「私ね…ドラムやめようと思うんだ」
花音がそう告げてからいったいどれくらいの時間が経ったのだろうか。
実際には1分ほどであろうが、俺にはそれが何時間にも感じられた。
それほど衝撃的な出来事だった。
「…何かあったのか?」
なんとか絞り出した言葉はそんなセリフだった。
考えたくはないが、いじめなどがあったのかもしれない。
花音は人の頼みを断れない性格だから余計にそう感じてしまっていた。
「特別何かあったっていうわけじゃないよ…ただ…」
花音はそう告げると、先ほどよりも辛そうな顔をして下を向いてしまった。
どうやら言いたくないことらしい。
ただまぁ何かされてるってわけではないようだ。
「まぁ変なことがなかったならいいけどさ…。誰かに言われてやめるとかじゃないんだろ?」
「うん、そうだよ。自分の意思でやめようと思って…」
「そっか…。まぁあれだな。やめたいならしょうがないな。嫌々やってても辛いだけだろうし」
嘘だ。本当は花音の奏でるドラムをずっと聞いていたい。諦めてしまった俺にとっては、そのくらいしか音楽の楽しみはないのだから。
「うん…ごめんなさい」
「ハハッ、なんで花音が謝るんだよ。別に何か悪いことをしたってわけでもあるまいし。やめたくなったからやめる、それだけだ。何も悪いことなんてない。それに…俺が何か言える立場じゃないさ」
「そ、そんな!ヒロ君は…」
「…ほらほら、そろそろ時間も時間だし帰った方がいいんじゃないか?真由美さんが心配するぞ?」
「う、うん…。わ、わかった。じゃあまた明日来るね、ヒロ君」
そう告げ、花音は病室を後にした。
『俺が何か言える立場じゃないさ』って言った時の花音の表情はとても辛そうだった。
それこそ自分がドラムをやめると言った時以上に。
…やっぱり俺は花音を苦しめているんだな。
分かっちゃいたけど…俺にはもうどうすることもできない。
ごめんな花音。
「あれ?花音ちゃんは帰ったの?」
「黒崎さんですか?花音なら帰りましたよ」
俺が色々考えていると、病室に担当の看護婦さんがやって来た。
彼女は黒崎さん。見た目だけなら若そうだけど、言葉遣いなんかをみるに結構歳がいっていると考えている。
だがしかし、黒崎さんはよく話し相手になってくれる人で割といい人だと思っている。
「ふーん。それにしては暗そうにみえるけど?花音ちゃんが来た後はいつもいい笑顔じゃない」
そんな彼女はとても鋭い。
女の勘ってやつだとしたらとても怖い。
花音には一生身について欲しくない勘である。
「高校生には色々あるんですよ」
そんな彼女の言葉に俺はごまかした。
人には突っ込んでほしくないこともあるのだ。
「そりゃあそうかもしれないけど…。まぁいいわ。花音ちゃんに
「すみません。もう少し待ってもらえますか?今週中には決めるので」
「何度目よそれ…。まぁわかったわ。今週中にお願いね」
俺がはい、と返事をしたことを確認すると黒崎さんは病室を後にした。
はぁ…色々とどうすっかなぁ……