惰弱を吐くな
護ると吼えろ。
――――夢を見ている。
人がいた。
魔天に続く楼閣のビルの上に、天を見上げる黒装束の男。
――――夢を見ている。
男は空に右手を掲げ、祈るようにその身を縮めた。
――――夢を見ている。
男を中心にビルが亀裂を生んだ。
亀裂はやがて砕け、男は瓦礫と共に地へと堕ちた。
――夢。
男が堕ちてもビルは砕け続く。
全てのビルが瓦礫に変わり、地へと堕ちた。
――夢が、
瓦礫は闇に沈み、空だけが燦然と残る。
――――夢が終わった。
■ ■
――――ピピピピピピ、
規則的な機械音が部屋に鳴り響く。
敷かれていた布団が微かに動くが、中にいる人物は起きようとせずに布団に潜り込んでしまう。設定の時間が過ぎたのか、アラームは鳴り止みまた部屋を静寂が支配する。
ギィィ……と木製のドアが静かに開く。
部屋の中に物音を立てず、床を軋ませる音が二つ。
背丈は子供、髪の色は青と黒、手には手製であろう西洋剣を模したと思われるお粗末なものが握られている。二人は互いに布団を挟むように立つと静かに頷き合う。
「「――――死ねえええぇ!!」」
朝一に言うべきではない台詞と共に剣(ダンボール)を布団目掛けて振り下ろした。
――が、剣が布団に突き刺さるよりも先にその布団がせり上がり、剣と子供二人をまとめて包み込む。
「……毎回毎回、朝っぱらから物騒なことやってんじゃねえよ」
被さる布団と格闘してる二人を横目に布団の主である少年が起き上がる。
部屋の窓から入る日光が少年の特徴であるオレンジ色の髪の毛を光らせる。
寝起きの頭を掻きながら部屋から出ようとする少年を、ようやく抜け出した青髪の子供が見つける。
「双馬、今だッ!!」
「――っでりゃああああああ!」
子供に双馬と呼ばれた声の主は丁度、少年の頭上から聞こえた。
咄嗟に少年が見上げるとそこには天井から、自由落下した濃緑色の髪をした子供が竹箒を振り下ろしていた。
少年は体を屈め、竹箒をやり過ごすとそのまま落ちてくる双馬が着地するよりも先に首根っこを掴み宙吊りにする。
「双馬お前まで……しかもまたアザゼルさんに変な技教わりやがったな。――ってかそれ玄関の箒だろ、朝飯前にちゃんと戻しとけよ」
あうぅ……とうな垂れる双馬を下ろし体の埃を掃っていると、布団から抜け出していた二人が少年の後ろ目掛けて襲い掛かった。
「「でえええええい!!」」
少年は双馬が持っていた竹箒を奪うと、振り向き様に丈で、黒髪の子供が手にしていた剣を叩き落とし、返す箒で青髪の子供の剣も薙ぎ払った。
「「あでっ!」」
叩かれた手のひらを蹲りながら擦る二人に溜息を吐き、床に落ちた剣を手にする。
「あっ、一兄返せよ俺のエクスカリバー十三代目・正宗!!」
「僕のグングニールサーティンもっ!」
「ああ、十二代目もトウェルブも先週明日香にへし折られたんだっけな。つーか代重ねる毎に強化されてるじゃねえか、ニスまで塗りやがって」
「だってそうでもしないとアス姉にまた折られるんだよ! ひでぇよあのオニババ、これじゃあ犠牲になった初代達も浮かばれねえ!」
「折角おじちゃんに手伝って貰ったのに……」
「またアザゼルさんかよ……あの人も暇だな」
ほら、と剣を二人に返すと後ろからポスッと軽い音と衝撃が少年の頭から出た。
「えへへへ」
「……夕陽か」
後ろを振り向くと、子供たちよりも更に幼い容姿の女の子が両手で杖を持って笑っていた。
四人はハイタッチをしてお互いの健闘を労りあう。
一通り終わると、黒髪の子供が一歩前に出る。
「殿は夕陽でした!」
次いで青髪の子供が出る。
「さすがの一兄も叶と双馬と僕の三人は読めても、夕陽だけは読めなかったようだね!」
最後に夕陽が出て、
「えっへん!」
何がすごいのか本人も分かっていないだろうが取り合えず、格好だけでも取り持とうと剃る夕陽を倒れないように慌てて支える双馬。
「こんなくだらねえ事に夕陽が加わるなんて誰が思うか」
「――――それで朝っぱらから近所の迷惑も考えずにドタバタしたのは叶と晃夜と双馬と一護でいいのね?」
「「「「え?」」」」
五人がドアの方を向くと、フライパンを片手に仁王立ちする女性の姿があった。
白い長髪を黒リボンで纏めてあり、クマの描かれたエプロンを着ている姿からは似合わない程の怒を表したオーラを立ち込めていた。
「げ、菖蒲さ――――」
ゴン、ガン、ギンと一護が言い終わるよりも先に四人の頭を菖蒲が手にしているフライパンで叩き伏せる。
頭から煙を出して突っ伏す四人をその場に残し女性、暮葉菖蒲は日景夕陽を連れて食堂へと向かった。
■ ■
これは悪魔の扉が開く前章。
閂を抜き、戸を開く者が現れる以前、扉の前に立つ者がいた。
立ち尽くし、眺め、触れ、そして去った。
これは出会い、斬り会う物語。
普通教室のデスサイズ
扉は、まだ開かない。