彼方、極北の海で   作:ラディ

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二作目になります。


この二人を愛でるためだけに書いた、後悔はしていない。


新天地へ

『今日からお前はここの所属、つまりは俺の部下ってことだ。期待してるぞ』

 

『手始めに、こいつをお前に預ける。好きに育ててみろ』

 

『君が私の司令官?分かった、よろしく』

 

『一通りはこんなものかな。………うん、それは少し苦手だ』

 

『司令官の言う通りにしたら、できるようになったよ。Спасибо(ありがとう)

 

『へえ、この短期間で!ならもう二、三人増やすか。そうすれば近海への出撃もできるからより捗るだろ』

 

『君が提督かい?………うん、これからよろしくね』

 

『提督さん?こんにちは、よろしくね!』

 

『水雷戦隊の指揮ならお任せよ!』

 

『司令官、今日の演習はどうだった?そろそろ………』

 

『あん?資源?そんなもん気にすんな、あいつらのためなんだろ?責任は全部俺がとる。だからお前は好きにやれ』

 

『最近、体が軽いんだ。司令官の的確な指導のお陰かな』

 

『聞いて聞いて!今日ね、すごいことが起きたっぽい!』

 

『そういえば僕も、なんだか前よりよく見える気がするんだ』

 

『あら、あなたもなの?奇遇ね』

 

『はっはっは!こいつはすげえや!四人同時の第二改装、それもたったの二か月でとは、たまげたなあ』

 

『この装備が欲しいって?よしよし、そのくれえ無遠慮でいいんだよ!ちょっと待ってな』

 

『対潜?いいじゃない!』

 

『ほんとに貰っていいの!?提督さん、ありがとうっぽい!』

 

『これは、電探?………分かった、やってみるよ。ありがとう』

 

『私にはこれかい?みんなとはちょっと違うみたいだけど。………なるほど、良い考えだ』

 

『なかなか仕上がってきてるじゃねえか。どうだ、大型艦、運用してみないか?お誂え向きのとっておきがいるんだ』

 

『空母機動部隊を編成するなら、私も入れてね!』

 

『どんな苦境でも戦えます!』

 

『貴様が提督というヤツか。………ふん、良い面構えだ、いいだろう!』

 

『ここんとこうちの連中もやる気があってな、お前たちとの演習を楽しみにしてんだよ』

 

『また強くなったっぽい!』

 

『そうだね、改二になっても変わらず成長し続けられるのは、ひとえに提督のお陰だよ』

 

『やつの手腕が確かだというのは、ここに来てまだ日の浅い私にも分かる』

 

『うんうん、多聞丸に負けず劣らずってとこかな』

 

『やっぱり基準は多聞丸なんだ………でも、着任して二週間でここの主力艦隊相手に戦えるようになるなんて、想像以上だったなあ』

 

『できることなら、ずっと私たちを率いてほしいわ。私の艦長は出世するんだから!』

 

『――手短に言うぞ。元帥の一人から目の敵にされてる。可能な限り守ってやるが、それでも、お前がここにいられる時間はそう長くはないかもしれん』

 

『これを渡しておく。二つでいいんだったな?………この件は上には伝えない。大淀と明石も協力してくれた。あの野郎が動く前に、あいつらを少しでも強くしてやれ』

 

『司令官、今日の報告書だ。うん、なんだい?これを私に?………こういうのは、よく、分からないな。司令官が教えてくれるのか?………そうか、私も嬉しい』

 

『練度が最大になったとはいえ、私は古い艦だ。整備はしっかりしなくては。………ん、提督にちっこいのか。手伝ってくれるのか?これは………あ………す、Спасибо』

 

『………遂に来た。四月一日付で転任だそうだ。場所は北方基地、ここより遥か北の無人島だ』

 

『司令官、わざわざ全員集めるなんて珍しいな。大事な話かい?』

 

『お祝いはこの間したばかりよね?ほかに何かあるの?』

 

『落ち着いて聞いてほしいって、どうしたの改まって………って、え?』

 

『そんな、嘘ですよね提督!?………やだやだやだぁっ!!』

 

『ちょっと大本営とお話してくるっぽい………!』

 

『………僕も行く、彼らには失望したよ』

 

『まあ待て。そんなことをして何になる。それに、まだ話は終わってないんだろ?なあ提督』

 

『………なるほどな。安心しろ、残りの連中は俺が責任をもって預かる。だから安心して行ってこい』

 

『そらお前ら全員外へ出ろ!送別代わりの大演習、盛大にやろうじゃねえか!!』

 

『その………なんだ、本当に私たちで良かったのか?』

 

『………そうか。ああ、任せておけ!』

 

『司令官の言っていたこと、今なら分かる気がする』

 

『この名前は伊達じゃない。今度こそ、司令官も仲間も、大事なもの………全部守ってみせる』

 

『おいおい、こりゃあどういうことだ………?………ふっ、まさかとは思ったが、とんでもねえことしてくれたな』

 

『四大将の一人であるこの俺が保証する。お前の船は、お前の艦隊は強い。――胸を張れ!』

 

 

 

 

 

「――ぃかん、司令官」

 大湊警備府が所有する最新鋭の高速艇。

 紺碧の海を裂いて航行する、漁船を二回り大きくしたようなサイズのその船は、甲板をもたないために軍艦よりは揚陸艇といった印象を受ける。

「司令官、ちょっと重くなってきた………起きてくれるかい?」

 左右の壁面からそれぞれ十数人は座れそうな長椅子がせりだし、床には何らかの物資が入ったチェストが二、三積まれ、それでもなお広々とした余裕のある船内には、操舵手のほかに二人の男女が座っていた。

 いや、座っていたと言うとやや語弊があるかもしれない。

 椅子に腰かけていたのは、白いセーラー服に黒っぽいスカート、白い帽子を身に着けた、儚げな銀髪の少女だけであり、もう一人、二十代半ばくらいの若い男は少女の両脚に後頭部を乗せ、椅子の上に体を投げ出してすうすうと寝息を立てていた。

 俗に言う膝枕というやつだ。

 それなりの時間同じ体勢であったために脚が痛くなったのか、少女が身じろぎしながら男に声をかける。

 すると、男はゆっくりと瞼を開け、上半身を起こして大きく伸びをした。

「………うーん………寝ちゃってたのか。ごめんね」

「いいさ。もともと誘ったのは私だからね。………ほら、これを」

 差し出された上着を寝ぼけ眼をこすりつつ受け取り、袖を通す。

 純白に金のボタンが眩しいそれは、大日本帝国海軍第二種軍装の上衣――すなわち海軍士官の証である。

 肩章を見るに、どうやら階級は大佐らしい。

「あれ、僕の帽子は………ああ、ありがとう」

 軍帽をかぶったその姿は、軍人というにはやや細身で頼りなさげではあるものの、まごうことなき一人の司令官であった。

 二人が一段落したのを見計らい、それまで沈黙を保っていた操舵手がわずかに視線を向ける。

「お二人さん、そろそろ到着だ。準備をしてくれ」

 船を駆るこの男もまた、同様の二種軍装を纏っており、その肩に大将の位を負っていた。

「了解です………っと、そういえばこれを忘れてた」

 完全に覚醒し、思い出したとばかりにポケットに手を突っ込む。

 取り出したのは何の装飾もない小さな紺色の箱。それが二つ。

 まだ開けるつもりはないらしく、箱を傍らに置くと緊張をほぐすように咳払いを一つ。

「………呼んできてくれるかい?」

「分かった、待ってて」

 主語のない依頼はしかし過不足なく伝わり、少女は立ち上がって船の後方へ。

 壁のパネルを操作してハッチを開けると、締め切っていた無機質な船内に潮風が音を立てて吹き込んできた。

 そのまま、航行中の船から海へと躊躇なく飛び出す少女。

 普通ならば瞬く間に溺れてしまうだろうが、少女は艦娘――かつての艦艇の力をその身に宿し、縦横無尽に海を駆け、暗き海の底より出づる異形と戦う存在である。

 着水寸前に艦としての装備である艤装を顕現させ、海上を滑って高速艇の右舷へと向かっていった。

「それにしても、よく戦争にならなかったな?」

「説得は大変でしたけどね………みんなしてついていくって言って聞かなかったですから」

「それだけお前が慕われてるって証拠だ、素直に喜べよ」

 しばらくして少女が戻ってくると、その隣には、先ほどまでこの船を護衛していた艦娘の一人が不遜な笑みを浮かべて立っていた。

 背中まで流れる銀の髪に黒い軍帽をかぶり、ワインレッドのシャツの胸元をはだけ、白い軍服のコートに袖を通さず肩掛けした独特のスタイルがこれ以上なく様になっている、気の強そうな女性。

「ちっこいのから話は聞いた。もう着けていいのか?」

「うん、ここまでくれば隠す必要もないからね。そうでしょう、迅さん?」

 迅と呼ばれた操舵手は、今度は振り返ることなく頷き、答えた。

「明石に見てもらって、盗聴器の類が仕込まれていないことは確認済みだが、一応本来ならそれはお前たちが持っているはずのないものだからな。本土から離れて連中の目が届かなくなるまでは外させていた、許せ」

 形だけの謝罪に苦笑しつつ立ち上がり、両手に箱を一つずつ、壊れやすいものを扱うようにそっと握ると、若い男はそれを目の前の二人の艦娘に差し出した。

「改めて、よろしくね」

 箱の中から現れたのは、銀色に輝く円環。

Хорошо(ハラショー)。………愛してる、司令官」

 内側に『Верный(ヴェールヌイ)』と彫られた方を受け取った少女は頬を染めてはにかみ、言葉と共にそれを左手の薬指に通した。

「ふふ………やはり、いいな」

 もう一方、『Гангут(ガングート)』と刻印されたものを左手薬指に嵌めると、自信にあふれた態度は何処へやら、女性は左手を胸に抱き、緩んだ顔で幸せそうに呟いた。

 その様子を満足げに眺めていた男は胸ポケットに手を入れ、取り出したネックレスを身に着けた。

 そこには、たった今渡したものと同じ銀環が二つ、眩しく煌いていた。

「………見えてきたぞ」

 迅の声ではっと我に返った三人は、前方の孤島を見据える。

 その手に互いの温もりを感じ、自分たちなら何があろうと乗り越えていける、そう確信しながら。

 

 




こちらもしばらくは不定期更新となりますが、どうぞよしなに。


同志は是非ともご感想をお寄せください。
私のモチベが上がって更新が速くなる………かも。
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