「悪魔だと……!?」
「ええ」
背の翼を消し、蒼那は再び腰を下ろす。
「んな話――」
「――信じられるわけがない?」
「……ああ」
疑心の目を持ったまま一護は蒼那を見る。
そんな一護の様子を仕方がないというふうに一息つく。
「では昨夜のあなたの記憶はどう説明します? まさか私たちが記憶を改竄したとでも?」
「いや、そんなことをする必要がねえってことは分かってる。あんたたちはこうして俺と話をしている。説明をしてくれるってことはこんな事が起きるって、少なからずあんたらは考えていたんだろ。悪魔とか堕天使とか、俺が知りたいのは何でそんな連中に俺たちが襲われたのかってことだ」
「……俺たちではありません」
「は?」
「堕天使が狙っていたのはこの子の中にあった神器『セイクリッド・ギア』が目的だったのでしょう」
「セイクリッド・ギア……?」
「はい、聖書の神が造り出したといわれるシステムで所有者には不思議な能力を与えるとされています」
「それが、双馬の中に入っているっていうのか」
「その為に堕天使に狙われたのでしょう。神器には莫大な力があり、一つの神器で神話が描かれるともいいます。今はこの子の中にはありませんが」
「ちょっと待ってくれ! さっきからその神器が双馬の中に無いって言ってるけどじゃあ、あの堕天使とかいう奴が持っていっちまったのか!?」
「いいえ、それも違います」
蒼那はスッと一護の胸を指差す。
「神器は今、あなたの中にあるのです」
「――どういうことだ? 何で双馬の神器が俺の中に! ……じゃあ待て、双馬の目が覚めないってのもまさか俺が――!?」
「いいえ、それも間違いです。神器とは所有者の譲渡無しに無闇に移り渡れるものではありません。ですがこの子の神器をあなたは一度使い堕天使と戦った。ですがそれは所有者同士での譲渡ではなく、神器が一時的にあなたを持ち主と決めたからでしょう」
「……神器ってのは生き物なのか?」
「生き物を象った神器もあるにはありますが、これとは別でしょうね。所有者の危機から神器が自発的に所有者を変更し、本来の持ち主を守ったというのがあなたの記憶を見て結論付けた答えです」
「おい、今人権が無視されたこと言ってないか」
「神器がですか?」
「記憶もだよ!」
「ともかく神器は脅威が消えるまではこの子の元には戻らず、この子を守るためにあなたの中にい続けるということです」
「無視かよ。ってか脅威ってのはあの堕天使なのか」
「間違いなくそうでしょうね」
「あら? なら私が来たのは好都合だったのね」
「「――――ッ!」」
「誰だ!?」
椿姫がカーテンを開ける。
部屋の端、いつの間にか開いた窓ガラスにあの夜に会った堕天使が座っていた。
「昨日ぶりね泥棒さん。とっとと私の神器を返して貰えるかしら?」
「テメェ……いけしゃあしゃあと」
「椿姫!」
蒼那の声を合図に椿が堕天使に向かって掛ける。
「追憶の嘆き!」
技の名前を発すると同時に椿姫の姿が突如消えた。
「――な!? 椿姫!?」
「お邪魔虫には一時退場して貰うとしましょうか」
驚く蒼那をそ知らぬ顔で流し堕天使は窓から降りる。
「一体椿姫をどこへ!」
「あら、上級悪魔ともあろうお方が駒一個消えた所でうろたえるなんて優雅ではないですね」
クスクスと本当に可笑しく堕天使は笑う。
「しかもシトリー家の次期当主とあろう者が、これじゃあ魔王のお姉さんも多寡が知れてるわ」
「――――ッ!」
「あら怒りました? 怖いわー。大丈夫ですよさっき消した子は今、楽しい迷路を満喫中ですよ」
堕天使は髪をかき上げ右耳を一護たちに見せる。
キラリと月夜に照らされ耳たぶに付けられた正方形イヤリングが虹色に反射する。
「――
「神器!」
「あれが……」
「これだけじゃありませんよ」
と、今度は逆の耳を見せる。
右とは対照的に円球型のイヤリングは黒く輝きを発してはいない。
「駄目です! 黒崎君逃げてくださいっ!」
とっさに一護を庇うように前に出た蒼那が言う。
が、堕天使はそれをあざ笑う。
「気づくのが遅えよバーカ!!
光るはずの無かったイヤリングが部屋を黒い光で包み込む。
■ ■
「――――何だったんだ?」
目を庇っていた腕を下ろす。
「……ここは」
辺りを見渡せばそこは今までいた部屋の中ではなく一階の受付ホールだった。
「うふふふふふふふふ」
訳が分からずに回りを見る一護に天井からあの堕天使の声が木霊する。
「あははははははははぁ! ようこそ私の六徳界へ!」
女の声と共に病院のタイルカーペットから人型のナニカが生まれた。
絵の具のように薄黒い色で全身を覆った奴らが数体、一護の前に立つ。
「こいつ等は一体」
「この子たちはこの世界の私の僕(グール)。私の言うことを何でも聞くいい子ちゃんたちなのよ。それよりも、ねえ……コレ何か分かるかしら?」
と、一護とグールの中央のタイルそこに映像が映し出される。
「――双馬ッ!」
「はぁい」
こちらに笑いかける堕天使その後ろに双馬の姿が見える。夜空と鉄格子などが見えるということは屋上なのだろう。堕天使は双馬を抱え一護に笑いかける。
「ボクハココダヨ、タスケテータスケテー、オニイチャーーン」
「テメェ……!」
「じゃあね~この子が殺されたくなかったら、グールたちを倒して早く私の所まで来てね……じゃないと――」
殺しちゃうかも。
そう締めくくり映像は途切れタイルは元のタイルへと戻った。
「クソッ!」
悪態を吐き、一護はグールに背を向け階段を探す。
後ろから聞こえるグールたちのうめき声が増えていくことを感じつつ走る。
エレベーターの電源は落とされて使い物にならなかった。
階段を見つける頃には既に一階はグールの声で埋め尽くされ、階段を上る一護をゆっくりと追う。
病衣を着ている為か走るのにそんなに抵抗を感じない。
二階へと上がりこのまま屋上まで駆け上がろうとするが、二階から上の階段が消えており本来階段があるはずの場所はコンクリートで埋まっていた。
「そんなバカなッ!?」
■ ■
病院の屋上。
本来ならば月夜が広がるはずの上空には寒色入り混じった気味の悪い光景になっていた。
ベットシートを干すために立てられている筈の物干しは四方に散らばり空いた中心に堕天使が立っていた。
驚愕する一護の顔を宙に移した映像越しに見ながら彼女は愉快に笑う。
「あははは! 驚いてるわあのガキ、ざまあないじゃない!!」
腹を押さえ前かがみに笑う堕天使を、蒼那は椅子に縛りつけられた状態で見ている。
全身を鎖で椅子と共に縛り付けられた蒼那は身動きがとれずにいた。
「……何故、このようなことを?」
この世界。彼女の神器が創り出したであろう此処ではこんな回りくどいことはしなくとも自分と同じように縛り上げれば事は済むはずだ。だが、彼女はそうはしなかった。
(――何か制限があるのか、それとも私怨か……)
蒼那が問うた先、笑っていた堕天使が視線をこちらに向けてくる。
顔をニヤけたまま彼女は右腕を蒼那へと見せる。
「この腕の借りをまだ返してないのよねー」
手と腕を覆っていたガントレットが光の粒子となって空中に飛散し中身が露出する。
そこには何も無かった。
二の腕から先にあるはずの前腕が無く途切れている。
何も言わずに黙って自分の腕を見る蒼那に彼女は言う。
「この腕の屈辱はちょっとやそっとじゃあ足りないのよ、だ、か、ら」
堕天使は下ろしていた左手を上げ、自分の横へと平行に動かす。
と、それに引かれるように一護を移していた映像が動き、堕天使と蒼那の間で止まる。
映像に映る一護は未だ三階へと続く階段を探し回っていた。
湧き出てくるグールを去なし、倒し、必死の形相で走る一護の姿を見て彼女の笑みは深くなった。
「こうやってゆっくりと絶望へと堕とさないと気がすまないの」
■ ■
数十分永遠に一護は二階を駆け巡っていた。
一護を追うグールたちの動きは鈍く、そうそう捕まることは無いが数が増え続けている。
目で数えるだけでも五十は軽くいる。
だがそれだけの数が狭い町病院内にいるにも関わらず廊下にはまだ余裕がある。
「どうなってんだよこの病院! 何で行き止まりが見えてこないんだよ!」
真っ直ぐに曲がることなく走り続けているが一向に終わりが見えてこない。
それどころがさっき過ぎたはずのナースステーションをまた通り過ぎていた。
無限に続く廊下を足を止めずに一護は思考する。
(こいつもあの女が使った神器ってのが原因だっていうのか!?)
ここにとばされる前に堕天使が起こした行動を振り返る。
あのイヤリング。丸く黒い物がついたアレが光った瞬間に自分はここにいた。
非常識で埋めつくされたここでは常識が一切通じない。
つまりこのまま走ったとしても階段どころか行き止まりさえ見えないのだろう。
(……だったら!)
一護は何を思ったかいきなり足を止め、おもむろに232と貼られたドアを開く。
中には空になった6台のベットとなぜか窓があるはずの壁に一つのドアがあった。
一護は走り部屋の中にあったドアを力強く蹴破った。
■ ■
「あら? やっと気づいたのね」
一護が二階の部屋から三階の部屋へと上がったのを見た堕天使はそう呟いた。
そして、無雑作に床に倒しておいた双馬の髪を掴み顔を上げた。
「よかったわねー頑張ってるわよあの子……でも、次はそういくかしら」
意識の無い双馬をまた倒し、堕天使は一護へと視線を向ける。
蒼那は黙って堕天使そして一護を見ていた。
蒼那は心の中で一息、そして思考を巡らせる。
(神器の特性は大まかに理解した。これならば椿姫が最悪戻らないままでも私一人であの堕天使を倒すことが出来る)
蒼那は所かまわず部屋を片っ端から空ける一護へと目を向ける。
恐らく堕天使は一護を屋上まで上らせる気はないのだろう。
疲弊しきり倒れた後かグールに襲われた後、悠々とここへの道を開くようだ。
もしもそうならば一護がここにくるまでおとなしくしていればいい。
それよりも、
(やはり私の仮説は正しかった!)
あの時、一護を助けたとき蒼那は見た。神器が一護ではなく双馬の元へと戻った。
そして次には双馬から一護へと神器が移動した。
初め蒼那にはこれが意味することが分からなかった。
しかし、一夜明け双馬が所有者だと分かった今ならば仮説が証明できる。
神器が本当に彼を認めたのだと。
病院内で一護に言ったときも蒼那は自分でも半信半疑だった。前例がない荒唐無稽の話。
だが、目の前の堕天使の腕。
堕天使の気配を察知しあの場所へ出向いたとき、堕天使は自分たちを警戒して逃げたと思った。
しかし違った。いや、それも含まれてはいるのだろうがそれ以前に黒崎一護によって手負わされていた。
何も知らず何の力も無い一般人が堕天使の腕を斬った。
神器はそれも含めて一護に移ったのだろう。
「彼を転生させたのは間違いではなかったようですね」
■ ■
飽きもせずに扉を開け続けるが、一向に次の階へと一護は進む事が出来ず苛立ちを隠せない。
まさか階段で階が繋がっているとは思ってもみなかった。
少し視線をずらすだけで、山のようなグールの群れが目に映る。
どうやら自分かこの階に登る前、一階にいた時から各階ごと一斉にグールが生まれ続けているらしい。
黒く染まった全身は醜悪に充ち足り、見ているだけで吐き気がする。
(――――クソッ! 一階はサービスだったってことかよ!)
一階は階段、二階は扉。
頭に思い浮かべた堕天使の高笑いが腹立たしい。
前から襲い掛かるグールを足蹴にする一護。
一階二階と順当とは行かないが次に扉以外に手がかりがあるとすれば窓。
取り合えず次の部屋に入ったら窓を調べようと考えていると、異変が起きた。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオォン!!!!』
大きく鈍い低音が腹に響いてくる。
それがグールたちの絶叫だと分かったのは、目の前のグールが立ち止まり口を大きく開けていたのを見たからだ。
この階のグールたちだけではないのだろう上から下からと病院内をグールの大合唱が木霊している。
ゾクリと一護の首筋が凍る。
何かが始まる前兆なのか、とにかくグールの絶叫に良い印象はまったく受けない。
止まっていた足を再び動かした瞬間、グールの声が止んだ。
騒音から一転し静寂が病院を包み込む。
一護に一番近いグールの一体が一護を見ている。
黒く染まった顔からは表情を捉えることは出来なく、辛うじて目と横一文字になった口が見えた。
一護を見たまま微動だにせず、静かに一護が一歩を踏み出した次の瞬間、
「ヴァアアアアアアアアアアア!!」
顔の半分を口が占めるまで開け、グールが襲い掛かってきた。
今までの動きからは考えられない俊敏さで一護に食らい付こうとする。
前に出された両手で一護を掴もうとする。
が、それを一護は身を屈めて避ける。
標的を見失いそのまま後ろグールの群れに突っ込む。
屈んだ足をばねに走り出そうとするが、
「――――いっ!?」
右足に激痛が走った。
下を見ると別のグールが噛み付き、口の隙間から血が流れ滴り落ちている。
「このヤロッ離せ!」
『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
一護が足に食らいついたグールを引き剥がそうとするが、全てのグールが絶叫と共に一護に襲い掛かった。
始めは食らい付くグールを殴り倒し続けていたが、数に押され一体また一体と腹に腕に食いつき、終には全身をグールに埋まり尽くされてしまった。
二度目の絶対絶命です。
いかがでしたでしょうか? 正直滅茶苦茶感が満載になってきました。
今回出てきたグールですが見た目はコナンの犯人みたいだと考えてくれればいいです。
屍なのにタイツとは言わない方向でお願いします。
次回ようやく一護覚醒(仮)です。
どうとは言えませんが面白くしたいですね。
それでは次回まで、失礼します。