2017春イベント改・『第二次AL作戦』編、開幕です。
作戦開始
「撃沈確認!残敵二――ホ級flagship、リ級eliteです!」
「いンや、あと一体だ!」
異形の残骸が吹き上げる黒煙を尻目に、赤髪の艦娘が速度を上げた。
戦域からの離脱を図っていた別の異形――深海棲艦軽巡ホ級を目がけて右手の12.7cm連装砲B型改二を斉射、一気に仕留めにかかる。
しかし、撤退を決め込んだ敵を捉えるのは容易ではない。ましてやここは海上、波の上下や揺れで余計に照準が乱れる。
結果、砲撃を繰り返すも、至近弾ばかりで一向に当たる気配がない。
「江風、深追いしちゃダメよ?」
「分かってンだけどよ……くそっ、ちょこまか動き回りやがって」
「まったくもう……村雨姉さん、お願いできますか?」
「はいはーい、お姉ちゃんに任せなさい!」
栗色のツインテールを揺らしながら、村雨と呼ばれた艦娘はおどけた調子で主砲を構える。
声とは裏腹にその目は真剣そのもので、ホ級の動きをしっかり見定めていて。
「江風ちゃん、雷撃準備。みっつ数えて一本だけね。
――さん、にい、いち、撃って!」
「喰らえッ!!」
右舷の発射管から放たれた酸素魚雷は一直線に目標に迫るが、ほとんど真正面。このままでは容易く回避されてしまうが……その直後、
「ふふ、避けられると思った?残念。……村雨をあんまり舐めないでね?」
村雨の砲撃が、ホ級の機関部を貫いた。
機関へのダメージによって航行を止めた船体に江風の魚雷が吸い込まれていき、突き刺さる。
大きな水柱の後には炎上する装甲の破片ばかりが残され、それも間もなく海に還っていった。
「流石です、村雨姉さん」
「姉貴に横取りされた気分だぜ……」
「あら、決めたのは江風ちゃんでしょ?」
「あそこからピンポイントで足を潰せるなら、直撃させるのなンか朝飯前だろーが!……ったくよお」
夕立の姉貴とは違う意味で恐ろしいぜ、と江風は毒づいた。
これでも内心は、自分の手で敵を倒した達成感と姉に追いつこうとする闘志に溢れていることを、村雨は知っている。
だからこそ彼女は何も言わず、けれどその裏で妹の目標たりえるべく努力を欠かさないのだった。
「姉への言葉遣いがなっていない」と艦隊のブレーンである海風が
『こっちは終わったわ!合流しましょう、索敵は欠かさないでね!』
「了解です、阿武隈さん。……では行きましょう、江風、村雨姉さん」
ホ級を追撃したために予定の航路を僅かに外れてしまったようだ。
幸いほとんど目視可能範囲であり、留まってリ級の相手をしていた阿武隈たちと合流するまでそう時間はかからなかった。
見れば、リ級は既に沈みゆく途中。揃いの制服に瓜二つの容姿の五月雨と涼風が周囲の警戒に当たっていた。
「お疲れ様、怪我は……うん、大丈夫みたいね!五月雨ちゃんたちも戻ってきて!」
「合点だ!」
「あ、はい!分かりました!」
全員目立った損傷はなく、精々が
陣形を組み直し、阿武隈を先頭に海風、江風、村雨、五月雨、涼風の順に単縦陣で航行を再開する。
「申し訳ありませんでした、阿武隈さん。……ほら、江風も」
「……勝手に突出してごめンなさい」
「今回の目的には海域の掃討も含まれてるから、そんなに気にしないで。無事に戻ってきてくれたし、あたし的にはおっけーです!」
戦闘で乱れたこだわりの前髪を整えながら、阿武隈は二人の謝罪に笑顔で答えた。
作戦行動中の独断専行、普通なら処罰は免れないところだが、そうしないのは信頼と、阿武隈の大湊第一水雷戦隊旗艦としての自負ゆえ。
「海風たちなら大丈夫」そして「万が一の時は自分が何とかする」。
その思いは慢心でも驕りでもなく、これまで彼女たちが積み上げてきた実力と実績に裏打ちされたものである。
「さーて、択捉島基地まであと僅か、気を取り直して行きましょう!」
ここは大湊基地から北東におよそ500kmの海上、目指すは過去の大規模作戦時に整備した択捉島北側の補給基地。
数度の交戦で燃料・弾薬をそれなりに消耗しており、慎重に進まなければならない。
そもそも、何故彼女たちがこの海域に抜錨し、択捉島を目指しているのか。
話は前日に遡る。
――――――――――
大湊の母港、執務室。
北方基地から帰ってきた翌朝、迅がいつものように執務の準備をしていると、部屋の扉が控えめにノックされた。
「大淀です。本日の業務をお持ちしました」
「ああ、入れ。……わざわざノックなんかいらねえって言ってんだろうに」
「癖みたいなものですから。それよりこちらを」
入ってきたのは、ストレートの黒髪に眼鏡、穏やかな表情の秘書然とした艦娘。
二人は迅が大湊に着任して以来の付き合いで、上官と部下という立場でありながら今ではこうして軽口を叩き合う間柄である。
戦闘よりは事務関連の能力に秀で、その有能ぶりは迅が
「ん、手紙か?しかもご丁寧に蝋で封じてやがる……」
「ご想像通り、大本営からのようです。何か心当たりは?」
大淀が眼鏡のブリッジを押し上げつつ書類の束から抜き取った一通の手紙を受け取り、胡散臭げに観察する。
裏には錨の蝋印が押され、宛名も大湊基地司令長官となっている以上、間違いということもないだろう。
「……あると言えばあるが、例の件が
そうは言いながらも、一抹の不安と共に封を切る。
中には指令書らしき便箋と、二枚の写真が入っていた。
ひとまず便箋に目を通していくが、読み進めるうちに次第に迅の両目が細められ、表情も険しいものに変わっていく。
続けて写真を手に取り、険しい顔のまま穴が開くほどに見つめる。
「……ちっ、厄介なことになったな」
「厄介、とは?」
「結果から言えば、案の定大規模作戦発令の打診だった。それはいい。だが、そこに至る経緯、要は作戦の切欠と目的が随分と不味いことになってやがる。端的に言うなら――
――『盟約』が破られた」
信じられないとばかりに、大淀が息を呑む。
『盟約』。
その存在と詳細を知るのは海軍でもごく一部、大将位以上の士官とその麾下の艦娘数名のみとされる最高機密の一つ。
突然の開戦から暫く経った三年前の夏、北方AL海域への反攻作戦を敢行した際に確認された深海棲艦上位個体――通称”北方の主”。統率能力に優れ、攻略に乗り出した艦隊を圧倒的なまでの物量差で悉く叩き潰したその存在と人類とが結んだ約定、それこそが『盟約』である。
所謂中立条約のようなもので、元々厭戦的だった
これにより、一時的ではあるが北方海域の平穏は保たれてきた。はぐれの深海棲艦が現れたり、昨年冬にオホーツク海で新型の姫級が発見され大湊が独自に撃滅作戦を展開したりもしたが、精々その程度であり、
「まさか、”北方の主”が攻勢に!?」
「いや、言い方が悪かったか。正しくは、結果的に破られたと同義、ってとこだ。こいつを見れば分かる」
困惑する大淀に差し出したのは、手紙に同封されていた写真。
どちらも同じ基地を同じ角度から空撮したもののようだが、日付が異なっており、細部にも違いが見られた。
一枚は撮影日が一か月程前になっており、埠頭に佇み上空のカメラに向けて笑顔で飛び跳ねながら両手を振る幼げな女の子が写っている。対してもう一枚、丁度一週間前に撮られた写真には少女の姿はなく、所々に砲弾の痕が見られる基地と、その中を悠々と歩く角の生えた三人の女性が確認できる。
その正体に気づいた大淀は、震える声で驚愕をあらわにした。
「そんな、まさか……!」
「
……正直なとこ、俺も一瞬目を疑ったよ。まさかダッチハーバーから北方棲姫がいなくなり、泊地は荒れ放題で、そこを別の深海棲艦が占領してるなんて誰が想像できたか。ましてやそれが『姫』二人に『水鬼』とはな」
深海棲艦は通常個体と上位個体の二種に大別される。
いろは歌から一文字を取った通常個体は、十分な練度の艦隊であれば然程脅威とはならない。数こそ多いが、あくまで
しかし、鬼級や姫級、水鬼(水姫)級と呼称される、より人間に近い姿の上位個体が相手ではそうはいかない。
「――よし、そうと決まれば作戦準備だ。これが一週間前ということは、足の速い水雷戦隊や巡洋艦は近海まで到達していてもおかしくない……まずはこちらも水雷戦隊で偵察と露払いをすべきか。この前の作戦で北端上陸姫から奪回した基地、あそこを最初の拠点に据えるのが妥当だろう。その次はカムチャッカ半島に補給線を構築、島弧への足掛かりとする。その先は……上手くいってからだな」
「提督、幌筵泊地と単冠湾泊地へ支援要請を打電しました、応答待ちです」
「……流石だな。ではその間に我ら大湊が誇る
「了解しました」
「……俺は俺のやるべきことをするか」
大淀が出て行った執務室で煙草をふかしながら、迅は懐から携帯端末を取り出すと、どこかへと電話をかけ始めた。
「――ああ、俺だ。『あれ』は出来てるか?……そうか。いや構わん、数日中に届けてくれ。頼んだぞ」
かけておきながら一方的に通話を切り、ふと背後の窓から空を見上げる。
暁の空。
雲一つなく、少し目線を下げれば港湾と、その先にが広がる大湊湾・陸奥湾。
続けて部屋の外に出ると、廊下の窓から、今度はここより更に北の空へと思いを馳せる。
「今回の作戦、ひょっとしたらお前の力を借りることになるかもしれん。
ちょっと行間を開けてみましたが、いかがだったでしょうか。
こちらの方が読みやすいとか、あるいは以前の方がいいとか、読者目線での意見をいただければありがたいです。
ところで、前回の投稿から時間を空けてしまっているにも関わらずお気に入り件数が増えていることにようやく気付きました。感謝です。
というかどうやって拙作を見つけたんですかね……。更新日時順で随分と埋もれていたはずなんですがそれは。
もうしばらく不定期となりますが、気長に待っていただければ幸いです。