機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第60話

 

 

 

 

 

無事にターミナルコロニー 『ウズメ』 にジャンプアウトした銀河は、ルリを連れ去った統合軍第五艦隊を追った。

 

ターミナルコロニー『ウズメ』から、最短距離で火星を目指す銀河。

 

その途中で、統合軍艦隊と火星の後継者艦隊との戦闘に参戦することになり、激しい三つ巴の戦いの中、何とか火星の後継者の艦隊を撃破したものの統合軍艦隊の中にルリを連れ去った、『ゆみはりづき』 の姿はなく、かわりに火星の後継者の艦隊には南雲が座乗する 『かんなづき』 の姿があったが、南雲もルリの行方を知らなかった。

 

「ルリさんはどこでしょう?」

 

「統合軍戦艦『ゆみはりづき』ですな」

 

「至急『ゆみはりづき』の現在位置を確認!」

 

ハーリーとフィオレの二人が必死に探すが、『ゆみはりづき』の反応は無い。

 

「『ゆみはりづき』の反応が消失!?」

 

「ええっ!そ、それじゃあ艦長は‥‥!?」

 

「何かの間違いじゃあ‥‥」

 

「撃沈されたということか!?」

 

最悪の事態を想定したのかハーリーは泣き出し、コハクは拳をギュッと力強く握る。

 

『そんな筈ねぇ!オレが探してくる』

 

『そうだよ!絶対どこかにいるよ!』

 

『艦長、エステバリスで出るよ』

 

「しかしいったい何処を探すんです?」

 

「無闇に出ると敵の攻撃目標になるぞ」

 

『ちくしょう‥‥』

 

「ルリ‥‥」

 

重苦しい空気の中、銀河は火星へと向った。

 

そして‥‥

 

「火星、静止衛星軌道上に敵艦隊を確認!それに『ゆみはりづき』もいます。どうやら、戦闘不能に陥っているようです」

 

「他の統合軍艦艇の姿は?」

 

「いません。『ゆみはりづき』一隻の模様です」

 

火星静止衛星軌道にルリを連れ去った『ゆみはりづき』の姿を見つけたが、その他の第五艦隊の艦艇の姿は居ない‥‥

 

しかも残っている『ゆみはりづき』も大破している。

 

という事は、その他の艦艇は撃沈されたと言うことだ。

 

「敵戦力の解析を!」

 

「ゆめみづき級戦艦五隻。それにデータに無い未確認戦艦が一隻います」

 

メインスクリーンに映る一隻の戦艦。

 

その姿は、木連・地球の両戦艦を重ね合わせたような作りだった。

 

「未確認艦より通信です」

 

「通信回路を開いてください」

 

フィオレが通信回路を開くとメインスクリーンには一人の女性が映し出された。

 

『ご機嫌はいかがかしら?』

 

「あなたは誰です?」

 

パネルに映る見慣れない女性に正体を聞くジーク。

 

『あら、ご挨拶ねぇ。まあ、いいわ。クリムゾングループ技術開発部、シャロン・ウィードリンと覚えてちょうだい』

 

地球ではネルガルと同レベルの大企業であるクリムゾングループの最高幹部である自分の事を知らないジークにやや不機嫌そうなシャロン。

 

「クリムゾングループだと!?」

 

「クリムゾングループがこんな所で何の用ですかな?」

 

意外な場所でライバル企業の幹部と出会い、訝しむプロスペクターとゴート。

 

『取引よ。イネス・フレサンジュとタケミナカタ・コハクをこちらに引き渡してもらいたいの』

 

「バカな!何が目的だ!?」

 

その場にいたら、今にも掴みかかりそうな勢いで言うゴート。

 

『ボソンジャンプの完璧な制御。そして、その市場独占。その為にはどうしてもイネス・フレサンジュとタケミナカタ・コハクが必要なのよ。それとコハクには新型宇宙エンジンの開発もやって貰いたいしね』

 

コハクが新型宇宙エンジン‥‥波動エンジンをこの世界に持ち込み、ネルガルが開発を始めていることは当然ライバル企業であるクリムゾングループは既に掴んでいたみたいだ。

 

反ネルガル企業の筆頭であるクリムゾングループとしては新型宇宙エンジンの開発を許すはずがない。

 

折角、業績不振に陥れたネルガルが再び勢いづいてしまう。

 

「そんなことが出来ると思っているんですか!?」

 

冷静ながらも怒りを押し込めた声で尋ねるジーク。

 

『火星の後継者が新地球連合に代わって、新たなる秩序とやらを作ればね‥‥』

 

「どうやら今回、火星の後継者のバックにはクリムゾングループがついていたようですね」

 

メインモニターに映るシャロンを見ながらジュンが呟く。

 

元々火星の後継者は政権戦争に敗れた草壁を首領とする組織であったが、人材も戦力も財力も大規模なテロ事件を起こすには何もかもが乏しい。

 

事件を起こすのであれば、整った兵力と財力が必要だった。

 

その財力をクリムゾングループが密かにバックアップしていた。

 

そしてそれは今回、南雲が起こした第二次火星の後継者テロ事件でもクリムゾングループは彼らをバックアップしていたみたいだ。

 

『お察しの通り。火星の後継者とクリムゾングループの目的は一致しているわ』

 

「我々がそれを聞いて、大人しく引き渡すと思いますか?」

 

『思わないわよ。だから、こちらとしても交換条件を用意したのよ』

 

「交換条件?」

 

ジュンが怪訝そうな顔をする。

 

一体、クリムゾングループは何を交換条件に出すのだろうか?

 

『こういう事になっています』

 

そこへ、気落ちしたルリがスクリーンに現れる。

 

「ルリちゃん!!」

 

「ルリさん!無事だったんですね」

 

『さあ、ホシノ・ルリの命が交換条件よ』

 

「やり方が汚ねぇな」

 

「それにルリさん一人に対して、こちらはイネスさんとコハクさんの二人を差し出すなんて‥‥」

 

『あら?コハクは元々クリムゾンが所有していた筈よ。それを貴方たちネルガルが強盗まがいのことをして奪っていったんじゃない』

 

「そ、それは‥‥」

 

旧社長派の行ったネルガルの汚点の事実を突きつけられ口ごもるプロスペクター。

 

『久しぶりねE-001号いえ、タケミナカタ・コハク』

 

モニター越しに自分を睨むコハクにシャロンは話しかける。

 

「わ、私はあなたなんか知らない!クリムゾンなんかとも関係なんか持ってない!」

 

怒気を含んだ大声で叫ぶコハク。

 

実際にコハクは記憶喪失の為、シャロンに自分がクリムゾングループの手によって生み出されたと言われても信じられない。

 

『そう‥‥でも、私は、はっきりと覚えているわ。あれは四年以上前、ウチの所有する研究所だったわ‥‥』

 

シャロンは昔を懐かしむかのようにコハクとの出会いを語りだす。

 

 

 

 

約四年前 クリムゾングループ所有の某研究所‥‥

 

 

「へぇ~これがトカゲさんからのプレゼントなの?」

 

シャロンは生体ポッドの中で眠る少女を見ながら研究員に尋ねる。

 

「はい。どうも人工的に造られた強化人間だそうです」

 

「それでどんな感じに実験を進めていくつもり?」

 

「順次、強化用ナノマシーンと薬物を投与していく予定です。その後ボソンジャンプの実験に移る予定です」

 

「そう。でも出来るだけ早くボソンジャンプが出来るようにしてちょうだい」

 

「わかりました」

 

シャロンが再び生体ポッドを見ると中の少女がうっすらと目を開け、自分を見ているように見えた。

 

 

 

 

「っ!?」

 

シャロンの話を聞き、コハクは先日見た夢が自分の過去の記憶なのだと確信した。

 

『どうやら思い出したようね。元々貴女には取引材料になる資格すらないのよ。さあ、早くイネス・フレサンジュをこちらに渡しなさい』

 

「どうするんです?取引に応じるつもりですか?」

 

ゴートがシャロンの話を聞き、ジークに尋ねる。

 

「取引に応じるつもりはありませんよ。それにどうせこれは罠でしょうし」

 

「じゃあ、どうやってルリさんを助け出すんですか?」

 

ハーリーが不安げに尋ねる。

 

ルリをどうやって助けるか思案しているとその時、『ゆみはりづき』から通信が割り込む。

 

『直ちに敵艦隊を攻撃しろ!これは命令だ!』

 

『ふん。悪あがきはよすのね。命が助かっただけでも有り難いと思いなさい』

 

『生き恥さらしてまで、命が欲しいとは思わん!』

 

『そう。じゃあ、お望み通り撃沈してあげるわ!』

 

『艦長、「ゆみはりづき」を援護して下さい』

 

ルリが話しに割り込む。

 

『ちょっと、何勝手に通信してんのよ!』

 

「あんな勝手ばかり言っている連中をですか?」

 

不満そうに(実際不満)言うサブロウタ。

 

『それでも味方艦ですよ』

 

「困りましたなぁ。こちらから攻撃する訳にもいきませんし‥‥」

 

「‥‥」

 

ジークは気丈にも不安を見せなかった。

 

自分が敵艦と共に死んでしまうかもしれない状況で‥‥だが、その瞳には微かに不安な心が写っていた。

 

「援護するって言ってもルリさんが乗っているんじゃあ攻撃なんて出来ませんよ」

 

『話は聞いたわよ、艦長。』

 

「イネスさん」

 

『ルリちゃんを助けるんでしょう?私が単独ボソンジャンプしてルリちゃんを連れ戻すわ。まずは「ゆみはりづき」をかばう振りをしてちょうだい。こっちの準備が一気に攻撃を開始、その隙に敵艦にジャンプしてルリちゃんを連れ戻してくるわ』

 

「わかりました。本艦はこれより『ゆみはりづき』を援護!エステバリス隊、スペース・ウルフ隊、発進!『ゆみはりづき』に直撃するミサイルを迎撃!ディストーションフィールド出力最大!」

 

 

銀河はフィールドを張り、『ゆみはりづき』の前に立ちはだかった。

 

『ゆみはりづき』と銀河を包囲する五隻のゆめみずき級戦艦の攻撃を一身に受けたが、航海長の巧みな操艦で致命傷を避け、被害箇所も応急修理隊が日ごろの訓練の成果を発揮し、すぐに損傷の拡大を防いだ。

 

エステバリス隊とスペース・ウルフ隊は、敵ミサイルの迎撃と、『ゆみはりづき』の囮を努めるのに精一杯だった。

 

『艦長、待たせたわね。準備OKよ。いつでもジャンプ出来るわ』

 

「了解」

 

「戦闘用意、ショックカノン、一番、二番砲塔敵艦に向け固定‥‥撃て!」

 

銀河のショックカノンが左翼側に展開していたゆめみづき級戦艦に向け放たれ損傷を与える。

 

『なっ‥‥!?』

 

突然の銀河の攻撃を見て驚きを隠せないシャロン。

 

「今です、イネスさん!」

 

「イネスさん、がんばって!!」

 

『任せなさい!』

 

声援を受け、イネスはボソンジャンプしていった。

 

 

 

 

クリムゾン戦艦 ブリッジ

 

 

艦長席に座るシャロン。

 

銀河の反撃を見て、最初は驚いていたが、時期にそれは怒りへと変わった。

 

ルリを人質に取った時点で、自分の勝ちだったはず‥‥

 

しかし、奴らは、生意気にも攻撃してきた。

 

なぜ、自分の考えた通りに動かないのか?

 

彼女の心の中には、そのような思いが巡り、全てはアイツラが悪いと思った。

 

「おのれぇ~あくまで抵抗するのね」

 

「見え見えの罠にはまるほどバカじゃありません。」

 

ルリが冷静に答える。

 

「バッ‥‥バッ‥‥バカ?!」

 

「バカばっか」

 

「えーい!ばまらっしゃい!」

 

「だまらっしゃい?」

 

「くっ‥‥!?」

 

間違いを指摘され、ルリから顔を背けるシャロン。

 

「全艦に攻撃命令!本艦も前に出ます」

 

「了解」

 

シャロンが攻撃命令を下している中、ブリッジの一角に光が表れ、その中にイネスの姿が浮かび上がる。

 

それに気づいて、歩み寄るルリ。

 

「さあ、連中が沈んでいく様を見てなさ‥‥えっ?」

 

振り向いたシャロンだが、しかしそこに居たのはルリの姿だけでなく、

 

「ルリちゃんは返してもらうわよ。」

 

「イネス?!」

 

ジャンプアウトしたイネスの姿もあった。

 

「おじゃましました」

 

そのままボソンジャンプして消える二人。

 

シャロンは一瞬呆然とするが、事態に気づき怒りに震えた。

 

 

銀河 第一艦橋

 

銀河の第一艦橋へジャンプアウトしたイネスとルリ。

 

「ただいま戻りました。ご心配をおかけしました」

 

「ルリ!」

 

コハクがルリに抱きつく。

 

「コハク!?」

 

「心配したんだよ!ケガとか酷いことされてない?」

 

ルリの体のあちこちを触って怪我が無いか確かめるコハク。

 

その姿は最新鋭戦艦の艦長らしくない。

 

「大丈夫ですよ。コハク」

 

抱き合っている二人にイネスが水をさすわけでないが、「いつまで抱き合っているんだ」と言いたげに言う。

 

「二人ともいつまでそうしているの?敵さんだいぶカリカリしているわよ」

 

「で、では、これより敵艦隊を撃破します」

 

『ルリさえ戻りゃ、こっちのもんだ!思いっきり暴れてやるぜ!』

 

攻撃できるようになって、生き生きとするリョーコ。

 

『借りを返させてもらいます。』

 

まるで、ヤクザのような台詞を言うイズミ。

 

『そうそう、かりたものはかえさないとね。』

 

イズミの言葉を受け、お茶らけて言うヒカル。

 

「敵艦隊、機動兵器を発進させました」

 

クリムゾン戦艦の前に三機のマジンと小型の機動兵器が射出される。

 

『お~~~~ほっほっほ!あなた達にこの最強無敵のクリムゾン製のこの戦艦が倒せるかしら?!この艦の前には、いかなる攻撃も無力!泣いて謝るのなら今のうちよ!』

 

戦闘再開と同時に、エステバリス隊にマジンを攻撃させ、ゆめみづき級戦艦を相手にする銀河とスペース・ウルフ隊。

 

元々が対艦設計されている艦なので火力がこの世界の戦艦より優れていたため、次々と沈めていく。

 

スペース・ウルフ隊も損傷し、フィールドが展開できない敵艦に向けて、対艦ミサイルで攻撃をする。

 

銀河は次に照準をクリムソン戦艦にむけ、副砲を含め、全部で十本のショックカノンがクリムゾン戦艦に命中するが、相手は無傷だった。

 

「効いていないだと!?」

 

ショックカノンの直撃を受けて無傷のクリムゾン戦艦をみて驚きの声をあげるカウレス。

 

「多重ディストーションフィールド‥‥」

 

「多重ディストーションフィールド?」

 

「‥‥フィールドが多重構造になっているわ。あそこまで強力なフィールドを形成する技術は、クリムゾン社には無いはず。きっと何かカラクリがあるはずよ」

 

木連との大戦時からバリアシステムにかんしてはネルガルよりも優れていたクリムゾングループであるが、いくらなんでもショックカノンを耐え凌ぐほどのバリアは単一では無理がある。

 

そのため、イネスはあの強力なバリアには何か仕掛けがあると読んだ。

 

『どけ!本艦はこれより特攻をかける!目標はクリムゾン戦艦!!いくらフィールドが厚くたって、戦艦一隻分の質量は受けられまい!!』

 

そう言って一方的に通信を切り、クリムゾン戦艦に突っ込む『ゆみはりづき』。

 

『ゆみはりづき』はクリムゾン戦艦のフィールドに接触する。

 

しかし、クリムゾン戦艦のフィールドはそれを受け止める。

 

「お~~~~ほっほっほっほ!無駄よ。無駄!」

 

フィールドに押しつぶされ爆発する『ゆみはりづき』。

 

銀河の艦橋内の空気が凍るが、乗員は全員爆発寸前に脱出していて無事だった。

 

『なんだぁ?!ちゃっかり脱出してんじゃねぇか!』

 

『いやあー、やっぱり命は惜しいからな。というわけで、後のことはよろしく頼む!』

 

「‥‥やっぱり」

 

「イネスさん?」

 

「今の爆発を見てわかったことがあるわ。どうやらクリムゾン戦艦の周囲に浮いているあの小型機動兵器がフィールドを形成しているようね」

 

「じゃあそれを潰せば‥‥」

 

「ええ、あのフィールドは消えるわ」

 

「エステバリス隊にクリムゾン戦艦周囲に展開している小型兵器を攻撃するよう通信を送ってください」

 

「了解」

 

 

その後の戦いは比較的容易というか一方的だった。

 

エステバリス隊、スペース・ウルフ隊の攻撃で小型機動兵器を破壊されたクリムゾン戦艦はフィールドが消失し、圧倒的に不利な立場となった。

 

僚艦も援護する機動兵器もなくなったクリムゾン戦艦はエステバリス隊、スペース・ウルフ隊の全方位からの攻撃と銀河の一斉射撃を受け沈んだ。

 

シャロン以下クリムゾン戦艦の乗員は救命ポッドで脱出した。

 

シャロンをはじめとするクリムゾン戦艦乗員の身柄を『ゆみはりづき』の乗員たちに任せ、銀河は火星極冠遺跡へと向う。

 

「しかし、クリムゾングループが一枚かんでいたとは‥‥」

 

先程の戦闘をあらためて回想しているのかゴートが口を開く。

 

「いやいや、十分に予想できたことです。火星の後継者とクリムゾングループは常に協力関係にありましたからね」

 

プロスペクターがメガネを指でクイッと掛け直しながら言う。

 

「宇宙軍本部より通信です」

 

フィオレが宇宙軍本部からの通信をパネルに投影する。

 

『銀河、無事かね?』

 

「こちらは無事です。火星軌道上にてクリムゾン戦艦を撃破し、現在火星遺跡へ向っています」

 

『うむ、クリムゾン本社の方は地上部隊が押さえた。残るは火星の後継者の主力艦隊のみだ。だが、統合軍も宇宙軍も戦力を消耗しており、形勢はこちらが不利なのだよ。敵は火星遺跡を完全に占拠している』

 

「私とルリ、そしてオモイカネと銀河で遺跡のシステムを掌握してみます」

 

『すべては君たちにかかっている。頼んだぞ』

 

「さあ、敵陣に乗り込むとしますか」

 

プロスペクターの言葉にシークは頷き、命令を下す。

 

「総員戦闘配置、艦内警戒パターンA、エステバリス隊、スペース・ウルフ隊発進準備!」

 

「遺跡上空に敵、主力艦隊を確認、戦艦、機動兵器が多数います」

 

「では、私とルリ、弟君はCICにて遺跡システムの掌握を開始します。フィオレさん、遺跡システム掌握まで艦のシステムを貴女に任せます」

 

「えっ!?わ、私にですか?」

 

突然艦の全システムを担当しろと言われ驚愕するフィオレ。

 

「ば、バックアップだけじゃいけませんか?」

 

「ダメです。敵はおそらく強力なプロテクトを遺跡のシステムに仕掛けているはずです。それを解除するのには私たち三人でも時間がかかります。とても艦のカバーまでは出来ません。バックアップはキュウパチがしてくれます」

 

「で、でも」

 

「がんばれ、オペレーター」

 

「え?」

 

不意にジークがフィオレに声援を送る。

 

「貴女が頑張って俺達の背中を守ってくれたら、俺達もそれに答えるようにあなたを全力で守ります」

 

フィオレが艦橋を見渡すと皆が自分を見ている。

 

「わ、わかりました。がんばります!」

 

フィオレは精一杯声をあげて答えた。

 

「敵艦より通信、回線を開きます」

 

パネルには南雲の姿が映る。

 

『よくぞ、ここまで辿り着いた‥‥いよいよ、決着を付ける時が来たようだな』

 

「南雲中佐、無益な争いはもう止めにしませんか?」

 

『今更何を言うか!』

 

「あなた達は、クリムゾングループの野望とシャロンさんの一方的な復讐に利用されていたんですよ!?」

 

『そんな事は先刻承知。クリムゾングループ‥‥彼らは我々を利用した。‥‥そして我々もまた彼らを利用したに過ぎない。我々火星の後継者は、自らの信念と理想の為に立ち上がったのだ。目的の完遂あるのみ!』

 

「‥‥戦うしか無いようですね」

 

『だが、果たして我々に勝てるのかな?艦隊戦力では、こちらの方が圧倒的だぞ』

 

「俺はクルーの力を信頼しています」

 

『ハッキングによるシステム掌握かね?だが、我々も対抗プロテクトを掛けている。ま、しかし「電子の妖精」ホシノ少佐の事だ、いずれはプロテクトも解除するだろう。そちらが先に沈むか、こちらがシステムを掌握されるのが先か‥‥』

 

「俺達は絶対、あなた達に勝ってみせます!」

 

『良い心がけだ。相手にとって不足なし!』

 

南雲の通信が切れ、銀河と敵主力艦隊はほぼ同時に動いた。

 

敵の機動兵器はエステバリス隊と銀河の対空砲とミサイルが相手をし、艦隊には銀河のショックカノンが相手をした。

 

「プロテクト解除の進行状況は?」

 

ジークがCICにいるコハク達に確認をとる。

 

『現在四十%程です。ハーリー君コード四十八から七十までお願い』

 

『ええ、ボクじゃできませんよ』

 

『私達だけじゃ間に合いません』

 

『弟君、頑張れ』

 

通信の内容からCICのほうでも悪戦苦闘している様子。

 

「敵旗艦、主砲の射程内に捕捉!」

 

「主砲発射!」

 

銀河から放たれたショックカノンの砲撃を受けた『かんなづき』は中破程度の損傷を受けた。

 

「ぬぅ‥‥やるな。‥‥例のシステムを使う」

 

「中佐、あのシステムはまだ‥‥」

 

「かまわん!」

 

「了解」

 

「主砲撃て!」

 

再び『かんなづき』に砲撃をする銀河。

 

しかし、一発目と違い二発目では大した損害を与えられていない。

 

「主砲が効いていない?」

 

「そんなバカな!」

 

突然フィールドが強固になった『かんなづき』に戸惑う銀河の砲術員。

 

「敵のフィールドとて無敵ではない!砲撃を続行せよ!」

 

戸惑う砲術員に渇を入れるカウレス。

 

引き続き攻撃をかけるが、未だ撃沈に至らない『かんなづき』。

 

無敵というわけにもいかず、『かんなづき』の相転移エンジンには異常負荷がかかっていた。

 

(むっ!?これは‥‥相転移エンジンの出力が上がり続けている‥‥?)

 

『かんなづき』の相転移エンジンの異常に気づく南雲。

 

「‥‥総員、『かんなづき』より退艦せよ。‥‥これより『かんなづき』は、ワンマンオペレーションシステムに移行する!」

 

「ど、どうされたのです、中佐?!」

 

「私は『退艦せよ』といっている」

 

南雲の表情から自艦のおかれた事態に気づく『かんなづき』の乗組員。

 

南雲に敬礼すると、乗員は次々とブリッジから出ていく。

 

「『かんなづき』より脱出艇を確認」

 

サブロウタの報告にスクリーンを凝視する艦橋要員。

 

「攻撃中止、脱出艇が安全圏まで退避するまで待機」

 

ジークは攻撃中止命令を下し、その真意を悟ったカウレスは攻撃中止命令を各攻撃パートへ伝達した。

 

「ふっ、甘いな‥‥」

 

銀河の攻撃が止んだことに一人、『かんなづき』のブリッジで笑う南雲。

 

やがて脱出艇が安全圏へ退避すると銀河の砲撃とミサイルの一斉攻撃が『かんなづき』へと襲い掛かる。

 

「『かんなづき』の撃沈を確認!」

 

地球との大戦時より数々の武勲をあげた『かんなづき』は船体を三つに折り、火星遺跡上空で爆沈した。

 

南雲は『かんなづき』と運命を共にしたのかと思われたが‥‥

 

「っ!ま、待ってください!爆発ギリギリで『かんなづき』から出てきた機体があります!!こ、これは‥‥夜天光です!!」

 

『南雲か!?』

 

南雲は爆発前に夜天光に乗り『かんなづき』を脱出していた。

 

「解除の進行状況は?」

 

『現在解除率八十二%、ハーリー君!』

 

『はい!えっと現在プロテクトコード六十五番まで解除完了!もう少しです』

 

「急いでくれ、時間が無いぞ!」

 

「敵機動兵器、遺跡内部へ侵入!」

 

「俺も出ます。皆さん艦をお願いします」

 

ジークは艦橋要員に一言言ってエステバリスで遺跡内部へと向った。

 

遺跡内部で対峙する夜天光と一機のエステバリス。

 

『来たか‥‥ジーク・ブレストーン・ユグドミレニア』

 

『南雲中佐‥‥』

 

『若者ながら見事な戦ぶり。貴様のおかげで我が艦隊は完全に沈黙し、既に戦意も無いだが!!私は退くわけにはいかぬ!散っていった戦友の為にも‥‥最後の1人になっても退く訳にはいかぬのだ!』

 

『中佐、俺もこの戦いで死んでいった多くの宇宙戦士のためにもあなた達を鎮圧しなければなりません!』

 

『‥‥そうか‥‥では、いざ‥‥』

 

『尋常に‥‥』

 

『『勝負!!』』

 

夜天光の錫杖とエステバリスのフィールドランサーがぶつかり合い火花が散る。

 

二機はほぼ同時に距離をとると夜天光は片腕をジークのエステバリスに向けると腕からミサイルを放つ。

 

対するジークも両肩に装備されている連射式キャノンで攻撃する。

 

まさに一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

『中佐、我らが助太刀いたします!』

 

遺跡の上部から南雲の部下が乗ったエステバリスが降りてきた。

 

『お前達‥‥』

 

南雲を援護しようとする敵のエステバリス。

 

『艦長!奴らは俺達が相手をするぜ!』

 

そこに割り込むリョーコ達。

 

『男の戦いに口を出すなんざ、木連男児の風上にも置けない奴らだな!』

 

『がんばってよ、艦長。』

 

『油断するんじゃないよ』

 

『艦長!絶対に負けんなよ!みんなアンタの帰りを待ってんだからな!』

 

サブロウタ、ヒカル、イズミ、リョーコがジークに声を掛け、敵のエステバリスに向かって行く。

 

『皆さん‥‥はい!!』

 

夜天光に向かって最大戦速で突進するジーク。

 

夜天光は錫杖で迎え撃ち、ジークのフィールドランサーを弾き飛ばす。

 

その直後、ジークは夜天光の錫杖を蹴り、弾き飛ばす。

 

『うわぁぁぁぁ』

 

『うおぉぉぉぉ』

 

すばやく体勢を立て直し、イミディエットナイフを振りかざし再び夜天光に突っ込むジーク。

 

それをアームパンチで迎え撃つ南雲の夜天光。

 

夜天光のアームパンチでイミディエットナイフもろとも右腕を吹き飛ばされるエステバリス。

 

『艦長!』

 

「ハーリー君、プロテクト解除の進行は?!」

 

ジークのエステバリスが吹っ飛ばされた映像を見ていつもより強い口調で尋ねるルリ。

 

「もう少しです‥‥終わりました!敵の全システムへの介入が可能です」

 

「オモイカネ‥‥」

 

「銀河‥‥」

 

ルリとコハクがオモイカネと銀河を駆使し、火星の後継者の全システムを掌握した。

 

「‥‥もはやこれまでか‥‥‥」

 

夜天光のコクピットには、全システムを掌握され、全てのウィンドウには『お休み』の表示が出される。

 

その中、力無く項垂れる南雲。

 

『南雲中佐‥‥あなたを逮捕します‥‥』

 

ジークはどこか悲しげに南雲に通信を入れた。

 

「火星の後継者、全システム掌握完了」

 

「敵艦隊すべてすべて沈黙」

 

「ネルガル本社から通信です」

 

「ネルガルから?‥‥通信回路を開いて」

 

「了解」

 

『いやぁ~みんなご苦労さん。よくやってくれちゃったんで、助かっちゃたなぁ~』

 

パネルにはネルガルの会長アカツキ・ナガレの姿が映った。

 

「アカツキさん、もしかして最初から全部わかっていたんですね」

 

ジト目でアカツキを見るルリ。

 

『あっ、ルリ君鋭いねぇ』

 

「どういうことなんです?」

 

ことの成り行きについていけないジークがアカツキに質問する。

 

『事の起こりはクリムゾン内に不穏な動きがあるっていう情報だったんだな。それでうちのシークレットサービスに内偵を進めさせてみると‥‥』

 

「火星の後継者の存在が浮かんできたと‥‥」

 

ゴートがアカツキのセリフを代弁する。

 

『そうなんだよねぇ~』

 

「火星の後継者のクーデターを援助する代わりに、新政府樹立後の市場独占を約束してもらっていた訳ですなぁ」

 

『クリムゾンもヒサゴプランでケチが付いてから、落ち目になる一方だったしね。企業としちゃ起死回生の苦肉の策だったんでしょ』

 

「で、その中心人物が、あのシャロンさんだったんですか?」

 

わざわざ戦艦を造って戦場に出てきたシャロンを思い出すコハク。

 

『彼女はクリムゾングループのオーナーの娘だからねぇ』

 

「あの人が‥‥?」

 

シャロンの正体を知り、驚く一同。

 

彼女はファミリーネームを『クリムゾン』ではなく、『ウィードリン』と名乗っていた。

 

オーナーの娘でありながら何故クリムゾンの姓を名乗っていないのだろうか?

 

両親が離婚でもしたのだろうか?

 

 

『クリムゾン家には「アクア」っていう問題の多い娘がいるんだけど、彼女はその腹違いの姉なんだなぁ。もっとも、シャロンはクリムゾン家に対して、憎しみさえ抱いていたようだけどね』

 

(そういえばそんな人がいましたね)

 

アカツキの口から懐かしい名前を聞き、ルリはかつて南の島に居た変人を思い出す。

 

「どうしてです?」

 

ハーリーが尋ねる。

 

『両親の愛情は、常に妹のアクアに向けられていたそうだよ』

 

「それであんなにひねくれちゃったんですね」

 

『そんな訳で、彼女は親の七光りを使って、クリムゾン内でやりたい放題!』

 

「家庭内の問題を宇宙に持ち込むなってぇの!」

 

呆れるサブロウタ。

 

『もっとも、今回の件には某国の陰謀が絡んでいるって情報もあるけど‥‥。まあ、今となっては全て闇の中だよね。新人君にはとんだ訓練航行になっちゃったけど、結果オーライという事で‥‥』

 

「はぁ~」

 

『もうすぐそっちに統合軍やら宇宙軍が到着するから後は任せていいんじゃない。まぁとにかくお疲れさん』

 

そう言ってアカツキは通信をきった。

 

「僕達、何やっていたんでしょうね‥‥」

 

いいように利用されていた事に落胆するハーリー。

 

「くさるなよ、ハーリー」

 

ハーリーを彼なりに慰めるサブロウタであった。

 

戦勝祝いとジークの無事訓練終了を祝うため、厨房では厨房スタッフが忙しそうに料理を作っている。

 

そんな中、ナデシコ厨房長のホウメイも手伝っていた。

 

「それで結局遺跡の謎は解けたのかい?」

 

ホウメイはカウンターに一人で座っているイネスに話かける。

 

「相変わらず‥‥解ったような、解らないような‥‥」

 

「それにしてもいつも厄介ごとの種になるねぇ~。人間の手に余る技術なんじゃないのかい?」

 

「使い方の問題。それを使う人間の問題よ。それに今後はこの波動エンジンやワープ機関が主流になるだろうけど」

 

イネスは銀河の天井や壁を見渡す。

 

「どんないい食材も、料理人の腕で美味しくも不味くもなる」

 

「そういう事‥‥」

 

 

格納庫ではウリバタケ達整備班がエステバリスの整備をしていた。

 

「まったくあいつら、もう少し丁寧に扱えねぇのか?」

 

傷だらけのエステバリスを整備しながら愚痴をいうウリバタケ。

 

「ああ~っ!こんなところにも傷がぁ~!」

 

格納庫にウリバタケの声がこだました。

 

「火星の後継者にクリムゾングループ、これから後始末が大変ですねぇ‥‥」

 

今後の情勢に不安を感じるプロスペクター。

 

「こうちょくちょく反乱を起こされてはたまらん」

 

はた迷惑そうに言うゴート。

 

「ですが、この件でクリムゾンも暫くは大人しくなるでしょう」

 

「そうだといいが‥‥」

 

ジークの言葉を聞き渋々納得した様子のゴート。

 

「銀河、発進準備完了しました」

 

「針路地球、銀河発進!」

 

銀河は火星を後に地球へ向け、発進した。

 

 

 

 

南雲が起こし反乱から一ヵ月後、ジークは無事に連合大を卒業。

 

宇宙軍へと任官した。

 

そしてその宇宙軍からジークの元へ配属辞令が下った。

 

辞令内容はジークに銀河副長の職を命じるものだった。

 

 

 

・・・・続く


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