遅くなりました………それではどうぞ。
時刻は
夕食を済ませ再び工廠にやって来た四人。目的は当然、建造結果の確認だ。
建造ドックでは、四つのカプセルの上に一人ずつ妖精が立っていて、それぞれが誇らしげな表情。
パネルには建造完了の文字と艦のシルエットが表示されている。
「よかった、重巡みたいだ」
どうやら気まぐれは回避されたようだ。
「お疲れ様………開けてくれるかい?」
妖精たちの頭を指先で撫でると、一瞬気持ちよさげな顔をしたあと、彼女たちは装置から飛び退いた。
まずは一番ドックの扉が開く。
表示されていた艦影は順に空母、空母、重巡、重巡だったが、果たして。
「――軽空母、龍驤や!独特なシルエットでしょ?」
最初に現れたのは、やや小柄で
「キミが司令官?んー、ちょっちひょろくない?軍人らしくちゃんと体鍛えとる?」
奏汰の二の腕辺りをぺたぺたと触りながら、龍驤が言った。どうも彼女は物怖じしない性格らしい。
「はは、僕は民間上がりで、正規のルートでここにいるわけじゃないからね………」
「それでも、司令官である以上貫禄っちゅーもんは大事やろ。………ま、それは置いといてよろしゅうな。空はうちに任しとき!」
空母の艦娘にしては慎ましやかな胸――なるほど確かに独特なシルエットだ――を張る龍驤を微笑ましいものを見るような目で見つめると、彼女のサンバイザーを取り、挨拶がわりに頭を撫でる。
「………なんかうち、子供扱いされてへん?」
じとっとした目を向けられても奏汰は微笑むだけで、意に介さず次の装置へ。
「ここも空母だったよね………」
中から出てきたのは紅白の道着と袴に鉢巻を身に付けた、これまた小柄な艦娘。胸当てをしているところを見るに、弓を使うのだろうか。
「――航空母艦、瑞鳳です。軽空母ですが、錬度が上がれば正規空母並の活躍を………って、龍驤さん!?」
「おーおー、なんや瑞鳳もかいな。司令官、キミ、案外良い運してんとちゃう?」
そう言ってカラカラと笑う龍驤。
当の瑞鳳はまさか自分の先達――『龍驤』はかつて日本で二番目に作られた空母であった――が同時に建造されていたとは思わなかったようで、驚いた様子だ。
しかし数秒で再起動を果たし、今度は喜びの笑みを浮かべた。
「気を取り直して、ここの提督の白金奏汰です。よろしくね、瑞鳳」
「あっ、ごめんなさい!………はい、よろしくお願いしますね!」
しっかりと握手をする。
「やっぱうちのときと違うやんかぁ………ん、それそれ、待ってたんやで?」
あまりにぼやくので根負けし、龍驤とも改めて握手する奏汰。その顔に嫌々という感じはなく、悪戯っぽい表情を浮かべている。単に龍驤の反応が面白くてからかっていただけらしい。
残るドックは二つ。重巡は確定しているが、問題は誰が出てくるかということ。
「建造時間的に古鷹型か青葉型………同じ艦娘だけは勘弁してほしいな」
既にその鎮守府に所属している艦娘が建造された場合、ドックから出てくるのは該当する艦娘の艤装のみとなる。それ自体は予備や他の艤装の改修素材として利用価値があるのだが、今回の建造の目的は人員補充。出来れば避けたい事態ではある。
そんなことを考えているうちに、三番ドックの扉が解放される。
現れたのは――
「――ども、恐縮です!重巡、青葉ですっ!一言お願いします!」
「元気がいい子だね………僕は提督の白金奏汰、よろしくね」
半袖半ズボンのセーラー服という活発そうな服装に、可愛らしい小さなポニーテールがトレードマークの少女。
ぴょこんと飛び出てウインクしながら敬礼、さらには着任するや否や提督にコメントを要求するなど、高校生くらいの容姿にしては茶目っ気のある艦娘だと奏汰は思った。
そんなことは露知らず、青葉は興味深そうに周囲を見回しながら他の艦娘たちと挨拶を交わす。コミュニケーション能力も中々高い様子だ。
「色んな艦娘さんがいますねえ………っと、おやおや?」
目線を向けたのはヴェールヌイとガングートの左手、正確にはその薬指。
直後、青葉の笑顔がニヤニヤとしたものに変わったのを奏汰は見逃さなかった。
「青葉、見ちゃいましたっ!もしかしてお二人は司令官とごケッコンされてるので?」
「まあまあ、その話は後でね………」
目ざとい子だと思いつつ、はぐらかそうと割って入る。
奏汰からすればこっぱずかしい話であり誰かに話すつもりなど毛頭ない。が、流石に青葉も面白そうなネタをみすみす逃すわけにはいかないとばかりに食い下がり、交渉の末本当に馴れ初めを語って聞かせる約束を取り付けられてしまった。
「いいじゃないか。別に減るものじゃないし………その、私たちの絆の強さを知ってもらうには丁度いい」
そう言って、照れ臭さで頬を染め俯いた妻の姿が奏汰の拒否権を奪ったことは言うまでもない。
「さあ、いよいよ最後だ」
そんなこんなでひと悶着あって、ようやく四つ目のドッグへ。
建造されたのが青葉なら、出てくるのは艤装のみ。そうならないよう祈りながらその時を待つ。
そうしてゆっくりと扉が開き――
「――はーい!衣笠さんの登場よ!青葉ともども、よろしくね!」
青葉と似た型の制服――こちらはスカート――に身を包み、同じ色の髪を左右で括った、これまた高校生然とした少女。
重巡洋艦衣笠。青葉の姉妹艦だ。
「ふっふーん、着任早々良いネタが手に入りそうですねえ、って
「――青葉!また会えてよかった!」
先程のやりとりでホクホク顔の姉に飛びつく妹。
完全に意識外だったはずなのだが、建造されたばかりとは言えやはりそこは艦娘。倒れることなく衣笠を受け止め、抱き合ったままくるくると回って再会を喜び合う。
一方、奏汰は最初の建造を理想的な形で終えることが出来た安堵に胸を撫で下ろしていた。
目当ての艦娘を着任させるために何十回と建造を行う提督もいる中で、この結果は僥倖と言っていいだろう。
「さて、時刻はもう
奏汰が軍帽を整えながら口を開くと、すぐに全員が聴く態勢に入った。
事実、ここからは真剣な話――北方基地の運営に関わることだ。
「本格的な稼働開始は明日からになるけど、ひとまずそれぞれの役割を決めたから聞いてほしい。
まず、夕張にはしばらく僕の補佐に就いてもらおうと思う。基地についてはまだ分からないことが多いし、保有している装備なんかも確認しなきゃいけないからね。長くここにいる君が色々教えてくれるとありがたい」
「了解です!あ、でもそれってつまり、秘書艦ってことよね?それなら二人の方が………」
了承とは裏腹な発言。彼女なりの気遣いなのだろうが、元々大湊では五十鈴たちも含め七人が持ち回りで秘書艦を務めていたため、今更自分の伴侶だからという理由でヴェールヌイやガングートを秘書に固定するというのはかえって落ち着かない。
そのように説明し、さらに念を押すように二人が微笑みかけると、夕張は改めて承諾の意を示した。
「よろしく頼むね。じゃあ続けて、本日着任した四人についてだけど、今月いっぱいは練度向上のための基礎訓練を中心に行ってもらう。ヴェルとグートには日替わりで教官役をお願いしたい」
頷く六人。
「………一応恰好だけつけておこうか。
旗艦ヴェールヌイ以下、ガングート、青葉、衣笠、龍驤、瑞鳳――六名を第一艦隊として、ここに北方基地は鎮守府として稼働することを宣言する!
皆、改めてよろしくね」
――自分たちの提督に格式ばった口上は似合わない。
今日が初対面の五人はそのように感じたが、しかし想いははっきり伝わったと、引き締まった表情で――青葉だけは未だに頬が緩んでいた――敬礼した。
それは、奏汰が自らの新たな命を預けるに値する指揮官であると、彼女たちが認めたという証拠でもある。
「さあ、今日のところは休んで、明日から頑張ろう。司令部施設の二階が宿舎になってるから、自由に使ってね」
にこやかに言いながらも、内心ではこの期待を裏切ることのないよう励もうと提督としての決意を新たにする奏汰であった。
「………ん?」
談笑しつつ工廠から司令部に戻る途中、浜辺の方に目を向けたガングートがふと立ち止まった。
集団の最後尾で隣を歩いていた奏汰もそちらを見るが、認識できるのは真っ黒な夜の海だけ。あとは暗くてよく見えない。
しかし、同じく肩を並べていたヴェールヌイは何かに気づいたようで、表情を険しくしてガングートと顔を見合わせた。
「………誰か、いや、
「どうかしたの、早く行きましょ?」
三人の様子を不審がり、先行していた夕張が足を止めて振り向いた。
ほとんど建物内に入りかけていた龍驤たちも、何事かと不思議そうに振り返る。
「――提督、遅れて着いて来い。ヴェルは護衛だ」
突如駆け出すガングート。
その速度は駆け足で様子を見に行くというような生易しいものではなく、馬力全開のそれである。
さらには戦艦としての艤装を顕現させ装填まで終わらせており、完全に戦闘モードだ。
「夕張、ここの警報とかはどうなってるんだい」
アスファルトを蹴り砕かんばかりの勢いで埠頭を駆け抜ける背中を追って走りながら、奏汰は夕張に問うた。
長距離砲撃をこなす関係か、基本的に戦艦の艦娘は視力に優れていたり電探で捕捉能力を強化していたりといった傾向があるのだが、その中でもガングートはいっとう
そんな確信と、同じように何らかの存在を捉えたヴェールヌイの言葉から導かれる結論は。
「索敵系統ってこと?………まさか!」
「それしか考えられない」
『誰か』ではなく『何か』――つまりそれはヒトの形をしていないか、あるいはヒトではないヒトか、ということ。
夕張は苦虫を噛み潰したような表情で、どこからか取り出したタブレット型情報端末に目を落として申し訳なさそうに呟く。
「………私のミスです。ここ二年、この辺りで敵性反応はほとんどキャッチできなかったから、接近警報システムを切っていたのが仇になったわね。その証拠にほら、海岸のところ。かなり弱ってるけど反応アリ。それも二つ」
追いついて奏汰に画面を見せる。
そこには上から見た島と周辺の海図が映し出されており、夕張の言葉通り、昼間奏汰たちが上陸した浜辺の辺りに二つの赤い光点が瞬いていた。
下手を打てば二度と朝日は拝めまい。奏汰は気を引き締め、慎重に様子をうかがう。
浜辺に降りると、艤装を展開したまま砂浜に片膝をついたガングートの姿と、その傍ら、波打ち際で抱き合うように倒れている大小二つの人影があった。
「これは………」
人影といっても、その姿はおよそ尋常な人間のものではない。
どちらも女性のようだが、肌と髪は雪の如く白い。
背の大きい方は手首から胴体にかけてがぴっちりとした真っ白なスーツに包まれ、黒い装甲のようなもので露出部を覆っていた。そして、ぼろぼろのマントに淡く金色に発光する杖、極めつけに怪物の顎のようなおぞましい
小柄な方は艤装こそ見当たらないが、簡素な白いワンピースを身に纏い、手首にぐるりと赤黒い装飾が施されたミトン風の手袋をしていた。
どちらも奏汰は資料でしか見たことはないが、その名と姿は海軍の中であまりにも有名。
空の支配者に、”北方の主”。
「深海棲艦――空母ヲ級、北方棲姫………!」
人類にとっての脅威たる深海棲艦、その中でも輪をかけて強力な存在であり、特に北方棲姫は根城とするアレウト列島東部の泊地から滅多に動くことがないと言われていたのだが………。
「どうする、提督。ここで沈めておくか」
立ち上がったガングートが、動かない二人に向けジャキンと音をさせて主砲を構える。
確かに、今ならば確実に撃滅できる。そしてそれを証拠と共に大本営に報告すれば、大手柄として讃えられるに違いない。
しかし――
「いや………こうしてここにいる以上、何か目的があってやって来たのだと思う。ひょっとしたら、僕たちに会いに来たのかも。
それに、無抵抗の相手を問答無用でなんて、いくら戦時中でも許されない。それをしてしまったら、僕たちはもう人間でも艦娘でもない。ただの鬼だ」
――奏汰は、二人を助ける選択をした。
甘いと切り捨てる者がいるかもしれない。馬鹿なことだと嗤う者がいるかもしれない。
それでも、この優しさが、白金奏汰という男の
「………貴様なら、そう言うと思っていた」
そして、そんな男に惹かれた者が二人、ここにはいた。
艤装を消し片頬だけでフッと愉快気に笑うと、ガングートはいたわるような、それでいて素早い手つきでヲ級を抱き上げる。
「北方棲姫は私が運ぶよ」
「よし、そうと決まれば善は急げだ。夕張、入渠ドッグを開けろ!要修復者二名だ!」
「ああもう、どうなっても知らないわよ!?」
やけくそ気味に叫ぶ夕張。
ぎょっとした様子の龍驤たちに事情を話すと、それが司令官の決定ならと、戸惑いながらも了承してくれた。
「ありがとう。とりあえずヲ級と北方棲姫が快復したら、一度話をしてみよう」
一仕事増えてしまった――場合によっては大問題になるかもしれない――が、元々迅のお陰で今月の執務はないに等しいのだ、団欒の時間を差し引いても、少しくらいこういうことがあってもいいかもしれないと、騒ぎながら入渠施設へ向かう艦娘たちを見て奏汰は漠然と考えていた。
この選択と出会いが、人類と深海棲艦の戦いにおける大きな転換点となろうとは、この時はまだ予想だにしていなかった。
――そして、物語は動き出す。
次回より「2017春イベント
戦闘描写マシマシで頑張りたいと思います(白目
いつ投稿できるかは分からんがな!!!!
そろそろマズい時期に差し掛かっているため、場合によっては年内に投稿できるか怪しい感じです………。
読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、気長に待っていただければ幸いです。