ハイスクールD×D 普通教室のデスサイズ   作:寒桜

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少し長めに頑張ってみました。
今回一護の出番は少なめです。


012 [Unexpected allies and foes]

「あの馬鹿夫婦、散々問い詰めやがって……!」

 夕焼け空が薄れ、夜と交わり始める歪な時間帯の公道を一人、一護は歩いていた。

 あの後――ソーナたちとの話を終え、自分も帰路に着こうとした所を運悪く覗き見をしていた秋宮夫妻に捕縛され、尋問にあっていた。

 

 

 ■ ■

 

 

「吐けっ! 吐くんだっ! あの美少女集団とどういう関係なんだー!!」

 喫茶店内にある従業員用の個室に暗幕が張られ、机を挟むように一護と関菜がパイプ椅子に座っていた。

 荒縄でパイプ椅子と無理矢理固定させられている一護はイライラとした様子を隠さずに目の前の関菜を睨む。

「だーかーらー! アイツ等とはそんな関係じゃねえって言ってんだろうがっ!」

「嘘を付くな! じゃあ何なんだ、脅してカツアゲして脅迫したのか!?」

「違うつってんだろ! つーかこのフリ何度繰り返せば気が済むんだよ!」

「まだ7回目だろ!」

「長えよッ!」

「……いいか一護。アタシ達はなあ、思春期真っ盛りの筈の中学三年生のお前に浮いた話の一つもないお前に不安になってなぁ。もう女に興味自体がないのかと何度菖蒲たちと相談しあったと思ってんだ! ……そういう性癖なのか?」

「ふざけんなァ――――ッ!」

 

 

 ■ ■

 

 

 三時間にも及ぶ尋問の末、どうにか客増加の隙を突いて逃げ果せたが、これからバイトに行く度にあんな事になるのかと考えると、辞める事も視野に入れてしまう。

 やるせない気持ちのまま歩いていた一護が不意に、その歩みを止めた。

 一歩。足を前に進ませるのではなく、一護は肩幅に足を開くと辺りを見回す。

 何処にでもいるような縞柄の猫がコンクリブロックの外壁の上で眠りほうけ、カラスが電線の上で鳴いている。

 何処にでもある夕暮れの光景だが、一護は身構える姿勢を解かずに警戒を続ける。

 悪魔になって一週間という短期であるが、一護には身体に起こった影響が少なからずも見え始めていた。

 まず、生活スタイルが朝よりも夜へと移行していた。

 体調が日が傾くに連れて良好になり、逆に朝起きるのが前よりも辛い。初めはただ単に具合が悪いと思っていた。

 次に感覚が聡くなったこと。

 耳に入る足音が人間によって違い、学校の屋上から校庭にいる人間の顔が全員分かる程度には上がっている。

 感覚全てが鋭くなったのだろう。

 お陰で不良共の不意打ちにも難なく対応できる。

 そしてそれは五感だけではなく、直感にも影響があったようだ。

 不良の時とは比べ物にならない程の肌を刺すような視線と寒気が一護の四肢を震わす。

 瞬間、痛覚と悪寒が一気に急上昇した。

 上昇と同時に一護は左へと跳んだ。

 手にしていた鞄を捨て、跳ぶ事だけに体を使う。

 それは一護の背後からだった。

 跳び、着地し、今まさに自分がいた筈の空間を見ると、大斧が地面を両断していた。

 振り下ろされた大斧を手にしているのは、自分と同い年か一つ下程度の女の子だった。

 黒い髪をツインテールでまとめ、黒いゴスロリチックな服装を着ている。

「へえ、コレをかわせるんだ。新人悪魔にしては鋭いじゃん」

 女の子は自分の身の丈の倍もある筈の斧を、難なく肩に担ぎ一護の方を向く。

 バサリと女の子の背後から羽音が聞こえた。

「――だ、堕天使!?」

 黒く濁ったような翼が女の子の背から広がり、羽が数枚宙を舞った。

 一護は倒れたままだった体を起こし、目の前の堕天使の少女と間合いを取る。

 正直やり難い相手だ。

 容姿もそうだが相手は武器を持っていて、自分は丸腰。

 これがそこらにいる不良なら手はいくらでもあるが、相手は異形の存在だ。

 何をしてくるのか分からないのは既に病院で体験済みだった。

「――ん? 何、逃げんの?」

 一向に仕掛けてこない一護の様子から少女は聡し、挑発する。

「うっわ、ダッサ! さっき避けたのはまぐれだったのかよ! まあ――」

 ゾクリとまた先程の悪寒が一護の全身を襲う。

「――どうせ逃げられねえけどな」

「―――ッ!?」

 またも後方。しかも一護を中心に広範囲を、鋭く細い触手が刺さる。

 一護の両足のふくらはぎと右腕に激痛が襲った。

 苦痛に声を上げるのもままならなず、一護は前のめりに地に肩ひざをついた。

 一護の前に少女が近づき、斧を一護の頭上に下ろす。

「敵がアタシ一人だっていつ言ったよ。ねえ」

 少女はそう言い一護の背後、何もない空間にそう言った。

 否、何もない訳ではない。

 ある位置から一護を刺した触手が、何もないはずの空間から切り取られたように現れている。

 ゆらり、と空間が陽炎のように揺れた。

「弱いな。本当にコイツがレイナーレを倒した悪魔なのか、スルーヴァ?」

 揺れた空間をカーテンのように片手で開き、空間の中から男女一組の堕天使が出てくる。

 二人とも少女と同じように黒い翼を背から生やし、黒を主張した服装をしている。

 黒いコートに身を包み、先程一護を刺したのだろう触手をコートの隙間から覗かせてる男。

 そして何も持たずただ女性スーツを見事に着こなしている長身の女性。

 男がスル―ヴァと呼んだ女性が、少女の足元で膝を付く一護に目を落とす。

「恐らくな。レイナーレの記憶から読み取った容姿は酷似している。仮に間違いだとしても邪魔な悪魔を一人消せるだけだ」

「ふっ、それもそうだな。見たところ神器を所有しているようでもないようだ」

「じゃあ目的のモン持ってんのってガキの方ってこと? うっわ! ただの無駄足じゃん」

「問題ないさ、子供の容姿も確認済みだ。この悪魔を殺した後、悠々と居場所を探せばいい――レイナーレ程度とはいけ、堕天使を退けた新参の悪魔。多少は期待していたが神器が無ければ所詮、この程度ということか」

 一護を無視し、三人の堕天使は今後の方針を話し合う。

 それを耳にしていた一護は、熱と痛みを持った体に鞭を打ち立ち上がる。

『――ッ!?』

「――おい、待てよ」

 立ち上がった一護に視線を向ける堕天使たちに振り向く。

 ふくらはぎと腕から滴っていた血液がゆっくりと収まり、それ以上流血するのを止めるように傷口から流れる血が、栓をしたようにピタリと止まっている。

「――ほう……魔力で血流を操作したのか。成り立ての癖に器用な事を、だが――」

 男が感心したように声を出す。

「――【それ】は無駄だ」

「――――!?」

 男の言葉に呼応するように一護の体から力が抜ける。

 四肢への反応が鈍くなり、思考が安定しない。

 視界に映る光景に方向が消え、視野が歪んだ。

 ドサリと、今度は前のめりに体が倒れ、首の力だけで男を睨む。

「テメェ、何をッ……!」

 一護は混沌とする眼で男を睨みつける。

 男は静かに一護に近づきながら語りだす。

「私の触手は相手を貫くだけが目的ではない。より確実に敵を仕留め、行動を不能とするために複数の薬物を触手に染み込ませてある。今お前の体内に混入したモノは筋力を弛緩させる程度の微弱なモノだが……存外効くだろう?」

 高々と掲げる触手から紫に輝く液体が滴っている。

「『コレ』はさっきのモノとは比べ物にならない程の強力性を持ったものでな。安心しろ、死ぬということを理解するよりも先に逝ける優れものだ」

「ふ、ざけ……ん、なッ……!」

「ほう、常人なら口も聞ける筈がないのだが、新参とはいえ悪魔というわけか」

「オルトロ、無駄口はいい。さっさと片付けろ」

「何故だ? 時間は優々とある。スル―ヴァ、お前の張った結界で外界との接触は無いはずだ」

「――その結界が破られたと言っているんだ」

「なんだと……?」

 刹那――当然鳴り響く発砲音と同時にオルトロの触手が弾け消えた。

「なにッ――!?」

 オルトロが触手の消えた先を見ると、いきなり視界が黒く染まった。

 同時にオルトロの顔面を激痛が襲い、後方に吹き飛ばされる。

 苦痛に襲われる顔を片手でかばい、指の隙間から前を見る。

 そこには一護の前に立つように一人、男が立っていた。

 右手に硝煙の昇るリボルバー、左手には今自分を攻撃したのであろう小柄な服装と酷似した黒塗りの棺桶を持っている。

 若干顔を伏せているので容姿は判別できない。

「――貴様一体何者だ!!」

 猛るオルトロの声に男は顔を上げる。

「やあ、初めまして堕天使の御三人。僕は【暮葉浦季】という者です。月空園という児童養護施設で園長をしていまして。趣味は家庭菜園です」

「せ、先生……!?」

 突然の侵入者に全員が唖然としていると、一護が自分の目の前に立つ浦季に反応する。

「な、なんで、アンタがココに……」

 一護の言葉に今まで背を向けていた浦季がゆっくりとこちらを向いた。

「――――!?」

 その目は、浦季が自分を見る目は何時もの温和な性格とはかけ離れている程に、今まで一度も見たこともない程に冷たく突き刺さるものだった。

 能面のような何の感情も見出せないような表情で見る浦季に一護は言葉が見つからない。

 何故ここにいるのか。

 堕天使の存在を知っているのか。

 言いたいことはあるがそれが果たして今言うことなのか分からなくなる。

 影が一護の視界を曇らせる。

 街頭の明かりを遮るように、斧を振りかぶった少女が浦季に斧を振り下ろそうとする。

「――せ、」

 危ないと言おうとするが、口までもが薬のせいで上手く回らなくなってきた。

 一護が言うよりも先に少女が振り下ろされた斧は、浦季を一直線に迫り――

 ドオン、という轟音によって少女が近くの外壁に激突する。

「――困るんだよなー。折角まともに仕事ができるようになったのに死なれんのは。家の店が大損じゃないか」

「もうっ! そんな心にもない事また言って! さっきまで一護ちゃんが心配で大慌てだったじゃない!」

 あーそうだったけ、と呆ける秋宮関菜をヤレヤレという風に肩を竦める秋宮剛賢。

 二人は店で着ている制服とエプロンの姿のままであり、あまりにも場違いな光景だ。

「次から次へと……一体貴様たちは何者だ?」

 スルーヴァの問いに浦季、剛賢、関菜が堕天使たちのほうを向きつつ一護の前に立つ。

「ただの通りすがりの神父です」

「コックだ」

「筋肉と料理を愛する男よー!」

 

「――――本当に何なんだお前たち……」

 

 

 ■ ■

 

 

「――――んな事どうでもいいじゃん!!」

 瓦礫を吹き飛ばし、中から先程の少女が出てくる。

「神父だろうがコックだろうが、筋肉ダルマだろうが全員ぶっ殺せばいいだけの話でしょ!」

「リーニア……」

「まあリーニアの言う通り、問題はないな。不要なものは今まで通り、全て消せばいい」

 スルーヴァにリーニアと呼ばれた少女は大斧を両手で持ち直し、オルトロは先程よりも多くの触手を操り浦季たちに臨戦態勢を取る。

「へえ、堕天使にも分かりやすい奴等が結構いるじゃないか。私は好きだぜそういうストレートなヤツ」

「煽らないの。今は一護ちゃんの安全が優先よ」

「じゃあ僕が二人相手をしますよ。残りの一人を関菜さんがどうぞ」

「ああ! 何で私がお前の余りモンを相手しなくちゃなんないんだ! 逆にしろよ!」

「でもあの堕天使たち決行上位クラスのようですよ。関菜さんの魔術、堕天使の子にあまり効いていないようですし」

「ばっか! んなの手加減してたに決まってんだろ! 全力出せばあんなガキ消し炭にできるわ!」

「じゃあ何でしなかったんですか?」

「そんなの――」

「――できないでしょう? だからですよ。女性二人は僕が殺します。御二人はあの男の相手をね」

「……ッチ、好きにしろ!」

 関菜と剛賢と並ぶように立っていた浦季が一歩前にでる。

「――ま、待ってくれ先、生! アン、タが、何で……」

「やかましい」

「――ンガ!?」

 全身の力を振り絞って声を出す一護の口の中に関菜が無理矢理何かを突っ込む。

「一角獣とワイバーンの牙から作った秘薬だ。十分もすれば完治するはずだよ。お前は動けるまでここでアイツの戦いを黙って見てな」

「……関菜、さん」

 先制を取ったのは浦季だった。

 三発の銃弾の堕天使たちの足元を狙い打つ。

 その場から跳び、散るように左右に分かれたスルーヴァとリーニアを追うように浦季は追いかける。

 その浦季を追うようにオルトロが着地と同時に方向を転換するが、剛賢がその道を塞ぐ。

「あまに肉弾戦は好きではないのだかな……」

「あらそれは残念。じゃあ好きになってもらえるよう、筋肉の素晴らしさをとくと味わって貰おうかしら」

 

 

 ■ ■

 

 

 二人の堕天使に追いつき対峙する浦季。

「さあ、どうぞ」

 先手を譲るというように笑顔のまま言う浦季にリーニアが仕掛けた。

「人間が舐めた口をきくんじゃないわよッ!」

 斬――大斧が浦季を頭から爪先まで両断する。

 浦季は相変わらずの笑顔を張り付かせたまま、倒れた。

「……なによ。達者なのは口だけのようね」

 骸となった浦季の右半身を蹴飛ばすリーニア。

 スルーヴァだけが浦季の死に体を不気味そうに見つめる。

 ――ピッ。

 何かが起動したような電子音が浦季から鳴った。

 瞬間、浦季から閃光が走り堕天使二人を飲み込む。

 光がスルーヴァの驚愕した表情を消した直後、爆発音と熱量がその場を支配した。

「――傀儡地雷、上手くいったようですね」

 爆煙上る場所から離れたビルの屋上。

 浦季はそう呟くと踵を返し、去っていく。

 

 

 ■ ■

 

 

「ふんッ!」

 腕に刺さった触手を剛賢は気合で弾いた。

「どんな体をしているんだお前は……」

 呆れた声を出しつつも、触手を増加し剛賢への攻撃を続ける。

「健康な食事、健康な仕事、そして愛する人がいれば人はどんな事もできるのよぉー!」

 触手の軍勢を薙ぎ払う剛賢にオルトロは一度攻撃の手を緩めた。

「――――【魔術】だな」

 オルトロの発した一言に剛賢の表情が固まる。

「効果は部分体質の変換といった所か。腕を鉄か、それに近い硬質に転移して私の攻撃を防いだ。種が分かればなんということはない」

 オルトロは自分の前に触手を集結させた。

 細く小さかった一本一本の触手が互いに絡まり、結合し、巨大な槍と化す。

「数で無理ならこちらも質で行くまでだ」

「あら、そんなぶっといの人に向けていいと思っているのかしら」

 剛賢の言葉を無視し、オルトロは触手の槍を刺す。

 風切り音を纏いながら触手が剛賢に迫る。

 剛賢は迫る触手に対し、拳を横に構え逃げる気配が無い。

「ヌンッ!!」

 触手と剛賢の拳が衝突した直後、拳数十倍の質量がある筈の巨大な触手が砕け裂けた。

「――馬鹿な……!?」

 驚くオルトロに剛賢は殴った勢いを殺すことなく、そのままオルトロに迫る。

 焦り逃げようとするオルトロの触手を掴み無理矢理引き寄せる。

 前のめりに体勢が崩れたオルトロの胸を剛賢の拳が貫いた。

 血に濡れる腕をオルトロの胸から引き抜く。

 崩れ落ち、こちらを何故というふうに見上げるオルトロに剛賢は言う。

「貴方の言っていた魔術と変換は当たっているわぁ。でもそれだけじゃないわ。私は腕だけじゃなく身体全てを硬化できるの。詳しく言うと筋肉を硬質ワイヤーに骨を鋼にできるのよぉ」

 

 

 ■ ■

 

 

「おっ! 終わったか」

 戻ってきた剛賢と浦季に対し、関菜は心配した様子もなくシガレットを咥えたまま買い物から帰ってきたように振舞う。

「一護ちゃんはどう?」

「問題ないよ。毒は中和したからもうそろそろ動けるはずだ。なあ」

 関菜が一護の方を振り向くと、立ち上がりこちらに何か言いたげにしていた。

「あー、まあお前が何が言いたいのかは大体察しがつくが。取り合えず――今から来る奴らも何とかしないといけないな」

 一護たちから少し離れた場所。

 アスファルトの一部が白く光出した。

「大丈夫ですか一護君!?」

 光が収まると中から一護の見知った、ほんの数時間前に会ったばかりの二人が現れた。

「お前等何で……」

 一護と一緒にいる浦季たちに気づいたソーナと椿姫は身構え、警戒する。

「……堕天使たちはどうしたんですか?」

「消したよ」

 ソーナの問いに関菜は淡々と述べ、頭をかく。

「まあ、今回の当事者全員がいるんだ。都合が良いといえば良いな」

 来いという風に仕草をし、関菜を先頭に浦季が続き、剛賢が一護を支え後ろを歩く。

 ソーナと椿姫は自分たちを置いて離れていく四人を慌てて追いかけた。

 




次回は説明編です。
なぜ秋宮夫婦が魔術を使えたのか、その他諸々の所を書きます。
あ、あと少ない出番ですがアザゼルも出す予定です。
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