速田家
例年になく賑やかになったクリスマスを無事に終え、魔法つかいプリキュアも元の世界に帰って行き、平和に年が明け三が日も過ぎようかという頃、豪の悲痛な叫びが響いた。
豪「いいっ!! 塾!? 年明け早々!?」
豪母「そっ。一年の計は元旦にあり。あなたも今年から中学生になるんだからいつまでもお父さんのところで遊んでないでまともな勉強して来なさい!!」
豪「いや、別に遊んでるわけじゃないんだけどさ…」
確かに、再び始まった戦いに豪も大なり小なりもう一度参加しており、決して遊んでいるわけではない。
しかし、遠藤博士の評判は世間的にはまだともかく、親類特に博士の娘であり豪の母親の中では決して芳しいものではなかった。
豪母「おんなじようなものです。お父さんってばたまたまうまくいった発明の特許のせいでより遊びに熱中してるんですから。もっと一般的なことに役立つ勉強をしなさい!! いいわね!!」
豪「う〜… わかった…」
豪自身は祖父である遠藤博士が立派な人間だと思っているし、尊敬もしている。
とはいえ、信頼しているかと言われればまた別問題であるため、母親の迫力もあり了解するしかなかった。
豪母「はいよろしい。では早速三ヶ月特別コースに明日から行ってらっしゃいね。新年コースで一ヶ月分無料なのよね」
ニコニコしながら申し込みの電話を始めた母親を見て、豪はぽつりと呟いた。
豪「ああゆうとこランそっくりだけどさ。いかねぇほうが金かかんないってワカンねぇのかな…」
豪「とまあ、そういうわけで。しばらくそっちに行けそうもねぇよ。無料期間中は週に3回必ず来てくれっていうことだから」
自室でがっくりと肩を落として電話をしていた豪に、その電話の相手であるランがぴしゃりと言い放った。
ラン『自業自得よ。最近あんた成績落ちてるじゃない。いい機会だからしっかり勉強して来なさい』
豪「チェ〜ッ、厳しいなぁ… こんなことしてる間にあいつらが攻めて来たらどうしようって考えないのかよ」
思わず愚痴った豪だったが、その途端電話の相手が変わった。
ソーラ『ダメだよ豪くん。そりゃ私だって不安はあるけど、世界を守るためにはまずきちんと足場を固めなきゃ。気持ちだけが先走ってちゃ何にもできないよ』
豪「ソーラ姉ちゃん… わかった、頑張ってみるよ」
ソーラ自身の体験談でもある言葉に、彼女がどれほど努力しているかを知っている豪は何も言えなくなってしまった。
ソーラ『うん。その意気その意気。頑張ってね』
翌日
未だどこか正月気分の抜けない世間とは裏腹に、どこか重い足取りで母親に指定された学習塾へと向かっていた。
豪「はぁ〜… こんなことなら冬休みの宿題さっさと終わらせんじゃなかったなぁ。そうすりゃ適当な言い訳作れたのに」
ブツブツと文句を言いつつも周りを見回してみるとやはり同じように暗い顔をした子供が何人も同じ方向に歩いていた。
豪「これもみんな犠牲者かよ。全く勉強ができないってそんなにダメなことなのかよ」
そんなこんなで暗〜い顔ばかりの子供達が総勢約20名前後、そこそこの広さの小屋を改装したような教室に座っていると、一人の若い男性講師が入ってきた。
講師「うむ、みんな思った通りあまり明るい顔をしていないな。だが心配することはない、なぜならば諸君は何も悪いことをしていないからだ」
その言葉に子供達は皆えっ? というような顔をした。
講師「おそらく諸君達は成績が悪いことを理由にして、かなり格下に見られてきたのだろう。だが、それは決して諸君のせいではない。教え方の悪い親や学校の教師のせいなのだ」
興奮気味に大仰な身振り手振りを交えて語られていく講師の言葉に生徒達はだんだんと耳を傾け始め、真剣な顔つきになっていった。
講師「だがもはや心配はいらない。なぜならば諸君は今ここにきたからだ。諸君達を無責任にも見下してきた者達を見返すことができるのだ!! さぁ、私と共に世の中を見返してやろう!! この私の作ったFLY HIGHスクールならそれが可能なのだ!!」
その演説が終わった時には、轟々たる拍手が教室中に巻き起こっていた。
豪「ちょっと極端だけど割といいこと言うじゃん。こりゃひょっとして当たりだったかな…」
そんなこんなで冬休みも終わり、3学期が始まったところである事件が起きた。
童夢小学校
「おお〜!! すげぇじゃんかよ豪。全科目満点なんてよ」
「テメェ冬休み全然連絡がないと思ってたらずっと塾行ってたんだってな。ずりぃぞ!!」
普段決して成績がいいと言うわけではなかった豪が冬休み明けの総まとめテストで見事満点をとっていたのだ。
廊下に張り出された成績を見て、悪友達がやっかみ半分に褒め称える中、豪は少し澄ましたような顔で答えた。
豪「ふっふっふっ。これが実力さ、本気だしゃあこんなもんよ」
担任「本当にすごいわね。これなら中学校に行っても心配はいらないわ。みんなも速田くんを見習いなさい。卒業まであっという間なんですからね」
担任の先生までもが豪を賞賛する中、ランは一人呆然としていた。
ラン「わ、私が豪に負けた… そんなことが…」
ランと豪は同じ学年でもあったが、六年間一度たりとも成績で負けたことがなかったため、ランは信じられないというような顔をしていた。
家事や家計のやりくり等で日頃奔走しているが宿題に加えて予習復習はきちんと行い優等生として通っていたランにとって、この事実は受け入れられないものがあった。
豪「どーだーラン。俺の実力を見たか!!」
その自慢げな豪の言葉に、ランはものすごい顔とともに屈辱に歯噛みしていた。
ラン「ご、豪の分際で…」
遠藤平和科学研究所
遠藤「おーいラン。夕飯じゃぞ、早く出てこんか」
ラン「後で食べるから置いといて!!」
部屋に閉じこもりっぱなしで勉強を続けているランに、ノックとともに呼びかけた遠藤博士だったが、当のランは聞く耳を持たなかった。
ソーラ「ダメだよ。せっかく博士が作ってくれたインスタントラーメンなんだから、あったかいうちに食べないと」
ラン「のびてからでも十分食べられるわよ。見てなさいよ豪、今度こそ…」
遠藤「根を詰めすぎじゃ。そんな簡単に成績が伸びるはずがなかろう」
実のところ豪にテストで負けて以来早三日、ランは家事を一切放棄して勉強に励んでいた。
ソーラはもちろん遠藤博士に家事を代わりにこなすスキルがあろうはずもなく、食事はインスタントやレトルト、洗濯物は溜まりっぱなし、部屋中は埃っぽくなり始めていた。
ラン「何言ってるの!! 実際豪のやつ一週間ちょっとであんなに成績あげたのよ!! またバカにされてたまるか…」
ソーラ「しょーがないなぁ。頑張るのはいいけどご飯はちゃんと食べないとダメだよ。エネルギーはきちんと取らないと」
ソーラの言葉の説得力には勝てず、渋々というように部屋から出てきたランは、ブツブツいいながらも今へと向かって行った。
ラン「…でも時間が惜しいなぁ。もっともっと勉強しないと…」
そんなランの言葉を聞いて遠藤博士は大きくため息をついた。
遠藤「そりゃ、勉強するに越したことはないがな。テストでいい点数を取るためだけに勉強するっちゅうのは、ちょっと違うんじゃぞ…」
さらに三日後
ラン「ねぇおじいちゃん。ちょっと相談があるんだけど…」
遠藤「うむ、わしもじゃ。こんな事を言うのもなんじゃが、勉強の前にそろそろ掃除と洗濯のやり方をソーラに教えてやってくれんか。このままではお前も着る服がなくなる上、我が研究所が崩壊しかねん」
ランが勉強に集中しているため、ソーラが日頃の恩返しとばかりに家事をやっているのだが、悲惨の一言でしかなかった。
洗濯をすれば服をビリビリに破いてしまい、掃除をすれば物が壊れて却ってゴミが増える始末である。
料理に関してはさすがに死活問題だと判断した遠藤博士がインスタントやレトルト果ては店屋物でなんとかしているのだが、研究所内の秩序は限界に近かった。
事実、現在洗い物をしているはずの台所から絶え間なく何かが割れる音がしているぐらいである。
ラン「いや、それもあるんだけどね… どうも豪のやつおかしいのよ」
遠藤「おかしいとは? ここに来んようになってはいるが、成績は上がっとるようじゃし、特に問題はないじゃろう」
ラン「いやね、なんかこう、なんというか成績は上がってるのは悔しいけど認めるとしても。それ以外が無関心だというか…」
遠藤「というと?」
ラン「あの体力馬鹿が一番得意な体育の時間でさえなんかブツブツ言ってて身が入ってないし。何より給食の時間にろくにお代わりもしないでさっさと食べては本読んでんのよ」
遠藤「うーむ、あの豪がなぁ…」
ラン「よれより何より、なんか周りに対して冷たいのよね。呼ばれても無視したり、頼みごとを無表情に断ったりして。馬鹿だけどあんなんじゃなかったのに…」
どこか寂しそうに呟いたランのところに、両手を泡だらけにしてずぶ濡れになったソーラがニコニコしながら話しかけてきた。
ソーラ「でもさ。ランちゃんって豪くんのことよく見てるね。別のクラスなのになんでも知ってるみたい」
ラン「そ、そんなんじゃないわよ!! あいつが目立つだけなのよ!! って、それよりそんなびしょびしょのまま部屋の中歩かないでよソーラさん。えっと雑巾雑巾」
何かを誤魔化すように雑巾を探しに言ったランを尻目に、遠藤博士は考え込んでいた。
遠藤「ふ〜む。一度直接豪に会ってみたほうがいいかもしれんな…」
速田家
豪の様子がおかしいということで遠藤博士とランは早速速田家に向かっていった。
なお、その際にソーラも一緒に行くとかなり食い下がったが、話がややこしくなりそうだということで、なんとかなだめて研究所の留守番となった。
ラン「おばさんお久しぶりです」
遠藤「しかし翔子。同じ町内に住んどるんじゃし、正月に挨拶ぐらい来ても良かろうが。たまには顔をみせい」
自分の娘でもある豪の母に対して軽く愚痴った遠藤博士だったが、藪蛇だった。
豪母「何言ってるんですか!! 最近また変な事件が起きてるっていうのに、お父さんのことだし懲りもせずに変に首突っ込んでるんじゃないんですか? 危なくておちおちあそこに顔が出せますか」
ラン「ははは… それより豪は…」
乾いた笑みを浮かべつつ豪のことを尋ねたランだったが、豪の母は満面の笑みを浮かべた。
豪母「それがね。世の中を変える人間になるんだって言って、ここんところずっと勉強してるのよ。あの塾にやって正解だったわ」
遠藤「う〜む、変われば変わるもんじゃのう…」
感心したようでありながら、どことなく疑問を浮かべているような遠藤博士に対し、豪の母は皮肉げに続けた。
豪母「お父さんも少しは見習ってくださいな。たまたまあんなパワードスーツがうまくいっただけなんですから。もっと広く世の中の役に立つ物を考えたらどうです」
遠藤「ああ、わかっちょるよ。それでな、ちょっとランもその塾に行かせてやろうかと思ってな」
ラン「えっ?」
豪母「あら?」
突然の言葉に驚きの声が上がる中、遠藤博士は続けた。
遠藤「ランのやつ、豪に成績で負けたと言って悔しそうにしとってな。だったら同じ条件で勉強させれば、もっと伸びるじゃろう。豪の行っとる塾を紹介してくれんか」
豪母「はいはい。 ちょっと待ってね」
その言葉に機嫌をよくした豪の母は、いそいそとチラシを取りに行った。
ラン「あ〜… そういうことね」
続く