『鳳蝶様、誠に申しづらいのですが、羽月様の病はかなり進行しております。おそらくもう長くは……』
やめろ……
言うな……それ以上言うんじゃない!
身に染みる寒さに目が覚めた。
夢……か……
だが、鳳蝶にとってそれは感謝すべきことである。
傷の痛さに思わず唸りたくなるなるが、
そこはグッと堪えて周りの様子を探る。
おっさんが一人……
ここは装ったほうが良いか。
「よぉ、目が覚めたかい?お嬢ちゃん」
覚めてない……ていうか覚めたくない……こんな敵しかいない海賊の船の中で。
そう言いたくなるが、言えばバレるので引き続き黙る。
「騙そうたって無駄だぜ?夜兎にはそんなもん通用しねえよ」
やっぱり無理か……
なんで寄りにもよって夜兎なのか……ほんとめんどくさい
「言っとくけど、さっさと起きたほうが身のためだぜ?
どっかのスットコドッコイな団長なら……」
パァン、と銃弾が頬を掠める。
その反動で起きたが……
……ほら言わんこっちゃねぇ、と阿伏兎はぼやく。
「さっさと起きてよ」
ピンク色の頭、ていうかアホ毛が近づいてくる。
「もうすぐアホ提督に呼ばれて晩餐会なんだ、それまでに吐かせろだけ吐かせろって言われてさ。俺は早く飯が食いたいんだよ」
改めて状況を確かめよう。
殺風景な牢の中に閉じ込められ、
手には手枷が嵌められており、足も鎖に結ばれている。
刀などは牢の外に出されているようだ。
しかも夜兎族が二人。
お世辞にも良いとは言えない状況である。
ていうか地球の小娘一人捕らえるのにこんなにもいるものなのか?
「自己紹介しておこう。俺は神威。春雨第七師団、一応団長だよ。こっちは阿伏兎、副団長だ」
こりゃまた厄介なとこに突っ込んじまったもんだと
心の中で舌打ちをする。
まだ生かされているのは恐らく情報を引き出すためだろう。
「わっちは鳳蝶だよ。残念ながら言えることはそれだけかな……」
作戦変更だ。
ていうか変更せざるをえない。
今は船再び地球に戻るまで、五体満足で生き残ることを最優先に考えよう。
「わっちは高杉晋助という男に用があるんだが伝えてほしい」
一か八かで言ってみる。
合わせてくれるなら少しは生存率が変わるかもしれない。それが上がるか下がるかは別として。
神威は少し難しい顔して考えていた。
「晋助に用?そりゃ困ったね。俺鬼兵隊じゃないし。言うだけ言ってみるよ」
以外にも承認してくれたようだ。
ていうかこいつ本当に情報を吐かせる気があるのか。
どっかから椅子引きずってきて座ってるじゃないか。
一体なにしにきたのだか。
「暇つぶしだけど?」
「いや、人の心読まないでほしいです」
「声に出てるよ?」
「出してるんです」
ムカつく野郎だ。
まだ阿伏兎のほうが話せる。
「阿伏兎さん、この船はどこに向かっていて?」
一応知っておきたい。
知って変わるものなどないけど。
「洛陽だ、お嬢さん。あんたがそれまで生きているかどうかは分からんが、そこの奴ら地球の奴らよりも何倍も荒いぜ?気をつけなぁ」
洛陽か……こりゃまた物騒な星へだな……
「ご忠告感謝します」
出来るだけイヤミを込めて言う。
まあ神威よりは話が通じるのは本当にありがたいが。
「団長、そろそろ時間だ。こいつ引っ張ってくぞ」
「えーめんどくさいな」
こっちだって行きたかねーよ。
足の鎖だけ解かれて引っ張ってかれる。
ほんとめんどくせぇことなった…