雄大かつ荘厳な姿をたたえていた名実ともに日本一の山、富士山。
かつての最終決戦の地となったこの山は、当時魔の山と言う単語がぴったりくる醜悪かつ不気味な姿となっていたが、現在のそれは輪をかけて異常な光景となっていた。
まるで山頂が植木鉢であるかのように、巨大な紅色の人食い花といったものが咲いており、醜悪な雄叫びをあげていたからである。
そして、雨上がりとはいえ未だに空を覆う厚い黒雲が雰囲気に拍車をかけていた。
一般人ならば目を背けたくなるようなその醜い花を、満足そうに眺める骨と皮だけのようにガリガリの真っ黒な男がいた。
パーリ「よしよし、なかなかいい調子だ。程よい肥料があったからよくドラフターが育つ」
そんなパーリの耳に、風を切り裂いて何かが飛んでくる音が聞こえてきた。
パーリ「ふふ。来たなコズミックプリキュア。迎撃しろドラフター!!」
その命令に従い人食い花ドラフターはカッとその巨大な口を開き、接近してくるライナージェットに向かって火炎弾を乱射した。
リーフ「あ、危なかった…」
次々に飛んでくる火の玉だったが、ライナージェットをサーフィンのように右に左にと操りそれをかわすことに成功した。
ダイーダ「油断してたわ、いきなり攻撃してくるとはね… ソーラ、大丈夫?」
真正面から突っ込もうとしていたことを反省しつつ、ダイーダは振り返り自分たちの後方を飛行していたソーラを気遣った。
ソーラ「は、はい、大丈夫です。 それよりこのまま真正面から行くのは危険です。私がうまく囮になりますからその隙に…」
必死になってなんとか回避に成功したソーラはそう提案したが、ダイーダは一蹴した。
ダイーダ「馬鹿なこと言わないで!! 囮っていうのはすごく危険なことなのよ」
ソーラ「で、でも… 私なんかそれぐらいしか…」
リーフ「ダイーダちゃんの言う通りだよ。 それに自分をあんまり小さく考えちゃダメ。 あなたは自分で気がついてないかもしれないけど、立派な才能が…」
そんな話をしている間にも第二波が到来した。
ダイーダ「くっ!! キリがない。 空中戦は不利だわ」
ダイーダの言う通りライナージェットの動きはどうしても直線的なものが主になり、機敏に小回りの効く飛行ということができないのである。
リーフ「山のてっぺんに降りて戦おう。ソーラもいい?」
ソーラ「は、はい」
ダイーダ「よし、行くわよ!!」
リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」
その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切りライナージェットから飛び降りた。
その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。
ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。
ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。
そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。
そして人食い花ドラフターをキッと睨むと二人は名乗りをあげた。
リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」
ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」
リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」
ソーラ「コズミックプリキュア… やっぱりかっこいい…」
変身すると同時に地上から一気に人食い花ドラフターに接近していったリリーフとダイダーだが、そんな彼女たちを目がけて火炎弾が次々と飛んできた。
それを華麗なフットワークでかわしつつ、接近していったダイダーは大ジャンプしてドラフターの頭上を取り、両腕を何かの噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。
ダイダー「あんなんだろうと花なら根こそぎ焼き尽くすまで。 チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高熱プラズマ火炎発射!!」
その掛け声とともにかざされた右手から超高熱の火炎を噴射され、一発でドラフターを焼き尽くして灰にした。
ソーラ「ダイーダ先輩、すごいですね」
一瞬でドラフターを焼き尽くしたダイーダにソーラは羨望と尊敬の眼差しを向けて駆け寄ったが、当の本人は険しい顔を崩さなかった。
ダイダー「気を抜かないで、何か変よ」
その言葉通り、黒い煙が火口から吹き上がったかと思うと、雄叫びとともに焼き尽くされたはずの人食い花ドラフターが復活してきた。
ソーラ「そんな…」
リリーフ「やっぱりね。核を浄化してないのに変だと思った」
ダイダー「でもまずいわね。早くなんとかしないと…」
ドラフターを一刻も早く処置しなければ、どんどんと成長していき、最終的にはそれだけで世界が暗黒に覆い尽くされてしまう。
彼女たちの顔に焦りが浮かぶ中、研究所から緊急通信が入ってきた。
遠藤『三人とも聞こえるか。大変なことになったぞ!!』
リリーフ「どうしたんですか?」
遠藤『街中に巨大な重機のような怪物が出現して、破壊活動を行っとる。警察も対処に向かっとるが、間違いなくこいつも…』
ソーラ「そんな!? ドラフターが二体も!!」
ダイーダ「落ち着きなさい、騒いでも何にもならないわ。リーフ!!」
予想だにしていなかった状況に悲鳴のような叫びをあげたソーラをたしなめると、ダイダーは冷静にリリーフに呼びかけ
リリーフ「わかった、街の方は私がなんとかする。 ライナージェーット!!」
わかっているというように返事をすると即座にライナージェットを呼び寄せた。
風を切り裂いて飛来したそれに飛び乗ろうと大ジャンプしたリリーフだったが、人食い花ドラフターに突然二つ目の花が咲き、彼女を狙って火炎弾を発射した。
リリーフ「えっ!?」
突然のことに回避行動を取るのが遅れ火炎弾が直撃しようとした瞬間、ソーラがリリーフを押し飛ばした。
そのためリリーフには何とか火炎弾が直撃しなかったが、射線上にあったライナージェットは爆散してしまい、ついでにどんよりと曇っていた空の雲まで一部散らした。
ダイダー「ソーラ!!」
リリーフ「いたた… ライナージェットが… あっ、しっかりして!!」
リリーフは今の攻撃でライナージェットが爆散したことを視界の隅に入れながらも、火炎弾がかすめたことで地面に叩きつけられたソーラに駆け寄った。
ソーラ「せ、先輩… 無事で… よかった…」
リリーフ「馬鹿!! 何であんな無茶したの!?」
うわごとのように自分の無事を喜ぶソーラを助け起こしたリリーフに、ソーラは途切れ途切れになりながらも、自分の思いを語った。
ソーラ「だって… 私は未熟で… 怒られてばっかりで… でも先輩が無事ならきっとこの世界は…」
ダイダー「何言ってるの!! それであなたに何かあったら意味がないじゃない!! リーフ、速攻で決めるわよ。こいつをぶっ倒して、急いで戻ってもう一体のドラフターを倒して…」
リリーフ「うん!! ソーラを治してあげないと!! ちょっとだけ辛抱しててね」
そんなソーラを必死に励ましつつ、そっと寝かせるとリリーフとダイダーは敢然と人食い花ドラフターに向かっていった。
リリーフ「チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」
その掛け声とともにかざした稲妻模様の青い腕から放たれた電撃は、人食い花ドラフターを感電させ、一撃で焼き尽くした。
しかし次の瞬間には再び雄叫びをあげ、さらに多くの花となって復活した。
リリーフ「くっ!! これじゃきりがないよ」
このドラフターそのものの耐久力は大したことがないのだが、倒しても即座に復活し、しかも増殖してしまう。
ダイダー「まずいわね。ライナージェットが破壊された分、移動する時間も考慮しないといけないのに…」
そしてそんな彼女たちを目がけて巨大な火炎の玉が次から次に発射されてきたため、再び距離を取らざるをえなくなっていた。
苦虫を噛み潰したような顔をしているプリキュアを見て、パーリは満足そうに口元を歪めた。
パーリ「ふふ、想像以上に作戦は順調だ。育てていた花が枯れたせいで、いつまでも咲く花が欲しいなどという歪んだマイナスエネルギーを抱えたやつを見つけるのは苦労したが、その価値はあったな」
ソーラ「う… 先輩…」
ボロボロの体を必死に持ち上げるようにして立ち上がったソーラだったが、目の前で苦戦しているリリーフとダイダーを見て自分の無力さを恨んでいた。
ソーラ(力が欲しい… 力を、誰でも何でもいい。あいつらと戦える力を!!)
その時、先ほどの人食い花ドラフターの砲撃でできた雲の切れ間から太陽が顔を出し、暖かな光がソーラに降り注いだ。
そしてそれとともにプラチナブロンドの髪がぼんやりと光り始めた。
ソーラ「な、何… 力が、湧いてくる…」
先ほどまでボロボロだったソーラのボディは少しずつ修復を始め、自分自身でもわかるほど力がみなぎり始めていた。
そして力強く拳を握り締めると、大ジャンプとともに人食い花ドラフターに向かっていった。
ソーラ「ハァアアア!!」
気合いのこもった言葉とともに放たれたソーラの飛び蹴りは人食い花ドラフターに直撃し、大きな悲鳴をあげさせた。
ダイダー「ソ、ソーラ?」
リリーフ「だ、大丈夫なの?」
心配そうに声をかけた二人だったが、ソーラは興奮気味に胸を叩いて言い放った。
ソーラ「はい。すごく力が湧いてくるんです。一体どうして…」
ソーラ自身も疑問に思っていた時、遠藤博士から通信が入った。
遠藤『ようやく起動したようじゃな。わしの新型太陽電池が』
遠藤平和科学研究所
この一連の状況を司令室で確認しつつ出動準備を整えていた豪とランは、突然のソーラのパワーアップに驚いていた。
豪「な、なんでいきなりボロボロだった体も治っちゃってるわけ!?」
遠藤「うむ。ソーラに取り付けてあるバッテリーとはナノマシンサイズの太陽電池でな。それをあの髪の繊維に混ぜて取り付けたのじゃ」
ラン「じゃあさっきの太陽の光が…」
遠藤博士の解説にランも状況を理解し、納得したような声をあげた。
遠藤「うむ。エネルギーのみならず、ボディの修復まで瞬時に行うとは。計算上既存のバッテリーより性能を大きく上回っておったが、あのボディにソーラが取り付いたことでリーフやダイーダ同様さらに大幅に機能がアップしていたようじゃな。 これはもしかすると…」
富士山頂
遠藤博士の言葉通り、ソーラはみなぎってくる力にある期待を込めていた。
ソーラ「体が軽い。力がどんどん噴き出してくるみたい。よ〜し…」
ソーラはさらに日の当たるところに移動すると、両腕を頭の上でクロスさせ力の限り叫んだ。
ソーラ「モードプリキュア、ウェイクアップ!!」
掛け声とともに両腕を大きく開くとソーラの全身は万華鏡のような幻想的な光のオーロラに包まれていった。
光のオーロラを身にまとうかのようにすると、彼女は深緑のフリルのついた黒光りのするドレスのようなコスチュームに変身していた。
そしてルビーのような真っ赤な瞳で、ドラフターを一睨みすると堂々たる名乗りを上げた。
「光り輝く太陽のかけら キュア・ソーラー!!」
続く