艦これ~五月雨と提督~   作:緋月霊斗

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建造完了

鎮守府、執務室。

帰投した五月雨を入渠に向かわせ、出撃報告をまとめていた提督。

書類をまとめ終わり、工廠へと向かおうと思った矢先、執務室に明石が飛び込んできた。

「て、提督!」

「うわっ!?どうした?」

ヘッドスライディング気味に入ってきた明石を受け止め、提督が尋ねる。

「できました……」

「できた?あ、もしかして新しい艤装か!?」

「そうです!早く工廠へ!」

提督は明石に急かされながら足早に工廠へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「これが……新しい艤装か……」

「はい。これは特型駆逐艦のものですね。恐らく暁型の物かと」

「暁型か……とりあえず、大本営に新人艦娘の派遣要請を出しておこう」

提督がそう言うと、明石が机の上に置いてある書類を手に取り、差し出す。

「はい、申請書類はこれです。艦種などは記入してあるので、あとは提督のサインと印鑑ですね」

「わかった。じゃあ、後の整備とかも頼めるかな?」

「任せてください!即実戦投入できるようにしますよ!」

「頼もしい限りだ。お願いするよ」

提督はそう言って執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

提督が執務室へ戻ると、入渠から戻った五月雨が既に仕事の続きをしていた。

「すまないな、出撃で疲れているだろうに」

「大丈夫ですよ、もう充分休みましたから」

そう言ってまとめた書類を提督の元に持ってくる五月雨。

「これが、残り今日中に申請が必要な書類です。お願いします」

「わかった、ありがとう」

書類を受け取り、1枚ずつ目を通す。

そんな提督に五月雨が声をかける。

「提督も少し休んでください。私、お茶を淹れてきますから」

「ありがとう、助かるよ」

「ちょっと待ってて下さい。すぐにお持ちしますね」

そう言って部屋を出ていく五月雨。

そんな後ろ姿を見送り、ため息をつく提督。

「すごくいい子だ……尊い……」

呟き、座ったまま天井を見る。

すると、その顔を真上から覗き込む顔があった。

「すごく変態っぽいですよ、提督」

「うわぁっ!?大淀さん、いたの!?」

「ちょうど五月雨ちゃんが出ていく所で通信室から出てきました」

椅子から転げ落ちた提督に手を差し伸べながら答える大淀。

「びっくりしたぁ……次はもうちょっと普通に声掛けて欲しいかな」

「善処します。それより提督、新人艦娘の申請書類はサインしましたか?」

「あぁ、できてるよ。はい、確認をお願い」

渡された書類を確認する大淀。

「はい、大丈夫です。じゃあ、大本営に送っておきますね」

「うん、頼むよ」

提督がそう言って再び椅子に座ると、五月雨が執務室に戻ってきた。

「あ、大淀さん!お茶、入ってますよ」

「ありがとうございます、五月雨ちゃん」

「明石さんにも声をかけてきたので、皆さんで休憩しましょう」

そう言って中央の机に三人分のお茶を置く五月雨。

そして残りの一つを提督の元へと持ってくる。

「あ、五月雨。足元にボールペンがーー」

「え?あっーー」

ボールペンを踏んだ五月雨はバランスを崩す。

体勢を整えようと前のめりになる。

次の瞬間、お茶の入った湯呑みが宙を舞った。

「あっちぃぃぃ!?」

「あぁぁぁ!すみません提督!今すぐ拭きます!」

湯呑みは提督の頭上で中身を撒き散らし、床に落ちた。

熱々のお茶の餌食になった提督は床をのたうち回る。

後から入ってきた明石はそれを見て呟いた

「これは……どういう状況ですか……?」

 

 

 

 

 

「本当にすみませんでした……」

「いや、あんな所にボールペンを落とした僕が悪い。こちらこそすまない。怪我はなかったか?」

「私は大丈夫です。提督こそ、本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、五月雨がすぐに拭いてくれたおかげだよ。ありがとう」

そう言って五月雨が淹れ直したお茶を飲む提督。

「うん、うまい」

「それにしても、書類が無事で良かったですねぇ」

自分で持ってきた羊羹を頬張りながら明石が言う。

「本当、提督だけが被害に遭うというのも、逆に奇跡的ですね」

明石の隣でお茶をすすりながら、大淀が答える。

その向かいで俯いて座る五月雨。

提督はそんな五月雨の元へと行き、優しく肩を叩く。

「今回の件は悪いのは僕だ。五月雨が気に病むことなんて何も無いよ」

「提督……」

「あれぐらい平気だから、ね?」

提督がそう言うと、五月雨は泣きだした。

「うぅ……ぐすっ……」

「あー、提督が五月雨ちゃん泣かしたー」

「うぇ!?な、泣かないでくれよ!僕なんか悪いこと言ったかい!?」

「ぢがいまずぅ……ぐすっ……」

「えぇ……ど、どうしたら……」

戸惑う提督と、無言でお茶をのむ明石と大淀。

「ちょ……二人とも……」

「では私は飲み終わりましたので工廠に戻りますね。五月雨ちゃん、ごちそうさま」

「私も書類を大本営に送ってきます。では」

二人は執務室を出ていった。

「……うそやん」

取り残された提督は迷った挙句、五月雨の隣に座る。

「えーっと……その、五月雨?」

「……はい」

「さっきの事、本当に気にしなくていいからね」

そう言って提督が五月雨の頭を撫でる。

「……どうして、提督は怒らないんですか?」

「え?」

「さっきも、初めて会った日も」

五月雨が再び涙ぐみながら言う。

「私のせいで痛い思いをしているのに、どうして提督は怒らないんですか…?どうして笑って許してくれるんですか?」

「五月雨……」

「提督は優しすぎます……」

そう言ってまた俯いてしまう五月雨。

提督は五月雨の頭を撫でながら言う。

「五月雨はわざとやった訳じゃないだろ。結果的に僕もなんともない。だったらそれで良いじゃないか」

「そんなことーー」

反論しようとした五月雨を提督がそっと抱きしめる。

「被害者の僕が良いって言ってるんだから、良いんだよ」

「……はい」

「ちょっと早いけど、今日のやることは終わってるから、部屋で休んでいてくれ」

「……はい」

「うん、よし」

提督が離れると、五月雨は部屋へと帰っていった。

「……ふぅ」

安堵の溜息をつき、自分の椅子へ座る提督。

(今勢いで抱きしめちゃったけど大丈夫か?臭くなかったか?セクハラで訴えられたりしないよな?)

後になって自分の行動を後悔する提督だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室のドアを閉め、息を吐く。

早鐘を打つ心臓を鎮めるように、深呼吸を繰り返す。

部屋の鏡を見ると、そこには耳まで真っ赤に染まった自身の顔が映る。

冷静になろうと、備え付けの水道で顔を洗う。

その時ふと、先程の発言を思い出した。

気にしなくて良いと言ってくれたあの人に対して、あんな態度を取ってしまった。

昔からドジで、要領の悪い自分が嫌で。

あんなのはただの八つ当たりだ。

明日謝ろうと、あの人の顔を思い出す。

それと同時にさっきの体温も思い出し、再び顔が熱くなる。

(明日、あの人の顔、ちゃんと見られないかも……)

もう一度冷たい水で顔を洗い、布団へと潜り込む。

枕元には幼い頃の写真を置いて、眠りについた。

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