦車も人型機動兵器の登場により、その座を奪われることになった。

実際、初代ナデシコがナナフシ破壊作戦の際、木連がロシア、クルスク地方で廃棄された戦車を大量に鹵獲して、ナナフシの警備に当たらせていた。

戦車の大群を見た時、ユリカやジュンを始めとする大勢の乗組員が戦車の事をまるっきり知らなかった。

戦車の事を知っていたゴートは、「二世代前の陸上主力兵器」と戦車の事を知らないナデシコの乗員たちに説明していた。

戦争は兵器と科学力を進歩させる。

そしてそれは、陸はもとより、空にまで広がった。

木連との大戦中は、地球の第六、第五防衛ラインで活躍した戦闘機だったが、今日では、過去の遺物として引退していた。

その理由はクリムゾングループが開発をしたステルンクーゲルの登場が戦闘機引退へと追いやる結果となった。

大戦中は、まだ人型機動兵器はエステバリスや第三防衛ラインで使用されていたデルフィニウムぐらいで、どちらも動かすにはナノマシンを使ったIFSが必要だった。

このナノマシンを自らの体内に注入する行為は、軍でも毛嫌いする傾向があり、士官は自らの身体にナノマシンを注入する者は少なかった。

ジュンの場合は、ただ愛する者の為に行った珍しいケースである。

そう言ったこともあり、士官でパイロットを目指す者は大抵が戦闘機乗りとなっていた。

しかし、空軍の戦闘機の機動力と木連のバッタでは、機動性に大きな差があった。

やがて木連との戦争が終わり、クリムゾングループがナノマシン処理をしなくても動かせる人型機動兵器を開発すると、戦闘機はあっという間にステルンクーゲルにその座を奪われた。

その他にも大戦中よりもエステバリスの性能やバッテリーの出力が上がったことも戦闘機を引退に追いやる要因の一つでもあった。

以降、戦闘機乗りは消滅し、軍で飛行機のパイロットとなるとせいぜい輸送機のパイロットぐらいになった。

それは統合軍により、宇宙軍同様規模が収縮された連合空軍も同じで戦闘機からステルンクーゲルかエステバリスが配備されていた。

 

アキレウスの家は代々、戦闘機乗りの軍人家系の家だった。

自分も任官する際は戦闘機乗りを目指していたのだが、蓋を開けてみればすでに戦闘機は廃止され、機械人形が戦闘機の代わりとなっている。

自分はあくまでも戦闘機に乗りたいのに、研修地はその機械人形の部隊‥‥

空に対する強いこだわりのある彼にとって、今回の研修地は納得できない決定だった。

 

「しかし、飛行機乗りとなると、輸送機のパイロットコースぐらいしかないぞ」

 

「‥‥」

 

アキレウスにとって飛行機は飛行機でも、カモの様にのんびりと決まったコースを飛んでいるだけの輸送機も御免だった。

贅沢と言えば贅沢であるが、代々先祖から受け継いできた誇りも自分の代で終わるのかと半ば自棄になりつつあった。

そんな彼と教官のやり取りをある人物がジッと見ていた。

 

「くそっ!!」

 

通路の隅で思わず壁を強くたたくアキレウス。

 

「あんな、機械人形が空の守護者だと‥‥」

 

研修地の決定に不満を零していると、

 

「随分と荒れているわね」

 

「あん?」

 

アキレウスが振り返ると、そこには、軍帽を被った白いロングコート状の軍服を纏った女性士官が居た。

 

 

それから幾日が過ぎ、卒業を控えた学生たちは、それぞれの研修地へと赴いた‥‥

 

 

 

 

歴史はまた繰り返す

 

 

人の思い

 

 

たくらみ

 

 

悲しみ

 

 

それは

 

 

この宇宙でも同じこと‥‥

 

西暦2201年 10月 軍用空港・宇宙船滑走路

 

今ここから飛び立とうとする1機のシャトルがあった。

 

「「がんばれよー!!」」

 

シャトルに向けてかけられる声援。

そのシャトルの窓から、声援を送る者たちに手を振って答える若者がいた。

 

 

地球の静止衛星軌道上 ナデシコB 艦橋

 

地球連合大学のカリキュラムのため、艦長候補生の訓練学生を待つナデシコB。

訓練を行う学生が来るまで、座席で本を読んでいるナデシコ艦長のルリ。

両足をコンソールの上に投げ出している、ナデシコ副長のサブロウタ。

そして真面目に仕事をしている、副長補佐のハーリー。

 

「もうすぐですね、訓練航海」

 

「ええ」

 

「どんな人が、来るんでしょうか?」

 

「さぁな、どんな奴だろうと、俺たちには関係ないさ。 そのまま配属されるっていうなら別だけどな」

 

「それは、そうですけど‥‥でも、やっぱり、気になるじゃないですか。 訓練とはいえ、一応僕らを指揮するんですから」

 

「そりゃそうだ。でもな、それを採点し、指導するのは俺たちだぜ。 まぁ、せいぜい私情を挟まないように注意することですな、マキビ・ハリ少尉」

 

「そ、そんなこと、言われなくてもわかっています!!」

 

サブロウタの指摘にふて腐れるように答えるハーリー。

 

「なら、いいがよ。お前は任務中でもちょこちょこ私情を挟んでいるからなぁ‥‥」

 

「いつ、僕が私情を挟みました?!」

 

ムキになるハーリーをまるで楽しむかのように話すサブロウタ。

 

「いつも挟んでいるじゃないか。例えば、艦長や愛しのお姉様の事となると‥‥」

 

「な、何てこと言うんですか!?い、い、いつ、ぼ、僕が艦長やコハクさんの事で私情を挟みました!?そんな事ありませんからね!!艦長!!」

 

「なに、慌てているんだよ?ハーリー」

 

サブロウタとハーリーのやりとりを見ていた、ブリッジ要員たちは、いつもの事とはいえ笑いを押さえるのに必死だった。  

ルリも本を読んでいるふりをしながら、笑いを噛み殺していた。

 

先程、軍用空港から飛び立ったシャトルの目の前には白を基本とした一隻の宇宙戦艦がいた。

その形状は統合軍、宇宙軍で正式採用しているリアトリス級戦艦や木連型の戦艦と異なる独特のシルエットをしていた。

連合宇宙軍第四艦隊所属、訓練戦艦≪ナデシコB≫。

そのナデシコBにシャトルは収容された。

 

「お待ちしておりました。ようこそナデシコBへ」

 

シャトルを降りた学生を出迎えたのは金縁めがねに口の上に少しヒゲをたくわえた、いかにもサラリーマン風の男だった。

 

「お出迎えありがとうございます。地球連合大学、訓練生のジーク・プレストーン・ユグドミレニアです。暫くお世話になります」

 

敬礼をしながら挨拶をする訓練学生のジーク。

 

「私はネルガル重工・社員 プロスペクターと申します」

 

訓練生ながらも、長年の癖なのか、プロスペクターはジークに名刺を手渡す。

 

「は、はい」

 

「ご承知のように、このナデシコBは我がネルガル重工が建造したナデシコ級第二世代型の宇宙戦艦でして、この度の訓練航海を私共もお手伝いすることになりました、はい。 では、まずブリッジの方にご案内いたします。ささ、どうぞこちらへ」

 

ブリッジに向けて歩く2人。

 

「あ、あの‥‥」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「プロスペクターって本名ですか?」

 

名刺にも本名は書かれておらず名前の部分には『プロスペクター』と書かれている。

 

「いえ、いえ。まぁ‥‥ペンネームだと思っていただければ‥はい」

 

「ぺ、ペンネーム‥‥?」

 

(サラリーマンなのにペンネーム?‥‥変わった会社だな‥‥)

 

「あぁー、それから私のことは気軽に『プロス』と呼んでいただければ‥‥皆さん、そう呼んでいらっしゃいますので‥はい‥‥」

 

得体の知れないプロスペクターに若干戸惑いながらも彼についていくジーク。

 

「そう言えば、ジークさんは日本語が上手いですなぁ~」

 

プロスペクターはジークの名前から、彼が日本人ではないにもかかわらず、日本語が堪能でなおかつ流暢であることに驚いていた。

 

「あっ、はい。中学の頃に日本の漫画・アニメを見てそこから日本語を勉強しました」

 

「ほぉ~それは、それは‥‥それならば、きっとこの艦のクルーともいい関係が築けると思いますよ。この艦にもアニメ・漫画が大好きな人が多いですからね」

 

「は、はぁ‥‥」

 

やがて、2人は艦橋まで辿り着く。

 

「ルリさん。艦長候補生の方をおつれしました」

 

「失礼します。この度、訓練航海をさせていただくことになりました。地球連合大学・艦長候補生のジーク・プレストーン・ユグドミレニアです。未熟者ではありますが、精一杯がんばりますのでよろしくおねがいします」

 

敬礼をしながら艦橋に居る乗員に着任の挨拶をするジーク。

そして、それを受けるように中央の席からゆっくりと立ち上がり、 ジークの前まで行く人影。

 

「連合宇宙軍少佐、ナデシコB艦長のホシノ・ルリです。 どうぞよろしく」

 

「はい!」

 

ルリとジークが挨拶をしていたその時艦内に警報が鳴り響いた。

 

「ボース粒子増大中!」

 

「前方に重力波反応を感知!所属不明艦隊ボソンアウト!」

 

「艦数は不明!」

 

「おやおや、いきなりですか。ここはひとつ、艦長候補生のお手並み拝見といきますか。」

 

まるで動じていないプロスペクター。

 

「ナデシコBのメインコンピューターには、既に艦長登録は済ませています。指示をお願いします。艦長」

 

「わかりました。総員戦闘配備!艦内警戒態勢はパターンAへ移行!」

 

「艦数を確認!前方にカトンボ級一隻を確認!それ以外の艦は見当たりません。」

 

「IFF(敵味方識別信号)はどうですか?」

 

「連合軍、統合軍どちらの信号にも該当しません!」

 

「了解。ナデシコはこのまま前進。 ディストーションフィールド出力最大!相手の反応を見ます。  だだし、エンジンはいつでも最大戦速が出せるようにしておいてください」

 

「了解。ナデシコ、発進」

 

カトンボに接近するナデシコ。

するとカトンボはナデシコへ向けてミサイルを発射した。

 

「カトンボよりミサイルの発射を確認!」

 

「所属不明艦を敵艦と確認!ミサイル、全弾装填!ナデシコ、最大戦速!取り舵10度!」

 

「了解!取り舵10度!‥‥取り舵10度ヨーソロー!」

 

「舵中央、右舷ミサイル発射管発射用意、目標前方カトンボ級」

 

「了解、右舷ミサイル発射管発射用意、目標前方カトンボ級」

 

「レーダーはこの近くの宙域索敵を!敵の増援か伏兵が何処かにいるはずです!!」

 

「了解」

 

「敵ミサイル、本艦右舷を通過」

 

「今度はこちらの番だ‥‥」

 

ナデシコとカトンボが平行に並んだ時、

 

「ミサイル撃ぇぇぇぇ!」

 

ジークが発射命令を出し、ミサイルが発射された。

ナデシコのミサイルはカトンボの側面と機関部に命中しカトンボは爆発した。

 

「後方に重力波反応!敵の増援です!!」

 

「戦力は!?」

 

「ヤンマ級二隻を確認しました!」

 

「接敵までの時間は?」

 

「およそ10分!」

 

「右舷、180度旋回、グラビティーブラストエネルギー充填」

 

「了解、グラビティーブラストエネルギー充填」

 

グラビティーブラスト発射のためエネルギーを充填し動きが鈍るナデシコ。

そこへミサイルを撃ちながら接近する二隻のヤンマ級。

しかしジークは最小限の回避行動と多少のダメージを受けながらもその時を待った。

 

「敵艦、グラビティーブラストの有効射程内に捕捉!」

 

「グラビティーブラスト発射!」

 

ナデシコから放たれた グラビティーブラストに包まれ、敵艦は消滅した。

 

「本艦の前方と後方に機動兵器出現!‥‥機種判明!エステバリス重武装フレームです!」

 

「面舵30、敵重武装フレームに本艦の側面を見せる形にしてください」

 

「了解」

 

「艦長まもなく敵搭載兵器の射程内になります回避か迎撃行動を‥‥」

 

「小型機動兵器相手に戦艦では不利です。敵をミサイルの必中距離まで引き付けます!」

 

「敵重武装フレーム尚も接近!」

 

「ミサイル弾幕展開!下げ舵15度!」

 

下方に移動しながら左右両舷からミサイルを放つナデシコ。

そしてそのミサイル攻撃を受け、爆発する敵エステバリス。

 

「敵反応消滅!」

 

「敵部隊の全滅を確認」

 

ハーリーが敵部隊の全滅を確認するとブリッジに『訓練終了、お疲れ様』と書かれた空間ウィンドウが表示される。

 

こうしてジークの最初の戦闘訓練は無事終了した。

 

「オモイカネの総合評価でました。92点です。」

 

「ほー。いやいや、こりゃすごい。 訓練レベルAAAでこれだけの高得点をだすとは。参りましたな、こりゃ。」

 

「ほんと、たまげたね。」

 

「一発合格はうちの艦長ぐらいですよ。」

 

「ハーリーくん、やめて。」

 

「そうそう、ナデシコ現艦長のルリさんとナデシコ初代艦長のミスマル‥‥ いやいやテンカワ・ユリカさんだけですかな?」

 

「いえ、これでも結構必死でした」

 

額に浮かんだ汗を拭いながらジークは言う。

 

「またまた、ご謙遜を。それはそうと、皆さまと紹介がまだ終わっていませんでしたな」

 

「ナデシコB・副長、タカスギ・サブロウタ大尉。ヨ・ロ・シ・ク」

 

「よろしくお願いします。タカスギ大尉」

 

「ナデシコB・副長補佐、マキビ・ハリ少尉です」

 

「よろしく」

 

「とりあえず、訓練中は私が艦長補佐をつとめます。 サブロウタさんとハーリー君の役職は変わりません」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

「それで、ひとつ質問します。艦長にとって最も必要な条件は何だと思いますか?」

 

「的確な判断力だと思います」

 

「それじゃー、俺も質問その2!絶体絶命のピンチを切り抜ける場合、頼りになるものは?」

 

「信頼におけるクルーの助言」

 

「えーと、うちの艦長‥‥じゃなくてホシノ少佐の愛称は、 《電子の妖精》と《史上最年少の美人美少女艦長》のどちらが良いと思いますか?」

 

「え?」

 

ハーリーの質問にジークは唖然とする。

連合大学でもホシノ・ルリについては学生たちの憧れの的だった。

しかし、ジークの場合、そう言ったことにはあまり関心がなかった。

 

「お、お前、初対面の相手に何いってんだよ~。すいません、こいつホシノ少佐にベッタリなもんで‥‥」

 

サブロウタが愛想笑いを浮かべながら、ハーリーを指さす。

 

「ち、違いますよ!ちゃんとした、心理分析的質問です‥‥」

 

照れ隠しするかのように声をあげるハーリー。

 

「えっと‥‥では、《電子の妖精》で‥‥あの夏に起きた草壁春樹率いる火星の後継者の鎮圧にあたっては、ホシノ少佐の活躍が大きかったと聞きました。それは少佐が遺跡のシステムを瞬時に掌握したので、ホシノ少佐の愛称は、やはり《電子の妖精》ではないかと‥‥」

 

「はいはい、皆さん質問はそのくらいで。 ただし艦長に対するクルーの支持率も重要な採点の要素になりますから、 そのつもりでいてください。 クルーの信頼なくして優秀な艦長はありえませんからねぇ」

 

『オイ! 模擬戦闘もう終わりかー? なんだよ、俺達の出番は無しかよー』

 

『せっかく準備していたのにねー』

 

『銭湯終わって、今日は風呂無し。へへへ‥‥』

 

次々とパイロットスーツをきた女性たちが写った空間ウィンドウが開く。

それは、スバル=リョーコ アマノ=ヒカル マキ=イズミのパイロット3人組である。

 

「おお、ちょうどよかった。 彼女たちは、エステバリス隊のパイロットの皆さんですが、 見学がてら格納庫に行ってみてはどうですか?」

 

「ええ、そうします」

 

格納庫へ行こうとブリッジを出ようとしたところで、ジークは何かを思い出すかのように足を止めた。

 

「あの~すみません。格納庫に行く前に一つ質問があるんですけど‥‥」

 

「なんでしょう?」

 

「‥‥格納庫へはどうやって行けばいいのでしょう‥‥?」

 

まだナデシコに着任したばかりのジークは格納庫への道筋を知らなかった。

シャトルで来た時は格納庫ではなく、接舷用のハッチからシャトルとナデシコをドッキングさせて、そこからナデシコへと乗り込んでいた。

それから、プロスペクターの案内でナデシコの艦橋へとやってきて訓練を終えたばかりだ。

当然、ジークはナデシコの格納庫への道筋は知らなかった。

 

「おっと、これは失礼。では、まいりましょうか?」

 

「は、はい」

 

ジークはプロスペクターの案内の下ブリッジを後にして、格納庫へと向かった。

 

 

ナデシコB 格納庫

 

ジークが格納庫に着くとまず眼鏡をかけた男の人が挨拶をしてきた。

 

「おお、あんたか、艦長候補の訓練士官ってぇのは。俺が整備班班長のウリバタケ・セイヤだ。まぁ、メカニックのことなら何でも聞いてくれ」

 

「は、はい」

 

「おれはスバル・リョーコ、エステバリスのパイロットだ。よろしくな!」

 

「同じくパイロットのアマノ・ヒカルで~す」

 

「マキ‥‥イズミ‥‥です。よろしく‥‥」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ところで、あんたもエステに乗るのかい?」

 

「はい。大学でもパイロットコースも受講していましたから、機体が補給されたらご一緒に飛ぶことになります」

 

「そりゃ頼もしいや‥‥でも、オレたちの足は引っ張らないでくれよな」

 

「は、はい」

 

「まぁまぁ、何はともあれ同じエステのパイロットでしょう?仲良くやろうよ」

 

「そりゃまあな‥‥」

 

『艦長。至急ブリッジまできてください。前方に重力波反応を感知、戦艦クラスです』

 

「わかりました」

 

ジークとプロスペクターは大急ぎでブリッジへと戻った。

 

 

ナデシコBブリッジ

 

「識別不能、艦隊数も不明です」

 

「不明艦発砲!攻撃来ます!」

 

「緊急回避!」

 

前方の不明艦から放たれたレーザーはナデシコBの横をギリギリの距離で通過した。

 

「あっぶねぇ~なぁ、おい!」

 

「どうやら相手は本気のようです。どうしますか艦長?」

 

「ホシノ少佐、これは明らかな敵対行動です!総員戦闘配備、艦内警戒パターンA」

 

「了解。総員戦闘配備、艦内警戒パターンAへ移行します」

 

「敵戦力の解析を急いでください!!」

 

「了解!!」

 

レーダーからの詳細データから敵の戦力はヤンマ級一、カトンボ級一の計二隻と判明した。

ジークは敵艦とナデシコの位置情報が表示された空間ウィンドウを見て指示を出す。

 

「マキビ少尉、ナデシコをカトンボ級の側面へ移動させてください」

 

「カトンボの側面ですか?」

 

「はい。ヤンマ級はグラビティーブラストを搭載しています。このまま敵艦の正面に居れば敵のグラビティーブラストを受ける恐れがあります。ならばまずはそれを封じる様にします」

 

ジークはコンソールを操作してナデシコの針路状況を艦橋要員に伝える。

 

「このようにカトンボ級を盾にするように動けば敵は同士討ちを避けるためグラビティーブラストは撃てません。反対にこちらはここからグラビティーブラストを撃てば敵を沈めることが出来ます」

 

「了解。直ちに作戦を実行します」

 

ナデシコはジークの作戦通りまずカトンボの側面に移動し、そこからグラビティーブラストを発射、カトンボ級は撃沈できたが、ヤンマ級はフィールドを張っていたため、一撃で沈めることは出来なかったが、グラビティーブラストをはじめとする火器管制に異常が出たらしく、ナデシコはヤンマ級の側面をすり抜けながらミサイル攻撃を行いヤンマ級も撃沈し、全速で戦闘宙域を離脱した。

 

「いったいどういう事でしょう‥‥?」

 

安全宙域へ退避したナデシコでは先程の不明艦についてさまざまな憶測がとんだ。

訓練予定ではこの宙域には存在しないはずの艦隊だった。

 

「ありゃあ木連のヤンマ級戦艦だぜ」

 

「明らかに目的を持って攻撃してきたとしか思えません」

 

「いやぁ、まずいですなぁ~‥‥もし、誤認だとしたら問題ですよ。なにしろ撃沈してしまったんですからねぇ~‥‥」

 

「でも識別信号は宇宙軍のものでも統合軍のものでもありませんでしたし、向こうがいきなり警告無しに発砲してきたんですよ」

 

「とにかく宇宙軍本部に連絡を入れてみましょう。ハーリー君よろしく」

 

「了解」

 

「最悪の場合始末書だけじゃすみませんよ」

 

「‥‥」

 

「仕方なかったんじゃないの?やらなきゃこっちがやられていたし‥‥」

 

「それにあのタイプの艦は無人艦ですから人的被害はありません」

 

「それがせめての救いです。保証金やら遺族へのお見舞金を考えるとゾッとします」

 

「宇宙軍本部。ミスマル総司令より通信です」

 

『諸君、緊急事態だ。君達が遭遇した艦隊は火星の後継者の残存部隊だと判明した』

 

コウイチロウからの口から意外な組織の名前が出された。

 

「いまさら何やらかそうって言うの?と言うか、連中に残存部隊なんかが居たのかよ‥‥」

 

「そうですよ‥‥その件はもう解決したはずじゃないですか」

 

その火星の後継者に残党が居たことにも驚いたが、首謀者である草壁春樹を始めとする火星の後継者は全員処刑された。

今更、連中は何がしたいのだろうか?

摘発からうまく逃れたのに、潜伏せずこうしてわずか二ヶ月で彼らは再び表舞台に出てきた。

彼らの目的は一体何なのだろうか?

 

『彼らにしてみればまだ終わってはいなかったと言うことだ。現に地球連合政府と統合軍宛に宣戦布告状が届いておる。今そちらにデータを送ろう』

 

宇宙軍本部から転送されたデータを再生すると、火星のマークが書かれたウィンドウをバックに1人の男が演説をしている映像が流れた。

 

『今、この宇宙は偽りの正義と秩序のもたらす悪しき呪縛により腐敗しきっている!我々、火星の後継者は草壁中将の意思を継ぎ、真の正義と秩序を復活させるため、新地球連合及び統合軍に対し、ここに再び宣戦を布告するものである!』

 

この男の発言から、草壁の敵討ちのようにも聞こえた。

 

「初志貫徹、信念は宇宙をも貫く、ですか‥‥?」

 

『南雲義政、木連出身の元統合軍中佐。火星の後継者では草壁、シンジョウに続くナンバー3だった男だ』

 

氏名:南雲 義政

性別:男性

年齢:30歳

身長:178cm

体重:68kg

出身地:木星連合

所属:統合軍第二艦隊

階級:中佐

 

コウイチロウは顔写真がついた南雲のプロフィールを出し説明する。

 

「でもなんで今頃になって‥‥」

 

『うむ、前回の決起の後行方不明になっていたのだが、どうやら水面下で動いていたようだ』

 

「統合軍の動きは?」

 

『特に脅威として見ておらんようだ。対応は宇宙軍に任せるといってきた』

 

「ったく、厄介ごとは全部こっちかよ」

 

『そこで君たちには敵艦隊の掃討作戦い就いてもらいたい。ただし極秘だ‥‥』

 

「連合政府としては事を公にしたくないというわけですな‥‥」

 

『うむ。したがって増援は望めないと思ってくれ。表向きはあくまで訓練航海という名目で作戦にあたってほしい‥‥ルリ君、艦長の補佐をよろしく頼むよ』

 

「わかりました」

 

『ではまず、ネルガルの月ドックで補給と整備を受けたまえ。健闘を祈る』

 

「なんとも急な展開になってしまいましたね」

 

「ホント訓練どころじゃないっすね」

 

サブロウタの言う通り、訓練開始からいきなり、火星の後継者の残党軍との戦いに巻き込まれてしまった。

今後も本格的に火星の後継者の残党軍との戦闘も予想されることから、艦長は訓練学生である自分よりも本来の艦長であるルリが執った方が良いと思ったのだが、ナデシコのメインコンピューターであるオモイカネは既に今回の訓練航海の為にチューンをしてしまったので、今から書き換えるにはかなりの時間がかかってしまう。

その為、ナデシコはジークが今後も指揮を執ることになった。

 

「それで、これからどうするんです?」

 

「まずは月ドックへと向いましょう。艦長指示を‥‥」

 

「了解、ナデシコB発進。目標、ネルガル月ドック」

 

クルーたちの不安を乗せながらもナデシコは月へと向った。

 

 

 




ではまた次回。
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