変身不能の状態でみらいとリコ、そしてソーラとことはが必死に逃げ惑っている中、ソルシエールは厨房のようなところで、大きな鍋に湯を沸かし様々な材料を入れていた。
ソルシエール「それとドラゴンの爪に猛毒サソリの粉を少々と… あとはプリキュアの涙さえあれば、究極魔法のエキスが完成する。そうすれば私の願いは叶う。この胸の痛みも消える」
そして手の中にあるリンクルスマホンとエメラルドを見やると、くだらないというように呟いて放り捨てた。
ソルシエール「これも伝説の魔法の一つのようだが、それほどのものでもないか。プリキュアの涙に比べればガラクタでしかない」
その厨房にロープで縛り上げられていた豪とランそしてモフルンもこの独り言を聞いていた。
ラン「ちょっとあんた達!! 一体そんなことしてどんな願いを叶えるつもりよ!!」
全く臆することなく気丈に言い放ったランだったが、ソルシエールには通じなかった。
ソルシエール「フッ気の強い娘だ。だがプリキュアでもない貴様には関係のないことだ、そこでおとなしくしておけ。 静かにしていれば危害は加えん」
ラン「何言ってんのよ!! もう十分やってるってのよ!!」
トラウーマ(ふっ、甘いやつだ。秘薬が完成すればどの道世界など暗黒の闇に染まると言うのに)
厨房の様子を別の部屋から鏡で確認し、密かにほくそ笑んだトラウーマは画面を切り替えてプリキュアの状況を確認した。
トラウーマ「チッ。ソルシエール様、プリキュアども、なかなかしぶといですな。痛めつければ手っ取り早いと思いましたが、これでは涙が手に入るのにも時間がかかりそうです。 私が直接行ってまいります」
みらいとリコも変身不能ながらも、魔法を駆使しつつお互いに支え合い、必死にガメッツとバッティから逃げ惑っており、このままではラチがあかないと判断したトラウーマは告げた。
ソルシエール「うむ。頼んだぞトラウーマ」
聞こえてきたトラウーマの言葉に頷いたソルシエールに、ずっと考え込んでいた豪が話しかけた。
豪「ああ、やっと思い出した。 聞いたことあると思ってたらあんたの言ってる秘薬ってソーラ姉ちゃんが前に言ってたやつだな。 でもこれじゃあんたの願いってのは叶いそうもねぇな、なんせ秘薬は失敗するだろうし」
ソルシエール「何?」
モフルン「ど、どういうことモフ?」
ラン「豪、あんた何知ってるのよ?」
全員がその言葉に食いつく中、豪は続けた。
豪「プリキュアってのはさ、光 つまり強力なプラスエネルギーの戦士なわけだろ。当然その涙にも強い力がこもってる。でもさ、こんな風に痛めつけたりして無理やり流させた涙にはマイナスエネルギーが混じっちまう。そうなったら…」
ラン「そっか!! 込められてる力もなくなる!!」
モフルン「モフ!!」
ソルシエール「何!? バカなことを言うな、これは秘術中の秘術。 知っているものなど限られていると言うのに、なぜあいつはそんなことを知っている!!」
皆が納得する中、凄まじい形相で豪に噛み付いたソルシエールだが、豪はあっけらかんと答えた。
豪「決まってんじゃん、ソーラ姉ちゃんはいろんな次元を守る特別警備隊員だぜ。それぐらい知ってて当然じゃん」
ソルシエール「ぐっ…」
言い返す言葉を失ったソルシエールに豪はさらに畳み掛けた。
豪「それよりいいのかよ? あの馬のやつが下手に姉ちゃん達を傷つけたら、なんもかんもがパァだぜ」
ソルシエール「小僧!! 貴様、何様のつもりだ!!」
上から目線のその言い草にソルシエールは豪の胸倉を掴みあげ拳を振り上げたが、豪は涼しい顔をしていた。
豪「おっと。俺たちに万が一があったら姉ちゃん達は悲しい涙を流すぜ。マイナスエネルギーがたっぷり詰まった、あんたにとって無意味な涙をさ」
ソルシエール「く、くくっ…」
胸倉を掴んでいた手を離し拳を下ろしたところで、豪はニヤリと笑って告げた。
豪「さぁてと、そんじゃ姉ちゃん達を無事にここまで呼んで来ないといけないよな」
ラン「それと、私達の安全も保証してよね」
モフルン「後、今捨てたスマホンとエメラルドも返して欲しいモフ」
その言葉に歯噛みをしつつも、ソルシエールは要求を飲むしかなかった。
ソルシエール「くっ、トラウーマ。プリキュアを絶対に傷つけるな、無傷で生け捕りにしてこい。肝心の涙が手に入らなくなる」
虚空に向かってそれだけ言い捨てると、ソルシエールは悔しそうに顔をしかめながら豪達を縛っていたロープを解き厨房から連れ出した。
トラウーマ「どういうつもりだ? プリキュアを傷つけるなとは… まぁ連中に万が一があれば涙が手に入らなくなるのは確かですが…」
ソルシエールの言葉に疑問を覚えつつも、記憶から蘇らせた闇の魔法使い達の怨念の強さは、トラウーマにとっても想定外のものだったため都合が良かった。
トラウーマ「やむを得ません、連中がここに来やすいようにしてやりますか」
不満げに顔をしかめながら、トラウーマはみらいとリコ ことはとソーラのいる場所と洋館とをつなぐ空間を開けた。
リコ「も、もうだめ!! 逃げられないわ!!」
みらい「ま、まだだよ、諦めちゃダメ」
戦うすべもないまま必死に逃げ惑っていたみらいとリコだがついに限界がきてしまった。
バッティ「追いかけっこはこれで終わりです。あの時のような奇跡は二度とは起こりませんよ」
ガメッツ「戦いもせずに逃げ惑うとはな。貴様らなどもはや戦う価値もない」
前方のコウモリと後方の亀に完全に逃げ道を塞がれてしまい、袋の鼠となった二人の耳に美しいハミングがどこからともなく聞こえてきた。
みらい「えっ?」
リコ「綺麗な歌… なんだか力が湧いて来る」
勇気付けられ、思わずその歌を口ずさんだみらいとリコだったが、途端にバッティとガメッツは頭を押さえて苦しみ始めた。
バッティ「ぐっ!! この歌は…」
ガメッツ「や、やめろー!!」
そうして悶えながら地面へと落下していき、ついには黒い靄となって消えていった。
みらい「な、なんで?」
リコ「この歌のせいなの?」
突然のことに目を白黒させていた二人は、耳をすませて歌の出所を探った。
みらい「見てあれ、何か光ってる!!」
リコ「あそこから聞こえて来る…」
それを確認すると力強くうなずき合って上空に輝く小さな星に向かって飛んでいった。
ことは「早く、みらいとリコのところに行かないと…」
ソーラ「あなたたち、すごく仲がいいのね。いつも三人一緒なの?」
背中のソーラの質問にことははにっぱりと笑って答えた。
ことは「うん!! ずーっと一緒!! みらいもリコもモフルンもみ〜んな私のお母さんなの!! みんなで立派な魔法使いになるんだ」
その答えにソーラは少し顔を曇らせた。
ソーラ「そっか… 私も先輩たちとそんな風なことが言えたらよかったんだけどね」
ことは「? あなたもそんな人がいたの? その人はどうしたの?」
ソーラ「行方不明なの。私が未熟だったせいでね」
ことは「そんな…」
ソーラ「プリキュアとしてすごく立派な先輩たちだったの。だから私も負けないように色々頑張ってるんだけど、なかなか上手く行かないものね。ちょっと空が曇っただけで一人じゃ何にもできないでいる」
どこか自虐的なソーラの言葉に、ことははなんともなしに先ほど聞こえてきた歌を口ずさみ始めた。
ソーラ「その歌、さっきの… あれ?」
それとともに再びどこからともなく同じ歌が聞こえてきた。
そしてソーラは、先ほど同様エネルギーが回復してくるのを感じていた。
ソーラ「またこの歌…」
ことは「いったい誰が歌ってるんだろう。優しい声…」
ソーラ「この歌、強いプラスエネルギーが込められてるわ。どういうことかしら?」
ことは「うん、すごいよね。なんだか元気が出てくる」
ソーラ「いや、そういう意味じゃなくてね… ここに私たちの味方がいるってことじゃ…」
ことはに負ぶわれていたソーラは、そのことに気づき耳のセンサーの感度を最大にあげて音源を探った。
ソーラ「!! まずい隠れて、さっきのやつらが!!」
しかし、歌の音源より先にヤモーとスパルダが近づいてきている音が聞こえてきたため、慌てて岩陰に身を潜めた。
スパルダ「チッ、この辺にいるのは確かなのに面倒臭いねぇ。こうなったらいっその事…」
そうイラついたようにつぶやくと、適当な岩の真上に魔力を込めた杖を投げた。
スパルダ「魔法、入りました!!」
杖が魔法陣となり、岩が魔法陣に吸い寄せられるのと同時にスパルダが魔法陣の中に入っていった。
そうして岩と一体化したヨクバールになったスパルダは雄叫びをあげて強力な魔法の光弾を頭上に作り上げた。
スパルダ「このまま根こそぎ吹っ飛ばしてやるよ」
ヤモー「ふふふ、以前とは違って制御できていますねぇ。プリキュアの苦しむ顔を見れなかったのが残念ですがこれでドクロクシー様もお喜びになられる」
そんなスパルダを見て、ヤモーも満足そうに口元を歪めた。
この光景は岩陰に隠れていたソーラとことはにも見えており、二人とも真っ青になった。
ソーラ「げげっ!! 冗談じゃない、あんなの今撃たれたら…」
しかし、次の瞬間スパルダとヤモーの周辺をモヤのようなものが覆い始めた。
スパルダ「ん?」
ヤモー「なんですか?」
疑問に思うや否や、そのモヤからトラウーマの声が響いてきた。
トラウーマ「少しやりすぎですね。プリキュアを殺されると迷惑なんですよ。すみませんがここでお役御免です」
次の瞬間、二人を覆っていたモヤは大爆発を起こした。
ことは「な、なんで…」
ソーラ「で、でもとにかく助かったわ。この歌の聞こえてくるところも特定できたし。今は行きましょう」
エネルギーがそこそこ回復したソーラは、ことはを抱きかかえて歌の聞こえてきた場所、上空に輝く小さな星に向かって飛んでいった。
ヤモー「お、おのれ…」
続く