カミュと双子のものがたり   作:だる   

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第2話

「ああ、お腹がすいたわ。もう一歩もあるけない」

 クレイモランの城門をくぐったとたん、ベロニカはそういってたき火のそばにすわりこんだ。

「ごめんなさい、お姉さま。私が食事をたくさん分けていただいたからですわ」

「バカねセーニャ、大きい人がたくさん食べるのはあたりまえでしょ。急な出発だったから、持ちだせる食べものが残りもののおイモのおだんごとパンしかなかったのよね。カミュが多めに用意してくれていて、助かったわ」

 落ちかけた太陽のまなざしは、城壁にかこまれたクレイモランの城下町にはすでにとどかないが、石づくりの家々にはめこまれたステンドグラスからもれだす色とりどりの光と、日暮れでもせわしなく行きかう人々のおかげで、町は明かりがなくとも歩けるあかるさを保っていた。

「おつかれさん。まるまる二日、歩きどおしだったもんな。ギリギリだったが、陽のあるうちにたどり着けてよかったぜ。調べものはあしたにするとして、まずは宿をとらないとな」

「そうですわね。さあ、お姉さま、あたたかいところまで行ってから休みましょう。冷えてしまうとお体にさわりますわ」

 セーニャがベロニカの手をとって立ちあがらせると、ベロニカはうめき声をあげながらよたよたと歩きはじめた。

 

 

 

 古代図書館が発見され、学術の都として興ったクレイモランは、陽のあるうちは雪国らしい厳かさと静けさにつつまれているが、夜になると貿易港としてまったく違う顔をみせる。

 船の積み荷の揚げおろしはたいへんな力と人手がいる作業であり、港にはなりわいを求めて多くの男たちが集まるものだ。

 そんな仕事をになう屈強な男たちが、一日を終えてねぐらにもどり、疲れた心と体を癒すためにもとめるものは酒と女と相場がきまっており、夜の町は彼らの期待にこたえるため、相応のいかがわしさをみせるのだ。

 そんな町で、女子供がおちつける場所をさがすのは、すこしばかり骨の折れることだった。

 三人は酔っぱらいになんども絡まれながらにぎやかな大通りをぬけ、城壁につきあたるせまい路地に入ると、窓のあかりをたよりに奥へと進んだ。

「ああ、この看板だ。安宿だが、船乗り連中じゃなくスジのいい客を選んでやってるんだ」

 カミュがふたりにそう言ってドアをこぶしでドンドンと叩くと、やがてドアが開けられ、中から顔を出した恰幅のいい女は三人をじろじろとたしかめた。

「旅のご夫婦かい?あいにくだけど、ベッドがひとつしか空いてなくってね」

「いや、夫婦じゃないし、オレは泊まらない。こいつらが休める場所を探してるんだ」

 カミュがベロニカとセーニャにベッドはひとつでもいいよな、とたずねると、ふたりはだまってうなずき、様子を見ていた女将は不思議そうな顔をした。

「なんだい、なにかワケありかい?まあ、そっちの二人だけならかまわないよ。食事は?」

「たのむ。オレにも飯だけ食わせてもらっていいかい」

 女将はだまって三人を中へと招きいれ、暖炉のそばのイスのふたつあるテーブルへ案内し、いちど奥へと消えると、がたがたと音を鳴らしながら木製のイスをテーブルのそばへと運び、クッションをふたつイスの上に重ねた。

 

 

「あたしたちね、魚とか貝とか、里を出てからはじめて食べたのよ」

 ベロニカは口とスープのあいだでスプーンをせっせと往復させながら言った。

「さいしょはね、なんだこれと思ったわ、生臭くって。だけど、今では好きな味になったわ」

「私も世界にはこんなにおいしいものがあるのだと知って、感動しましたわ」

「そうかい。オレにとっては、またこれかって味なんだが」

 油をはった小皿の灯りでかろうじて見えるテーブルの上には、じゃがいも、タマネギ、にんじんに貝を加え、ミルクで煮込まれたとろりとしたスープが木でできた皿から湯気をたちのぼらせており、その脇にはすっかり固くなってしまったパンが何切れか添えられていた。

「そういえばさ、アンタ、いまはこの町で暮らしてるの?マヤちゃんといっしょ?」

「ああ。こいつを食いおわったら帰るよ」

「へえ。旅をしていたころ、アンタこの町にくると複雑な顔をしていたじゃない?マヤちゃんのことがあったからだって、今はわかるんだけど。それだけじゃないような気もしたのよね」

 カミュはまあ、と言いづらそうに答えた。

「正直いって、マヤのことも含めていい思い出は全然ないよ。だが、オレひとりならともかく、アイツといっしょに暮らすとなると、なかなかな。いい思い出はないが、ここはよく知ってる町なんだ」

「妹さまのこと、たいせつにされているのですね」

 セーニャが尊敬をこめた口調でそう言うと、カミュは苦笑した。

「そんな大それたもんじゃないよ。うまく言えねえが……お前たちだってそうだろ?一人でほったらかすわけにもいかねえというか、ま、そんなとこだよ。こんなんでも兄貴だからな」

 すこし照れてみせるカミュに、わかるわ、カミュ、とベロニカがセーニャのほうを見ていじわるっぽく言った。

「マヤちゃん、アンタがついていないと、ひとりで突っ走っていっちゃいそうなとこがあるもんね。あの性格、セーニャに半分わけてやってほしいわ」

「はは。セーニャからも半分もらったら、お互いちょうどいいかもしれねえな。おっと、セーニャ、気にすんなよ、オレたちお前を褒めてんだ」

 ふたりの話を聞いて困惑するセーニャに、カミュは笑いかけた。

「そんじゃ、オレは帰るよ。明日、陽がのぼりきる前に迎えにくる。ゆっくり休んでくれ」

「おやすみ、カミュ。また明日ね」

「ゆっくりお休みください、カミュさま」

 カミュは女将からランプを借りると、ドアの前で片手をあげてふたりにあいさつをし、夜の町へと消えていった。

 

 

 

 真冬のようなうすい青空の下で、広場のおおきな宝玉は太陽に負けんとでもするようにかがやきを放ち、それを抱くようにそびえるクレイモラン城は、多くのステンドグラスでかざられ、城そのものが芸術作品であるかのようだった。

「エッケハルトさん、だったな。頼むぜ、セーニャ」

「だいじょうぶ。いつもと同じように話せばいいのよ」

 ふたりがそう言うと、セーニャは不安げな顔をみせた。

 世界全土をおびやかすような脅威は去ったが、いかに平穏な時代でも、城や王宮はだれもがおいそれと立ち入れる場所ではない。

 クレイモラン城ももちろん例外ではなく、衛兵たちがしっかりと城門を固めていた。

「しかし、ほんとうに思い出すほどに夢みたいな話だよな。相棒もふくめてよ、いっしょに旅をしていたあの八人のなかで、オレたち三人とシルビアさんのほかは、きっと顔を見せるだけで堂々とあんな城にも入って行けるんだぜ」

 カミュは自嘲するように笑ってみせた。

「シルビアさんも入れるんじゃないかしら、外の世界では有名なんでしょ?まあ、いまはそんなことを言っても、しかたがないわね」

「だけど、どうして私なのですか?私はお姉さまやカミュさまのように、頭のまわりがよくないですわ。うまくお話できますかどうか」

 セーニャがたずねると、カミュとセーニャはおたがいの顔を見合わせ、セーニャにおどけてみせた。

「すっかり見慣れちまっててわかんねえか?オレはこのとおり、ハタからみりゃ小汚いカッコをした、何をやってるのかわかんねえ怪しい男だしよ」

「あたしは見てのとおり、チビのくせに生意気な口をきくお子様だわよ。セーニャ、あんたが一番“フツー”にみえるの」

「そういうことだ。くわえて言うなら、お前に話しかけられて悪い気のする男はいないだろうと思うぜ」

 はあ、とセーニャは納得いかないようすで生返事をした。

「わかりましたわ、エッケハルトさまにお会いできないか、お願いすればよろしいのですわね」

 カミュとベロニカが衛兵から見えないよう、外壁のかげにこそこそと隠れると、セーニャは衛兵たちから見えるよう、正面扉のまえへと歩きだした。

 

「あ、あの。ごきげんよう」

 セーニャが衛兵たちに向かって深くおじぎをすると、向かって左がわの衛兵が槍をかまえて警戒をみせ、右がわの衛兵はそこで止まれ、と大きな声でさけび、鎧を鳴らしながらゆっくりとセーニャに歩みよった。

「ふむ、見ない顔だな。ご婦人、われらが城に何用か」

「は、はい。エッケハルトさまにお会いいたしたく、こうしてまいりました」

 ふむ、と衛兵は左手でひげをなでた。

「たしかご息女はおられなかったように思うが。ご婦人は学問の徒かね?」

 いえ、とセーニャはなんとか声をしぼりだした。

「ですが、おうかがいしたいことがありまして」

「エッケハルト様はなにかとお忙しい身だ、訪ねてくるものも多い。ご婦人、面識はあるのかね」

「はい、たいへんお世話になりましたわ。魔女さま……いえ、リーズレットさまが凍てつかせたこの町を救う手立てをさがして、いっしょに旅を」

 衛兵がとつぜん、おお、と叫ぶと、セーニャはびくっと身をすくめた。

「もしや、勇者どののお連れの方か?」

 ひげを生やした衛兵が、槍をかまえているもうひとりの若い衛兵におおきな身ぶりで手招きをすると、若い衛兵は小走りにセーニャに駆けより、顔をのぞきこむと、興奮したようすで口をひらいた。

「ああ、間違いないです。セーニャさまですよね、自分、覚えております」

「おお、そうであったか。これは失礼いたした。自分は勇者どのとそのご一行を目にしたことがなかったものでな。無礼をお許しくだされ」

 いいえ、そんな、とセーニャが緊張した笑顔で返事をすると、衛兵たちはせきを切ったようにはなしはじめた。

「こいつはあなた方にすっかり熱をあげておりましてな、城のもの皆にあなた方の話を聞いて回っておるのですわ」

「いやあ、またお会いできるなんて、自分光栄っす。勇者さまは故郷にもどられたんすよね?セーニャさまはいま何を?」

「ふむ、しかし思っていたよりお若いですな。救国の英雄と聞きおよんで、もっと威厳のある方かと思っておりましたぞ。うちにも同じくらいの歳の頃の娘がおりましてな、そのような物腰、身につけさせたいものですな」

 

「なんか……おかしなことになってないか」

 ようすをうかがっていたカミュが、小声でぼそぼそとつぶやいた。

「歓迎はされているみたいだけど……押しが弱いのよね、あの子」

「どうする?助けにいってやるか?」

「うーん。あ、こっちを見たわ。手をふってる」

 ふたりが城壁のかげから身を出し、軽くおじぎをすると、衛兵たちはにこやかに敬礼をした。

「お連れの方がいらっしゃったとは。ええと?」

「カミュさまと、ベロニカさまっす。そうですよね?」

「ふむ。ようこそおいでくださった」

「どうも。なあ、悪いんだけどさ、オレたち、エッケハルトさんに用事があって来たんだ」

「おお、そうであったな。すぐに取り次ぎますゆえ、中に入ってお待ちくだされ」

 城に招きいれるために衛兵たちが背を向けると、セーニャは胸をなでおろして深くためいきをつき、カミュとベロニカはねぎらいをこめてその背中を軽くたたいた。

 

 

 若い衛兵は三人を城の一部屋へと案内し、すこし待つように言って、持ち場へともどっていった。

 おそらく城の学者たちのものであろうその部屋は、どの机も古めかしい本や紙の束で散らかっており、壁一面の本棚からは本があふれ出し、床に積みあがっていた。

 部屋の広さに反して中にはだれもおらず、三人は部屋のすみからカミュが見つけ出してきたスツールにそれぞれ腰かけた。

「知らない間に、あたしたちけっこう有名になっていたのね。握手までたのまれちゃったわよ」

 ベロニカは、片手で鼻をこすりながら、得意げに言った。

「まあ、悪い気はしないが、自分が知らない相手が自分を知ってるってのは、おかしな感じだな」

「ほんとうですわね。どうお話すればよろしいのか、わかりませんでしたわ。名前が知られることは、よい事ばかりではないのかもしれませんね」

 三人がすっかりたいくつし、本棚をぼんやりとながめ始めたころ、ノックの音が聞こえ、すぐにドアが開いた。

「ようこそクレイモランへ。さて、私になんの用だね?」

 エッケハルトが単刀直入に切り出すと、三人は軽く頭をさげてあいさつをした。

「こんにちは、エッケハルトさん。お忙しいところ、ごめんなさいね。あたしたち、どうしても知りたいことがあって」

「ええ。ニザーナとハスダールって国を探してるんです。でも、オレたち、世界をくまなく旅したつもりだったんですけど、聞き覚えがないんですよ」

 エッケハルトはふむ、としばらく目を伏せると、やがてかぶりをふった。

「いや、私も覚えがない。事情を聞いてもよいかね」

 三人が指輪のことを話すと、エッケハルトは興味深い、とつぶやいた。

「実はな、この国の学者たちが長年取り組んできたことがあるのだ。先代、先々代のクレイモラン王の時代から、いや、もっと以前からかもしれん。これは、その成果を試す絶好の機会。君たちは運がよいぞ」

「それは、どういうことですの?」

 セーニャがたずねると、エッケハルトは嬉々としたようすで語りはじめた。

「古代図書館の目録の編纂。君たちも見たであろう?あの図書館は、年代、文字、内容、そのすべてを無視して書物を並べてあるのだよ。手に入れたい知識があっても、まずはその本にたどり着くまでに想像を絶するような苦労が必要だった。だが、私たちは長い時間をかけて、その目録を制作してきた。一冊づつ丁寧に読み解き、分類し、記録し」

 熱弁するエッケハルトに、つまり、とベロニカがわりこんだ。

「今はわからなくても、調べられるということかしら?」

「その通り」

 エッケハルトは満足げにうなずいた。

「だが、国名だけではなく、もう少し手がかりが欲しいな。例えば地理、時代。手がかりが多いほど、特定も早くなる」

 カミュはふところから指輪を取り出すと、カミュとセーニャにめくばせをした。

「指輪さんから、もう少し手がかりを聞き出してみるとするか。辛いだろうが、頼むぜ」「ごめん、セーニャ。お願いしてもいいかしら」

「ええ。お姉さま、お任せください」

 セーニャはカミュから指輪をうけとり、ゆっくりと右手にはめると、すぐに力を失ったようにうなだれ、やがて顔をあげた。

「……この者……も……お前たちの……仲間か……」

「ああ、偉い学者さんなんだぜ。お前と話したいって」

「ふむ。私は君をなんと呼べばよいかね」

 エッケハルトはセーニャを見つめながらあごをなでた。

「……我ら……名を……持たぬ……」

「そうか。君たちの暮らした世界のことを、なにか覚えているかね。例えば、ニザーナ、ハスダール、その二つのほかに国を知っているかね」

 セーニャは表情を失ったまま両目を閉じ、やがて答えた。

「……わからぬ……我らの記憶……薄れている……」

「君たちの故国の景色はどうかね。森林、雪原、山岳、どんな場所だったか」

「……黄金色の……大河……我らに豊穣を……もたらす……神の恩寵……なり……」

 ほう、とつぶやき、エッケハルトは片めがねをあげた。

「なるほど。貴重な手がかりだ。君たちの無念が晴れ、安らかに眠れる日を祈ろう」

「……汝らの……仁心……助力……感謝する……」

 感謝の言葉を伝えおえると、セーニャはそっと両目を閉じ、指輪をはずした。

 セーニャはふたたびうなだれると、すぐに力を取り戻した。

「だいじょうぶ、セーニャ?」

「ええ、お姉さま。でも、少しそっとしておいてください」

「うん。何も言わなくていいわ、ついててあげる」

 ふたりの様子を見て、エッケハルトはほお、と感心したようすだった。

「敵意を持たぬ呪いか。そういうものもあるのだな。いまだ叶わぬ永遠の命の代わり、後世のものに願いを託したのだな」

「それで、エッケハルトさん、なにかわかったんです?」

「うむ。君は荒野に流れる川を見たことがあるかね」

 カミュはひとしきり考えこみ、首をふった。

「荒野に流れる川は、多くの土砂を含むため、泥水のような色をしている。黄金色とはおそらく、それを讃える表現だろうな。サマディー王国に広がる砂漠には、かつて大河があったそうだ。今では枯れ果ててしまったがな」

「砂漠か……なんだか、だいぶ絞りこめましたね」

「しかし、あの広大な砂漠から国の痕跡を探り当てるには、さらに絞り込む必要があるだろう。つまり、我々の出番と言うことだ」

 エッケハルトは、そういって自信たっぷりに笑ってみせた。

「とはいえ、それなりに時間をもらうぞ。君たちは君たちで、別の探し方をしてみてはどうだ」

「うーん、オレたちに出来ることがあればやりたいんですけど。なにか、心当たりなどはありますか」

「うむ。たとえば、君たちに同行していたロウ様は、相当に歴史に明るいようだったぞ。それに、君はその指輪をどこで手に入れたのかね?」

「ああ、こいつはデルカダールのスラムで、がらくた売りから手に入れたんです」

「故買はあまり感心しないが、その者に入手経路を問いただしてみても良いだろうな。ところで、なにか分かった時、どこに連絡をすればよいのかね?」

 カミュは少し考えこむと、エッケハルトから紙とペンを借り、城下町のかんたんな地図を描き、さいごに印を書きいれた。

「オレの妹、城下町に住んでるんです。マヤって言うんですが、こいつに連絡をもらえれば、オレたちにも伝わるはずです。印のあたりの界隈で、オレかマヤの名前を出してもらえれば、すぐに見つかると思います」

「うむ、了解した。では私はこれで……いや、そちらのお嬢さん方は平気かね。城の者を呼んできても良いが」

 エッケハルトがセーニャに声をかけると、セーニャは弱々しく笑顔をつくった。

「ええ、ありがとうございます、エッケハルトさま。でも、もう少しここで休ませていただいても、よろしいでしょうか」

「構わんよ、今日はおそらくこの部屋に立ち入る者はいないだろう。では、君たちも何か手がかりをつかんだら、連絡をくれたまえ」

 三人がお礼を告げる間もなく、エッケハルトは部屋に入ってきたときと同じように、すみやかに立ち去った。

 

「衛兵さんが言ってたけれど、ほんとうに忙しい人なのね。でも、おかげでなんとかなりそうな感じがしてきたわね」

「ああ、いつか改めてお礼を言わないとだな。しかしセーニャ、ほんとうに大丈夫なのか?」

「そうよセーニャ、ヘンな意地をはらなくてもいいのよ。あたし、人を呼んでくるわね」 セーニャが駆けだそうとするベロニカの服の襟をあわててつかむと、ベロニカはぐえっという声をもらし、せき込んだ。

「なにすんのよ!頭がとれちゃったかと思ったわ!」

「ごめんなさい、お姉さま。今からセーニャは、ほんとうのことをお話しますわ。実は」

「実は?」

「先ほどの衛兵さまたちとのやりとりで、すごく疲れてしまって。お城の方を呼んだら、きっとあの方たちと、それ以外のみなさまも……」

 カミュとベロニカは顔を見あわせると、口をそろえてセーニャはよくがんばった、とねぎらいの言葉をかけ、ぽんぽんと背中を叩いた。

 

 

 

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