ハイスクールD×D 普通教室のデスサイズ   作:寒桜

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010 [The end of the fight]

 初動の攻撃は、刀と槍の合わせ合いだった。

 刀と槍の接触部から派手な研磨音と火花が鳴り響き、一護と堕天使を中心に衝撃が生まれた。

「ちぃッ!」

 攻撃を受け止められた堕天使は刀を弾き、また上空へと戻る。

「!?」

 堕天使が地上から数メートル離れた自分の位置に、いる筈のない一護の姿を見た。

 一護は大刀を振りかぶり、堕天使に向かって振り下ろした。

 空気の摩擦を纏った刀はそのまま堕天使の頭部へと向かう。

 とっさに堕天使は槍で、刀の猛威を防御した。

 渾身ともいえる一撃は、堕天使の身を地面へと叩きつけるに十分な威力が込められていた。

 翼をめいっぱい広げ、抵抗を生み速度を落とす。堕天使は地面への激突を緩和し、着地した。

 瞬間、身構え、上空にいるであろう一護を目視で確認し、両手に出現させた二本の槍を投げる。

「死ねぇッ!!」

 空中に直線を描きながら一護へと伸びる槍。

 対する一護は構えることなく、落下していた。

 空中では打つ手がない一護を見ながら堕天使は勝利を確信した。

 

 ――――ドン!

 

 静寂に包まれた空間に何かが衝突した音が鳴った。

 その音が発生したのと同時に堕天使はありえないモノを見た。

 悪魔になって一日も経っていない筈の者が、空中でいきなり落下からの軌道を変え、直角に曲がった。

 標的を逃した二本の閃光はそのまま一直線に空を駆け、消滅した。

 槍が一護を貫くと想定した座標、その場所に白く光るモノを堕天使は見る。

「あれは……!?」

 それは先ほど自分の攻撃をソーナが防いだ時に出した魔法陣と酷似していた。

 円内部に書かれた模様も色もどれにも一度見た錯覚を感じた。

 唖然とする間に、一護は落下を終えた。

 刀を構え、こちらを睨む一護。

 数秒両者に沈黙が流れ、沈黙は堕天使によって破られた。

「……まさか、いきなり魔法陣を出すとは……神器といい、どこまでも規格外な」

 堕天使の独り言に一護は沈黙を持って返した。

 堕天使は続け、次に一護を指差す。

「それ、ルークよね」

「……」

「あの時の……私がアナタたちの腹の立つ間抜けな作戦に引っかかったときに感じた魔力の上昇。プロモーションから派生した魔力の残滓だったわけね」

 問答とも取れる言葉に対して、一護はまだ何も言わずにただ構えを深くした。

 堕天使はチラリと一護の足元を見た。

 コンクリートで出来き、自身の神器で強化されている筈の床が一部クレーターのように陥没していた。

「本来ならクイーンに昇格するのが定石だろうけど、あの豪腕、跳躍。無駄に魔力を上げるのではなく、機動力、膂力を向上させたか――ガキでも次期当主だけってことはあるようね!」

 今度は一護ではなくその後ろにいるソーナに向かって言う。

 ソーナはゆっくりと眼鏡をかけ直す。

「堕天使風情に評価されても何も思いませんね。それにしてもこうも彼等に執着するとは、貴方には色々と聞き出す必要があるみたいですね」

「あら、もう勝った気でいるの? 私はアナタたちの作戦を見抜いたのよ」

 そう言って堕天使は肩をすくめた。

「あーあ、こんな面倒くさいことになるんだったら、『七ヶ月前』にあのガキをとっと殺しとくんだったわ」

「……なんだと?」

 いままで黙っていた一護がついに喋り出た。

 堕天使は笑いを我慢するように片手で手元を押さえ続ける。

「アナタもしかして、私がその神器を見つけ出したのが昨日今日だと思ってるの? 違うわ、私はその神器を一年前から狙っていたのよ!」

「――――ッ!?」

「大変だったのよ。他の堕天使の目を掻い潜ってあの神器を見つけ出すの。目覚めていない神器を探し出すなんて偶然でしか発見できないし、他の堕天使に悟られないように全部自分一人で探すしかないし、ついに見つけたとしても今度は、堕天使だけじゃなく他の勢力に悟られないように夜盗に見立てた人間の殺害――ホンット肩がこったわー」

 ワザとらしく肩を回す堕天使。

 一護は自身の鼓動が急激に加速していくのを感じた。

 目の前の女の言葉に確証は無い。

 今とっさに考えた作り話だと誰もが考えるだろう。

 だが、頭では理解してもどうしても納得がいかない。

 一護は口を開いた。

「おい待てよ……じゃあお前が双馬の家族を――」

「ああ、いたんじゃないの? 取り合えず目ぼしい人間は全員殺したし。それに――他の奴等もやっていることよ?」

 直後、一護は堕天使に向かって走り出した。

 後ろから待てと呼びかけるソーナの言葉を無視し、一護は無防備のまま立っている堕天使へと跳躍、降下と共に振り上げた刀を勢いよく振り下ろす。

 

 ――――ザンッ!

 

 一護の振り下ろした刃は敵を斬った。

「――――なっ!?」

 堕天使の影から現れたグールの右肩から左方腹部にかけて、一護の刀は切り裂いた。

 堕天使は口を大きく広げ笑い、槍を手から生み出す。

「何度も同じ手に引っかかってんじゃねーよ! バーカッ!!」

 グールを斬ったまま硬直した一護へ向かって槍を衝く。

 とっさにグールから剣を引き抜き、堕天使へ対応をしようとするが後方から自分を貫こうとする槍への動作に追いつかない。

 ギンと槍が肉質を刺した音とは異なる金属音が響く。

 槍は一護を貫くのではなく、いつのまにか自分たちより離れた場所にいたソーナの崩御壁によって止められていた。

「な――――ッ!?」

「今です!」

 堕天使が驚いた瞬間、ソーナの声が上がった。

 周囲を見回し、消えた一護の姿を探すが四方どこにもその姿は見当たらない。

「一体どこに!」

 焦る堕天使の体を突如悪寒と恐怖が真上から襲った。

「まさか――」

 上空を見上げるとそこには剣を振り上げた一護が、自分の直ぐ上を落下してくる。

 ソーナを防御壁ごと弾き飛ばし、回避しようとするが今度は堕天使の対応が間に合わない。

「おおおおッ!」

 とっさに体を捻り剣を避けようとしたが、堕天使の側面を斬り裂いた。

 ザクっと堕天使の耳と痛覚が悲鳴を聞き、上げた。

「ああああああああッ!?」

 斬られた側面を庇い地面に伏せる堕天使。

 悶え苦しむ堕天使の周りの地面が薄く血で染まった。

 バリバリと空からガラスの割ったような乾いた音が鳴る。

 一護とソーナ、そして悶えていた堕天使が空を見上げると、不気味に染まった空が一部、元の見慣れた夜空に戻っている。

 ハッと堕天使は肩耳を探る。

 耳についている筈の神器が欠け砕けかけていた。

 パリンと驚いた堕天使の指が神器に軽く力を入れてしまった瞬間、神器が砕けた。

 神器が砕けた瞬間、全ての空が元に戻り病院も戦闘の跡が消え始める。

「終わったようですね」

 ソーナがそう呟き堕天使に歩み寄る。

「――何でよ。何をしたのよアンタたちは!」

 堕天使は地に座ったままソーナたちを見上げ叫んだ。

 何とはと聞くソーナに更に逆上した堕天使が言う。

「何でいきなりあの時アンタが現れることが出来たのよ! 私はちゃんとアンタもそこのガキと戦っている時も見ていたのよ! なのになんで……!」

「――プロモーションを使ったというのは本当です。しかし、それ以外を使ったと言えばいいでしょうか」

「一体何を――」

「キャスリング」

「……?」

 ソーナの発した単語が理解できず呆然とする堕天使を観察するソーナ。

「やはり知らなかったようですね」

「馬鹿な――キャスリングはルークとキングの駒でしか成立しないはず! プロモーションで昇格したポーンと出来るはずが……!」

「まあ普通ならそうでしょうね、だから知らなかったと言ったのです。本来なら私たちのような成人を満たしていない悪魔にはレーティングゲームへの参加は禁じられています。しかし、ゲームに参加できないということはルールが適応しないということでもあり、若干の規制緩和が偶発的に発生してしまうのですよ」

 ポーンでのキャスリングもその一種です。と言うソーナにまだ納得のいかない堕天使は続ける。

「でも! ――なんであの瞬間攻撃のタイミングが合ったていうのよ!」

「んなの演技だったに決まっているだろ」

 今度は一護が言う。

「演技……?」

 唖然とする堕天使にソーナが呆れ顔で、

「何度も同じ手に引っかかるとでも考えていたのですか?」

「お前が俺に執着していていたのは分かっていたし、ずっと俺を挑発することばっか言っていただろ。まあお前の言ったことに驚いたのは確かだし頭に来たのも本当だった。けど、それ以上にお前にはもっと聞かなきゃならねえことができたと思ったんだよ」

『だから我も下手なことを言わずに黙っていたのだがな』

「襲撃の件も含めて面白いことが色々と聞けそうです。ああ、それともし貴女が彼ではなく私を先に狙っていても結果は同じですよ」

 彼にはルークの駒を渡してありますし、と続けるソーナ。

「――――ハッハハハハハハハハ!!」

 いきなり肩を震わせ大いに笑う堕天使に身構える一護たち。

 堕天使は手甲をした手を地面に翳す。

「出でよ! 『闇龍』」

 手甲を中心に魔法陣が発生し、堕天使を黒い光が包み込む。

 顔を腕で庇うソーナたちに突風が襲う。

 ばさりと重い羽音が一護たちの耳に入り、遠のく。

 光が消えると一護たちの前にいた堕天使の姿が無い。

 バサリとまた同じ羽音が上空から聞こえ、一護たちは見上げる。

 そこには黒い傷だらけの龍の背に立つ堕天使がいた。

 龍は全身を鎖で巻かれ、鎖には血が滴り続け龍には精気を感じられない。

「何だアレ!?」

「まさかあれは――アンデット、しかも龍の!?」

「今日は私の負けよ。でも次はそうはいかない、絶対にアンタとガキを殺してその神器を手に入れてやる!!」

 槍を一護へ向け放ち夜明けの空へ去ろうとする堕天使と龍。

 槍は一護たちの足元へ落下し、爆発する。

 粉塵と瓦礫が上がり屋上を煙幕が覆う。

「ま、待ちなさ――」

 い、とソーナが言い終わる前に魔力の塊がソーナの隣からあふれ出していた。

 全身を青い魔力が覆い輝く。

 いきなり現れた膨大な魔力に驚き、一護たちの方を振り向く堕天使。

「――待てよ」

 一護は静かにそう言い、剣を振り上げる。

「ひぃ……!?」

 馬鹿げたほどの魔力に恐怖し、堕天使はとっさに防御壁をまだ何もしていない一護に向かって形成する。

『この魔力、そしてこの力はあの夜の――――』

「ふざけたことで人の家族に手ェ上げた罪、思い知れ!!!」

 一護は堕天使のいる空へ向かって魔力に包まれた刀を振り下ろした。

 刀の軌道を再現したかのように巨大な斬撃が刀から発生し、堕天使へと向かう。

「何よ、何なのよコレは!?」

 防御壁を紙のように破り、斬撃は堕天使と龍に迫る。

「私はここで、こんな所で死ぬわけには! アザゼ――!!」

 堕天使が何かを言い終わる前に斬撃が衝突。

 堕天使と龍もろとも飲み込み、空を割るように消えていく。

 ずしゃあと一護は後ろから床に倒れた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 慌てて一護にかけよるソーナ。

 近寄ると、頭から血を流しこちらを見上げる一護が拳を突き上げてくる。

「まさか、さっきの爆発で怪我を!」

「ああ、でもどうだシトリー」

 勝ったぜと言う一護。それにソーナは呆れ、

「ええ、素晴らしい仕事でしたよ。それとソーナで構いません。私たちは仲間なのですから一護君」

 そうかと言い一護は魔力を使い果たしたせいで気を失った。

 夜明けの屋上を朝日がゆっくりと昇り照らした。




これでこの章は終わりです。
もうひとつエピローグを載せて次の話に移りたいと思います。
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