まちがいさがし   作:中島何某

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7話

 

 

 ボクと全く似てないボクの双子の弟は、周りと違う。

 まず、黒髪。ボクの家はみんな赤毛なのに、アイツだけ黒髪だ。あ、アイツの名前はロット。ロータスっていう。ちなみにボクはロン。ロナルドっていうんだ。

 でも目の色はボクと同じ青で、笑うときは口元はあんまり動かないで目だけ細まる。そんなにジェスチャーをしたり動いたりしないから、その姿はひとつの絵みたいに見える。ロットはガリガリだし目つきも悪いから、絵としてはお粗末なんだろうけど。

 でも顔はビルみたいに、ああ、ボクたちの一番上の兄でウィリアムっていうんだけど、そのビルとちょっとだけ似ててかっこいいんだ。そばかすもないし。なんでか、赤毛や金髪にそばかすって多いらしい。パーシーは皮膚が弱いからだって言ってたけど、よくわかんない。

 

 もうひとつ違う。これはビルとも違うんだ。ロットはボクたちと違って偉い人たちが喋るみたいな喋り方をする。単語ひとつとっても発音が違うんだ! それに、時々変なマークをいっぱい羊皮紙に書いたり、変な言葉を言ったりする。そのときはちょっと、えーっと、なんていうんだろう。……そう、ディア! 懐かしそうだけど、その後すごくいやーな顔をする。顔をぐしゃぐしゃにして、「shit」って小さくつぶやく。

 あと、最後にもういっこだけ。ロットはとにかく本を読む。ママに読んでもらうんじゃなくて、ビルやチャーリーの本を部屋から持ってきて、読んでるんだ。ビルが学校に行くからって買ってきた教科書じゃない本とか、ビルが1年だったり2年だったときの教科書とか。それをぜーんぶ、わかった。みたいな顔をして本棚に返すんだ。よくチャーリーのドラゴン全集とか図鑑、百科事典も読んでるけど。一回のぞいて見たら、魔法昆虫図鑑で、蜘蛛が紙の向こうで動いてて気持ち悪かったから、もうのぞかないって決めてるんだ! ロットが蜘蛛は昆虫じゃないって教えてくれたのに! 嘘つき!!(その時は6本とか8本とかニーズがどうとか節足動物?だし昆虫の方に乗せないとほぼ専門誌だけになっちゃうとか言ってたけど蜘蛛のこととか詳しく考えたくないってば! 教えなくていいよ!)

 そのロットのことで、なんでかボクたちは呼ばれた。夏休みで返ってきたビルとチャーリーもいて、朝ごはんのときみたいにみんな椅子に座ってる。こほん、ってパパが咳をした。

 

「みんな、聞いてくれ。ロットは、今度の秋からマグルのところに行くことになった」

 

「マグルだって!?」

「なんでさ!?」

 

 興奮した様子でフレッドとジョージが立ちあがった。パパは「勉強しに行くんだ」と答えた。朝ごはんのときと違ってパパとママの席の間に座ってるロットの顔はいつもとかわりない。

 

「パパ、ロットはその……何故?」

 

 ビルが首を傾げた。すごくびみょうな顔で、チャーリーも同じ顔をしてる。パーシーなんてぽかんとしてる。

 

「パパがマグル好きだからってわけじゃ、」

 

「ないわよ、チャーリー」

 

 ママがちょっとツンとして言った。チャーリーは「そっか」と安心した顔をした。隣のビルも。

 

「ロットは将来マグルと魔法使いを繋ぐ仕事につきたいそうなんだ。そのためにまずマグルの義務教育に、11歳まで行く」

 

「えー!? ボクたちには聞かなかったじゃないか、パパ!」

「そうだよ! 不公平だよ!」

 

「お前達がマグルのところに行って大人しくしてられるかい!」

 

 フレッドとジョージにママがぷりぷり怒っていった。そしたら二人は顔を見合わせて、「それもそうか」と笑った。チャーリーがあきれて「分かってるならおさえろよ」と言った。

 

「ロットは自分で言ったの……?」

 

 パーシーが悩みながら言うと、パパはうんと頷いた。

 

「クリスマスプレゼントに『マグルの学校に行かせて下さい』ってファーザー・クリスマスにお願いしてたり、よく言ってたのはお前たちだって聞いていたろ? 本気なら私だって行かせるさ」

 

 うんうんと頷くパパに、パーシーはまだ眉を少しよせて言った。

 

「勉強って、なにを勉強するの? マグル学っていうのと違うの?」

 

「えーっと、それは……」

 

 パパがどこか違うところを見ながら頭をがりがりした。ママもちょっと困ってる。そこで、急にロットが口をひらいた。

 

「マグルの歴史とか、ママに教わる計算よりもっと難しいのを勉強するんだ。日常では使わない計算も。あと、本や詩を読んでどうしてこういうふうに作者が書いたのかとか、登場人物は何を思っているのか考察したり。それに、自然現象や自然科学。つまり、水を凍らすとどうして量が増えるのか、とか。そういうのを勉強するんだ」

 

「……ロット、なんだかお前にはもう必要なさそうじゃないか?」

 

 ロットがすらすらっと言った難しい言葉をぜんぶ分かったのか、ビルは笑ってロットの頭をぐしゃぐしゃなでた。赤毛のボクたちはかみのけの量がすくないけど、ロットはかみがほそいからボクがなでられるのより頭がぐしゃぐしゃになった。

 ロットが、すぐにすとんともどるかみのけを手で直して首をふった。

 

「ううん、魔法を使わない人たちは、どういうふうに思考して、行動するのかも、知りたいんだ。自分本位になってしまうと、相互理解とか助け合いは成り立たないから。慈善事業がしたいわけじゃないんだ」

 

 ロットが言い終わると、ビルはびっくりした顔をしてからもう一度頭をなでた。チャーリーもびっくりした顔をしてからロットの頭をなでた。でも、チャーリーは力がつよいから、ロットの頭がぐらぐらした。ボクはそういえば、とおもいだした。この前のはなしって、もしかしてそれだったのかなあ。でもやっぱりボクはいいや。マグルの学校。難しそうだし。

 見ると、パパとママはビルが学校で一位をとってきたのを見るのと同じくらいうれしそうだった。

 

「でもママ、住むところはどうするの?」

 

 フレッドが首をかしげた。ジョージも「そりゃそうだ」と頷いた。

 

「「で、どうするの?」」

 

「パパの知り合いにアンバディって人がいるのを覚えてるか? お前たちも昔会ったことがあったろう」

 

「アンバディって、おい、ジョージ!」

「それってルパートだよ、フレッド、きっと!」

 

 二人がさわぎだしたけど、パパは気にしないで「そうだ」って言った。

 

「ルパートにお願いすることにした。奴なら魔法も魔法使いも知っているし、安心できる」

 

 ボクはそのルパートさんに会ったことはないけど、ビルとチャーリーとパーシーもないのか、「ふうん」って言うだけだった。

 

「さて、話はこれだけだ。異議のある人は!」

 

 パパが大声を出したけど、誰も手をあげなかった。そしたら、ママは「解散!」って言った。フレッドとジョージは興味がないのかすぐにどっかに走ってっちゃった。チャーリーは宿題のことをママに言われて慌てて立ち上がった。パーシーはロットを見た後、ふいってして自分の部屋に戻っていった。そういえば気付かなかったけど、いないと思ったらジニーは部屋のはじっこで本を積み上げてあそんでいた。

 

「ビル、三年の教科書、貸して」

 

「ロット、復習する時間くらい与えてくれよ」

 

 ビルはロットに引っ張られていた。ロットは「No revise. Yes assignment.(復習より課題をやらなきゃ)」とこぼした。ビルは苦笑して「宿題も復習みたいなもんなんだけどなあ」とパパみたいに頭をかいた。

 

Ah…I'll work it.(あー、まあなんとかするよ)

 

I am deeply grateful to you for your kindness.(あなたのご親切に深く感謝いたします。) I apologize.(大変申し訳ございません)

 

 すごく難しいあやまりかたと長いありがとうを茶目っ気をふくんで言ったロットに、ビルはムッと顔をぐしゃぐしゃにした。きっとビルがロットをにらむと、すごく怖い顔なのにロットはめずらしく笑った。お腹からおり曲げて「くっくっく」って笑ってる。すごくおもしろいのか肩までふるえてる。

 それにビルはもっとむっとして、ロットの足をげしっと踏んだ。

 

Excuse me.(ごめん/どいて)

 

 一番軽いあやまりかたをしたビルは(意味はわかるけど、なんかアメリカ人みたい)つんとして自分の部屋にもどるために階段のてすりに手をかけた。そうすると、痛がっていたロットがおもいっきりビルの膝裏をけって、ビルが階段でひっくりかえった。

 

「Wow. You got sweet bacons!」

 

 いつもは白いほっぺを赤くしたロットが、早口で叫んだ。ビルのベーコンがかっこいいなんて、よくわからなくて頭をかたむけると、ビルも不思議そうにロットをにらんでた。そして分かったように「ああっ」て叫んだ。

 

「コックニーなんてどこで覚えてきたんだ、ロータス!」

 

「どこだっていいだろウィリアム!」

 

 今日は、めずらしく声を出して笑ったロットに、めずらしく兄弟ゲンカをするビル。しかも相手がロットだなんて、すごく珍しい。ビルはいつも優しいし、ちょっとぬけてる。ロットはいつも静かだし怒らない。そんな二人のケンカに、パパとママはびっくりしてバタバタ近よってきた。パーシーも部屋からでてきて、なにか怒ろうとしたけど、それがビルとロットだってわかるとまた部屋にもどっていった。

 

「やめなさい! ふたりとも!」

 

 ママがお玉とフライパンを持ってガンガンたたいた。それでも二人とも蹴りあってる。二人共、なんだか喧嘩っぽくない。この前のパーシーとフレッドが喧嘩したときなんて、なぐって蹴ってばたばたしてたのに、ビルとロットは全然動かない。まるで相手に一番ダメージを与えられて、自分が痛くならない隙をねらってるみたいだ。。

 

「やめなさい! ロット、学校に行かせませんよ! ビル、ホグズミート行きを禁止にしますよ!」

 

 ママが叫ぶと、二人はぴたっと止まってにっこりと笑ってごめんと言い合ってあくしゅをした。ぐうぜん見たフレッドが顔を青くさせてもと来た道をひきかえした。

 

Trouble is a great person(母は偉大なり)……」

 

 収まった喧嘩にもう一回新聞をよみだしたパパに、ママは「アーサーアナタまで! やめてちょうだいッ」ときりきり叫んだ。パパは肩を小さくして新聞に体をかくして、ビルとロットもこそこそと部屋にもどっていった。

 でも、やっぱり二人ともおなじ部屋にいって宿題と読書をするみたい。

 ロットってやっぱり、変だ。

 

 

 

 





コックニーでベーコン(Bacon and Eggs)は脚のこと、トラブル(Trouble and Strife)は妻のこと。
謝罪の仕方は「Excuse me」→「Sorry」→「Apologize」の順に軽度。

と補足してあったのですが現在コックニーの正誤の確認できません。当時どの文献を参考にして書いたのか思い出せないためちょっと修正できない。あと最近英語が不自由すぎる。

9/5英文に翻訳をつけました。意訳も含みます。

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