花音がドラムをやめると言い出してから一週間がすぎた。
その間、花音は病院に来ていない。
やっぱ変なこと言っちゃったかな…
なんてことを思っていると…
「ひ、ヒロ君…!ごめんなさい一週間もお見舞いに来なくて…」
息を切らした花音が病室へと入って来た。
「花音…?いや、別に毎日来てくれる必要はないから気にしてはいないんだが…」
と話していると、別の女の子が病室へと入って来た。
「花音!ここがあなたの来たかった場所なの?…あら?あなた笑顔が足りないわよ!ほらハッピー、ラッキー、スマイル、イェーイ!」
ハッピー、ラッキー…?全然ハッピーでもラッキーでもないんだが…
というか彼女は…誰だ?花音の知り合いか?
疑問は尽きないが、とりあえず病院の中では静かにしてほしい。
そう思っていると、
「だーかーらー。病院の中では静かにって言ってるでしょうに…」
別の女の子が入って来た。
その女の子の他にあと2人、後ろから入って来たのでこの場にいるのは全員で6人。
俺が入院してから一度に最も多い人数が俺の病室に存在していた。
「美咲、こころを離してやってはくれないか?かのシェイクスピアもこう言っている。運命とは最もふさわしい場所へと貴方を運ぶ、とね。あぁ…儚い」
「はぐみはコロッケ持って来たよー!」
「もう…好きにして……」
病室が混沌に包まれた。
「ご、ゴホンっ、と、とりあえず花音、説明してもらっていいか?ちょっと何が何だかわからないんだが…」
「いいわよ!私は花咲女子高等部1年の弦巻こころ!世界を笑顔にすることを目指しているわ!」
「へっ…?」
どうやら彼女らは花音の知り合いのようなので、花音に説明を求めたのだが、花音を差し置いて一番元気がある子が自己紹介を始めてしまった。
その元気を少しでも花音に分けてほしいものだ…と一瞬思ったが、花音は今の花音のままが一番だと思いその考えを頭の隅においやる。
「ちょ、ちょっとこころ。今は花音さんが説明するんだから少し黙ってて。あっ、すみません。花音さん説明をお願いします」
「う、うん…」
さっきから思っていたんだが、あの黒髪の少女がブレーキ役なのだろうか。
とても苦労してそうに見える。
おそらく花音がいなければ過労死しているであろうくらいに。
「ヒロ君。この一週間の間にあったことなんだけど……」
花音がそう告げると、この一週間にあったことを話してくれた。
どうやら俺が最後に花音と会った次の日、花音はドラムを売りに行こうとしたらしい。
その道中どうやら道に迷ってしまったようだ。
そんなとき、ここにいるこころちゃんが話しかけて来たらしい。
『いいもの、みーつけた!!!』
『え、えっ!?』
『あたし、今歌ってるの。だから一緒に演奏してくれる?』
『へ……?あっ、待って、離して、ください……っ。私、このスネアドラムはもう、売るつもりで…』
『売っちゃうの?なんで?あたしと一緒に演奏するんだから、売るのなんてやめましょうよ!』
『そ、そんな……めちゃくちゃな…っ。わ、私、もう行くから…』
『めちゃくちゃじゃないわ!だってあなたも世界を笑顔にしたいでしょ?』
『ふぇぇ………』
「い、意味がわからん……」
「はははっ……。私も最初何が起こってるのか全然わからなかったよ…」
少し遠い顔をする花音。
その後も詳細を聞いたが、なかなかに面白いというか気の毒というか、不思議なことばかり起こっていた。
その中心は間違いなくこころちゃんだろう。
不思議な子だけど、なんとなくこれまでに起こした言動は本心からである、そんな気がした。
「へぇ、この一週間そんなことがあったのか。それでこころちゃんのことはだいたい分かったんだけど、よかったら他の子の紹介もしてくれるか?」
「はいっ!じゃあ次ははぐみが自己紹介するね!私は北沢はぐみ!商店街の北沢精肉店ってところに住んでるよっ!あっ!これお見舞いのコロッケ!」
お見舞いにコロッケ…?
初めて聞いたよ…
だけどこころちゃん同様で悪い子ではなさそうだ。
「じゃあ次は私の自己紹介といこうか」
続いて背の高い女性…まるで宝塚にいそうな人が自己紹介を始めた。
「私は薫。瀬田薫だ。私たちの出会いを祝して、詩を詠むから聞いてくれたまえ」
そう告げると彼…彼女は本当に詩を読み始めた。
…聞いていてもまったく頭に入ってこない。
「あぁー、じゃあ今のうちに私が自己紹介しちゃいますね。私は奥沢美咲って言います。こころと同じ花咲女子高等部1年です。よろしくお願いします」
最後に普段から振り回されていそうな子が自己紹介をしてくれた。
普通の女子高生って感じだ。
少なくとも俺の学校にいる女子とそう変わらないような気がする。
「それであなたは誰なの?私、あなたについて何も知らないわ」
なんてことを考えていると、こころちゃんから声をかけられた。
花音は何も説明していなかったのか…
まぁこのメンバーじゃ何を言っても聞かないだろうし仕方ないか。
「俺は船橋大翔。天王寺高校2年だ。やりとりを見てだいたいわかると思うけど、花音とは幼馴染なんだ。まぁよろしく」
そんな感じで俺はハロハピとの初遭遇を果たした。