警視庁 剣道場
ソーラ「きゃあああ!!」
防具をつけて竹刀を持ったソーラが悲鳴とともにみっともない格好で吹っ飛ばされていた。
志夜「あなたは力はありますが無駄な動きが多すぎるんです。大きく動くとその分隙ができるし、次の動作に移るのにも時間がかかるんです。もっと小さく動かないと」
ソーラを竹刀で吹っ飛ばした張本人である志夜が、面を外しながら呆れたように告げた。
ソーラ「は、はい… くぅう、先輩と同じこと言われたなぁ…」
豪「あの人つえぇ…」
ラン「ホント… ソーラさんって変身してなくてもものすごく強いのに…」
豪やランの驚愕の言葉通り、ソーラの身体能力は普通の人間など十分凌駕している。
そんなソーラを手玉にとる志夜刑事の実力に二人は舌を巻いていた。
河内「ま、警察官にとって剣道や格闘技は必須だからな。 パワーがありゃ強いってもんじゃない。 お前も刑事を目指すなら覚えておけ」
皆が見守る中、気を取り直して立ち上がったソーラは、改めて竹刀を構えた。
ソーラ「よーし、もう一度お願いします!!」
そうやって何度も立ち上がっていくソーラを見て、ランと遠藤博士はポツリと漏らした。
ラン「ソーラさん、やる気満々ね。こないだまであんなこと言ってたのに…」
遠藤「いい経験になったんじゃろうな。こないだの戦いが…」
一週間前
遠藤平和科学研究所
ソーラ「だから、なんでなんですか!? 一刻も早く私は強くならなくちゃいけないんですよ!!」
ソーラがものすごい剣幕で遠藤博士に食ってかかっていた。
遠藤「ああまあ少し落ち着け。 焦る気持ちはわかるがな、物事には順序というものがいる。ただパワーアップすればいいというものではないんじゃ」
そんなソーラを必死になだめながら、遠藤博士は説明を始めた。
遠藤「いいか。ただ出力をアップさせたり、武器を作ったりしてもじゃ、それを扱えなければ何にもならんじゃろうが。実際問題お前さんはまだ変身した時にその体のコントロールがうまくいかんのじゃろう」
丁寧に噛んで含めるように正論を伝えたが、興奮しているソーラには逆効果だった。
ソーラ「だったらそれをちゃんと扱えるように改造してください!! 先輩があんなことになっちゃって、いつあいつらが仕掛けてくるかわからないのに。あまり呑気にしてられないんですよ!!」
ソーラの言い分も尤もであり、今現在この地上で唯一と言っていい戦力が彼女である以上、一刻も早く戦えるようにする必要があるのは確かなのだ。
遠藤「それもわかっとる。だからこそまず初めにお前さんが一体どの程度のことができるのかをきちんと分析してからじゃな…」
ソーラ「もういいです!! 自分でなんとかしますから!!」
イラついたようにそう怒鳴ると、ソーラは足早に研究所から飛び出して行った。
ラン「ソーラさん、相当焦ってるみたいね」
遠藤「まぁな、無理もなかろう。リーフもダイーダもいなくなってしまって、わしら以上に不安やら重圧やらに苛まれておるのじゃろう」
先日の戦いで富士山の火口に飛び込み、リーフとダイーダは行方不明になってしまった。
皆は悲しみにくれたが、いつまでもそうしているわけにはいかないともわかっていた。
なぜならばそれは敵陣営も承知していることであり、この隙を狙って行動を開始してくることは容易に想像がついていたからである。
豪「でもさ。ソーラ姉ちゃんのパワーアップってそんなに難しいことなの?」
豪の素朴な疑問に、遠藤博士はあっけらかんと返した。
遠藤「うんにゃ、強化そのものは割と簡単じゃ。そもそもあやつの今のボディは量産を前提に設計されとるからな。色々な武装をオプション的に取り付けられるように作ってあるからの」
ラン「だったらなんですぐにそうしてあげないのよ。リーフさんもダイーダさんもいないのに私たちだって不安よ」
遠藤「そうしたいのは山々じゃがな、今の状態では何をつけても意味がない」
豪「どういうこと?」
豪の質問に遠藤博士はため息とともに答え始めた。
遠藤「つまりじゃ、今のソーラのボディはわしの開発した太陽電池のソーラーエネルギーと光の精霊の力のハイブリット方式になっとるわけじゃ。はっきり言えばそのパワーは測定不能レベルになっとる」
ラン「うん」
遠藤「しかしじゃ。その体をコントロールしとるソーラ自身がまだまだ素人レベルでしかないからな」
豪「え〜っと、つまり…」
豪の頭の上にハテナマークが浮かんでいることを察した遠藤博士は、もう一度説明をしなおした。
遠藤「もう少し簡単にいうとじゃ、免許取り立ての若葉マークをF1マシンに乗せとるような状態なんじゃ。そんな状態でどんな武器をつけたってまともに使いこなせん。高性能な制御装置を組み込んだにしても乗り手がソーラであり、あいつ自身がコントロール仕切れんほど未熟な以上限度があるわい」
ラン「そっか… あんまりそんな感じしなかったけど、リーフさんもダイーダさんも結構なベテランだったのね」
今の説明でランと豪は状況を納得したのだが、
遠藤「おんなじことをあやつにも説明したんじゃがな。何よりもまずあやつ自身があの体を使いこなせるようにせんと何にもならんと… 気ばかり焦ってしまっておる状態じゃ。変なことにならなければいいんじゃが…」
かつて焦って結果ばかりを追い求め、最後には暗黒に堕ちた友人のことを知っているだけに遠藤博士は不安げな表情を浮かべた。
甲子市内 某公園
ソーラ「何よ、そりゃ私だってまだまだ未熟だっていうのはわかってるけど、だからこそ早く強くならなきゃいけないのに…」
公園内の木の下で砂を蹴りながらぶつぶつとソーラは一人愚痴っていた。
ソーラ「先輩もいない今、私がプリキュアの名前に恥じないように頑張らないと… グズグズしてられない、何か手っ取り早い方法を… 今の私に足りないものは…」
木にもたれかかりながら口元に手を当てて考え込んでいると、パラパラと砂や葉っぱが降ってきた。
ソーラ「ん? なに?」
ふと疑問に思うと、続けて悲鳴とともに少年が降ってきた。
ソーラ「あ、危ない!!」
とっさに飛び出して受け止めたものの、足がもつれてしまいそのままソーラも倒れ込んでしまった。
ソーラ「イタタ… ヤダもう…」
「す、すみません。大丈夫ですか?」
ソーラ「あ、ああ。私は平気。それよりあなた怪我はない?」
「あ、はい。俺もこいつも無事です」
見るとその少年の腕の中には、一匹の子猫が呑気そうにニャアと泣いていた。
ソーラ「可愛いわね。あなたの?」
「ううん、野良猫。でも木の上から降りられなくなってたから…」
ソーラ「そっか、あなた優しいのね」
ソーラのボディはかなりの色白の美少女であり、十人が十人とも綺麗と評するであろう顔立ちである。
そんなソーラに優しく微笑まれたその少年は真っ赤になって俯いてしまった。
「い、いえそんな… 僕なんて弱虫でよくからかわれて…」
ソーラ「ううん、そんなことないわよ。そうやって困ってる子を助けてあげられるってすごく強いことだと思うわ」
「あ、ありがとうございます!!」
ソーラ「うんうん。あっそうだあなた名前は? あなたみたいな強い子の名前覚えておきたいの」
「えっ、あっ、比野 ひの太っていいます」
ソーラ「ひの太くんか。覚えとくよ」
そうして猫を抱いて帰って行ったひの太を見送ると、ソーラは顔を引き締めた。
ソーラ「いけないいけない。考え事に夢中になってて助けを求める声が聞こえなかったなんて、プリキュア失格」
そう呟きながら、自分の頭を軽く殴って戒めた。
ソーラ「よ、よ〜し。あんな子を守れるようにするためにも、何か必殺技を考えないとな…」
殴った力が強すぎたのか、ピヨピヨとひよこを頭の周りに飛ばしながらソーラは決意を新たにした。
そのまま公園で一晩を明かしたソーラは、ぶつぶつと呟きながら地面にスティックでガリガリと絵を描いていた。
ソーラ「うーんと、スティックは二本あるんだからこういう使い方だってできるし… それに変身した時すごく早く走れたことをうまく利用して… それと調べてみて見つけたあの機能も使えそうだし…」
彼女なりに一生懸命どういう戦い方をするべきかを徹夜で色々と考えており、そういう意味では十分に立派な戦士であった。
ソーラ「ふっふっふっ、やっぱり私はすごいんだ。そうだよこの体の改造なんて考えなくても、こんなに強い技を考え付くんだもの。さぁいつでも来なさいドラフター!!」
ただし、この調子に乗りやすい性格を除いて、である。
ひの太「うわぁーっ!!」
そんな彼女の耳に、悲鳴らしきものが聞こえて来た。
ソーラ「この声、昨日の… 何かあったのかしら?」
通常ならば、聞き取れるかどうかも怪しいぐらいの距離からの声だが、腐ってもソーラのボディの耳は普通の人間の数十倍の感度を持っていた。
その叫びを耳にして慌てて駆け出していくと、昨日の少年 ひの太が上級生らしき少年に突き飛ばされて道路に尻餅をついていた。
ひの太「か、返してよ。そのお金は猫の餌のために…」
「猫の餌だぁ? 俺様も腹が減ってるんだよ。猫と俺様とどっちが大切なんだよ、あぁ?」
ひの太「う…」
財布を取り上げられ千円札を抜き取られてしまい、必死にすがったひの太だったが、相手の凄みに何も言えなくなってしまった。
「へっ、ひの太のくせに生意気なんだよ。じゃあな」
そんな光景を見たソーラは、許せないとばかりに拳を振り上げて向かって行った。
ソーラ「こら〜、そこのあなた!!」
「げっ、やべ」
そんなソーラに気がついたか、上級生は一目散に逃げていき、あっという間に見えなくなってしまった。
まぁ駆け出したソーラが石に躓いて転んでしまったというのもあるのだが。
ソーラ「くっ逃げ足の速い。私でも追いつけないなんて…」
見栄を張るかのように、悔しそうに舌打ちをしたソーラだったが、尻餅をついていたひの太に向かってにこりと笑って手を差し出した。
ソーラ「大丈夫?」
しかしひの太はその手を取ろうともせず、のろのろと立ち上がった。
ソーラ「どうしたの? どこかに怪我でもした?」
心配そうにそう尋ねたソーラだったが、ひの太は俯いたまま返事をしようともしなかった。
ひの太「俺やっぱりだめだよ。何にもできなかった… 昨日の猫のためにお小遣い全部持ってきたのに取り上げられちゃって…」
ソーラ「そ、そんなことないよ。昨日も言ったじゃない、そうやって頑張れるのはあなたが強いからだって…」
なんとかしてひの太を励まそうとしたソーラだったが、あまりこういうことに慣れていなかったため、ありきたりの言葉しか出てこなかった。
ひの太「強くなんかない!! あんなやつに言いようにされて、守りたかったものも守れなくて!! 俺はただの弱虫なんだ!!」
そのため、ひの太がそう怒鳴り散らして泣きながら走っていっても止めることさえできなかった。
ソーラ「どう言ってあげればよかったのかな… 力がないから弱いなんて私だってそうだし…」
ひの太を引き止められなかった後、公園のベンチに腰掛けたソーラはしばらくの間、空を見上げて遠い目をしていた。
ソーラ「先輩たちならなんて言ったのかなぁ。 こんなことならもっと真面目に先輩たちの話を聞いとくんだった…」
志夜「ここにいたんですね、ソーラさん」
ソーラ「あっ、刑事さん。どうしてここに?」
志夜「遠藤博士から連絡があって探してたんですよ。見た目中学生の女の子が公園で一夜を明かしたなんてことになれば通報ぐらい入ります」
その言葉にソーラは感心したように声をあげた。
ソーラ「へぇ〜っ、すごいんですね」
志夜「呑気な人ね、全く… これが本当にプリキュアなのかしら?」
その志夜の言葉にソーラは急に暗くなった。
ソーラ「そうなりたいんですけどね。 強いプリキュアにはまだまだ遠いなって… やっぱり強い武器や力がないといけないんだなぁって」
志夜「…そういうものでもないと思いますけどね」
ソーラ「なんでですか? 刑事さんだって強い武器を持ってるんですよね。 それにドラフターと戦うためにもっと強くなれたらって思わないんですか?」
志夜「そりゃ、拳銃は持ってますけど、それのおかげで強いわけじゃないですよ。 強くなるために格闘技の訓練はやってますし、その銃だって射撃訓練はあります。ただ強い武器があれば強いってわけじゃないですよ。やたら銃を撃つわけにも行きませんしね」
ソーラ「うーん。みんな同じようなこと言うなぁ… さっきの子もそうだけど力がないと強いって言えないんじゃないじゃないの?」
同じようなことを何度も聞かされたものの、それでもひの太の事もあって未だにどこか釈然としないソーラは、首を傾げていた。
志夜「えーっとですね… どう言えば…」
どう言えばソーラを納得させられるか真剣に考えることになった志夜だが、すぐにその思考は中断することになった。
志夜「何!? ビルが倒壊した!?」
遠方でビルが轟音とともに倒壊していったのが確認できたからである。
ソーラ「!! この気配、ドラフター!?」
続く