前回投稿した分が未完の状態でしたので、追加分を新たに入れ投稿しました。
蒼那は一護の背後に出来た大穴と、その中から立ち込める粉塵からここまで上ってきた方法を理解した。
屋上の一部、そこから煙の吐き出される大穴が見える。
(――――まさか天井を斬って登るとは……)
視界に移る一護を呆れた目で蒼那は見た。
一護は大剣を両手で構え、堕天使に先手を出した。
横薙ぎに一閃。
速く鋭くはあるが堕天使はそれを槍を縦にして受け止める。
片や鋼、片や魔力の槍、甲高い金属同士が擦れ、火花が飛ぶ。
成人人間の背丈ほどもある大剣を受け止めた余裕の表情が、瞬間変貌する。
堕天使が跳んだ。
受け止められた剣を一護は力任せに押し切り、振り切った。
堕天使はとっさに翼を使い速度を殺す。
直後、追撃が来ると覚悟し構えを取るが一護は来ない。
一護は、堕天使を警戒しつつ、蒼那を縛っていた鎖を断ち切った。
けたたましい音と共に鎖が蒼那の足元にバラバラと落ちた。
「双馬を頼む」
一護は自由になった蒼那に向かいそう言うと、待てと言う蒼那を無視しまた堕天使に向かって行った。
■ ■
一護と堕天使が戦いを繰り広げる光景に絶句しつつ、蒼那は自分の体を確認する。
若干の脱力感はあるが目立った外傷は無い。
問題は魔力だ。
昨夜、黒崎一護に治療を行い魔力を大半消費していた。半日で魔力が全回復するとは考えていないがその分を計算しても、魔力が足りなさ過ぎる。
(……これでは加勢しようにも、返って足手まといになるだけですね)
蒼那は床に転がる鎖を横目に、ゆっくりと体を起こす。
堕天使は一護に注意がいっているようで、倒れている双馬には興味がないようだ。
(言われた事ぐらいは、黙って守りましょうか)
槍を防ぐ一護から目を逸らし、蒼那は駆けた。
■ ■
一護は、右手首を捻り剣の腹で槍の突きを防ぐ。二度、三度と突きを受けつつ前へと前進し距離を詰める。
堕天使が痺れを切らし振りかぶりを大きくした瞬間、一護は床を踏み締め瞬時に堕天使との距離を縮めた。
(――――ッ!?)
距離を詰めた先、そこには二本目の槍の先端が一護の体を貫こうと迫っていた。
「おおぉ……!」
とっさに体を捻り直撃を回避するが、左腕をかすり激痛が体を巡る。
『無用心だな仮主。相手の武器は魔力の塊だ、その気になれば何十本と襲ってくる』
「うるせえ……」
左腕を庇いつつ、一護は堕天使との距離を開いた。
槍がかすめただけで、腕に途轍もない痛みが走った。
「あれも神器ってヤツなのか?」
『違うな。あれは堕天使が使う光の槍。気をつけたほうがいい、今の君が貫かれればそれで終わりだ』
「刺されれば、そりゃあ致命傷だろ」
『そういうことを言っているのではない。君は今――――』
「さすがシトリー家の駒って所ね。あの夜とは大違い。正直、ここまで出来るとは思っても見なかったわ」
「駒? 何言ってんだテメェ、堕天使とか悪魔とか、挙句には神器つー訳のわかんねえモンの為に双馬を狙いやがって、一体何が目的だッ!」
「――神器をね、欲しがっている人がいるの。」
堕天使の台詞に何のことだと眉を顰める一護。それを堕天使はあざ笑った。
「恐れ多くも愛しい方が、神が生み出した神器を渇望しているのよ。だから私はあの御方に少しでも近づく為に神器を手に入れる――そのためなら人間の一人や二人程度……いえ、悪魔の一人殺したって構わない」
「……悪魔? アイツも殺すってのか」
一護は蒼那を庇うように一歩前に出る。
その行動を堕天使は理解出来ないように目を丸めた。
「あら、聞かされてないの? 自分の下僕に何も言わないなんて酷いキングもいたものね」
堕天使はケラケラと口元を隠し、空いた片手で一護を指差す。
「――――あなたあの女に悪魔にされたのよ」
一護は目の前に立ち、こちらを指差す女が何を言ったのか理解出来なかった。
女の声が聞き取れなかったワケではなく、逆に聞こえたからこそ意味を把握しかねていた。
「……いきなり何を言ってんだ」
一護は病院内でのことを思い出す。
半信半疑で聞いていた、『幻想』の筈だった存在の説明、悪魔、天使、堕天使、そして自分が手にしている神器という物。正直な所一護は未だにこの事態を完全に把握してはいない。
「ねえ……昨日のあの夜、アナタは覚えているかしら?」
堕天使に言われて脳裏に浮かぶのは、いきなり胸を刺された夜のことだった。
ズキ、と胸を貫かれた痛みがフラッシュバックする。
堕天使は一護の顔が若干歪んだのを見た。堕天使は続ける。
「アナタはあの夜、確かに死んだ筈なのに何故今生きているのかしら」
死んだ。堕天使の台詞で一護の思い出していた記憶が消え、いきなり現れた新たな記憶が消えた所々に当てはまる。
「がぁッ……!?」
記憶の大量フラッシュバックに処理の追いつかない一護の脳は感覚が麻痺し、脳を襲う激痛と共に一護は前のめりに倒れる。咄嗟に剣を杖代わりに片膝を着いて体制を整える。しかし、次から次に溢れ出る汗とフラッシュバックに視界が揺らぐ。
堕天使は好機にも関わらず攻撃の姿勢を取らない。
「そう、アナタは死んだのよ。私に心臓を刺されて、全身を斬られ、死ぬほどの、死ぬのが当然だという量の血を流した筈なのに――」
――何故今、生きている?
……そうだ。確かに自分の目の前にいる堕天使に胸を刺され、おびただしいほどの血を流して意識を失った。
それを今堕天使に言われ、今はっきりと思い出した。
あの夜、雨の中自分は通り魔に刺されたのではなくこの女に殺された。
今度は霞が一切ない明確な映像が、脳からあふれ出る情報の中からゆっくりと流れる。
目の前にいる女が雨の中、同じように立っている。
違う所といえば右腕を手甲が被い、握っている剣は血と雨で濡れていない。
ただそれだけだった。
堕天使は一護を指差す。
「あの夜、アナタは一度死んであの女に悪魔として生まれ変わらされたのよ」
「――――ッ!?」
「夜目が利くようになったと感じなかった? 朝よりも夜の方が動きやすくない?」
「……やめろ」
「あんなに走り回ったのに疲れがそんなに見えないわね。体の傷も全部塞がっているみたいだけど――――どう?」
――自分が化け物だと自覚した気分は
「やめろって言ってんだよっ!!」
一護は我を忘れ、地を踏みしめ堕天使に斬りかかる。
が、踏み込んだ足を掴まれ前に進めない。
掴んだ者を確認しようと振り向くとそこには一匹のグールが足を掴んでいた。
「――――しまッ!?」
「安い挑発に乗ってんじゃねえよバーカ!」
一護の注意が堕天使からグールに向いた瞬間、堕天使が一護へと光の槍を投げる。
堕天使の手から放たれた槍は、宙に残光を不規則な軌道を描きながら一護へと向かう。
槍が一護を貫くよりも早く、一護が向かってくる槍に反応するよりも先に、蒼那が一護の前に立った。
蒼那は一護の前に立つと同時に、両手を槍に向ける。
瞬間、蒼那の手を中心に白く輝く魔法陣が発生する。
と、同時に光る槍と魔法陣が衝突し合う。魔法陣と槍が触れ合う部分から火花が飛び散り、高音の炸裂音が鳴り響く。
ソーナは体を横に反らし、魔法陣と槍の斜角を広げる。
突然抵抗を失った槍は蒼那と一護を抜き去り、穴から這い上がるグールたちを巻き込み爆発した。
「オマエ……」
一護は自分を守った蒼那へと話しかけるが、肩で息をする蒼那はそれを無視し、足元へ手に生み出した魔力を地面に叩き付けた。
地面にぶつかった魔力が砕け、中から発生した閃光が屋上を白く照らし包んだ。
「なっ――!? しまった!?」
数秒視力を奪われた堕天使は耳にした、一護が開けた穴から複数の物が落ちる音を。
視力が戻り、目を凝らし屋上を見回すがそこに一護と蒼那の姿は無かった。
「逃げたか……」
残存のグールも残り少ないことを堕天使は考え、自ら病院内へ降りた。
■ ■
堕天使が穴に降りていって数秒後、給水塔の後ろから一護と蒼那が現れた。
「……なんとか旨くいったようですね」
蒼那は眼鏡をかけ直し、深呼吸をする。
あの時、目くらましで堕天使の注意を逸らした瞬間、一護の斬ったグールと岩を穴に落としたのだった。
「屋上を確認するまでもなく探しにいくとは、よほど貴方に執着しているようですね」
項垂れる一護へと今度は蒼那から話しかけるが反応がない。
蒼那は苦く顔を歪め、次の言葉を探す。
「なあ……」
突然一緒に助け出したのだろう、そばにいた双馬の安否を確認しつつ一護は蒼那に聞く。
「なんでしょう」
「アンタが俺の記憶を弄ったのか?」
「はい」
淡々と蒼那は言う。
そうかと一護は、次に言う。
「じゃあ、俺を悪魔にしたのもアンタなんだな」
「……はい」
「双馬もか?」
「それは違います。あの夜悪魔にしたのは貴方だけです。双馬君は意識を失っていただけで、その必要はありませんでした」
一護は蒼那の台詞をかみ締めるように黙り間を置き、またそうかと言い立ち上がる。
「……怒らないのですか?」
当然、かってに悪魔にしたと感情的になると思っていた蒼那は落ち着いたままの一護へ疑問を投げる。
「――アンタが何を考えて俺を勝手に悪魔にしたのかは今は関係ねえ。確かに何でだって怒鳴りてぇが、それはあの女を倒した後、ゆっくり聞いてやるよ」
一護は蒼那へと振り向き、無造作に頭をかき、
「あーー……あと、ありがとうな。俺と双馬を助けてくれて」
目を見開く蒼那にまた背を向け、穴へと向かう。
「ま、待ちなさい! どこへ行こうとするこですか!」
「あの女を倒しにいく。ここから出るにはそうするしか方法はねんだろ?」
「落ち着きなさい。一時逃げたのは戦略をねるためです」
「――何か手があるのか?」
■ ■
堕天使は手持ちに残ったグールを総動員して二人の探索を行っていた。
上から自分の組織に渡された人工神器の一つである『六徳界』。
発動者から半径1km以内の世界を位相をずらし生み出すことが可能とする神器は、一度生み出してから形状を変更することは不可能であり、結果、無作為に拡張した異空間は縮小することができない。
一度世界を閉じればまた生み出すことは出来るが、堕天使の魔力量では世界を閉じただけで魔力の大半を消耗してしまう。
忌々しく舌打を繰り返し近くにいたグールを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたグールは床を転がり、立ち上がると慌てて堕天使から離れ、一護たちを探すために病院内を走る。
一護たちの捜索を開始して十分以上経ったが未だにグールからの報告はない。
残存のグール百体全てに探索させここまで時間がかかるものかのか。予想以上に空間を広げすぎたのかと考える。
始めのように、魔法で探索を行ってもいいが、正直魔力の消耗は極力控えたかった。
可能性の範疇ではあったが、本当に神器が目覚めるとは思ってもみなかった。
確実に上位クラスの神器を相手にましてや、魔力を消耗しているとはいえ上級悪魔の二人を相手にしなくてはならなくなってしまったのだ。
六徳界の常識を斬る神器。一護が天井を斬って上ってきた事は異常だったが、それ以上に金剛石並みに設定した建物を斬るなど考えてもみなかった。
「遊びすぎたか……」
堕天使がまた舌打をしグールに今度は槍を突きたてようとした瞬間、頭上から一瞬だが、魔力の奔流を感じ取った。
「まさか!」
即座に堕天使は屋上へと戻るために翼を広げ急上昇する。
探索のグールをそのままに一護の開けた穴を昇り屋上へと出た瞬間、一護と蒼那二人が堕天使を待ち構えるように立っていた。
自身を見上げるように立っている二人を見下ろし、
「――ふ、ふふふ、あはははっ! 人をコケにすんのも大概にしろよ悪魔共!!」
堕天使は手に光の槍を出し、一護たちへと今度は急降下する。
一護は肩に乗せていた剣を下ろし構える。
「来たぜ。上手く合わせろよ、悪魔」
「悪魔ではありません。ソーナ・シトリーです」
「そうか――俺は、黒崎一護だ!」