遠藤「い、いかん… あまりの暑さで頭がクラクラし始めてきた… 作業がはかどらん…」
ラン「私ももうダメ… 耳鳴りがして気が遠くなってきた…」
ソーラ「ランちゃん、遠藤博士も、しっかりしてください!!」
作業を進めている間にも、太陽ドラフターはどんどん輝きを増していき、それとともに気温も上昇を続けていた。
過剰運転が祟ったクーラーはとっくの昔に機能停止してしまい、かろうじて回っている扇風機も熱気を引っ掻き回すだけでしか無くなっていた。
室内でこの調子であるため、屋外に至ってはすでに灼熱地獄であり、アスファルトはドロドロになり始め、川や池の水は茹だり蒸発し、砂漠が天国に思えるレベルの気温になっていた。
ソーラ「えぇい、こうなったら。なんとかあの太陽ドラフターの機能を少しでも和らげてきます!!」
遠藤「ま、待てい… 下手に突っ込んだらドロドロに溶けてしまうぞ…」
立ち向かおうとしたソーラをヘロヘロになりながら呼び止めた遠藤博士だったが、ソーラは黙って首を振った。
ソーラ「放って置けません。できる限りのことはしてみます!!」
そうしてソーラは水で濡らしたタオルを大量に全身に巻きつけ(水道水もほとんど沸騰寸前になっていたが)、日傘をさして一直線に飛び出して行った。
ソーラ「くっそ〜、タオルもすぐに乾いちゃったし… いくら太陽が欲しいったって、限度があるよもう」
太陽ドラフターに接近していったソーラだが、そのあまりの熱に付け焼き刃の防御は気休めにしかならなかった。
それでも放っては置けないとばかりに、両腕を頭の上でクロスさせた。
ソーラ「モードプリキュア、ウェイクアップ!!」
掛け声とともに両腕を大きく開くとソーラの全身は万華鏡のような幻想的な光のオーロラに包まれていった。
その光のオーロラを身にまとうかのようにすると、彼女は深緑のフリルのついた黒光りのするドレスのようなコスチュームに変身していた。
ソーラー「光り輝く太陽のかけら キュア・ソーラー!!」
変身完了するや否や、ソーラーは全身にエネルギーを集中し始めた。
ソーラー「一気に決めてやる!! 喰らえ、プリキュア・ブレスト…」
必殺光線を放とうとした瞬間、背後から黒い塊が飛んできてソーラーに直撃した。
ソーラー「キャアアアア!!」
完全に意識の外にあった方向からの不意打ちを食らったソーラーは悲鳴とともに地面に向かって落下していった。
ソーラー「イタタって、アッチー!!」
墜落したソーラーだが、地面に打ち付けた痛みよりもホットプレート顔負けになっている地面の熱さに飛び上がることになった。
ソーラー「アチチアチチ!! は、早くなんとかしないと!!」
地面の上で踊りはねながら、天空の太陽ドラフターを睨みつけるともう一度飛び上がろうとした。
しかし、それを狙って先ほどの黒い塊が何発も飛来してソーラーの周りで爆発した。
ソーラー「キャアアアア!! ってアチー!!」
突然の攻撃に戸惑い、地面の熱さに悶えていると、風船玉のように太った男が体当たりを仕掛けてきた。
ソーラー「ぐうっ!! な、何!?」
セーリ「ふん、こうして会うのは初めてだな。俺の名はセーリ。キュア・ソーラー、この世界を暗黒に染めるためにも死んでもらうぞ!!」
そう宣言するや否や、セーリはソーラーにその巨体で飛びかかってきてあっさり馬乗りになって押しつぶした。
ソーラー「な、なんであんたたちみたいなのが、こんな二つも太陽がある中で動けるのよ…」
マウントポジションを取られ、締め上げられたソーラーは苦悶の表情とともに疑問を口にしたが、セーリは嘲るように答えた。
セーリ「けっ、あの太陽だってドラフターだ。闇の力が降り注いでることに変わりはねぇ。かえって心地よいってもんだ!!」
そうやって背中を地面に押し付けられたソーラーは完全に鉄板の上のお好み焼き状態であり、溶けたアスファルトがねっとりとまとわりついて来たため、コスチュームはもちろん人工皮膚が焼け始め、妙な音を立てていた。
ソーラー「うあああっ!!」
セーリ「このまま焼けてしまえ!! それと同時にこの世界も焼け落ち暗黒の世界となる」
悲鳴に満足げな笑みを浮かべてそう告げたセーリに、ソーラーは苦しみながらも問いただした。
ソーラー「どうしてあんたたちはそこまでして暗黒世界が欲しいのよ…」
セーリ「そんなものは…」
一拍おいてセーリは怒鳴りつけた。
セーリ「教えてやる義理はない!!」
マウントポジションのまま、ソーラーに対して何発も拳を振り下ろしそれとともにメカが壊れるような音と皮膚の焼けるような音が響いていき、ソーラーの悲鳴もだんだんと小さくなり始めた。
ソーラー(あ…ぐ… この太陽ドラフターの光は、私のエネルギーにならないみたい… 力が入ら…ない…)
セーリ「ふっ、トドメだ!!」
白い肌が黒く焦げかけ、ぐったりしてしまっていたソーラーの首を捕まえて高く持ち上げると、セーリは高らかに笑った。
しかしそこに極太のビームが飛んできてセーリに直撃した。
セーリ「ぐおおおおっ!!!」
そのビームの一撃は強烈で、セーリはかなりのダメージを負ってしまいソーラーを手放し自身も膝をついてしまった。
遠藤「ソーラ、大丈夫か?」
そこにいたのは宇宙服のようなごっつい服に身を包み、バズーカのようなレーザー砲を抱えた遠藤博士だった。
ソーラー「な、なんとか… でもそれは…」
遠藤「ようよう完成した冷房スーツと、マイナーガンを対ドラフター用に出力をアップさせたプラスエネルギー砲じゃ。 見とれ今そいつを…」
セーリにさらに攻撃を仕掛けようとした遠藤博士だったが、太陽ドラフターの発する高熱により、凄まじい灼熱地獄となっていたためすでにプラスエネルギー砲はオーバーヒートし煙を吹き始めていた。
遠藤「い、いかん!! これではあと一発撃てるかどうか…」
慌て始めた遠藤博士に、ソーラーは上空の太陽ドラフターを指差した。
ソーラー「あいつより、あっちを!! 太陽ドラフターを狙ってください!!」
遠藤「そ、そうじゃったな。よし!!」
その言葉にハッとなった遠藤博士は太陽ドラフターに向けてプラスエネルギー砲の狙いをつけた。
遠藤「これでもくらえい!!」
プラスエネルギー砲はオーバーヒートしてしまったものの、最後に発射された極太のビームは見事に直撃し、みるみるうちに太陽ドラフターの輝きは弱まっていった。
ソーラー「よ、よし、今だ!!」
ソーラーはいまだに立ち上がれないでいたセーリを捕まえるとそのままジャイアントスイングで太陽ドラフターに向かって投げ飛ばした。
セーリ「うおおおっ!!」
そして全身にエネルギーを集中させ、ソーラーの上半身と横いっぱいに伸ばした腕から目も眩むような閃光とともに強烈なビームを発射した。
ソーラー「受けなさい!! プリキュア・ブレストフラッシャー!!!」
その一撃をセーリはすんでのところで回避して引き上げていったが、弱っていた太陽ドラフターにはとどめとなり、一撃で浄化され消滅した。
ソーラ「や、やった…」
ソーラがエネルギーを使い果たしてへたり込んでいると、ポツポツと雨が降り始めたちまちのうちに土砂降りになっていった。
遠藤「おっと、ゲリラ豪雨か。ずっと熱くなっておったからな。まあこれで涼しくなるじゃろう。 引き上げるとするか」
ソーラ「はい… でもまたあいつらの目的を問いただせませんでした。いったいなんでこの世界を…」
遠藤「まあ、あまり焦っても仕方ない。とりあえずあいつらと戦わねばならんことだけは確かじゃ。戦っておればいつかわかるやもしれん」
どこか思いつめたようなソーラを励まして引き上げることになったものの、エネルギーを使い果たしたソーラと、宇宙服のような大掛かりなスーツに身を包んだ遠藤博士が、なかなかスムーズに帰れなかったことだけは言うまでもない。
甲子市上空 静止衛星軌道上 ブルペノン
ソーラーの一撃をかわしてなんとか退却してきたセーリを見て、パーリは心配そうに声をかけた。
パーリ「おい、大丈夫か?」
セーリ「ああ、なんとかな。しかしキュア・ソーラーか、仕留め損なってる間にだんだんと強くなってきていることだけは確かだ」
セーリのその感想にパーリもまた同感だと頷いた。
パーリ「うむ。そこで考えていたんだがな。手駒を少し増やしてみようと思う」
セーリ「手駒?」
パーリ「ああ、端末の一つだがな。この近くの世界で封印されていたやつがいる。闇の王を勝手に名乗った黒き獣だが、そいつが復活しようとしているんでな。所詮は端末の一つだが、まぁ使い物にはなるだろう」
セーリ「なるほど、それはいい。やられてもダーククリスタルの残数にも影響はないしな、せいぜい利用してやるとするか。しかし闇の王とはな」
パーリ「ああ、哀れなものだ。自分が俺たちが気まぐれに作ったものとも知らずにな」
そうやって嘲るような事を言いつつ、セーリとパーリは目の前に黒い空間のようなものを広げその自称闇の王のいる世界をこの世界と繋げ始めた。
二日後 遠藤平和科学研究所
気象予報士『本日は冬らしい寒さの一日となるでしょう。それでは皆様、風邪も流行っておりますのでお体には十分お気をつけください』
にこやかに天気予報を終えた気象予報士を見て、ソーラは満足そうに頷いていた。
ソーラ「ウンウン。天気予報が当たらなくて散々な事を言われてストレスが溜まってたんだね。だからドラフターにされたんだろうけど無事に回復してよかったよかった」
するとそこに息も絶え絶えなランの声が弱々しく聞こえてきた。
ラン「ソーラさ〜ん… 氷まだ〜…」
ソーラ「あっごめんごめん。すぐに行くね」
その声にソーラは用意の途中だった氷嚢と氷枕を作り終え、寝室へと持っていった。
遠藤「う〜… 今何度あるんじゃ…」
ラン「39℃よ… 私もそれぐらい…」
ベッドの上で横になり真っ赤な顔をしながら弱々しい声で二人が会話をしていたところに、ソーラが氷嚢や氷枕とともに薬を持ってきた。
ソーラ「お待たせ〜!! 氷とあとおクスリ持ってきたよ〜」
遠藤「お、おお… すまんな…」
ラン「ありがとう…」
ソーラ「いいっていいって、いつもお世話になってるんだから。でもどうして急に風邪なんて引いたの? まさかドラフターの照射してた闇の光の影響かな?」
顎に手を当て真剣な顔で考え始めたソーラだったが、遠藤博士は咳き込みながら解説した。
遠藤「いや、いきなり気温がこれだけ下がれば大抵の人間は体調を崩すじゃろうな…」
ラン「学校もみんな風邪で学級閉鎖だって… あの体力馬鹿の豪がダウンするぐらいだから相当なものだと思うわ…」
ソーラ「ふーん。じゃあこれを簡単に治せる方法ってないの? このクスリってのもなかなか効かないみたいだし…」
遠藤「…風の特効薬を開発できれば間違いなくノーベル医学賞ものじゃ。とにかく暖かくして寝ているほかはあるまい」
ソーラ「そうなの? テレビでやってたよ、アダブラプイプイバビデブーとか言って、すぐに風邪が治るやつ」
小首を傾げながらのソーラの言葉にランもため息をつく気力もなく呆れながら返した。
ラン「何の呪文よ。魔法なんてそんな都合のいいものあるわけないじゃない…」
?????
朱色に塗られたドーム型天井を持つ白亜の塔が点在し、それをアーチ橋が結んでいる建物があった。
ここはある学校であり、そこの校長室に三人の女生徒が呼ばれていた。
「うむ、まずは三人とも突然呼び出してすまんことをしたな。わざわざ魔法界まで来てもらってありがとう」
見た目は若々しい長髪の美青年がどこか年寄りかがった話し方で、その三人を出迎えた。
「いえ、構いません。それよりどうしたんですか校長先生? 何か変わったことでも起きたんですか?」
三人のうち紫のロングヘアとマゼンタの瞳をした、真面目そうな少女がそう尋ねると、校長と呼ばれた先ほどの美青年が真剣な面持ちで話し始めた。
校長「うむ、実は奇妙な闇の魔法の波動が感じられてな。それもかなり大きな力があるものがな」
それとともに机の上の水晶もまた何故か言葉を発し始めた。
水晶「私にもお告げが来ました。封じられし闇の魔法が目覚めると」
「闇の魔法… それって…」
ピンクのロングヘアとエメラルドグリーンの瞳の多少子供っぽい少女が不安そうにそう呟くと、水晶は話を続けた。
水晶「ですが、光輝くダイヤがそれを打ち砕くとも告げています」
「あっ、だから…」
校長「うむ。申し訳ないが君たちに調べて来てもらいたい。ただ、行き先が別の世界になりそうなのでな。魔法の扉でそこに行ってもらうことになるが、もう少し時間がかかりそうじゃ」
別の世界
その言葉に、金髪のショートヘアと紫色の瞳の元気そうな少女が敏感に反応した。
「別の世界!? 今の別の世界って言いました!? 魔法界でもなければナシマホウ界でもない世界ってことですか!?」
興味深そうにキラキラした目でそう詰め寄ると、校長先生は素直に頷いた。
校長「うむ。普段はその二つしか行き来していないが魔法の扉に大きな魔力を込めれば様々な世界に行くことができる。ただ相当に力を使うのでな、そうそう簡単にはできないのじゃ」
その言葉に先の少女は興奮して叫び声をあげた。
「うっわ〜!! 別の世界なんてわくわくもんだぁ!!」
「わくわくもんだしー!!」
「わくわくもんモフゥ!!」
それに合わせて、ピンクのロングヘアの少女と三人が連れていたクマのぬいぐるみも興奮した叫びをあげた。
するとそれを紫のロングヘアの少女がたしなめた。
「何言ってるの!! 遊びに行くんじゃないのよ。それにもしかしたら前に突然私たちに襲いかかって来たあのプラチナブロンドの髪の女の子と関係あるかもしれないのよ。あのこのことは未だによくわからないんだから」
その言葉に一気に空気が重くなった。
数週間前、突然自分たちに襲いかかって来た謎のプラチナブロンドの髪の少女。
その時に一度だけ会合し、一方的かつ散々に叩きのめされたきりであり、未だにその正体は分かっていない。
その時のことはかなりのトラウマになっていた。
校長「リコ君の言う通りだ。何があるかわからない以上、くれぐれも気を抜かないでくれたまえ。いくら伝説の魔法使いといっても、万能ではないのだから。みらい君もことは君もいいね」
「「はい!!」」
元気よく返事をすると、三人は気を引き締めて魔法の扉をくぐっていった。
水晶「大丈夫でしょうか?」
その姿を見送った水晶は不安げにつぶやいたが、校長先生は力強く答えた。
校長「心配はいらんよ、彼女たちならば。それに闇のあるところ必ず光もあるのじゃから」
続く