「よし、到着だ」
目的の島の砂浜に上陸し、改めて後部ハッチを開放。
北海道のさらに北の海域――北方海域、と呼称される――に位置するだけあり、流れ込んできた空気は春先とはいえ二種軍装ではやや肌寒い。
帰る際にすぐ発進できるよう島を背にして停めたため、ハッチが完全に開くとその全容が視界を一気に埋め尽くした。
足元には、南国と見まごうほどの美しい砂浜。
右手には、大型船の停泊を想定していたであろう大きな波止場と倉庫。
整えられた木々の隙間から覗く、コンクリートと鉄の建造物――恐らくはあれが鎮守府か。
予想外の景色に心躍り、船から一歩踏み出すと、死角からやってきた五つの陰が男を素早く取り囲んだ。
船の護衛を担当していた艦娘たちだ。
「――私たちの指揮官に、敬礼!」
ツインテールの少女の掛け声で、全員が男に向けて海軍式の敬礼を送る。
自分たちの指揮官がようやく自分の基地を持つことになったのだ、これを祝福しない部下などいるはずもない。
ましてやこの男は麾下の艦娘たちと確かな絆を築いている。
なれば、この突然の行動にも納得できよう。――たとえこの門出が、一時の離別を孕んだものであったとしても。
男が護衛の労をねぎらう意味も込めて返礼する。
次の瞬間、白いマフラーに黒いセーラー服の少女が我慢できないとばかりに背後から飛びついた。
「ひっく…ぐすん………てーとくさん、行かないでぇ………!」
金色の髪を振り乱し、真紅の両目に大粒の涙を溜めて。
「夕立、提督が困ってるから………」
「ほら、別に今生の別れってわけでもないんだから、ね?」
「そうそう。………早く離れないと、二人のお仕置きが飛んでくるよ~?」
夕立と呼ばれた少女と同じ制服で黒髪の子と、緑と橙、色違いの道着を纏い矢筒を背負った姉妹が宥めにかかる。
「ヴェルちゃんのお仕置きは怖いっぽいぃ………」
最後の脅しが効いたのか、夕立は名残惜しそうに男の背中を離れた。
「何を言ってるんだか………お前たちだって同じだろうに。隠せてないぞ、時雨、蒼龍、飛龍」
「五十鈴も、我慢しなくていいんだよ?」
三人の目元は泣きはらしたように真っ赤で、薄く涙の滲んだ跡が見てとれた。
五十鈴――号令をかけた少女――は泣き跡こそなかったが、下唇を噛み締め、今にも泣きだしそうな表情でじっと男の顔を見つめていた。
「五十鈴は泣かないわ。………泣かないん…だから…っ!」
精一杯振り絞った声は、どうしようもなく震えていた。
その頭を一撫ですると、男は彼女たちと距離をとり、改めて向かい合う。
両隣には、いつの間にかヴェールヌイとガングートが控えていた。
「――私、
「大湊警備府における他の艦隊員――軽巡洋艦五十鈴、駆逐艦時雨、駆逐艦夕立、航空母艦蒼龍、航空母艦飛龍、以上五名については、私、同警備府司令長官である
互いに口上を述べ、敬礼を交換した二人の提督は、手を下ろすと同時ににやりと笑った。
「この俺の名にかけて、こいつらを沈ませるようなことには絶対にさせないと誓おう。だからお前も、あまり待たせてやるなよ?」
「分かってますって。
五十鈴、時雨、夕立、蒼龍、飛龍。………必ず、迎えに行くから」
そう言うと、奏汰は心からの笑みを浮かべた。
ここまでされてなお醜態を晒すことは、彼女たちの誇り――
再び敬礼し、涙を拭い、両手を握り、帯を締め、鉢巻を巻き直す。
積み荷を降ろし艤装への燃料補給を済ませると、迅が船に乗り込んだのを合図に、船団は大湊へ向けて出港した。
一人の提督と二人の艦娘は、その姿が彼方に消えるまで、水平線を見つめていた。
「さあ、これから忙しくなるよ。使われなくなって随分経つらしいから、ひとまずは設備の点検と整備からかな」
「その前に荷物を運ぶとしよう。提督のものは執務室でいいとしても、私たちはどうすればいいんだ?」
「鎮守府二階がもともと宿舎代わりだったみたいだから、そこでどうだい?」
「異存はない。じゃあ、荷物を置いたら私とガングートで資源倉庫と工廠を見てくるから、司令官は整理が終わり次第来てほしい」
「分かったよ、ありがとう」
彼らとて別れが悲しくないはずはない。
しかしそれ以上に、やらなければならないことが山積している。
泣いている暇はないし、いつまでも名残惜しんではいられない。それに――
「――僕たちが頑張れば、それだけ早く再会できるんだから」
『今生の別れではない』と言ったのは蒼龍だったか。
離れ離れにはなったが、それはあくまで大本営からの辞令に『新任地には二名の同行を許可する』という文言があったからであり、もともと奏汰は全員を連れてくる予定だったのだ。
彼自身この辞令には納得がいかない部分も多い。
迅の見立てでは、二十六の若さで提督となり、さらに着任からわずか一年で七名の艦娘すべてを
この異動は、奏汰が保有する戦力を削いだ上で日本本土から遠ざけ、反逆を防ぐための措置であろうとも。
………迅も奏汰も、その程度で屈するような男ではなかったが。
大本営には伝えていない、彼らだけが知っている事実が二つある。
(これが切り札になる。そのためにここまで
「おーい、どうした提督、早く行くぞ!」
気づけば二人はもう鎮守府の入り口に立っていた。
荷物で塞がっていない方の手を挙げて呼びかけに応えると、胸元の輝きを一度、強く強く握りしめて、奏汰は歩き出した。
こっちがメインになりそう………オリジナルは難しいですね(今更)
日常とシリアスが7:3か8:2くらいを目標にしています。
次回から北方基地が本格的に稼働、三人の秘密も明らかになります。………割とバレバレな気もしますが。
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モチベが上がって更新が速くなる………かも。