カミュと双子のものがたり   作:だる   

9 / 10
エピローグ

「あら、もう起きてたのね」

「おう」

 やさしい朝日につつまれたラムダの里の宿のかたすみで、カミュはベロニカに片手をあげてあいさつをした。

 ベロニカはイスにクッションを積みあげると、カミュのとなりに座り、テーブルに頬杖をついた。

「ありがとね」

「ん?」

「アンタのおかげで、無事に旅を終えて、こうして帰ってこられたのよね」

「ああ、いいって。オレにとっても、いい旅だったよ」

 しばらく沈黙がつづき、ベロニカがぽつりと話した。

「楽しい旅だったわね」

「ああ」

「あたし、セーニャのこと、誤解してたわ」

「誤解?」

「うん。あの子は、あたしのあとを、ゆっくりついてきてるんだと、思っていたんだけれど。そうじゃなかったみたい。セーニャは、あたしにないもの、たくさん持っているのね」

 カミュは片手を顔のまえで振り、ははっと笑った。

「らしくねえこと言うなあ」

「そうかしら?」

「オレから見ればよ、お前たちふたりが持ってるものって、同じに見えるよ」

「同じ?」

「ああ。例えばこのハーブティだよ」

 カミュはそう言ってハーブティにミルクとはちみつを注ぎ、スプーンでぐるぐるとかきまぜた。

「ベロニカとセーニャ、どっちもハーブの味がして、ミルクとはちみつが入ってる。違うのは、注いだお茶の濃さだったり、はちみつの量だったり……はは、すまん。例えが悪かったな」

「あはは。あいかわらず、詩みたいなこと、言うわね。でも、言ってること、なんとなくわかるわ。他人からは、そう見えるのかあ」

 カミュはカップからお茶を口にふくむと、顔をしかめた。

「オレ、好き嫌いはあんまりないはずなんだが、このハーブティってやつ、やっぱり苦手だな」

「なによ!失礼ね!」

 ベロニカが大声をだし、カミュはたじろいだが、ベロニカがにっこり笑っているのをみて、すぐに苦笑いを返した。

「はは。すまねえ、オレってこういうところ、本当に気が利かないよな」

「いいのよ。そういうとこ、アンタらしいって思うもの」

「そいつはどうも。きっと、みんなこうやって、無いものねだりしてんだな。他人の持ってるもんがよく見えてさ。他人を見れば、そのままでいいのにって思うんだが、どうしてか、オレはこのままでいいのかなって、不安になるんだよな」

「うん。あたしだってそう」

「この旅でみんなに会って、そういうことがよくわかったよ。指輪の無念じゃねえが、こういうの、ずっと抱えていくんだろうな」

 カミュはそう言って手持ちぶさたにお茶をすすり、また渋い顔をした。

「そういや、指輪はどうなったんだ?」

「なんかね、ただの指輪にもどっちゃったみたい。セーニャは、はめるとお話ができる気がするんです、って言ってたけど」

「そうなのか。無事に召されたってことなのか?」

「わかんない、けど、そういうことにしておきましょ。セーニャのためにもね」

「ああ、それがいい。オレたちにとっても、そっちのほうがいい話だ。しかし、あの手のモノは、まだ世界中に転がってるんだろうな」

「あっ、そうだ。アンタに渡すものがあるのよ。ちょっと待っててね、取ってくるわ」

 ベロニカがそういって宿から駆けだすと、ほどなくして代わりにセーニャが入ってきた。

 

 セーニャはカミュの顔をたしかめると、軽く頭をさげ、ゆっくりとカミュのとなりに座った。

「おはようございます。カミュさま、このたびは本当にありがとうございました」

「いいって。ベロニカにも言ったが、オレにとってもいい旅だったんだ、言いっこなしにしようぜ。指輪、セーニャが持ってるんだって?」

「はい。お姉さまが、これは私のものだって」

 セーニャはそう言って、ふところから大事そうに指輪をとりだした。

 カミュが見守るなか、セーニャはゆっくりと指輪をはめてみせたが、なにも変化は起こらなかった。

「そうか……まあ、消えちまったってことは、悪い意味じゃないよな、きっと」

「ええ、そう思います。それに、お姉さまが」

 セーニャはそう言いかけて、はっと何かに気がつき、両手で口をおおった。

「ん、ベロニカがなにか言ってたのか?」

「いえ」

 セーニャは口元に立てた人さし指をあて、ウインクしてみせた。

「私たちふたりの、ヒミツです」

 カミュはセーニャのしぐさをみて目を丸くしたが、すぐに大きな声で笑った。

「はは。セーニャ、なんか変わったよな。少しだが、お前のお姉さまに似てきた気がするよ」

「そうですか?」

「ああ。逆に、ベロニカは少し、セーニャに似たんじゃないか。うまく言えないが、少しだけ、素直になった気がするぜ」

「それは私にもわかりました。カミュさまも、同じことを感じていたのですね」

「おう。ベロニカのヤツ、お前のこと、褒めてたぜ。しかしふたりとも、なにがあったのかね。そういや、お前の言ってた悩み事ってやつ、どうなったんだ?」

 セーニャは笑顔のままうつむき、言いづらそうに答えた。

「それは……おたずねにならないでください。でも、私はもう大丈夫ですわ」

 カミュは、ふーん、と言いながら腕組みをした。

「やっぱりオレ、他人の心のこと、全然わかんねえんだな。ニブいのは知ってたが、今回の旅で痛感したよ」

「いえ、カミュさまは、そのままでよろしいのです」

「はは。ベロニカにも同じことを言われたよ。ま、オレに話せないことでも、ベロニカにはいつか話せるだろ?」

 カミュがそう言うと、セーニャはしみじみとした表情でうなずいた。

 

 ふたりが話を続けていると、ベロニカが息を切らせて宿に駆け込んできた。

「あら、セーニャ、ここにいたのね」

「はい、お姉さま。あれをお持ちになったのですね?」

 ベロニカはセーニャに手を取られ、クッションを積みあげたイスに座ると、テーブルの上に、円錐形で空色に透きとおった、小指ほどの石を置いた。

「ん?これはなんだ?」

 カミュがたずねると、ベロニカとセーニャはお互いの目をみて、ほほえんだ。

「これはね、ふたりで作ったのよ。ほんとは、アンタが指輪を持ってきてくれたときに、渡そうと思ってたんだけど。忘れてたわ」

「はい。きっと、カミュさまのお役に立つはずですわ」

 ベロニカが片側についた鎖をつまみあげ、持ってきた杖に向けて石を垂らすと、円錐形の石は、赤い光をはなった。

「みえた?これね、魔法がかかっている品を見分けられるのよ。良い魔法か、悪い魔法かまでは、わかんないんだけどね」

「へえ、そいつは便利だ。そいつがあったら、今回の旅に出ることもなかったのかな」

 三人は顔をみあわせ、うーん、とうなった。

「まあ……そういうことになるわね。でも、あたしたちが手にしなかったら、指輪さん、ずっとあのままだったのよね」

「ええ。いったいどう考えたらよいのか……めぐり合わせとは、本当に不思議なものです」

「うん。ま、そういうことだから、これ、アンタにあげるわ。あたしたちふたりからの、旅のお礼ってことでね」

 ベロニカとセーニャはふたりで鎖を持ってカミュに差しだすと、カミュは手のひらで受けとった。

「ありがとな。さっそく、なにかで試してみたいな。お、そうだった」

 カミュは荷袋をごそごそとあさり、深紅の宝石がついた一対の耳飾りをとりだし、テーブルに置いた。

「これもお前らにやるつもりだったんだが、どれ、確かめてみるか」

 そういってカミュが耳飾りにむけて円錐をたらすと、円錐は赤いかがやきをはなった。

 三人は顔を見あわせると、カミュは大きなため息をつき、ベロニカとセーニャは大きな声で笑った。

「アンタ、この手の品をさがす専門家になれるんじゃないの?」

「我ながらスゲーと思うよ。もう、お宝だとか宝石に関わるの、やめようかな」

 ベロニカがなぐさめるようにカミュの肩をぽんぽんと叩くあいだ、セーニャは耳飾りをじっと見つめていた。

「それで、この耳飾りはどうされるのです?」

 カミュたちはしばらくだまって考えこんでいたが、やがてセーニャが耳飾りを手にとり、にっこりとほほえむと、カミュとベロニカはあわててイスから立ちあがった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。