八雲さんちのブロントさん   作:触手の朔良

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プロローグ
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 山間の細道を黒塗りのリムジンが走ってゆく。

 大型リムジンを手足の如く扱い、狭い道を難なく進む運転手とは、永いことその職に携わった紳士なのだろう。

 そう思い運転席を覗くと、驚くことに違いない。

 運転手は老夫ではなく、うら若い女性だったからだ。

 金色の髪にお揃いの切れ長の瞳。とびっきりの美女だった。

 見惚れてしまうほどの美女だが、頭頂部から二つ、これまた金色の獣耳が生えてみるのを見て「おや?」と思う者もいるかもしれない。

「随分言葉が少ないじゃないか。ふふっ。もしかして緊張しているのか?」

 女はからかいを強く滲ませ、後部座席に座る人物へと声を掛ける。

 その人物も、これまた若い。

 女の歳の程は弱冠を過ぎたくらいだろうが、後部座席の青年――そう、青年である――は確実に成人を向かえていないのは確かだろう。

 人の年齢など、見た目から推し量るのは難しいのが常だが、一見して彼の年齢を当てるのはかなりの難易度を誇るだろう。

 ハリ艶のある肌は若さを現しているものの、東洋人からは見慣れぬ浅黒い肌から年齢を読み取る事は難しい。何よりその立派な体躯。大型のリムジンでありながらも、青年は何処か手狭そうに身を縮こまらせているではないか。座している為正確さを欠くが、目測でも二メートル近くあるのでは、という長身である。

 その美女に話し掛けられた彼はというと、むっつりと口を真一文字に結び押し黙っている。

 体躯の威容さに目を奪われがちだが、その顔立ちもまた、人目を惹く事は間違いない。

 プラチナブロンドの髪は浅黒い肌と相まり一種の神聖さを醸し、凛々しく整った目鼻立ちは実に絵になる。

 一言で言えば、かなりのイケメンであった。

 無言こそが何よりの肯定だと、女――八雲藍はクスリと笑った。

 その微かな笑い声を耳にし、青年の眉がピクリと跳ねる。

「おいィ? 何勝手に納得してるわけ? 人の気持ちを捏造するのは犯罪だぞ>Kitune! 早く謝っテ!」

 そうして発した彼の言葉は随分と――特徴的であった。

 見た目だけならばどこぞの王子でも通りそうなぐらいなのに、その言葉遣いが全てを台無しにしていた。

「ふふっ。変わらないなぁ。ブロントくんは」

「俺がが変わっていないように見えるならお前の目は意味無いな後ろから破壊してやろうか? それと――」

「それと?」

「俺は謙虚なナイトだからな、呼ぶ時はさん付けでいいぞ」

「はいはい。分かったよブロントさん」

 全然分かってなさそうな答えに、ブロントは今一つ納得していなかった。

 故に仕返してやろうという、少年特有の悪戯心がむくりと湧き上がったのだ。

「そういう藍も記憶と全く変わってない感。チートじゃぬぇのけ?」

「……ブロントさん? 女性に年齢の話を振るのはタブーだぞ?」

 ゴゴゴと。その背に鬼神のオーラを纏わせ藍は静かに答えた。

「震えてきやがった。マジ怖いです! hai! ごめんなしあ! 僕はまだ天狗ポリスのお世話になりたくないんでうs;!」

「何もそこまでヘタレなくても……」

 土下座でもせん怒涛の勢いでブロントは謝った。

 むしろこちらが、悪いことをしている気になってしまう藍だった。

 ヘタレるのも早ければ、切り替わるのもまた早い。

 イケメンの表情を取り戻したブロントは懲りずに話題を続ける。 

「しかし――変わらないと言ったのは訂正する。一つだけ訂正するんだが?」

「ほほう……? それは何かな?」

 年上の余裕を以って聞き返す藍。

「藍は昔よりずっと綺麗になった」

 キキィ――!

「おわー!? 急ブレーキとか、ちょとsYレならんしょこれは・・・^^; このままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが……?」

 外気を取り込んだエアコンから、ゴムが焦げる独特の匂いが流れ込む。

 藍は真っ赤な顔を圧して、ブロントへ向き直った。

「あのなぁブロントさん……!? それは、殺し文句だぞ?」

「おいぃ……? ナイトを人殺し扱いするとか、お前間接的にも忍者だろ。汚いなさすが忍者きたない」

 何とも間の抜けた返答をするブロントを見て、藍は一人で慌てる自分が馬鹿みたいだと、車を動かし始めた。

 だけど、身体の熱は、未だ引く気配は無かった。

 それから暫く、無言の時間が過ぎた。

 藍は運転に集中し、ブロントはブロントで代わり映えのしない山林に目を向けていた。

 ブロントが大きな欠伸を噛み締める――その時だった。

「お、見えたぞ」

 深い山間が突如として開け、広大な空間が現れた。

 そうして目の前に映るのは、高さ百メートルはくだらない巨大な壁である。

 壁の奥には更に高い稜線の続きが見え、この空間は一つの盆地である事が理解できた。

 その中央に存在する壁は一体……?

 正面から見るソレは正しく圧巻であり一枚の板の様に見えるも、その実態は盆地を丸々ぐるりと一周する、円筒の壁だった。

 N県I市に存在する、ある種の隔離を目的とした都市。

 街に住む者は皆、口を揃えてこう呼んだ。

「ようこそ、ブロントさん」

 第一指定特区――『幻想郷』へ。

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