今回は短いですがぼちぼち再開していきますので堪忍してつかあさい……。
「提督、執務を始めましょ……って、もう、
大湊基地が大規模作戦に動き出した頃、ここ呉鎮守府でも一日の業務が始まろうとしていた。
……そのはずだったのだが、秘書艦の陸奥がいつものように執務室に入ると、そこに司令官の姿はなく、机の上には「工廠」とだけ書かれた書き置きが残されていた。
陸奥はため息をつくと書類を自分の机に置き、工廠へと足を向けた。
切り替えの早さがこの事態にどれほど慣れているかを物語っており、一方でその足取りは満更でもないと言いたげに弾んでいた。
工廠に着くとその扉は開いており、中も照明がオンになっていた。開発部の艦娘や妖精たちは既に仕事に着手しているようだ。
「本当に頭が下がるわね。なのにあの人ときたら……」
言いつつもその歩みは止めず、一角に設えられた提督専用の技術開発室へと一直線。
ここの提督は技術畑の出身であり、艦隊の指揮を執る傍ら、
「提督、入るわよ?時間になったから呼びに来たんだけど」
「……問題はないはずだが……ここか?いや、こっちか……」
部屋に入り、作業机に向かって何やらブツブツと呟いている作業着の背中に呼びかけるも、返事はない。どうやら相当集中しているようだ。それこそ周りが見えなくなるほどに。
「全くもう、熱中するといつもこうなんだから。仕方ない……
「……部屋以外では名前で呼ぶなと言ったはずだが。陸奥」
「無視する貴方が悪いのよ。こんなに可愛いお嫁さんが呼んでるのに」
悪戯っぽく微笑む陸奥とは対照的に、鋼太郎は苦い表情。
仕方なさそうに作業を中断し制服に着替えると、そのまま無言で歩き出した。
「あら、愛想がないのね」
「今更だな。それより執務だろう?行くぞ」
「勝手なんだから……」
「ああ、それから――どちらかと言えば、お前には『美しい』という言葉の方が似合うだろうな」
「……あら、あらあら。その台詞は夜に欲しかったのに。ふふ」
暫く経って昼食時。
午前の出撃や訓練を終えた艦娘たちが食堂に集まり、談笑しつつ思い思いのメニューを楽しむ。
「私たちもお昼にしましょうか。何か作ってくるわ」
「握り飯で構わん。手が離せそうもない」
「そんなに面倒な案件があったかしら……って、また設計図?」
執務室でも同様に、先に手の空いた陸奥が昼食を作るべく調理場に向かおうとすると、鋼太郎は簡単なものでいいと言う。
疑問に思い横からパソコンの画面を覗くと、そこには様々なデータが書き込まれた図面が表示されていた。
「大湊の馬鹿野郎から連絡が入ってな。至急持ってこいと」
「大湊って……冴渡提督のこと?確か同級生って言ってたわよね?
というか、そもそも何なの、これ?」
「……お前になら話してもいいか」
一拍置いて机に埋め込まれたパネルを操作すると、天井から大型スクリーンが下りてくる。
続けてパソコンと同期させ、設計図がスクリーンにも映し出されると、ようやく全貌が明らかになった。
「実は今朝作業していたのもこれだ。資材の余りと大本営から毟り取った金を注ぎ込んでようやく形になった。
まだ半分は試作段階だが、上手くいけば戦局を一気に傾ける切り札になり得る」
それは、三つの
正確には、歯車の形をした拡張兵装――艤装に組み込む強化パーツ。
この手の話は門外漢な陸奥には、書かれていることのほとんどは理解できなかったが、自分の発明をあまり評価したがらない鋼太郎がここまで言う以上、相応にとんでもない代物だということは感じられた。
「
「……最早これを装備と言っていいものか……。
これはな、陸奥……搭載した艦娘の艤装を強制的にオーバークロック、すなわち限界以上の駆動をさせ一時的に艦娘の全性能を引き上げる物だ。
そしてこのパーツ、仮称『オーラユニット』は、お前たちが幾度となく目にしてきたあるものの研究の成果だ」
オーラという言葉に引っ掛かりを覚え、陸奥は僅かな間考えを巡らせた。
記憶の中に、思い当たるものはすぐ見つかった。
確かにそれは、五大鎮守府の一角たる呉の艦娘であればこそ、毎日のように見るもので。
「……提督、貴方、
深海棲艦強化個体――elite、flagship、そして改fragship。
それぞれ赤、金、青のオーラを纏うそれらは、眼前のスクリーンに映し出された歯車の色とも合致する。
「倫理に反するようなことはしていない。お前たちとの戦闘データと、撃破後に回収した深海艤装を解析して作り上げた」
「……そう言うなら信じるわ。嘘は嫌いだものね。
つまり、これを艤装に組み込めば、深海棲艦と同じ原理で強くなれる、と」
「平たく言えばそういうことだ。……練度が百未満だと反動で艤装が吹き飛ぶというシミュレーション結果が出たがな」
「……欠陥品じゃない。私たちを殺す気なの?」
途端に呆れ顔になった陸奥に、だから半分未完成と言っただろう、と涼しい顔で返す。
話は終わりだと言わんばかりにスクリーンを仕舞うと、データを手早く携帯端末に送り、時間を確認すると立ち上がった。
「時間がかかってしまったな。折角だ、昼は間宮にでも行くか」
「仕方ないわね」
「夜には大湊に向けて出港する、準備しておけ」
「ええ。……って、今日なの?」
急な話に驚きつつ、そもそも何故迅はオーラユニットを、しかもまだ試作段階のそれを欲しているのか訝る陸奥。
しかし、ひとまず考えることを止め、遅めの昼食を楽しもうと、鋼太郎と並んで歩き出すのだった。
次回は北方基地に戻ります。
目を覚ましたほっぽとヲ級、果たして何を語るのか。