まちがいさがし   作:中島何某

24 / 25
1991年以前 ウィーズリー家ジニー視点


I'm dying to know.

 

 

 

 私には七人の兄さんが居る。

 そう言うときっとどこでも驚かれるのだろう。しかも双子が二組も居るんだから! 夏休みなんて家がぎゅうぎゅうになっちゃうし、家のどこかで誰かが話してて静まり返る時間なんて一瞬もない。騒がしい我が家だけど、私が一番生まれるのが遅かったし、もう慣れちゃったわ。

 一番上の兄は今年ホグワーツを卒業して、一番下の兄も学校を卒業したらしい。一番下の兄は双子で、ロンとロット。ロットだけマグルの学校に通っていて、歳は私とひとつしか離れていないのに、ビルやチャーリーやパーシーと同じように我が家に帰ってくるのは夏休みと冬休みだけ。

 学校に通っていないし、近所にお友達もいないから胸を張っては言えないけど、ロットは不思議な男の子だと思うの、私。

 我が家で唯一の黒髪だから、とかじゃなくて。不思議なふんいきがあるの、彼。

 ビルみたいに、最後まで話を聞いてくれて、優しくて、信頼できるお兄ちゃんだと思う。でも、ビルみたいにロマンティックじゃないし。ビルって結構冒険家っていうか、ちいさい男の子みたいなのよね。でもロットは違う。シニカル? ううん、pes…pesso……pesi、えんせい的? うーん、なんて言うんだろう。ジェントルマン、でいいかしら。

 ロンはロットのことつまんない奴って言うけど、わたし、そんなことないと思う。彼って、神様が特別丹精につくったんじゃないかって考えるの。彫刻みたいな顔も、みんなが不平を言わないようにって気遣いも、たくさんの知識を自分から求める性格も、家族のだれかが傷付いた時に自分の出来ることはなんでもしちゃう優しさも。

 カンペキなひとだとは私も思わないけど。フレッドとの仲はよくギクシャクするし、家に帰ってきても本ばかり読んでるし、ちょっと痩せすぎだし、我が家のお金事情をタイトにしてる要因のひとつだし、フレッドとジョージがパースと喧嘩してもほっとくし、ちょっと根暗入ってるし……あれ? 文句の方が多くなっちゃった。

 でもなにを聞いても教えてくれる。例えば空の色、雨の降る理由、ママの作った料理の材料、1+1が2の理由。パパやママに聞いてもはぐらかされることを、ロットはなんでも教えてくれる。でも、赤ちゃんはどうやって生まれるの? って聞いたときの、ママとビルと一瞬目配せしたあと、穏やかに「キャベツ畑からだよ」って答えたのだけは納得してないんだからね! うそよぜったい! だってキャベツに混じって赤ちゃんがスーパーに並んだなんてニュース新聞でも見たことないんだから! チシャでもレタスでもキャベツでもなんでもいいけど、ラプンツェルなんて耳タコ!

 

「ねえ、ロット」

 

「なんだいジニー」

 

「動かない写真が見たいわ。ロットと友達が写ってるの」

 

「いいよ。ちょっと待ってな」

 

 ロットは学校に通ってる時、パパとママを心配させないようにって手紙と一緒に写真を送ってくる。マグルの写真は動かないものばかりだけど、ロットが学校の友達や居候先の近所の子と写ってる写真は不思議なものが写っててわたし結構好きなの。まあ、私よりパパの方が興奮しちゃうときも結構あるんだけど。

 

「どうぞ」

 

 アルバムを持ってきて、新しいところからぱらぱら広げる。マグルの学校は2~7年制と色々ある上、飛び級っていうのもあるらしくて、最近の写真はロットの周りはみんなビルやチャーリーくらい大きい人ばっかりでなんだか不思議な光景だ。

 

「卒業しちゃったけど、この人たちとは今も仲がいいの?」

 

 ロットは今年の5月に卒業したんだけど、どうせだったらホグワーツに入るまでもう一年マグルで勉強してみたらどうだっておうちを貸してくれてるアンバディさんがパパに言ってくれたらしくて、パパも随分悩んでたけど、シックススフォーム? はやめておいて、短期の語学留学とか、ボランティアに取り組むことにしたらしくて、最後の一年も家には帰ってこないみたい。まあ、パパ的にはアンバディさんが資金提供してくれたのが一番大きな理由の気もするけど。

 変なの。魔法使いなんだからホグワーツに行くまでうちに居ればいいのに。離れてる期間はビルたちと同じなのに、容姿からか、性格からか、時々なんだかロットだけ兄弟じゃない気がしてこわくなっちゃうの、わたし。

 

「どうだろう。授業で班になったり、ランチを一緒にしたり仲良くはしてたけど、うーん」

 

「なあに?」

 

「右端の女の子が左の男の子二人を同じ時期にボーイフレンドにしちゃって」

 

「ええ!?」

 

「グループは解散気味だなあ」

 

「そうなの……」

 

 右端の女の子は肌が黒くてスタイルがよくて、確かに人気がありそうだ。ビルも女の子に人気だし、学校ってやっぱり勉強以外にも楽しみのある場所だとは思うけど、スキャンダラスな日常を送る子も居るんだ。なんだか怖い気もする。それを普通のことのように受け止めるロットも。

 

「そうだ、ロットにガールフレンドは居なかったの?」

 

「居ないよ」

 

「どうして?」

 

 優しいし、顔もよさげだし、子供っぽくないし、真面目だし、人気ありそうだと思ったのに。おかしいなあ。私が趣味悪いみたいじゃない。

 

「どうしてって、周りはみんなビルくらいの年齢なんだから当たり前だろう」

 

「10個差くらい大したことないわ」

 

「おませなジニー、大人になってからの10個差と子供のうちの10個差は色々違うんだよ」

 

「あっ、まだ見てるのよチャーリー!」

 

 後ろからにゅっとチャーリーが現れて、大人ぶった台詞を口にして勝手にアルバムを捲ってしまう。もう! 順番で見ればいいのに!

 

「この人がアンバディさんだっけ?」

 

 パパよりもうちょっと若そうな、難しい顔をしたおじさんを差してチャーリーが言った。うーん、細くてふさふさ。「ああ、そうだよ」って答えるロットの返事を聞きながら私もアルバムをパラパラ捲ると、立派なアーチの前にロットとこのおじさんが……

 

「あっ、これいつ撮ったの!? パパとアンバディさんとロット、三人で写真撮ってる! パパったら私たちに内緒でロットに会ってたのね!」

 

 ロットは苦笑して「偶然この近くで仕事が一緒になったらしいよ」と私を嗜める。でも、パパったら秘密でロットに会いに行ってたのよ。家族の中で一人だけ。学校に行った兄弟に会いたくてもみんなが長期休暇まで我慢してるのに!

 ふくれっ面の私の頭をチャーリーがわしわし撫でて、ロットが手櫛でぱらぱら直す。もう、二人して、私お人形じゃないんだから。

 

「そういえば、チャーリー」

 

「なんだい? ロット」

 

「OWLどうだった?」

 

「……お前までママみたいなこと言わないでくれ!」

 

 ロットがふくろうについて聞くと、チャーリーは一瞬耳を疑ったっていう感じで固まって、すぐ絶望の表情になった。顔を手で覆って項垂れる。あんまり可哀想なんで私はチャーリーの頭をぽんぽんと撫でてあげた。

 

「ふくろうってなあに?」

 

「Ordinary Wizarding Levelsっていう、チャーリーの歳に受ける大事なテストだよ。まだ結果がきてないんだ」

 

「オーディナリー、ウィザ……ア、ウ…ル……OWL!」

 

「そうとも、ジニーは賢いな。チャールズ、ビルも自分でNEWTがあったのにお前のこと気にしてたぞ」

 

「うう……」

 

「おい、チャーリー、監督生、チャック、チャップリン。……そんなに悪かったのか?」

 

 かわいそうな声でロットが尋ねる。チャーリーは項垂れてた顔をあげて、捨てられた子猫みたいな顔でロットを見詰めた。

 

「ビルは12ふくろうだったし、パースも兄貴同様逆転時計を使って12科目授業を受けてるのに、俺はトロールがあるかもしれないんだ……」

 

「なんだ、そんなことか」

 

「は?」

 

 二人は学校のことについて話してるけど、知らないことばっかりでついていけない。ちょっと寂しくかんじながら、頭上でされる会話をなんとなく聞ききつつ私はアルバムを捲った。……あ、この時期の写真、ブルネットの女の子がいつもロットの隣に居る。気があるんじゃないかしら。

 

「就職に関わるNEWTじゃあるまいし、六年次にとりたい科目じゃなかったら不合格はPだろうとDだろうとTだろうと大した変わりないさ」

 

「ほんとにそう思うか? ほんとに?」

 

「ドラゴンの研究がしたいんだろ。魔法生物飼育学の手ごたえは?」

 

「それはたぶん、良・E以上はとれたと思うけど」

 

「なら間違いなく六年で魔法生物飼育学の授業は選択できるし、七年までに苦手科目の底上げを念頭において勉強すればいいだけだよ」

 

「ええ、うーん。あーむ、…………うん、なんだか落ち着いてきた。なるほど。すごいなあ、ロット! 先輩みたいだ!」

 

 ロットも私みたいにチャーリーにわしわし頭を撫でられて、座っている椅子ががたがた揺れる。……あ、この男の子ちょっとかっこいい。でも私、ハリー・ポッターみたいに勇敢だったり、ロットみたいに賢かったり、ビルみたいに優しい男の子がいいし、この男の子はちょっとおバカっぽいかも。

 

「わっと、と。Oレベルは丁度無かったけど、GCSEとかマグルのナショナルテストは何度か受けてるから。Aレベルも視野に入れてたし」

 

「へえ、そうなのか。前にロットが言ってたけど、マグルって学校に入試テストもあったりするんだろ?」

 

「ああ、パブリックスクールとか。あそこはラテン語とかフランス語も入試に含まれるからちょっと難しいよ」

 

「学校に入れなかったら大変だわ……!」

 

 聞き流していた会話にちょっと恐ろしいことを聞いて、私は青くなってしまった。マグルじゃなくってよかった。テストで落ちて学校に入学できないなんて震えあがりそう。

 

「準備校とかもあるから大丈夫だよ、ジニー」

 

「知らない人のことも心配するなんて、ジニーは優しいな」

 

 二人に微笑まれて、私はばくばくしてる心臓をぎゅっと抑える。そうよね、私は入学のための試験は受けないんだものね。ふーっと深呼吸して自分を落ち着かせると、ロットが穏やかに私に言った。

 

「そうだ。アルバムもいいけど、ジニーに似合うブレスレットがあったから買ってきたんだ。マグルのものだから面白味はないかもしれないけど」

 

「ほんと!? うれしい!」

 

 ロットは帰省のたびにちょっとしたものをプレゼントしてくれる。それが子供っぽくなくて、でも気取って浮いちゃわないアクセサリーが多くてどれも大切にしてるの。ロンにはマグルのお菓子が多いかも。人形とかついてるのが嬉しいみたい。フレッドとジョージにこの前化石をあげてたのを見た時は私ビックリしちゃった! しかも喜んでるんだもん、男の子って変だわ。ソレどうするの?

 上の三人にはあんまりプレゼントしないのはロットなりの気遣いなのかもしれないし、お小遣いが足りないだけかもしれないけど、気付いたらチャーリーが「俺には?」って顔してる。なんだかんだマグル製品がうちの家族は好きなのね。

 

「チャーチルくんにはこの前Tシャツあげたろ」

 

「そうだった、ありがとう! ドラゴンが小鳥を追いかけてる柄なんて、凄い偶然だよなあ。スニジェットみたいだ」

 

 変な名前で呼ばれてるのに気にしてないのかチャーリーはにこにこだ。私はこの夏は殆どみんなが集まってるところに居たのにプレゼントされてる姿を見てないのを考えると、もしかして上の兄弟にもこっそりプレゼントしてるのかもしれない。

 去年はママにも刺繍入りのショールをプレゼントしてたし、お小遣い足りるのかしら。パパの話を聞いてるとアンバディさんってロットのことがパパ並みに好きみたいだし、アンバディさんもお小遣いあげてるのかも。

 パラパラアルバムを捲ってもう一度アンバディさんとロットが写ってる写真を見る。えーっと、なんだかこの二人、難しい顔が似てる。ロットは最近楽しそうに笑ってくれるようになったけど、アンバディさんも年々ふんいきが柔らかくなってるし、でも二人ともどちらかというと青白くて冷たい顔してるし。親子……っていうより、兄弟とか友達みたい。

 

「あら、学校からフクロウ便が来ましたよ!」

 

 お洗濯してたママがそう叫ぶと、チャーリーが肩をびくって揺らした。上の階からもバターンって扉を開ける音がして、見上げればビルが部屋から出てきたところだった。

 

「ママ! どっち宛てなの!?」

 

 ばたばた走っていく二人をぼんやり眺める。テストって大変そう。それを何回も受けてるんだからみんなすごいのね。私もホグワーツに入学したらそうなるのかあ。

 

「そうだ、ロット。私もロットと写真撮りたい。動かないやつ」

 

「マグルのカメラが無いよ、ジニー」

 

 肩を竦めて笑われて、パタンとアルバムを閉じられる。

 

「代わりにブレスレットを持ってくるからちょっと待ってな」

 

「はぁい」

 

 アルバムを棚に戻して自分の部屋に向かうロットの背中を眺めながら、やっぱりマグルのとこなんかに戻らずに家に居ればいいのになあ、と思った。

 





欧米では生まれた時から才能に差があるのは当然の価値観を基に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。