みらいから離れていった黒いモヤは四つに別れ、だんだんと形を成していった。
ソーラ「こ、このマイナスエネルギーは…何かの怨み?」
「ふっふっふっ、その通りですよ」
その言葉とともに、モヤの一つが貴族のような服装の二足歩行するヤモリといった怪物に変わった。
ことは「あ、あなたは!?」
「お久しぶりですねぇ。ドクロクシー様の忠臣ヤモー、あなた方への怨み、忘れてはいませんよ!!」
みらい「そんな…」
リコ「待って、じゃあまさか…」
ヤモー「そのまさかです。皆様あなた方にはそれぞれおっしゃりたいことがあるようですよ。そうですよね、バッティさん、スパルダさん、ガメッツさん」
その言葉とともに残る三つのモヤの塊も、黒を基調としたマントつきのスーツとロングブーツを履いたコウモリ男。
バッティ「ええ、もちろんですとも」
どこか不良のような姿の蜘蛛女。
スパルダ「決まってるじゃないかい、あん時のお礼はさせてもらうよ」
古代戦士のような兜と装束を身に付けた巨大な亀の怪物。
ガメッツ「初めて会うものもいるな。我は魔法戦士ガメッツ。プリキュア貴様たちと再び戦うために舞い戻ったぞ」
豪「な、なんだよあいつら!?」
ラン「どうみても仲良くできるって感じじゃないけど…」
リコ「え、ええ闇の魔法使い。でもどうして…」
「それは、我が主人魔女ソルシエール様の力によるものですよ」
ソーラ「!! 誰!?」
聞こえてきた声に上空を見上げると、奇怪な魔法陣が描かれていた。
一同が魔法陣を睨みつけるようにしていると、悪魔の羽のようなものがついた馬車に乗った、赤いトラ模様をした灰色の馬のような姿をした怪物がそこから召喚されてきた。
「初めましてプリキュアの皆様。わたくし魔法の伝道師トラウーマと申します」
リコ「トラウーマ… これがあなたのご主人様のものだっていうの?」
トラウーマ「その通り。人の記憶を読み取り再現するというすごい魔法です」
ソーラ「つまり、こいつらはこの子達の戦った相手… 一体何が目的なの!?」
四人の怪物が出現した理由に納得のいったソーラが、続けざまに問い詰めた。
トラウーマ「我が主人の目的。それは究極の魔法を完成させること。 そしてそのために必要な材料を調達することです」
リコ「究極の魔法に必要な材料… 何よそれは!?」
魔法の知識には自信のあるリコだが、全く心当たりがなかったため思わず叫んだ。
トラウーマ「ふっふっふっ。それは伝説の光の戦士プリキュアの涙です」
みらい「涙…」
トラウーマ「皆様には、涙を流していただきますよ!!」
その言葉とともにトラウーマが指を鳴らすと、豪とランの足元の影が意識を持ったように動き出し、ランの抱えていたモフルンごと二人を飲み込んで姿を消し去ってしまった。
ソーラ「なっ!! 豪くんランちゃん!!」
みらい「モフルン!! みんなをどこにやったの!!」
トラウーマ「こちらで預からせていただいていますよ。涙さえいただければすぐにお返しいたします。ですが…」
丁寧な口調で告げたトラウーマだったが、彼が約束を守りそうもないこと、そして仮に約束を守っても究極の魔法をろくなことに使わないであろうことは皆容易に想像がついた。
ソーラ「信用できるわけないでしょ!! 早くみんなを返しなさい!!」
リコ「それにこんな形で完成させようとしている究極の魔法がいいことに使われるわけはないわ!!」
それを聞いたトラウーマはやれやれというように首を振ると、虚空に呼びかけた。
トラウーマ「ソルシエール様、交渉決裂ですがいかがいたしましょう」
するとその呼びかけに応えるかのように、血の色のようなモヤが現れ、女性の顔になった。
ソーラ「あれがソルシエール…」
ソルシエール「涙を渡せ!!」
その声とともに女性の顔のモヤは巨大な手のような形に変わり、ソーラとみらい達を押しつぶしてきた。
みらい・リコ・ことは・ソーラ「「「「キャアアアア!!!」」」」
その悲鳴とともに四人の姿はその巨大な手とともに地面に飲み込まれるように消えていった。
トラウーマ「ふっふっふっ。どうあっても涙を流していただきますよ」
そうやって不敵に笑ったトラウーマの手には緑色に輝く宝石 エメラルドとリンクルスマホンがあった。
ヤモー「ふっ、色々と意図はおありのようですが、そんなものはどうでもいい!! プリキュア… 目にものを見せてくれる!!」
その怒りに満ちた声とともに、闇の魔法使い達は頷きあった。
「「「「オボエテーロ!!」」」」
ソーラ「うわ〜っ!! イタタ… って、えっ? どこよここ!!」
地面に叩きつけられたソーラは痛みに顔をしかめながら立ち上がると目を疑った。
先ほどまで街中にいたはずだったにもかかわらず、周辺は尖った岩だらけの荒野と化していたからである。
ソーラ「まずいわね。空が変な雲で覆われてるし、これじゃエネルギーが補充できるか… 早く豪くんとランちゃんを助けに行かないと…」
空を見上げ舌打ちをしたソーラは、周辺の状況を確認しようと耳の感度を最大限に上げたところ、うめき声のようなものが聞こえてきた。
ソーラ「この声は…」
そのうめき声が聞こえた方へ向かうと、気絶して地面に横たわっていることはがいた。
ソーラ「あーもう。ちょっとしっかりしなさいよ」
気を失っていたことはを見たソーラは、多少のわだかまりがあったものの放っては置けないと、彼女を抱きかかえて揺すり起こした。
みらい「ど、どこなのここ!?」
リコ「わからないわ。さっきまで街中にいたのに…」
鬱蒼と茂る不気味な森の中に突然放り出されたみらいとリコは困惑しつつ周辺を見回していると
バッティ「ですが、街中よりはあなた達との決着をつける場所にふさわしいと思いますよ」
ガメッツ「プリキュア、何時ぞやの借りを返させてもらう」
突然聞こえてきた声に驚くことになった。
リコ「あ、あなた達…」
みらい「一体なんで私達と…」
バッティ「愚問ですね、私達にとってプリキュアであるあなた達と戦うことに今更理由が必要とでもお思いですか」
ガメッツ「先の戦いでは小賢しい妖精のせいで不覚を取ったが、今度はそうはいかん」
完全に戦闘態勢に入っている旧敵を前にして、二人もやむを得ないと頷きあった。
リコ「みらい!!」
みらい「うん、リコ行くよ!!」
しかし、いつものように呼びかけあい、いつものようにリンクルストーンを取り出し、いつものように手をつなごうとして
みらい「…って!! モフルンは!?」
初めてそのことに気がついた。
リコ「さ、さっきあいつに… ってことは…」
バッティ「おや? どうかしましたか?」
ガメッツ「プリキュアに変身せんのか?」
みらい「う…」
その全てを見透かしたかのような言葉にも、何も言い返せないまま固まってしまった。
みらい(ど、どうしよう、リコ)
リコ(ど、どうしようったって…)
青い顔のまま小声でボソボソと話し合った後、冷や汗を流しながら二人はゴクリと唾を飲んだ。
そしてそのまま魔法の箒を取り出すと一目散に逃げ始めた。
ガメッツ「逃がさん!!」
バッティ「ふふ、初めて会った時もこんな感じでしたねぇ」
そんな二人を見て、ガメッツは険しい顔をバッティはどこか懐かしそうな顔をして追いかけていった。
一方
ソーラ「ねぇあなた。あの人たちに相当恨まれてない?」
ソーラは凄まじい目つきで自分たちを睨んでくるスパルダとヤモーを前にして、ことはにそう尋ねた。
ことは「う…」
ヤモー「ええ、それはもう。我が主人ドクロクシー様を葬ったにっくきエメラルド。決して許しはしませんよ!!」
スパルダ「あんたがリンクルスマホンの妖精なんだってねぇ。私はあんたのせいで一度は死んじまったんだ。そっちのやつもついでだ、ただで済むと思うんじゃないよ!!」
ソーラに揺すり起こされたことはは、ポケットに入れていたスマホンとエメラルだが見当たらなかったことに軽くパニックになっていた。
慌ててソーラとともにあちこちを探していたところ、突然出てきたこの二人に真っ青になり後ずさりを始めていた。
ソーラ「く、まずい!! 戦えるか…」
エネルギーの不足は重々承知しており、おまけに空は太陽など望むべくもないほど不気味な闇に覆われている。
変身どころか戦闘も怪しい状態であり、ギリギリと歯噛みしながらも、ソーラはクロススティックを一本取り外して片手に構えた。
ヤモー「ふっふっふっ。死ねプリキュア!!」
そうして飛びかかってきたヤモーとスパルダを見て、ソーラはとっさにことはを後ろに突き飛ばして前に飛び出したが、スパルダの繰り出してきた糸にスティックを絡め取られてしまった。
ソーラ「うわっ!! くっ!!」
なんとかそれを振りほどこうとするも、続けざまに大量に放たれた糸に体も絡め取られてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
スパルダ「邪魔するなって言ったよねぇ。なら、あんたから相手してやるよ!!」
そのままソーラはスパルダの方に引きずられるように引き寄せられて行った。
ことは「はー…」
エメラルドもスマホンもない状態では変身どころか魔法も使えず、ことははなすすべなくヤモーにマウントを取られて首をギリギリと締め上げられていた。
ヤモー「ふっ、エメラルドもなければあなたなど所詮ただの小娘。ドクロクシー様の仇、取らせていただきますよ!!」
ソーラ「や、やられてたまるもんか…!!」
スティックはもちろん体も糸に絡め取られた挙句、密着状態にまで引き寄せられてしまったソーラは、諦めることなく気丈にそう言い放ったが、スパルダは鼻で笑い飛ばした。
スパルダ「状況がわからないのかい? 無駄なあがきだ、このまま死にな!!」
毒の爪を振りかざしてソーラに突き刺そうとしたが、その瞬間鈍い痛みが走った。
スパルダ「がっ…」
ソーラ「…スティックが二本あるって状況がわからなかったのかなぁ?」
もう一本のスティックを肩口に突き立てつつ、皮肉げに語ったソーラはそのままスイッチを操作して電流を流した。
スパルダ「グアアアッ!!」
ソーラ「ぐぐっ!!」
ステッィクから流れた電撃は絡め取られた糸を通して、ソーラにも相応のダメージが入ったが、油断していたスパルダにもかなりのダメージを与えることに成功しどうにか解放された。
そして電撃で痺れているスパルダを間髪入れず蹴り飛ばしたソーラは、地面に転がったもう一本のスティックを拾い上げて、手持ちのスティックと柄の部分でくっつけて一本の棒のようにした。
そのまま振り返ると、ことはを締め上げているヤモーの方に回転させながら投げつけた。
ソーラ「くらえ!! クロムスティック・ブーメラン!!」
しかし、そのスティックは大暴投となり、ヤモーにはかすりもしなかった。
ヤモー「ふふ。どこに投げているのですか」
そうやってソーラを嘲笑った瞬間、戻ってきたスティックが後頭部に炸裂した。
ヤモー「ガッ…」
その隙を見逃さず、ソーラはすかさずマウント状態のヤモーを体当たりで吹っ飛ばして、スティックをキャッチした。
そして解放されたことはを抱えて飛び上がり全力で逃げ始めた。
ソーラ「いい、しっかりつかまってなさいよ!!」
ことは「う、うん!!」
しかし、ことはを抱きかかえたソーラの飛行はかなりよたよたとしたおぼつかないものであり、スピードもほとんど出なかった。
ヤモー「おのれ、逃がしませんよ!!」
そのためみるみるうちに追いつかれそうになってしまった。
ソーラ「くっ、まずい。逃げきれない!!」
ことは「も、もっとスピード出ないの!?」
ことはのもっともな感想にソーラは悔しそうに歯噛みしながら答えた。
ソーラ「エネルギーをさっき無駄に使っちゃったから… もうこれ以上は…」
ことは「な、なんでもっと大事にしないの? ダメだよ無駄遣いしちゃ、いざという時に困るんだから…」
リコのしていた注意をそのまま繰り返したことはだったが、それは藪蛇だった。
ソーラ「あんたがいきなり攻撃してきたからでしょう!!」
ことは「はー…」
そんな漫才を繰り広げている間にも、ヤモーとスパルダはぐんぐん距離を詰めてきていた。
ソーラ「ダメ、逃げきれない!!」
ことは「私を離して!! あの二人は私が目当てなんだし、一人ならもっと早く飛べるから、きっとあなただけは助かる」
その言葉通り、ことはを抱えたソーラは今にも墜落しそうであり、ここでことはを見捨てればソーラだけは助かっただろうが、それを了承するソーラではなかった。
ソーラ「何言ってるの!! そんなことできるわけないでしょ!! 人を見捨てるような真似は絶対にしない!! 先輩たちに合わせる顔がなくなるもんね!!」
力強く言い放ったソーラだが、それで現状が回復するはずもなく、おまけにヤモーとスパルダが魔法で攻撃を仕掛けてきた。
絶体絶命かと思われたその時、美しいハミングがどこからともなく聞こえてきた。
そしてその歌の影響か、ヤモーとスパルダの放った魔法も消滅してしまった。
スパルダ「チッ、なんだいこの歌は? 聞いててイライラする」
ヤモー「全くもって気分の悪くなる歌ですね」
ことは「何言ってるのこんな優しい歌… 子守唄みたい…」
不快そうに顔をしかめる二人とは対照的に、ことはとソーラは心が洗われるようであった。
ソーラ「えっ? なに? この歌を聴くと力が湧いてくる…」
多少なりともパワーが回復したため、空中での姿勢は立て直せたソーラだったが、それでもフルパワーには程遠いことはよくわかっていた。
ソーラ「少しはマシになったけど、戦えるだけのエネルギーじゃないし、残ったエネルギーでできることは…」
気分を逆撫でされたのか、先ほどよりも執拗に追ってくるバッティとスパルダを前にして、必死に打開策を考えた結果ソーラはハッと思いついた。
ソーラ「そ、そうだ!! いい、私の方を絶対に見ないで、目をつぶってて!!」
ソーラの有無を言わさぬ感じの言葉にことはもギュッと目を閉じた。
それを確認したソーラは自分たちを追って来るヤモーとスパルダを睨みつけた。
スパルダ「ふっ、観念したかい」
ヤモー「これで終わりですよ!!」
だが、ソーラは手を開き顔の横に添えると、残されたエネルギーを振り絞るように叫んだ。
ソーラ「シャイニング・フラッーシュ!!!」
それと同時にソーラの全身から強烈な光が放たれ、ヤモーとスパルダはそれを至近距離でまともに見ることになった。
ヤモー・スパルダ「「グアアアーッ!!」」
スパルダ「く、くそっ。目、目が…」
ヤモー「やってくれますね…」
目がくらみ、視力を奪われた二人は空中で苦しそうに悶え、それを見たソーラは今のうちにと地上に降り、岩陰に隠れて息を潜めた。
ことは「今何したの?」
ソーラ「なーに、眩しく光ってちょっと目をくらませてやったのよ」
岩陰に身を潜めたもののじっとしていてはすぐに見つかると、ことはは移動しようとした。
ことは「でもここじゃすぐに見つかっちゃう… 早く逃げないと。 みらいとリコも気になるし…」
ソーラ「あなたは行きなさい。私はここで時間を稼ぐから…」
その言葉にことははギョッとした。
ことは「な、何言ってるの!? あなたも一緒に…」
ソーラ「今ので完全にエネルキーはすっからかん。動くこともほとんどできないわ。囮ぐらいにはなれるからさ…」
力なくそう言ったソーラを、ことはは無言のまま背負って逃げ始めた。
ソーラ「どうして…」
ことは「何言ってるの!! そんなことできるわけないよ!! 人を見捨てるような真似は絶対しない!! みらいもリコも絶対にそんなこと言わないよ」
その言葉にソーラはぐうの音も出なかった。
続く