彼方、極北の海で   作:ラディ

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今回は終わり方がぶつ切りですがご了承を。
前半はタイトル詐欺です、本番は後半と次回以降。

それではどうぞ。



艦隊、再始動:先客

 ケッコンカッコカリ、という制度がある。

 限界練度(レベル99)に達した艦娘のリミッターを解除することでさらなる成長を可能とするシステムなのだが、誰が発案したのか、専用の指輪型補助艤装を身に着けることで練度上限が解放される、名前通りの仕組みであった。

 さらに各鎮守府を混乱させたのは、支給される指輪こそ一つであるが、提督が申請し幾ばくかの代金を支払えば何個でも手に入れることができたこと――すなわち、ジュウコンが認められていたということだ。

 極め付きは大本営からの追加通達で、『同制度を利用した者は終戦後に正式な婚姻関係を結ぶことを許可し、これを希望する場合、艦娘側の戸籍や重婚となる場合の措置については大本営が保証するものとする』ときた。

 これで黙っていなかったのが艦娘たちである。

 高い身体能力と艤装を除き、艦娘の肉体や精神の構造は人間と全く同じであり、また鎮守府という環境に置かれている以上最も身近かつ自身の命を預ける存在として、彼女たちは司令官や提督に好意を抱きやすい傾向にある。

 提督はほとんどが男性、対して艦娘は皆一様に年頃の女性である。

 一言で言うなら、多くの鎮守府で()()が勃発した。

 誰が指輪を手にするのか――艦娘同士の争いにより破綻した鎮守府もあったという。

 実装から数年が経った今でこそ沈静化してきているが、初期の荒れ具合は惨憺たるものであったそうな。

 現在のケッコンカッコカリのスタンスは大別して二種類。

 本命の艦娘にのみ指輪を渡すいわゆるコンヤク派と、戦力増強の点に目を向けて鎮守府の全艦娘とケッコンする派。

 ちなみに迅は折衷案を採っており、練度限界に達した艦娘と積極的にケッコンしているが、彼自身が本命としている――かつ観測上限練度(レベル155)に到達している――のは戦艦大和ただ一人であり、大湊の面々も承知の上とのこと。

「本当に平和なところだったなあ………」

 昨日までそこの副司令であった奏汰は、チェストから取り出した予備の軍服や部屋着をクローゼットに詰めながらしみじみと呟いた。

 北方基地の鎮守府にあたる建物、その三階に位置する執務室。

 長く放置されていたというから相当に荒廃しているものと思っていたが、少なくとも建物内は綺麗な状態だった。

 一階には、四十名ほどが入れそうな食堂と、トレーニングルーム、娯楽室があり、そのどれもがすぐに使用できるように整えられていた。

 二階の宿舎区画も大した問題はなく、生活に不自由はないだろう。

 電気や水道が止まっていないのが不思議だったが、どうも地下に発電機と濾過・浄化装置があるらしい。

「さて、それじゃあ二人のところに行こうか………ん、メールかな?」

 一通りの準備を終えて執務室を出ようとしたとき、上着から出して鞄に入れておいた携帯端末が振動した。

 ここって電波届くのかと思いつつ確認すると、差出人は迅だった。

『言い忘れていたが、書類やら物資やらについては月一でそちらに持っていく。

 幸い連絡はとれるようだから入用の物があれば言ってくれ。

 ついでに言うと、四月分のお前の書類は箱の中のファイルに入っているものだけだ。面倒な処理はこっちで終わらせておいた。

 ここ最近の北方海域は大人しいもんだ。ヴェールヌイとガングートの実力を考えれば、付近の哨戒も最低限でいいだろう。

 仕事が来るまではバカンスだと思って楽しむといい。それじゃあな』

 本当にこの人は軍人だろうかと頭を抱えずにはいられない文面だったが、奏汰は迅の言葉に従い、折角の三人水入らずの時間を大切にしようと決めた。

 そう考える程度には彼も上官の影響を受けていたし、またヴェールヌイとガングートを愛していた。

 そうでなければ()()()()()指輪を渡したり、二人を守るためにその事実を隠蔽しようとしたりなどしない。

 もっと言えば、二人が世界で初めて、観測上限練度を突破したその先の領域(レベル165)に至ったのも、深い愛がなせる業であったのかもしれない。

(ケッコンしてから時間もなかったし、ちょうどいい機会だ。………五十鈴たちも気がかりだけど、少しくらい、この幸せを享受したってバチは当たらないよね?)

 簡単に返信すると、今度こそ部屋を後にする。

 その足取りは、なんとも軽やかなものだった。

 

 

 

 

 

「………これは、どういうことだい?」

「さてな………だが、これを集めた誰かがいるのは間違いない。建物内も異様に綺麗だったしな」

 場所は変わって、埠頭の資源倉庫。

 部屋に荷物を置いて様子を見に来たヴェールヌイとガングートは、目の前の光景に揃って疑問を抱いていた。

 そもそもおかしいのだ。

 長年使われていなかったにも関わらず劣化の見られない港に、整えられた鎮守府、壊れるでもなく正常に作動している発電機や浄化装置。さらには倉庫に()()()()()()()()()()()()()()()()()()となれば、不審に思うのは当然だ。

 ――この島を管理している者がいる。

「ひとまずここは置いておいて、工廠に行くぞ。何か分かるかもしれん」

 移動した先で二人は顔を見合わせ頷くと、艦娘のパワーにものを言わせて鉄扉を勢いよく開け放った。

 艦娘の建造や装備開発を行うその場所は、パッと見る限りどこにもおかしなところはない。――ある一か所を除いて。

「あそこだね………どうする、ガングート?」

「我々だけでも問題はないだろうが、一応提督の到着を待つとしよう。扉を開けた時点で出てこなかったのを見るに、向こうはまだ我々に気づいていない可能性が高い」

 広い工廠の一角、開発室というプレートが貼られた扉の両脇に陣取ると、ヴェールヌイは艤装の高角砲を、ガングートはコートの内ポケットから引き抜いた愛用の拳銃――旧式のトカレフTT33を大湊の明石がカスタムした逸品――を油断なく構える。

 部屋の中からは光が漏れており、何者かの存在を物語っている。

 やがて数分が過ぎ、荷物整理を終えて資源倉庫を確認してきた奏汰が戸惑った様子で工廠にやってきた。

「なるほど、中にいるのがこの島の住人ってわけだね」

 状況を見て得心がいったように頷く。と同時にヴェールヌイが、視線はドアに固定したまま奏汰に声をかけた。

「司令官、突入許可を」

「………頼んだよ。3、2、1、突入!」

 直後、頑丈な鋼鉄製のドアは宙を舞った。

「うひゃあっ!?」

「――動くな!武器を持っているなら捨てろ!」

「なっ、なによこれ!?っていうかあなたたちは………」

「動くなと言ったはずだが?」

 銃口と砲門を突き付けられ、部屋の主は全く事態が呑み込めないままに両手を挙げて降参の意思を示す。

 奏汰は続いて部屋に入ると、ガングートの渾身の蹴りによってひしゃげ壁まで吹き飛んだ扉に顔を引き攣らせながらも、本来いるはずのない北方基地の住人に対峙した。

 その姿を見て、彼はわずかに目を見開いた。

 目の前でおろおろする緑髪の少女に見覚えがあったのだ。

「あの、もしかして提督さん………?状況を説明してもらえると、私としてはありがたいんだけど………」

 否、この少女を知っているのではなく、()()()()()()姿()()()()()()に心当たりがあった。

「二人とも、その辺で。

 さて………間違いだったら申し訳ない。君はもしかして、()()()()()()かい?」

「あ、はい!私、兵装実験軽巡、夕張です!やっぱり提督だったんですね!」

 銃が下ろされたことで落ち着きを取り戻したのか、少女――夕張は奏汰の言葉を肯定し安堵の微笑みを浮かべた。

「………執務室に行こうか。互いに情報交換をしよう」

 どうやら、簡単に再出発とはいかないようだった。

 

 

 




ほとんど進んでませんね、ほんと申し訳ない。
投稿ペースは上げられそうもないです………そろそろ厳しい時期なので。
冬までにある程度進めておきたいところですが、どうなることやら。

早くもUA300突破してて嬉しい限りです、ありがとうございます。
多いのか少ないのか、私にはいまいち分かりませんけれども、見てくれている方がいるというのはなんというかこう………こみ上げるものがありますね。
まだ未熟ですが、見守っていただければ幸いです。
ご感想・ご質問等もお待ちしております。


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