甲子市立病院
ここで勤務している一人の女医さんに遠藤博士とソーラが会いに来ていた。
「お久しぶりです。遠藤博士」
遠藤「京香先生久しぶりじゃな。連絡や紹介が遅れたがこっちが最近噂の…」
ソーラ「ソーラと言います。京香先生のことはリーフ先輩から聞いてました。すごく立派なお医者さんだって」
この女医さんの名前は
河内警部同様かつてリーフとダイーダの仲間だった人である。
京香「そんなにリーフさんから褒められてたなんて照れ臭いわね。それより、リーフさんやダイーダさんは…」
遠藤「うむ、まめに通信は送っているが未だに音信不通じゃ…」
新たな敵、ドラフターを倒すために火口に飛び込み消息不明となってしまったことは京香先生も聞いている。
何もできない自分の無力さに唇を噛み締め、暗い表情で俯いてしまった二人だったが、ソーラが妙に明るい声を出して来た。
ソーラ「元気出してよ。先輩たちは死なないっていってくれたもの。帰ってくるまで全力で頑張らなくっちゃ。落ち込んで、何もできずに負けちゃったらそれこそ怒られちゃいますよ」
京香「ふふっ。その通りね」
遠藤「うむ。お主だけに任せてはおけんしな。わしも全力でサポートするぞ」
そうして決意を新たにしていると、制服を着た一人の中学生が京香先生に話しかけてきた。
「あっ実先生。こんにちは」
京香「あら出来さん。お祖母さんの具合はどんな感じ?」
出来「はい、おかげさまでだいぶん良くなってきています。先生のおかげですよ」
それを聞いてソーラもウンウンと頷いていた。
ソーラ「やっぱり京香先生はすごいなぁ。こんなに尊敬されてるんだもんなぁ」
出来「えっと先生。この人たちも患者さんですか?」
京香「いえ、お友達よ。ソーラさん、遠藤博士。こちら出来 杉菜さん、おばあさんが入院していてね。よくお世話に来られてるの」
出来「初めまして。あの、遠藤博士ってまさかプリキュアの…」
遠藤「あぁまぁな。今じゃしがない隠居ジジイじゃが」
世界を救った科学者と言うことで、当時一躍時の人になった遠藤博士だったが、その時マスコミがごった返したこともあり、あまりの面倒くささから今では積極的に表に出ることはなくなっていた。
それに、今現在の事態に関しても警察が戒厳令を敷きソーラのことも極秘扱いになっている。
そのため適当にお茶を濁した。
出来「そんなことないですよ。立派な人だって聞いてます。私の尊敬してる人です。自分のやりたいことをして世界を救ったんですから」
ソーラ「ウンウン。そうだよね。博士は立派な人だよ」
出来「えっとあなたは? お孫さんですか?」
ソーラ「あっ、私は遠藤博士のお手伝いをしてる… 遠田ソーラって言います。よろしく」
そういってにこやかに手を差し出してきたソーラに出来さんもまた手を差し出してしっかりと握り締めた。
出来「はい、こちらこそよろしく。 でもこんな立派な人のところでお手伝いをしてるなんて、あなたもすごい人なんですね」
ソーラ「いえ、私なんてまだまだ… 先輩たちの足元にも…」
なんとなく話がまずい方向に行きそうな事に気がついた京香先生は、さりげなく話題を変えた。
京香「そんなに人のことばかり褒めなくても、あなたも立派じゃない。学校の成績はいつもトップで、クラス委員もしてるんでしょ。それに忙しいご両親の代わりに妹さんの世話までしてるとかで…」
出来「いえ、そんなこと… 私はやらなきゃいけないことをしてるだけで…」
そこまで話した時、彼女はハッとある事に気がついた。
出来「あ、すみません。妹を保育園に迎えに行く時間なのでこれで」
京香「あら、こんな時間にもう?」
出来「はい。妹の夕飯の準備をした後、塾に行くんで。でないと間に合わないんです」
遠藤「ほう、これから塾か。大変じゃのう」
出来「ええ、来年高校受験ですので。 私立の高校に行くので頑張って勉強しないと」
感心したようにそう声をあげた遠藤博士にソーラはふと首をかしげた。
ソーラ「ジュクってなんです? 話を聞いてると勉強するところみたいなんですけど、学校とは違うんですか?」
京香「え〜っとね、学校の勉強だけでは足りないことを教わったり、より自分を高めるために通うところなの。私も学生の頃はよく通ったわ、どうしても医者になりたかったからね」
それを聞いて、ソーラも素直に感心した。
ソーラ「へぇ〜すごいなぁ。じゃああなたもなりたいものがあって、頑張ってるんだね」
だが、ふと出来さんは表情を曇らせた。
出来「え、ええ。それじゃ、時間がないので」
そうして足早に病院を出ていった出来さんを見送ると、京香先生はポツリとつぶやいた。
京香「あの子、一生懸命なのはいいけど、ちょっと気負いすぎみたいなのよね。無理しないといいけど…」
ソーラ「でも、目標に一生懸命頑張ってるのはいいことですよ。私だってそうだもん」
ソーラはそう言ったが、遠藤博士もなんとなく不安そうに呟いた。
遠藤「いやぁ… どうもやりたい目標に向かって頑張っとると言う気がせんな。 変にストレスを溜め込まんといいんだが…」
ソーラ「? なんでやりたくもない目標に一生懸命になるんです? したいことを頑張ればいいじゃないですか」
遠藤「そうは言うがな、そう簡単に行かんのが世の中というものじゃ」
遠藤博士ががっくりとため息をついたところで、京香先生がふと尋ねた。
京香「目標って言えば、今あなたが戦ってる相手ってパーフェクトの言わば親玉なのよね」
ソーラ「はい、そうですけど…?」
質問の意図が読めず、キョトンとしたソーラに京香先生は続けた。
京香「一体彼らの目的はなんなのかしら? 世界を暗黒に染めると言っていたけれど、その先に一体どんな目的があるの?」
遠藤「ふむ。そう言えばそうじゃな。言われてみれば知らんかった」
そう言えばというように遠藤博士は頷いた。
ソーラ「はい、それは…」
ソーラの言葉に二人はゴクリと息を飲んだ。
ソーラ「…あれ?」
出来さんは妹を保育園に迎えに行った後、自宅のマンションで目まぐるしく動いていた。
出来「お姉ちゃん今日塾だからね。お母さんがパートから帰るまでいい子にしててね。お父さんもすぐに帰るからね」
そうやって洗濯物を取り込み、丁寧に畳んでタンスにしまいつつ、妹の夕飯をレンジで温めて用意し、自分は制服を脱ぎ捨ててハンガーにかけつつ私服に着替え、カバンの中身を塾のテキストに入れ替えていた。
出来妹「わーい、今日も美味しそう。いただきまーす」
冷凍食品の簡単な夕飯を食べつつ、妹は保育園であったことを楽しそうに話し始めた。
出来妹「あのね、さやかちゃんのお弁当ね、キャッチューの絵が書いてあってとっても可愛かったの、私もあんなのがいいなぁ」
ハタから聞いて入れば、無邪気な子供のおねだりなのだが、妹の世話を一任されている出来さんからすれば、聞き流せることではなかった。
出来「ああわかったわかった。とりあえず考えとくから、人が来ても鍵開けちゃダメよ!!」
それだけ言い残すと、返事も聞かずに超特急で塾へ自転車を飛ばした。
自転車を飛ばしつつ、出来さんは焦っていた。
出来「まずい〜 今日テストなのに全然勉強する時間なかった。早く行ってテキストを見直さないと」
その焦りから、さらにかなり危険な速度になるまで自転車を飛ばして行った。
そうして勉強不足のまま臨んだテストに悪戦苦闘しつつも、なんとか全ての回答を埋めた彼女は講義を終えた後、ため息とともに帰路に着いた。
自宅に帰りついた時にはすでに10時を回っており、両親もとっくに帰宅していた。
出来父「遅かったな。今日は試験だったんだろ、どうだったんだ?」
低い声で父に尋ねられた出来さんは、恐る恐る国・数・英のテストを取り出した。
そこに書かれている点数は、全て90点台後半であり順位は当然一位である。
しかし、父は彼女をジロリと睨み付けると非難を始めた。
出来父「…なんでここまで出来て、後数点が取れないんだ? 私立のK高校の受験は大丈夫なんだろうな?」
出来「うん、それは… 先生も大丈夫だって…」
その言葉に父はようやく納得した。
出来父「うむ、いいか。いい高校に行けばいい大学にも行きやすい。そうすればいい大学にも比較的入りやすく、いい会社にも入りやすく出世もしやすい。そうやってお父さんをリストラに追い込んだキャリアウーマンを見返してやれ」
数ヶ月前、出来さんの父はリストラにあっていた。
自分の部下だった女性社員に追い抜かれ、会社に居場所がなくなったのである。
幸い、現在は再就職もできたため生活には困っていないが、かなり厳しい言動の裏にはそう言う事情があるのだ。
出来母「そうよ、そのためにお母さんもパート頑張ってるんだから。あっそうだ、明日も彩香(妹の名前)のお迎えお願いね」
出来「あ、うん…」
ぼんやりとした返事をしつつ、彼女は簡単にシャワーを浴びると部屋に向かって行った。
出来「あ〜そうだ。キャラ弁作るんだっけ、明日早起きしないと… 塾と学校の宿題は… それからにするか…」
どこかうわ言のようにぼんやりとつぶやきながらベッドに入ると、彼女は昼間のことを思い出していた。
出来「昼間のあの子、ソーラさんだっけ。プリキュアみたいにすごく綺麗な目をしてたな。ああいう子が主人公の物語を書くと楽しそう…」
出来さんには親にも内緒の夢があった。
絵本作家になって子供達に夢を与えたい。
二年前、この世界を救った英雄プリキュアのことを知った時から漠然と考えていた夢である。
出来「プリキュアか… 最近また戦ってるみたいだけど、一度会ってみたいなぁ。多くの人に夢をくれた人だもん、私もあんな風になりたい…」
翌朝
妹のキャラ弁を日も昇らないうちから作り始め、2時間近くの苦闘の果てようやく完成させ一息ついていた。
出来「ふう、ようやく完成。さて、宿題始めるか…」
出来さんは、昨夜やり損ねた宿題をやろうとしたところ母親が妹を連れて起きてきた。
出来母「あ、お弁当お弁当。私もう行くから。それと彩香の髪お願いね」
ありがとうの一言もないまま、台所の弁当箱を手にバタバタと出て行こうとした母を出来さんはギョッとして呼び止めた。
出来「ちょ、ちょっと髪って何?」
出来母「あら、言ってなかったかしら? この子ったら美希ちゃんがお団子ヘアにしてるの見て気に入っちゃったみたいなの。じゃお願いね」
有無を言わせずそれだけ告げで出て言った母親を、足元で嬉しそうに急かしてくる妹のことなど気がつかないほどに呆然としながら出来さんは見送った。
出来「そんな… お団子なんて時間がかかるのに… 私の宿題…」
その後のろのろとながらも妹の髪をセットした出来さんは自分の髪を適当にゴムで止めると、妹を保育園へと送り自分も慌てて学校へと向かった。
そうして、なんとか授業が始まるまでの休み時間で宿題を終わらせると大きくため息をついた。
出来「はぁ、そういえば朝ごはんまだだっけ… あ〜あ、絵本描きたい」
用意してきた日の丸弁当を少しだけ食べて、簡単に朝食を済ませたところで予鈴が鳴ったため慌てて教室へ向かって行った。
学級委員でもある彼女は、校内でも忙しい。
先生から様々なことを頼まれ、クラスメイトからの相談に乗りつつようやくホームルームを迎えていた。
出来「えーっともうすぐ毎年恒例の文化イベントですが、実行委員を決めようと思います。 と言っても大した仕事もなく一ヶ月ほどの委員ですから、そんなに負担はないと思います。どなたかやっていただけませんか」
議事進行をしていた出来さんだったが、誰も委員に立候補しようともせず、無言のまま時間だけが過ぎていった。
出来(あ〜もう。みんな暇そうじゃない。なによその早く終われみたいな雰囲気は。このパターンだと…)
イライラを必死に押さえ込むようにして、出来さんは言い放った。
出来「わかりました。皆さんも忙しいようですので、私が引き受けます。 これでホームルームは終了とします」
そうやって席に戻ったところで、隣の席の子が話しかけてきた。
「大丈夫? 忙しいのに背負い込んじゃって」
出来「だって… 誰かがしないといけないんだし…(そんなこというならなんで立候補を…)」
「そんなに苦労してたら、いつかハゲるよ」
「そうそう、息抜きしなきゃ」
そうやって気遣うような言葉も、今の彼女にはイラつきを与えるだけだった。
すると、ふと後ろの席の子が何かに気がついた。
「あれ、大変!! ほんとにハゲてる。10円ハゲ」
その言葉に頭に恐る恐る手をやり、本当だとわかると愕然とした。
出来「いや… いやああああ!!!」
絶叫を上げると、周りが止めるのも聞かず一人クラスを飛び出していった。
自宅に戻り、電気もつけないまま一人机で泣いていると両親が妹を連れて帰ってきた。
出来母「杉菜、一体どうしたの?」
出来「電気もつけずに、寝ているのか?」
出来「お、お母さ… お父さ…。わ、私…」
涙ながらに事情を訴えようとしたところ、両親がまくし立ててきた。
出来母「どうして彩香の迎えにいってくれなかったの!? パート中なのに保育園から電話があって、慌てて切り上げてきたのよ。ちゃんとしてくれないと困るじゃない!!」
出来父「全くだ。そんないい加減なことだからテストでも満点が取れないんだ!! それに何だ、こんな時間からグースカと!! 受験生の自覚があるのか!?」
その言葉に、ついに堰が決壊した。
出来「もういや!!! もういやだぁー!!!! 私ちゃんとやってるのに!!! 委員だってしたくないのに、誰もやらないから!!! なんでおばあちゃんの世話やみんなのお弁当まで私が作らなきゃ…」
出来母「ど、どうしたのよ!? ちょっと!!」
突然泣き叫びだした娘に母はオロオロするだけでなにも言えず、彼女の叫びは続いた。
出来「塾だって、K高だって別に行きたいなんて言ったことないのに!!! 一番とっても、満点じゃないって怒って… なんでリストラされたお父さんのためなんかに、キャリアウーマンになんなきゃなんないのよ!!! そんなのなりたくも…」
出来父「な…」
彩香「お、お姉ちゃん…」
泣き叫ぶ自分を心配するように近寄ってきた妹を出来さんは突き飛ばして睨みつけた。
出来「だ、だいたい何よ。キャラ弁に、お団子の髪なんて… そんなの自分でやんなさいよ!! 私なんていつも…ゴムで止めるだけ… 何もしないくせに勝手ばっかり!!」
その怒声に泣き出した妹を一瞥もせず、両親が止めるのも聞かず、出来さんは一人家を飛び出していった。
出来(もういや!! 家にもいたくない、学校も行きたくない!! 助けて!!)
夜の街をあてどなく泣きながら走っていた彼女を見て、大半の通行人はぎょっとした顔をしていたが、中には満足そうな笑みを浮かべるものもいた。
パーリ「あの女、面白そうだな。ドラフターの作り方をいつもと少し変えてみるか…」
続く