ソードアート・オンライン《遥なる戦い》   作:シアン

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初めまして、シアンです!
他の小説も書いてるので、よかったら検索して下さい!
まあ、今回は他の小説の執筆をサボり、SAOを書いてしまったのですが……反省はしている、後悔はしてない!
てなわけで、どうぞ!


はじまりの日に

 ソードアート・オンライン。略称SAO。最新のVRMMOで仮想世界に、ここではないモンスターも存在する一つの『異世界』へ行けるゲームだ。ナーヴギアと呼ばれるヘルメットのようなゲームハードを使用するそのゲームは、生産数僅か一万個。更にβテスターに優先的に配布された事を考えると更に少なくなる。

 数が少ない上にゲーマーの夢のようなそれを全国のゲーマーがこぞって買おうとするのは必然。故に長い長い行列が出来ていた。

 その長い行列の半ばに僕は居た。

 

(………寒っ…)

 

 突然吹いた風に身を震わせた。日

が昇ってきた11月の空はまだ夜の透明さを残し、風は吐き出した白い息を空へさらっていった。

 僕の家は厳しい家で、ゲームなど家にほぼ無かった。しかも、家にあったゲームは禁止されている。スマホですら、高校に入って二年目の今年、やっと手に入れた物だ。でも、禁止されているとはいえ、むしろ禁止されていたからこそ、ゲームが好きになった。親に隠れてやるゲームは格別の面白さを持っていた。現に僕のスマホの中には少ない容量で何とかやり繰りしたソシャゲが入っている。

 そんな僕にとって、ソードアート・オンラインはひどく魅力的に映った。だが、販売数の少なさ、何より親の許可も取れるわけがないと諦めていた。

 だが、神は僕を見捨てていなかったらしい。発売日は両親の結婚記念日で、両親は泊まりがけで旅行に行く事になっていた。

 だからこそ、両親が出かけた後すぐに家を出て何とか行列の半ば程に入れたのだった。隠れてソードアート・オンラインをプレイするのは些か手間ではあるものの、両親が寝静まった夜中ならば見つかる心配もない。ナーヴギアを隠す場所も既に確保してある。子供の頃におばあちゃんが買ってくれた巨大なクマの縫いぐるみ。その腹にはチャックが付いていて、元々そこには子グマの縫いぐるみが入っていたのだが、子供の頃の僕はその子グマを抱きしめて寝ていて、更には親クマには着古した洋服を着せていたので両親はチャックの存在を知らないはずだ。

 

(……買えるかな…)

 

 まあ、隠す場所云々よりも問題はそこだ。列の半ばとは言っても、買えるかどうかは分からない。ここまで来て買えなかったとなると、かなりショックだ。

 けど、もし買えたならどんな世界が待っているのだろう? そう考えた僕の意識はあっさりと、妄想の中へ飛んでいった。

 

 

**********************

 

 

 

 僕はホクホク顔で家に帰った。ソードアート・オンラインを手に入れることが出来た。その事実だけで、僕の顔はだらしなく綻んだ。

 時刻は12時を回ったとことだ。正式サービス開始まで後一時間。両親は夕食も済まして帰ってくるので、まだ時間はたっぷりある。昼食は面倒なのでとらないことにした。昼食よりもソードアート・オンラインを手に入れたと言う事実で頭が一杯だった。

 今は何をしても落ち着ける気がしない。違う世界に行けると思うとワクワクが止まらない。そうして僕の意識は再び妄想に飲み込まれた。

 気づけば1時まで残り10分となっていた。ナーヴギアの初期設定は既に済ませてある。

 電源プラグを差し込み、ベッドに横たわってナーヴギアを装着する。

 視界に映るアナログ時計が13:00を告げる。

 目を瞑り、はやる動悸、呼吸を押さえるように深呼吸をした後呟く。

 

「リンク・スタート!」

 

 

**********************

 

 

 

 足の裏に感覚がある。寝ていない。立っている。閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ、石畳を見た。両手を目の前に持ってきて、握って開く。顔を上げればそこには、別世界が広がっていた。

 現実では見たことのないような建物。次々と転送されてくるプレイヤー。現実ではあり得ない事が起こっている。まさに、ファンタジーの世界!

 

「来たんだ……SAOに…SAOの世界に!」

 

 そう言って、僕は走り出した。早く、誰よりも早くこの世界を見て回りたい。フィールドに出てモンスターを倒したい。その一心で僕は走った。

 で、その結果。

「ここ、どこ…?」

 迷った。いや、はじまりの街広すぎるよ。そりゃ、初期タウンだから広いだろうけどそれにしてもでしょ……

「どうしよう、これ…」

 ……………あ、マップ見ればいいのか。

 肝心な事を見落としていた。大分、自分は浮かれていたようだ。

「えっと……今がここだから、次の角を左に曲がって……ひゃっ!?」

 突然の衝撃に思わず尻餅をついてしまう。

「っと、ごめん。大丈夫?」

 そっと手がさしのべられた。どうやら、誰かにぶつかってしまったらしい。現実で言う歩きスマホのようなことをしていれば、そりゃ誰かにぶつかるというものだ。

「あ…ごめんなさい」

 さしのべられた手を掴み立ち上がった。目の前に居たのは黒髪の少年だった。

「ぶつかってごめんな」

「い、いや、僕が不注意だったのが悪いから…気にしないで下さい」

「そうか? そう言えば君はどうしてこんな所に?」

「えっと…道に迷っちゃって……あはは…」

「始まりの街は広いからな。路地とか迷いやすいから気を付けた方がいいぜ?」

「う、うん。気を付けるよ。それにしても詳しいね……もしかしてβテスター?」

「ああ、そうだ。俺はキリト。よろしくな」

「あ、えっとネルです。よろしく、キリト君…?」

「キリトでいいよ、ネル」

 自己紹介と簡単な挨拶を交わす僕ら。

 そしてそこに、

「おーい、そこの兄ちゃーん!」

 赤髪バンダナの長身の男が近付いてきた。顎には無精ひげを生やしている。何だろうと言う顔でそちらを見るキリト。赤髪バンダナは目の前まで来ると膝に手をついて荒く呼吸をする。

「えっと…?」

 キリトが声を発すると、赤髪バンダナは顔を上げて言った。

「あの迷いのない動き、おめぇβテスターか?」

「ああ、そうだけど…」

「やっぱりな! よければ俺にレクチャーしてくれないか? 始めたばっかりで勝手もわからねぇんだ」

「ああ、そう言うことなら」

「よっしゃ! 俺はクライン、よろしくな」

 赤髪バンダナが自己紹介をして、キリトと僕が続く。

「俺はキリトだ」

「僕はネルです」

「お前さんは…先客か?」

 その言葉に僕は首を振って否定の意を示す。

「ううん、僕は今少し話してただけだから、もう行くよ」

 そう言って、歩きだそうとしてキリトに肩を掴まれた。

「よかったら、ネルも一緒に行かないか? ネルも始めたばかりなんだろ?」

「…いいの?」

「もちろんだ。ここで会ったのも何かの縁だしな。クラインはいいか?」

「おう、大丈夫だぜ。よろしくな、ネル」

「じゃあ、よろしくお願いします」

 そう言うわけで、ソードアート・オンライン正式サービスの初日、始まりの街の片隅で3人パーティーが結成されたのだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

「ぬおっ……とりゃっ……うひぇぇっ

!」

 変な掛け声で振るわれた剣がスカスカと空を切った。その剣を俊敏に躱した青いイノシシがクラインに向かって突進を仕掛け、クラインはその平な鼻面に突き飛ばされる。

 その光景に僕は思わず吹き出し、キリトも笑い声を上げた。

「ははは……、そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ、クライン」

「最初のモーションがあってれば後はシステムが動かしてくれるからね」

「ンなこと言ったってよぉ……アイツ動きやがるしよぉ」

 情け無い声を出しながら立ち上がるクラインに、キリトはイノシシをいなしながら言葉を続ける。

「どう言えばいいかなぁ……。初動でほんの少しタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこうズパーン! て打ち込む感じで…」

「ズパーン、てよう…。というか、ネルは何でそんなに習得が早いんだ…?」

 そう、既に何度か戦闘をこなしているが、僕は最初の数回でソードスキルをマスターしていた。元々、他人の動きを真似て動くのは得意だったので、その影響だろうが。

「ネルは勘がいいんだよ。普通はあんなに早く習得できないからな」

「なら、オレ様もいいとこ見せねぇとなぁ…」

 そう言って立ち上がったクラインは、腰を落とし、右肩に担ぐように曲刀を持ち上げた。正しいモーションを検出したシステムが、クラインの剣に力を与え、オレンジ色の光を放った。

「りゃあっ!」

 勢いよく、そして滑らかに左足が大地を蹴り、しゅぎーん! という効果音と共に振るわれた曲刀が青イノシシ、『フレンジーボア』の半分程だったHPを吹き飛ばした。

 

 

**********************

 

 

 

 それから少し時間は経ち、辺りは夕焼けに染まった。建物が並ぶ現実世界では見ることの出来ない美しい夕焼けに感動して、僕はそれだけをじっと見つめた。

「しっかしよ……こうきて何度見回しても信じられねえな。ここが『ゲームの中』だなんてよ」

「うん、確かに信じられないね…」

 半ば上の空でクラインの言葉に相づちをうった。

「ほんと、すげぇよなぁ……さすが『フルダイブ』! おりゃこれが初だからな、この時代に生きててよかったぜ!!」

「大げさな奴だなあ」

 そうキリトが笑う。僕は反応しなかったけれど、本当にその通りだと思った。『フルダイブ』 現実では無い場所へ、仮想空間へ自分の意識を飛ばしアバターと言う体(かたち)を与え、動かす。そんな数十年前まで空想だったことが、今こうして出来ているのだから。

 今見えている夕焼けも、その美しさも、全て仮想だ。けれど、確かに仮想であっても、これは紛れもない現実なのだ。

「さてと……どうする? 勘が掴めるまで、もう少し狩り続けるか?」

 そんな中、キリトが口を開いた。

「ったりめえよ! ………と言いてぇところだけど……そろそろ一回落ちて、メシ食わねぇとなんだよな。ピザの宅配、五時半に指定してっからよ」

「準備万端なんだね……っと、僕もそろそろ落ちないと」

 両親が帰ってくるまで時間はまだまだあるが、安全を取ってそろそろ落ちた方がいいだろう。

「そうか、なら今日は解散だな」

 そうだな、と続けた後にクラインが思い出したように言葉を発した。

「そうだ、メシ食ってインした後、他のゲームで知り合いだった奴らと落ち合う約束してんだ。どうだ、2人とも、紹介すっから、あいつらともフレンド登録しないか?」

 クラインの知り合いなら悪い人では無いだろう。おそらく、クラインの人間性から鑑みるに、その人達はクラインのギルドのメンバーなのだろう。なら、なおさら悪い人達でないと思い、僕は、うん、是非 と言った後に続けた。

「でも、今日インするのは夜中になりそうなんだ。だから、またの機会にってことになるかな」

「そう言うことなら問題ねえよ。俺らは夜中までずっとインしてると思うしな、インしたらメッセ飛ばしてくれ」

 と言うことだった。

 一方、キリトはというと…

「うーん……そうだなあ……」

 何となく歯切れの悪い返事をしていた。その返事に何かを悟ったのかクラインは言葉を足した。

「いや、もちろん無理にとは言わねえよ。そのうち、紹介する機会もあるだろうしな」

「……ああ。悪いな、ありがとう」

「おいおい、礼を言うのはこっちのほうだぜ! おめぇのおかげですっげえ助かったよ、この礼はそのうちちゃんとすっからな。精神的に」

 ブンブンと大きくかぶりを振った後、クラインはにかっと笑った。

「……ほんじゃ、またな。マジ、サンキューな、キリト。ネルも、これから宜しく頼むぜ」

「こちらこそ。それじゃあ、またね。二人とも」

 そう言って、クラインは背を向けてウインドウを操作し始めた。僕もそれに習ってウインドウを操作したのだが、

(あれ? ログアウトボタンが…?)

 本来、ログアウトボタンがあるべき場所には空白があるのみだった。

「あれっ」

 背後でクラインの頓狂な声が聞こえた。

「なんだこりゃ。……ログアウトボタンがねぇよ」

 その言葉に僕は思わず振り向いた。

 キリトはその言葉に、呆れた声音で返した。

「ログアウトボタンがないって……そんなわけないだろ、よく見てみろ」

 クラインが手元に顔を近づけ、凝視した。

「やっぱどこにもねぇよ。おめぇも見てみろって、キリト」

 数秒後、やや声を大きくして、クライン言葉を発した。

「だから、んなわけないって……」

 再び呆れた声で言いながら、キリトが手元を手慣れた動きで操作する。そして、指を止めた。

「……ねぇだろ?」

「うん、ない。…ネルはどうなんだ?」

「うん、僕のメニューにも無かった。綺麗さっぱり、完全無欠になくなってる」

 メニューのあちこちを弄っていた僕は、確信を持って告げた。

「ま、今日は正式サービス初日だかんな。こんなバグも出るだろ。今頃GMコール殺到で運営も半泣きだろなぁ」

 のんびりとした口調で話すクラインにキリトが少し意地悪い声でツッコミを入れた。

「そんな余裕かましてていいのか? さっき、五時半にピザの宅配たのんでるとか言ってなかったか」

「うおっ、そうだった!!」

 むなしく叫ぶクラインと半笑いのキリトを他所に、僕はGMコールを試していた。だが、うんともすんとも言わず、特に変化もない。熟考し、なぜかキリトの妹の話になっている二人に声をかけた。

「ねえ、おかしくない?」

 ピタリと動きを止めた二人に続けて言う。

「どんなにGMコールをしても反応も無い。しかも、些細なバグならまだしもログアウトボタンが消えるなんて、今後のゲーム運営に関わる事態だ」

 その言葉に二人が、確かにと頷く。

「しかも一人じゃない。少なくともここで三人のバグが同時に起きているってことは、多分他のプレイヤーもそうなんだろうし……」

「確かにこの場合、運営は一度サーバーを落としてプレイヤー全員を強制ログアウトさせるのが当然の措置か…」

 その通りだと、僕が頷く。

「僕達がバグの存在に気付いてから既に五分は経ってる。もしかしたら、もっと前から出ていたバグなのかも知れない。それなのに対処されないどころか、通知すら来ないなんて──」

 リーンゴーンリーンゴーンリーンゴーン

 しかし、僕の言葉は途中で掻き消された。大きな鐘の音、あるいはシステムアラートのような響きを持ったそれに。

 直後、体が光りに包まれ視界が白く染まった。

 

 

 ゆっくりと瞼を開ければ、そこは街の中だった。遠くに見える黒い宮殿から《はじまりの街》だと分かる。

「強制転移…?」

 見れば中央広場であるこの場所に続々とプレイヤー達が転移してくる。プレイヤー達は動揺しているのか辺りをキョロキョロを見渡して、ここが始まりの街だと知ると、ほっとしたような顔を浮かべた。そして、落ち着きを取り戻したプレイヤーからざわめきが広がり、運営に対する喚き声が聞こえ始めた。

 そんな中、誰かが上を指さして叫んだ。

「あっ……上を見ろ!!」

 指さされた通りに上を見ると、そこに不気味な物が見えた。第二層の底を覆う真紅の市松模様だ。よくよく見れば、そこには【Warning】【System Announcement】と書かれており、運営からの通知だと言う事が見受けられた。周囲のプレイヤー達もそれに気づいたのか、今は誰も言葉を発さず聞き耳をたてた。

 しかし、それも数瞬で再びざわめきがプレイヤー達の間を駆け抜けた。

 真紅の市松模様、その中心部分が溶け出したかのようにどろりと垂れ下がり、ゆっくりと滴ると空中で一つの形を作り出した。

 それが作り出したのは空を覆う真紅と同じ色のフードローブを纏った人の姿であった。もっとも、大きさは二十メートル程もあり、顔というか、全身の肉体が無いというものではあったが。

 ふいに、ローブが両手を持ち上げこう言った。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 『私の世界』…? 僕にはその意味が掴めなかった。確かに、GMと言うのはゲームにおいての神のような存在ではあるが……。そして、続く言葉でその意味を知ることとなる。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

「っ────!?」

 その名を知らない者はここにはいないだろう。アーガスという弱小会社を大手と呼ばれるに至ったその要因にして、SAO及びナーヴギアの開発者であるからだ。

 しかし、彼はインタビューなどを避け、メディアへの露出を控えていたはずだ。だと言うのに、なぜ!?

 僕の動揺を他所に、茅場を名乗ったローブが言葉を続ける。

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしこれは不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

「し……、仕様、だと」

 隣でクラインが掠れた声でささやいた。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止ないし解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合──』

 そして、僕達は知ることとなる。《ソードアート・オンライン》と言うゲームの恐ろしさ、恐怖を。

『……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 その言葉に、その場にいた誰もが呆けた顔を浮かべただろう。脳を破壊する。それ即ち、殺すと言うことだ。ナーヴギアの電源切ったり、ロックを解除して頭から外そうとしようものなら、ユーザーを殺すと。茅場晶彦はそう告げたのだ。

 隣に居たクラインの両手がのろりと持ち上がって、現実の体が被っているナーヴギアを掴もうとした。それと同時に乾いた声が漏れる。

「はは……何言ってんだアイツ、おかしいんじゃねえのか。んなことできるわけねぇ、ナーヴギアは…ただのゲーム機なんだぜ。脳を破壊するなんて……んな真似ができるわけねぇ。そうだろキリト!」

 クラインがキリトに掠れた叫びを上げた。キリトは動揺しているようだが、それでもしっかりと応えを返した。

「原理的には、有り得なくもないけど……でも、ハッタリだ。だって、いきなりナーヴギアのコードを引っこ抜けば、そんなことできないはずだ。大容量のバッテリでも内蔵されてない……限り………」

 キリトの声も途中で掠れて、途切れる。その理由を察したのかクラインが再び声を上げる。

「内蔵……してるぜ。ギアの重さの三割はバッテリセルだって聞いた。でも……無茶苦茶だろそんなの! 瞬間停電でもあったらどうすんだよ!!」

 そして、狙い澄ましたかのようにローブがアナウンスを再開させる。

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──いずれかの条件によって諸君らののうは破壊される。この情報は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずある。その結果─』

 一呼吸の後、声は続く。

『残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 永久退場。即ち、死。そう、死だ。その言葉を頭が受け入れまいとしている。しかし、それとは裏腹に呼吸が乱れ始める。深く息を吸えず、息苦しくなる。地面を踏みしめる足が震え始め、その場に立っているのがやっとの状況になった。

 両隣で、キリトは数歩よろめき、クラインは尻餅をついた。

 「し、信じねぇ……信じねぇぞオレは。ただの脅しだろ。できるわけねぇそんなこと。くだらねぇこと言ってねえで、とっとと……」

 割って入るようにローブが続ける。

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 そこまで茅場晶彦が告げたとき、キリトの口から鋭い叫び声が上がった。

「何を言ってるんだ! ゲームを攻略しろだと!? ログアウト不能の状況で呑気に遊べってのか!?」

 険しい顔をしたキリトは真紅のローブを睨みつけ、更に吼える。

「こんなの、もうゲームでも何でもないだろうが!!」

 その声を筆頭に次々と罵声が上がるも、ローブは気にした風もなくアナウンスを続けた。

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、一切の蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅して、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

「……馬鹿馬鹿しい」

 キリトの口から、ささやくような掠れた声が漏れた。そうだ、馬鹿馬鹿しい。こんな状況の中、わざわざ死地に赴く者など居ない。よっぽどの狂人でなければ、はじまりの街の中に留まるに決まっている。

 しかし、その思考は続く言葉でいともたやすく裏切られた。

『諸君らが解放される条件は、たった一つ。ゲームをクリアすることだ。アインクラッド全百階層を攻略し、最終ボスを倒した瞬間、生き残ったプレイヤーは安全にログアウトされることを保証しよう』

 その場にいた全てのプレイヤーが黙り込んだ。各々がその言葉を理解しようと必死になっているのだろう。

 アインクラッド百階層。おおよそ現実的ではない話だ。βテストの時、ロクに階層を上がれなかったこのゲームを完全クリア。どれだけの時間がかかるか検討もつかない。少なくとも、数年。下手をすれば僕らの人生を全て費やしてもクリア出来ないかも知れないのだから。

「クリア……第百層だとぉ!?」

 クラインの叫び声が広場にこだまする。

「で、できるわきゃねぇだろうが!! ベータじゃほとんど上がれなかったって聞いたぞ!!」

 その言葉に静寂がどよめきへと変化した。しかし、そこには絶望や恐怖は感じられない。おそらく、まだ理解しきれないのだろう。あまりに唐突で、あまりに現実味がなかったから。

 僕は茅場晶彦が言ったことを頭の中で反芻する。

 自発的ログアウトは不可能。ログアウトできるのはこのゲームをクリア、即ち第百階層からなるアインクラッドを征服し尽くすこと。しかし、それまでにHPがゼロになれば、ナーヴギアが脳を破壊し死ぬ。現実世界で本物の死が訪れる。

 しかし、いくら繰り返したところで理解できなかった。頭が、心が理解することを拒んでいるのだろう。

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 その言葉を聞いて、僕はストレージを確認する。アイテム欄の一番上に用意されたのは《手鏡》。

(手鏡…? どうしてこんなものを…)

 そう思いつつ、オブジェクト化させると四角い鏡が出現した。裏を見てみるが何も書かれておらず、鏡に映るもう一人の自分と目を合わせる。

 キリトを見ると、同じようにした後不思議そうにこちらを見た。

 ──っと。

 突然周囲のアバター達が白い光に包まれた。そして、僕も同じように光に包まれ、視界がホワイトアウトする。

 ものの数秒でそれは収まり、再び視界に色が戻った。一体何だったのか、キリトの方を向きつつ問いかけるが…

「キリト、クライン、大丈夫……って…誰…?」

 そこに居たのは僕の知るキリトでは無かった。クラインも同様に、顔が変わっている。装備で何とか見分けがついたが、キリトは今までの勇者のような顔ではなくなり、柔弱そうな顔があった。クラインは今までのような美男子ではなく、無精ひげを生やした野武士のような顔になっていた。

「おめぇこそ、誰だよ…」

「誰だ…?」

 そして、驚いたような反応をした僕に対して疑問をぶつけてきた。

 ふと、視界の端に金色が見えた。それと同時に自分がキリト達を見上げるようにしているのを感じて、まさかと思い鏡を覗くと、そこには……。

 現実世界の僕が居た。中性的な顔立ち、赤みがかった大きな両目に、男にしては…いや、女子と同じように伸ばされた金色の髪。女子としか見えないその容姿は、まさしく現実世界の僕だった。

「うおっ…………オレじゃん……」

 隣でクラインが鏡を片手に仰け反った。それを見て、3人で目を合わせて同時に叫んだ。

「キリト!? クライン!?」「じゃあ、おめぇがキリトで、おめぇがネル!?」「お前、ネル!? お前はクラインか!?」

 驚きに周囲を見渡せば、そこには先程のような美少年美少女の群れはなく、コスプレイベントの会場のような有様だった。

 しかし、一体どうやったのか。多少違和感が残るものの、この体この顔はまさしく僕自身のものだ。まるで、3Dプリンタで精巧な人形を作ったかのような。

「……そうか! ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆っている。つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握できるんだ……」

「で、でもよ。身長とか……体格はどうなんだよ」

 それに対しては、僕が応えた。

「……キャリブレーション。ナーヴギアのセットアップの時に体のあちこちを触らせられた。多分、その時だよ…」

「あ、ああ……そうか、そういうことか……」

 リアルの体。それと等しい器を茅場はこの場に作り出した。可能ではあるがなぜそんなことをしたのか……。

 そして、思考を読んだかのようにローブが告げた。

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は──SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 そこまで声を発したローブは一旦声を切り、再び口を開いた。その時の声はある種の憧憬、理想を語るものの声であった気がした。

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なせなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 再び短い間をとった後、無機質な声に戻ったローブが最後の言葉を発した。

『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の──健闘を祈る』

 かくして、フードローブは消えた。出現した時の逆再生のごとく、空の真紅の市松模様に溶け込み、それと同時に市松模様も消失した。

 その光景に、約一万のプレイヤー達が怒号を飛ばし始めた。それと同時に、今まで何とか体を支えていた足が遂に崩れ落ちた。その場にぺたんと座り込んでしまう。

 ゲームの中に閉じ込められた。あまりに現実味がなくまるで小説の話ではないか。しかし、これは紛れもない現実で夢ではないのだ。

 また、呼吸が乱れだした。力が入らず、立ち上がることもままならない。

「ネル、クライン。ちょっと来い」

 その時、キリトに手を掴まれた。クラインの手も、もう片手で掴んでいるらしい。キリトに引っ張られ何とか立ち上がりつつ、引きずられるようにして着いていく。

 人々の中を抜け、路地の馬車の影に僕らを連れ込んだキリトは、真剣な声で僕らに言った。

「……ネル、クライン。いいか、よく聞け。俺はすぐにこの街を出て、次の村に向かう。2人も一緒に来い」

 それに驚き、思わず口から、えっ……っと言葉が漏れる。

「あいつの言葉が本当なら、これからこの世界で生き残るためには、ひたすら自分を強化するしかない。次の村を拠点にしないと、モンスターのリポップをしたすら探し回ることになる。俺は、道も危険なポイントも全部知ってるからレベル1の今でも安全に辿り着ける」

 その言葉に僕は呆けた顔を浮かべた。先の事もあり、考えがまとまらないのだ。

 一方、クラインは数秒後、わずかに顔をしかめた。

「でもよ……でもよ。前に言ったろ。おりゃ、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んで買ったんだ。そいつらも、もうさっきの広場に居るはずだ。置いて……いけねえ」

 その言葉に今度はキリトが表情を曇らせた。後で考えれば、その躊躇いもとうぜんのことだった。

 しかし、クラインはそれも察したらしく、

「いや……、おめぇにこれ以上世話んなるわけにはいかねえよな。オレだって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。…だから、おめぇは気にせず次の村に行ってくれ」

 そういって、クラインは僕の背中を強く押した。

「ネル連れてな。おめぇなら、できるだろ?」

 目を白黒させている僕に構わず、クラインはそう言い放った。

「わかった。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。……じゃあ、またな、クライン」

 そう言って、キリトが僕を連れて歩き出そうとしたところで、ようやく状況を理解した僕が叫んだ。

「ま、待って! 僕もタウンに残って……!」

「いや、行けよ、ネル。おめぇは強い。戦って、生き抜くんだ」

「で、でも……」

「行こう、ネル。はじまりの街に残ってもいずれ限界がくる」

「………」

 それを無言の肯定と見なしたのか、キリトは手を掴んで歩き出した。僕はそれに従いつつ、クラインの方を見た。

「キリト! ネル!」

 クラインが叫んだが、続く声は無く、再びキリトが歩き出した。数歩進んだところで、もう一度クラインから声がかけられた。

「キリト! ネル! おめぇら案外、可愛い顔してやがんな。結構好みだぜ、オレ!!」

「お前もその野武士ヅラのが十倍似合ってるよ!」「僕は女じゃなぁぁあい!!」

 二つの叫びが路地にこだまして、世界は動き始めた。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
牛のような更新にはなると思いますが、どうぞよろしくお願いします!
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主人公スペック
プレーヤーネーム nel(ネル)

リアルネーム 朝日奈 悠姫(あさひな ゆうき)

性別 男

身長 155cm 体重 46kg

主武装 片手剣、?

特徴 見た目完全に女の子。身長も低いし、是非もないネ! なお、声も高いもよう。母親がフランス人のため金髪。両親が髪を切らせてくれなかったので腰の辺りまで伸びてる。眼は父親譲りの赤色。(父親は日本人)

性格 基本、誰にでも優しい。ただし、怒ると怖い。身内に甘い部分あり。

趣味 ゲーム、読書
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