そんな世界で生きるため   作:ぶつ切りローマ
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あけましておめでとうございます。そして皆さんお久しぶりです。遅れに遅れたお年玉です。そして話は進みません。どうぞよろしく。





猛りし散るは麗しの/13

 

 

 

 

 ――麗しのアタランテ。

 

 アルカディア王イーアソスの娘であり、しかし男を望んでいたイーアソスに捨てられ女神アルテミスに仕えた雌熊に乳を与えられ、その後に狩りの一団に育て上げられたギリシャでも名高い狩人の一人である。

 かの英雄アキレウスの父親に組み立てにおいて勝利を収め、更にはカリュドーンの猪狩りにて武勲を上げたとされる。

 女神アルテミスに信を持ち、清廉にして潔白を保ち続けたとされる彼女であるが――

 キュベレーの怒りを買った、買ってしまった彼女の果ては。 

 

 ――獣だったとされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ア」

 

 気付いた時には、既に遅かった。

 風に舞う緑の髪が蠢き、黒く染まった白眼が縦横無尽に動いていて――それが『標的』を捉えてしまった。

 

「アアアアァァアァアアア――ッッ!!」

 

 王の血を引く美しく澄み切った美貌を醜悪に染め上げ、開かれた口腔から響き渡る蕩けるような嬌声。複雑怪奇な螺旋を空に描き、数多に飛翔する女神の弓矢。

 ギリシャでも名を馳せたその俊足に衰えはなく、それどころか彼女に取って優遇に過ぎる森林というアドバンテージ。森に巣食う狼は、音速を超えた速度で虚空を撃ち抜き動き廻る。泡緑の光が瞬き、放たれたのは破砕の弾丸である。

 射出された弓矢は優に百を超える。その時点で既に予測に意味はない。俊足にて最速。刹那の内に放たれた其れに、弾道を予知する暇などなく、グレムリアは悪態を吐く暇を削がれていた。

 

「ク――ッ」

 

 魔本を開帳し、今の霊格だと臨界の魔術行使。予備動作もなく転瞬の内に起動した魔術式――全身の魔術回路に灼熱が奔る。

 展開する三段魔術障壁――一枚目が即座に砕かれた。細かな指示を飛ばす余裕もなく、マァシュッ! 喉を裂いたマシュへの要請。

 気配を察知することは出来ず、四方から惨劇が放たれる。故にこそ――否、だからこそ。剣軍を召喚する余力などなく、指示を飛ばすことが限界だ。詳細なコマンドなどない。だが、それでも其れに答えるという、英霊の――エミヤシロウの矜持が、信頼があって初めて無意識下に於ける高難度の連携を可能とする。

 

「――アーチャーァ……ッ!!」

「わかっている……!」

 

 ――工程完了(ロールアウト)

 

 固有結界が出せない以上、エミヤに全方位射撃の術はない。そして今現在も防御術式を稼働させている以上、それを緩めることなく空間転移魔術を行使し投影品に干渉する力は流石のグレムリアにも残っていなかった。

 グレムリアの千里眼に今置かれている状態で、このアタランテを鮮明に補足し撃退するほどの能力はない。エミヤの固有結界を展開しようにも――『後々』のことを考え見るに、ここで令呪を切るには些か早過ぎる。故にこそ、苦肉の策としてグレムリアはエミヤに全力の支援を施す。

 ――だが、今はそれだけで十二分だった。

 

全投影(ソードバレル)――連続層写(フルオープン)……!」

 

 それに、精密な操作など必要ない。

 剣先は全てが眼下の大地へと。土を穿ち、矢を止め()()()だけでいい。

 

 神秘を含んだ投影品がアタランテへと迫る。直下に放たれる弓矢が互いに殺し合う。青い雷光が弾けた。人の限界を超えた挙動──其れが可能とする刹那の間の迎撃及び退避。

 眼前の大地が砕けたのを見て、アタランテは舌打ちと共に身体を回転させた。途方もなくズレている。どうしようもないほどな擦れた歯車が更に外れて行く。ギチリ、と何がまた()()()

 刹那の間、惨劇が止んだ。

 だがそれもコンマ一秒にも満たない正しく"瞬き"の間の出来事だ。人の理を超えたその戦いに――常人である立花の意識が追いつくことなどあり得ないことだった。其れが災いした――否、この場合は幸いしてというべきか。

 

 転移魔術、発動。

 

 ――任せてください。

 マシュが頷き、けれど立花が反応する間もなく発動された其れ。グレムリア――!? そんな声が背中に当てられ、砲撃が止んだ刹那を縫って、転瞬の内に彼女たちの姿が消えた。

 それを察知したアタランテが一度目を細めたのち、壮絶な笑みを浮かべ立ち様に矢を番えた。

 

「……アァ」

 

 同時、魔力の波動――それを読み取ったグレムリアは、未だ剣を放ち続け牽制を続けているエミヤを一瞥した後、魔本を全力で稼働させる。投影品が魔力へと回帰すると同じくにして、神秘が波打ち、虚空より放たれるは数多の色彩を孕む煉獄。

 大地から噴き上がるようにしながら、それらが相殺し合いインパクトを生んだ。方や空から降りてくる女神の弓文、方や魔導の極致。余りの衝撃に大気が歪む。

 

 ――男に二言はない。お前は、俺がここで止める。

 

 状況を整理する。未知へと至った敵との相対である以上、油断も慢心も許されはしない。

 瞬時に見極めろ。其れが俺がするべき事だろう。己を叱咤し前を向く。

 判別しなければならない。敵の戦力は? 種別は?

 目視にて確認次第考察しなければならない。敵への対処法は? 敵の目的は?

 魔術(弾丸)をバラまいて片付けられるのは、理外に身を置かない常道の存在のみ。一歩裏道に踏み込めば、たちまち物理法則を嘲笑う不条理な現象に襲われる。

 故にこそ、そこまでやって初めて――英霊同士の戦闘は成立する。

 必要なのは反射的に敵を殺す脊髄反応ではない。極限まで切り詰めた状況に於いて選択肢を取捨選択し詰めていく。出なければ、未来視という能力なぞあっても何も変わらない。

 闇雲な喧嘩が許されるのは子供までだ。魔導や軍事に関わる者同士の殺し合いに、運という要素は存在しない。勝つべくして勝ち、負けるべくして負ける――これはそういったゲームだ。幸運の女神が微笑んでくれない戦いに於いて、自身の幸運に頼り切った戦闘方針などあってはならない。

 

 現状に於いて明確なのは、麗しのアタランテは敵性個体に霊基を強奪されているということだ。並びに大規模魔術炉――聖杯からの大規模なバックアップもあると見て相違ない。

 俺の信念から見ても、どうしたって脅威度は高い。そしてこの森林というフィールドだ。長期戦は分が悪すぎる。

 勝機は短期戦しかあり得ない。ならば選択肢は――。

 

 魔力を廻し、使用可能な魔術回路を稼働させカルデアからの魔力供給を切る。筆舌に尽くしがたい脱力感に顔を顰めつつも、生来の魔力が体に流れ、全身の魔術回路が澄み渡っていく。

 ――アーチャー! それを察したエミヤが此方を見て、倍に膨れ上がった魔力供給に目を見開く。

 

「五秒でいい、頼むぞ」

「構わないが――別に、倒してしまっても構わんのだろう?」

「ぬかせよアーチャー。……()きろ、賢者の本(アカシック・レコード)

 

 暴力的なまでな魔力がグレムリアを中心にして吹き荒れる。座標指定クリア。対象物指定クリア。

 術式解放まで、後――。

 

 

 本来であれば、固有結界を展開し相手の凄まじいまでの隠密を遺憾なく発揮させている森林というアドバンテージから切り離すのが最善の一手であることは重々承知している。全方位の射撃もできるようになり投影の精度諸々の上昇を考えても、明らかに展開するが吉だと――エミヤの心眼はそれを悟っていた。

 ……だが、エミヤの奥底にあるものが叫ぶのだ。ここでやってはいけない。まだそれをする時ではないと――そう、幸運E(カミ)は言っている。

 

「――『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』」

 

 飛来するは数多の剣弾。生前から今までの経験則から弾き出した推測に則って剣弾を射出し、着弾と同じくに基礎骨子を砕いて魔力へと変換、衝撃を乗せて爆破する。

 ――今のは! それを見たアタランテの奥に生まれた本能がその正体を察し、回避を終えた体のまま僅かの間動きが止まる。

 さざめく森の中に、白髪の男。黒い戦闘服に外界への守りである赤の皮布、軽装甲を身に付けた弓兵は黒弓を手に。

 鷹のような瞳で黒弓に番えるそれは、紛れもなく神秘の剣だ。捻れて捩れた刀身のそれが、弦と共に引き絞られるやいなや形状を矢のそれへと変化させ、爆発的な魔力の昂りを発露する。――そこか。

 

「『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』」

 

 破壊力Aランク相当。爆破力も含めればA+へと届きかねるほどの剣弾が駆ける。赤枝、フェルグス・マックロイの螺旋剣。それを矢へと変形したものが――アタランテの頬横を掠めた。

 自らを過ちなく穿とうとする螺旋の剣。鎌鼬に似た現象によって頰を浅く斬り裂かれ、背面の樹木を貫こうとして。

 しまっ――そんな表情を浮かべ、アタランテが身体を丸め転がった。ずるりと土へと頭を当てながら衝撃を逃そうと身体を小さくして――

 表面を浅く抉るや瞬間炸裂させる。四方へと衝撃が散った。地面を這い上がらせ、木々を揺らして土煙が捲き上る。

 構えた弓を下ろし、即座に周囲に視線を走らせ――

 大きく盛り上がる肉塊有り。ギョロリと蠢くそれは、何時かみた王の魔術式の成れの果てに酷似していて。

 

「これで終わりだ――」

 

 グレムリアの術式。忽然と広がりを見せる其れが発動したのはアタランテの『盾』が消えるのとほぼ同時だった。

 

 パチンッとグレムリアは指を鳴らす。幾何学的な紋様は地面一杯に広がり尽くし、荒れ狂う魔力が世界を席巻する。特大の魔法陣、異常に過ぎる魔術式――

 上下左右東西南北。全てが裏返り、地も、木々も、空さえも"反転"する。

 

「――ァッ!」

 

 全てが逆さになった世界へと変貌を遂げても尚放たれた、七つの弓矢。

『北斗の七矢』――天へと放たれた矢は、堕ちることのない北天の星座〝大熊座の七星〟に転ずる。アタランテの矢は銀を帯びる流星と変じ、一矢による超高速七連弾。

 必死の威の籠もる、石すら穿つ弓が刹那のうち標的へと放たれる。

 カリュドンの猪の皮膚をも破り、北欧の竜殺しの鎧すら貫通してのけた矢が、ほぼ同時に頭上から隙なくして襲い掛かってくる。

 

 ()()()()()()()()()

 にも関わらず、幾ら万全の体制からの掃射でないとはいえ――グレムリアはそれらを一瞥の内に留めた。

 手を翳し、たったそれだけで七つの流星は虚空に"呑まれた"。

 

 アタランテが大きく目を剥く。慢心はない。刹那の間も無く弓兵と魔術師の一撃が放たれた。

 碧天を駆けるベオウルフの有する魔剣。血を嗅ぎ、敵を仕留めるまで落ちることのない赤い猟犬――最適解の劔。それを鏃へと変じさせた魔の弾丸。

 同時に予め展開していた魔術式を解凍し一斉掃射。三十に及ぶ波紋から雷光が吐き出された。森林を更地にせんとばかりの攻撃である。

 

 土煙が舞う。

 

 仕留めては――いない。だが敵から感じる殺意が薄く、先とは異なりここで仕留めるという気概が感じられなかった。

 これは……まさか。この、視線は。

 肌が粟立つ。此方を見定めんとするばかりの――即ち。

 

「――チィッ!」

 

 これほどであれば、制約はあれど見通すことなど容易い。

 そうやって、視えたのは。

 

 ――第六架空要素。願いに取り憑き歪んだ方法で成就させる存在。

 悪魔に憑かれることにて起きる、人を構成する要素の異変。精神の変容。終いには肉体すら変化し異形の怪物となるという。

 理解し、嘲笑し。

 

「散れ」

 

 一瞬にして臨界に達し、蒼い極光が"それ"を吹き飛ばした。

 

 

 

 ――孔が開く。

 空気が雷光を帯び、地面が朧げに蠕動する。

 

 土煙の先にあったのは、大きな孔だった。

 まるで、この特異点そのものに錨として打ち込まれたそれの跡のように。大きく開き、底のない闇を覗かせていた。

 恰も消えるようにして、此処から去っていったそれを見たグレムリアは。

 

「――やられた」

 

 此方に収穫があったとはいえ。これはあまりに大きい損害だ。

 そう小さく嘯き――何処か重い風が、グレムリアのコートを揺らしていた。

 

 

 

 








申し訳ありませんが、今年の更新はかなり遅々としたものになります(元々遅いですけど)
……と言うのも、作者実は今年で受験生なのです。勉強せにゃならんのです。辛い。ほんと辛い。やだー。
そんなどうしようもない作者ではありますが。一年と少し経って戻ってこれることを祈りながら、暇を見つけて執筆していくつもりではあります。がんばれ俺。超がんばれ。
失踪はするつもりはないので、兎にも角にもよろしくお願いします。

それでは、さらばー、です。






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