ハイスクールD×D 普通教室のデスサイズ   作:寒桜

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014 [New house]

 朝。

 太陽の日が水平線に昇ると同じころに鳥が泣き出した。

 けたたましい程の鳥の鳴き声が、洋館近くの林の中から一護の耳に入る。

 劈くほどの大音量は、距離が離れているのにも関わらず耳元で聞こえているような錯覚を覚える。

「……うるせぇ」

 睡眠妨害といってもいい程の騒音から、眠気が一気に覚めてしまった一護はオンボロベットの中から這い出る。

 寝ぼけた頭をかきながら自分がいる環境をキョロキョロを見回し、確認する。

「ああ、そうか。俺アザゼルさん家に泊まったんだっけ」

 正確にはアジトと意味深い事を言っていたが、無視する。

 ――昨日は色々あった。

 新しい敵に、先生たちの事。

「……これから、どうするかな」

 もう月空園には帰れない。

 先生の事もあるが、ソーナの言っていた双馬のこともある。

 アザゼルさんが言うように、ここから学校に通った方が懸命なのかもしれない。

 今自分は三年だ。

 あと一年未満で中学を卒業、あとは全寮制の高校に進学すれば何の問題も無いだろう。

「取り合えず、朝飯でも食うか」

 寝巻きの浴衣を締め直し、一護はリビングへと降りた。

 改めて洋館の内部を見渡すが、2階は自分が寝た部屋とあと7,8箇所。下も同じほどの量の部屋がある。

 床は基本穴だらけ、人が数年いた気配の無い年季の入ったそこからは鼠が朝にも関わらずチョロチョロと動いていた。

 疲れていたとはいえ、よくこんな状況で寝ることが出来たと自分に関心する。

 階段も木製なのか一段一段降りるたびに、今にも抜けそうな気配のする音を立てる。

 歪な音を上げリビングのドアを力任せに開くと、そこにはいる筈の家主の姿は無く、代わりにテーブルの上に用紙があった。

 一護はテーブルに置かれた用紙に目を通した。

 A4の用紙に書かれていたのは、

『よう一護。俺に聞きたいことがあったと思うが悪いな、ちょーーーーーーっと野暮用が入ったから家は任せる。以上

 PS.飯は冷蔵庫の中のモンを勝手に使って食ってくれ』

 という数行だけだった。

 他に何か書いてないかと裏面にも見てみるが何も書いていない。

 一護は紙をゴミ箱に捨て、冷蔵庫に手をかけた。

 冷気の漂う冷蔵庫の中には、当分は買い物が不要とういう程の食料が密集して入っていた。

「うわぁ……」

 無理矢理詰め込んだせいか、十分に冷気が食品に行き届いていないらしく心配になる色合いのモノがあった。

 取り合えず、まずは食材の整理をしようと一護は中のモノを無理矢理引き出し始めた。

 

 

 ■ ■

 

 

 冷蔵庫をそれなりに片付け、あり合わせで作ったサンドイッチを平らげた一護はこれからどうするか考えていた。

 正直アザゼルと今後どうするか話そうかと思っていたのだが、肝心の本人がいなくなっていた。

 紙にはちょっとと書いていたが何時までかかるのか分からない。

 幸い今日は日曜日なので、学校の心配はないが明日からどうすればいいのか。

 必要な服や物は秋宮さんたちに頼めば問題はないだろうが、本当にこのまま住んでも構わないか心配になる。

 昨日は使えなかったガスや電気が一夜にして通っているので、本当にここに住むとして進んでいるのかもしれない。

 住処も問題だが、ソーナたちのこともある。

 冥界で生活する気はないかと提案があった。

 生活の事や、学校をこんな時期に転向しては内申に影響するのではと考えていたので冥界というところに行く気はないが、堕天使騒動で無理矢理連れて行かれてしまうかもしれない。

 などと考えていると、ピンポーンとドアチャイムであろう、これまた古い年季の入った音が洋館に鳴り響いた。

 時刻は9時過ぎ、人が来るならば妥当な時間なのだろうが、ここは数年人の住んだ気配のない洋館。こんな場所に朝早くから人が訪れるのはおかしい。

 アザゼルの来客かとも考えるが、昨日の会話ではアザゼル自身もここを利用するのは久しぶりだという口調だった。

 また、ドアチャイムが鳴る。

 今度はさっきよりも短い周期で二度。どうやら訪問者が痺れを切らし始めているらしい。

 家主は不在、いるのは自分一人だけ。

 溜息を一つ吐き。一護は更に三度鳴るチャイムを止めるべく、玄関に急いだ。

 

 

 ■ ■

 

 

 同時刻――月空園。

 

 ――――パンッ!

 乾いた音が浦季の右頬から鳴った。

 浦季と向かい合って立つ暮葉菖蒲は、今先ほど浦季を叩いたのであろう薄赤く染まった左手で、目に溜まった涙を拭う。

「……すみません」

 浦季は叩かれた頬に手を寄せ菖蒲に頭を下げた。

「謝らないでッ! 謝るくらないならなんで一護にそんなことを言ったのよ!! あの子を捨てたのよアナタは!!」

 対する菖蒲は声を荒げ、浦季の謝罪を打ち消す。

 菖蒲は浦季から視線を逸らし、部屋の隅に座る秋宮夫妻に目を向ける。

「本当に、一護は悪魔になってしまったの?」

「ああ、正直浦季が帰ってくるまではお前に言うか言うまいか悩んだんだが、こうなってしまうと気づいた時に言うべきだったな」

 関菜が咥えていたシガレットを噛み砕き、後悔に眉を寄せる。

「私が気づいていればこんなことには……!」

「それは無理よぉ。もう今のアナタは堕天使ではなく【人間】なのよぉ? 捨てたモノを今更嘆いていては後がないわぁ」

「あの子たちにどう言えばいいのよ。絶対みんな泣くわ、それも盛大に」

「まあ、やっちまったモンはしょうがない。無理に此処に住まわせ続けたとしても、浦季の殺人衝動がいつ出てくるか分からない生活をするよりは、別の所で生活するのが無難だろ。過ぎた事は今は置いて、問題は今後一護をどうするかだな」

「追い出したとしてもアナタたちの家族なのでしょうぅ? だったら出来る事は色々とあるわよぉ」

 まだ納得のいかない菖蒲は恨めしそうに秋宮たちを睨む。

「……今一護はどこに?」

「お前んとこの元上司が預かっているらしいよ」

 関菜は自分が聞いた情報元の浦季を指差しそう言う。

 菖蒲は目を見開き浦季に詰め寄る。

「アザゼルさんに頼んだの!?」

「……頼める人が他にいなかったんですよ」

「関菜たちに頼めばよかったじゃないっ!! どうするのよあの人、自分の事も録に世話できないのよ!」

「元上司に対していいのかよ」

 元だからいいのよと言い捨て浦季の首をシェイクする。

「どうせアレよねぇ。知っている所に預けたら殺しにいくかもしれない。だったら所在不定の人に預けたほうが安全みたいな頭の悪い事考えたんでしょうねぇ」

 剛賢の台詞に菖蒲から視線をそらし、冷や汗をかく浦季。

「……当たりのようね」

 背後から怒気の炎を噴き上がらせ、ビンタを再装填する構えをとる菖蒲。

 浦季は目を瞑ることなく、覚悟を決めたのか菖蒲から目を逸らさない。

 ニコリと浦季に微笑み、菖蒲は広げていた手を握り締める。

 鈍い音そして、数秒置いて浦季が床に倒れた。

「……お前、ビンタから拳へのシフトチェンジはないだろ」

「覚悟を決めたって顔が憎たらしかったのよ。……学費は今まで通り払い続けます。生活費も一護の生活が安定するまで、安定しても出すわ」

「んまあ妥当だろう。あとは一護が居なくなったってことを周りにバレないようにどうするかだな」

「身内に預けたっていうのが妥当かしらぁ? 総督さんなら人間界の戸籍なんて簡単に偽装してそうねぇ~」

「受験ってのもいい言い訳になりそうだな」

「――そういえば本人のアザゼルさんは?」

「一護を狙った堕天使を探しに行ってる。グリゴリだっけか? 久しぶりに顔を出すと言っていたからアテにはできんがな」

「ああ、確かに殆どの雑務をシェムハザ様がやっていたと聞くわ」

「総督はさんでぇ~副総督は様。なんだか力関係が見え隠れするわねぇ~」

「午後に一回こっちに顔を出すと言っていたらしいし、詳細はそのときでいいだろ」

 倒れている浦季に毛布を被せ、頷く菖蒲。

 目を回し気絶する浦季に溜息を吐く。

「これで月空園を出て行った子が【二人】になってしまったわね……」

 

 

 ■ ■

 

 

 一護は突然の来訪者、ソーナと椿姫をリビングに招き入れていた。

 四人がけのテーブルに一護とソーナが向かい合うように、そして椿姫がソーナの隣に座っている。

 水道水の入ったコップに口を付けながら一護は、自分と同じように黙って水を飲むソーナを見る。

 何を言えばいいか分からない。

 いや言うべき事は山ほどあるのだが、どれから切り出せばいいか分からない。

 堕天使の事か、秋宮さんたちの事か、それとも先生の事から話せばいいのか分からない。

 そうこう悩んでいると、水を飲み干したソーナが言う。

「こうやってゆっくりと話すのは初めてかもしれませんね」

「……昨日喫茶店で話したじゃねえかよ」

「あの時は流石に周りの目というものがありましたので」

 そうかよと一護は言い、自分も水を飲み干す。

「……やはり駄目ですね」

「何がだ?」

「緊張している。と言えばいいのでしょうか。異性とこうして話すのは滅多にないもので」

 自己紹介もせずに帰ってしまいましたしと少しぎこちなく微笑む。

「今更ですが改めてということで、自己紹介からしましょうか――初めまして。と言うのは変ですが、私はソーナ、ソーナ・シトリー。歳は14歳。元72柱、シトリー家の次期当主で、駒はキング。趣味はお菓子作りです」

「……俺は黒崎一護。14歳で真芝中学三年。好物はチョコレートと辛子明太子。趣味は特にねえ。駒はポーン、だっけか?」

「……真羅椿姫だ」

「椿姫」

「…………真羅椿姫。14歳。駒はクイーンだ。得意な武器は長刀、新参の悪魔なら一太刀で首を撥ねれる程度の腕は持っている。趣味は読書だ」

 何やら不吉な紹介が混じっていたが、どうにか無事に自己紹介は終わった。

 ソーナは椿姫の自己紹介に溜息を吐き、メガネをかけ直す。

「兎に角。これから長い付き合いになりますから、誤解や蟠りは焦らずゆっくりと解けばいいでしょう――一護君」

「なんだ?」

「アナタと分かれた後、生き残っていた堕天使から聞き出したのですが。どうやらアナタを始めに襲った堕天使は生きているそうです」

「――なん、だと!?」

「ですが、その堕天使は一護君の攻撃で重症なのか長期に渡って活動することは不可能の状態のようです。そして今回の堕天使の情報からアナタの事を知っている堕天使はそのアナタを始めに襲った堕天使以外、もうこの世には存在しません」

「……は? つまりどういう意味だ?」

「昨日、アナタの狙う堕天使から守るという事で冥界に移住を勧めましたが、その心配が薄れた今それを強制する必要が無くなったと言っているんです。私としては少しでも可能性がある限りは移住を勧めたいのですが、学校やアナタの都合もあるでしょうしもう無理強いは出来ないですね」

「そう、か」

 あの後そんな事があったのかと一護は考えにふける。

 安堵の様子を見せる一護にソーナは続けた。

「ですが、問題はそれだけではありません」

 

 

 ■ ■

 

 

 一護たちの暮らしている町から数百キロはなれた場所にある海岸。

 そこに二人の人影が、海から上がってくる。

 否、海からではなく空間からと言い換えればいいのかもしれない。

 得体の知れない魔法陣から似た背丈の男が現れた。

 一人はダークカラー混じった銀髪の美少年だ。

 黒を主張とした服装に身を包み、白い肌と髪の色がより映えて見える。

「――おい、着いたのかよ。ヴァーリ」

 もう一人の男にヴァーリと呼ばれた銀髪の男は、首を横に振る。

「いやまだだ、白。派手に転移しては面倒な奴等に見つかるからな。陸路は歩きで行くぞ」

「ハッ! んなもん斬りゃあいいだけの話だろうが!」

「目的を果たす前に変に水面を発たせると獲物が逃げるかもしれないだろ?」

 ――ッチとヴァーリに白と呼ばれた男は舌打ちし、背に背負っていた武器を担ぎ直す。

 白はヴァーリとは対照的に白い着物を身に纏っていた。

 肌も髪も病的なまでに白く染まっている。

「そんな顔をするな。お前も探す【モノ】はあの町に必ずあるはずだ」

「――へえ、よくもそこまで断言できるもんだ。お前のその自身はどこからくるんだ?」

「会えば分かる。――俺としてもお前の目的がそいつだといいなという願望も入っているがな」

 白の黒く染まった瞳を見ながらヴァーリはそう言い、二人は歩き出した。

 

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