ハイスクールD×D 普通教室のデスサイズ   作:寒桜

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003 [Memories in the dark]

 雨脚が強まる中、一護と双馬は何も言わずに並んで歩いていた。

 ポタポタと傘から垂れる水が双馬に当たらないように、しかし双馬の方は見ずに傘を逆に傾けて歩く。

 ゴオっとエンジン音をたてて後ろから車が過ぎ去った。

 丁度、水が溜まっていたところをタイヤが走り、相馬に向かって水がかかる。

「わっ!?」

 かかる寸前、一護が双馬の腕を引っ張り自身に寄せた。

 バランスを崩して一護にもたれ掛かってしまったので、カッパの水滴が一護の服についてしまったが、それを気にすることなく一護はまた歩き始め、それを双馬も慌てて後を追う。

「なあ双馬――――月空園は好きか?」

 え? といきなり前ぶりもなく聞いてきた一護に双馬は戸惑った。

「お前がこっちに来て七ヶ月たって、ここに馴染めているか?」

 否定をこめて双馬は首を横に振った。

 戦争で家と家族がなくなった自分を園長先生が引き取り、ここにきた。

 来た当初は自分でも酷かったと思う。うろたえて、泣き喚いて、暴れて、何度も酷いことを言ったと思う。

 でも先生がみんなが、隣の彼がいてくれた。

 まだ叶たちのノリに合わせづらいがそれでも楽しいと感じることが出来た。

 春から入った学校でもそれなりに親しい友達ができたし、イジメもない。なぜかよくつかかってくる同級生はいるが。

 だから、大丈夫と伝えるように一護の手を握った。

「そうか……」

 双馬の言いたいことを察したのか一護はそうつぶやくと双馬の手を握り返した。

 双馬を含め、月空園のものたちは皆、戦争やテロで住む場所を失った子供ばかりだ。

 それは、園長である暮葉浦季から自分が月空園に落ち着いた頃聞いたことだ。

 浦季はそういった子供たちを捜し、助けるために世界を飛んでいるといっている。

 だから子供の容姿に一貫性がなく個々に特徴が多くある。特に髪や肌の色が目に入りやすい。かくいう自分も濃緑色の髪だ。日本人しかいないクラスでは他の園児と同様に目立っている。

 だから、オレンジ髪の一護もそうなのだろうと思っている。

 断定ではないのは大半の園児もそうだが、彼は自分の素性を話したことはない。

 話すことでもないのか誰も聞いたことがないそうだ。

 自分だって好きで話すことはない。

 前までは目を閉じるたびに再生されたあの悪夢。暗雲たちこめる火の中、人の悲鳴と断末魔はまだ耳にこびり付いた様に鮮明に思い出せる。

 だが、一箇所だけノイズのようにぼやけてしまう。

 誰かが自分に語りかける、黒いもやに包まれ誰かは分からないが何かを自分に向け何かを言い、そこで記憶は消えている。

 何をされたのか何があったのか気づけば自分は燃え尽きた町で園長先生の腕の中にいた。

 結局あの時なにが起きたのか分からず、自分を助けてくれた園長先生に聞いても自分が見つけた時には誰もいなく、あなたが地に倒れていたと言っていた。

 先生が嘘を付いているとは思えないが、記憶を巡り返してみるとあの時の記憶にはどこか異質なところがある。

 そう考えていると胃が逆流するような嘔吐感が込み上げる。

 とっさに空いていた手で口を押さえる。

 実際に胃内の物が出てきたわけではないが不快感が全身に走った。

(ああ、やっちゃった……)

 あの記憶を思い出すことは、傷口を広げるようなこの行為は、今でもきく。

 先生もこの事はあまり思い出さないようにしろと言っていた。

 でもやめられない。やめられなかった。何か大切なことを忘れていて、思い出さなくてはいけないとさえ思ってしまう。あのノイズがその手掛かりに何かあるのかもしれない。

 電流のように体内を駆け巡る悪寒は脳にまで達した。

 と同時に、ノイズが一瞬鮮明な映像として浮かび上がった。

 ほんの一瞬、光のような速度で微かに残留した絵を頭の中で反芻する。

 黒。

 全身が黒くそして背中には鴉のように黒い翼。

 そして――――

「――――おい! おい相馬大丈夫かっ!!」

「……えっ!?」

 気がつけば目の前に一護の顔があった。

 オレンジ色の髪は湿気でやや濡れていて、ブラウンの瞳がこちらを心配そうに見ている。

 どうやら知らない内に自分は足を止めてしまったようだ。

「またアレか?」

「うん。ごめんなさい」

 とっさに謝ってしまった。

 確かに先生には止められてはいたが、これは突発的にも起きてしまう。

 それを知っているから一護も困ったような顔をするだけで何も言わない。

 ただ自分の頭を撫でて、また手を繋いで歩き始める。

 最近気づいた。これは彼なりの慰めなのだと。

 気にするなとも、元気を出せなどの言葉ではなく、そばにいてくれる。

 それが妙に心地良くて、そして――――、

「こんばんわ」

 ゾッと背筋が凍りついた。

 ……!?

 比喩ではなく、本当に背中が凍ったように動かない。

 脊髄を超えて肉の内側から冷気が出る。そんな未知の感覚に五感までもが支配される。

 いや違う。未知ではない。

 前にも自分はこの寒気を身で感じたことがある。

 そう、まるで声をかけられるついさっきまで知っていたはず。

「いい天気ですね」

 と前から来ていた通行人はそう続けた。

「……そうですか?」

 一護は怪訝に空を見上げた。

 雨の中傘をささずにいる女性。

 長い黒髪は長時間雨に触れていたのか瑞々しく輝いている。

 見る者を魅了するように解れた髪が濡れた顔にはりつく。

 そして髪と同じ色をしたワンピースも濡れて体のラインを所々細かく浮かび上がらせる。

 美人だと自分の感性から分かるが、どこか畏怖を孕んでいる。

 黒い髪と同じくらい瞳は輝き、どこまでも深く遠くまるで鴉の羽のように黒い。

 黒かった。

 すべてが黒い。

「ええだって――――」

 そうそれはあの光景の異形のような――――黒い闇。

「洗い流す必要がないでしょう?」

 え? と一護が応える前に、女が手にした剣で胸を刺された。

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