字数的にはもうちょっと書きたいんですけどね……。
ひとまず、第8話、どうぞ。
奏汰の着任から一夜明け、極北基地は艦隊運用を開始、ヴェールヌイの指導と奏汰の監督の下で衣笠たちの訓練が始まった。
一方、ガングートは入渠施設にテーブルと椅子を持ち込み、優雅に読書に勤しんでいた。
「ふむ、やはり我が祖国の文学は良いものだな。……登場人物は多いが」
ここだけ切り取ればサボタージュに見えるが、これもれっきとした任務である。
栞を挟んで本を置くと、四基ある入渠ドッグの内使用中の二基に目を向ける。タイマーはとうに役目を終え蓋も開いているのだが、真っ白な少女たちは未だ眠っている。
彼女は今、昨夜保護した深海棲艦たちの監視の任に就いているのだ。
『……無駄だね』
『ちょっとお!?ヴェールヌイさん、動き速すぎですよー!』
『練度に差があるからって、四対一でもこれって……!』
『もー!当たらないよー!』
『うちの零距離爆撃を全弾回避って……どんな反射神経してんねん!?』
通信機からは、島の北側の海で演習中の面々の声が聞こえてくる。監視中手持無沙汰だろうと、奏汰に持たされたものだ。
聞く限り、新人たちが見事に翻弄されている様子。
「はは、まあそうだろうな。戦艦の私でもヴェールヌイに直撃させるのは難しいからな……おや?」
物音を感じたガングートは立ち上がる。どうやら、二人が目を覚ましたようだ。
携帯端末で奏汰にメッセージを送ると、懐から取り出した愛用のパイプを咥え、右手に拳銃を持つ。万が一抵抗されて屋内戦闘になった場合、小回りの利かない艤装では逆に自分の首を絞めかねないと考えての判断だった。
「――ヲ……体、痛イ……」
「――ンン……ネーチャン、ドコ……?」
「さて、お目覚めのところ悪いが、大人しくついてこい。お前たちが抵抗しない限り、こちらに戦闘の意思はない」
―――――――――――――
「やあ二人とも、とりあえず座って。ガングートもご苦労様。今お茶を淹れるよ」
場所は変わって執務室。
連絡を受けた時点でヴェールヌイに訓練を任せ、先にやってきていた奏汰は、向かいのソファにヲ級たちを座らせるとお茶汲みに立つ。
「さて、北方基地へようこそ。僕は白金奏汰、ここの提督を任されている者だ。
まずは自己紹介をお願いしてもいいかな」
ガングートと隣り合って腰を下ろし、二人の深海棲艦に向かい合うと、こう切り出した。
「……ほっぽタチニ名前ハナイ。人間ヤ艦娘ハ『北方棲姫』ッテ呼ブ。ダカラ、ほっぽ」
「同ジク、空母ヲ級。改、フラッグシップ?ラシイ。……テイトク、助ケテクレテ、アリガトウ」
(……ちょっと聞き取りづらいけど、意思疎通は出来そうだ)
少なくとも、初対面で敵対する最悪の事態は避けられたことで、奏汰は内心で安堵した。
「テイトクハ、ほっぽタチガ怖クナイノカ?ソモソモ、ドウシテ助ケタ?」
その瞳には好奇の色。
自身は目の前の男にとって倒すべき敵であり、本来であればこうして相対し茶など飲んでいる場合ではないのだ。当然の反応と言えよう。
「うーん、怖くないと言えば嘘になるけど、万一の時は
続く奏汰の意外な言葉に、北方棲姫とヲ級は揃って目を丸くすることになる。
「――あんなにボロボロの姿は見ていられなかったし、こんなところにやってくる事情を訊きたいと思ったし、一番は、助けたかったから、かな」
「ヲ……タダノヲ人好シ」
「フッ、貴様を表現するのに最も的確な言葉じゃないか、なあ?」
「あはは、そうかい?」
「……褒メテナイゾ」
そんな気の抜けたやり取りにヲ級は微笑み、つられて北方棲姫も見た目相応の笑顔を見せる。
二人は目配せして頷くと、警戒を解いた北方棲姫が切り出した。
「テイトク、ほっぽタチニ協力シテクレ。
――アイツラカラ、ほっぽタチノ家ト
「立場ハ分カッテル。デモ、私タチダケデハ勝テナイカラ……」
「……事情を詳しく聞かせてくれるかな」
―――――――――――――
「にわかには信じがたいけど……」
「ヲ……ダケド、本当ニアッタコト」
北方棲姫たちが話した内容は、奏汰たちの常識からすれば思いもよらないことだった。
しかし、否定できる材料は現状どこにもない。昨夜の二人の損傷の酷さから考えれば、むしろ納得できる説明である。
「仲間に泊地を襲撃されたなんて……しかも、率いていたのは戦艦水鬼に二人の戦艦棲姫だって?これじゃまるで――」
――ほっぽたちを切り捨てたみたいじゃないか。
口をついて出そうになった言葉を、奏汰は必死に押しとどめた。
「ネーチャンハほっぽトヲーチャンヲ逃ガスタメニ残ッタ。キットアイツラニ捕マッテル」
「コーワンサン……『港湾棲姫』ハ、戦ウコトニ疲レテ、南方カラコッチニ来タノ」
「AL海域の泊地は、深海の中でも厭戦的な者の集まりだったということか」
三人の会話を尻目に、奏汰は一人悩んでいた――このことを迅に報告するか否か。
伝えれば助力は得られるかもしれない。だが、ほっぽたちを受け入れてくれる確証はない。
一方で、大将である迅のことだ、既に情報を掴み北方海域へ向かっている可能性もある。その場合は報告せずとも共闘しうるが、ほっぽたちの存在を隠し通した上で港湾棲姫の救出を単独で行わなければならない。
奏汰は、逡巡の末、取り出した携帯端末を操作することなく胸ポケットに戻した。
「……よし、協力するよ。ただ、タイミングを待ちたい。心配かもしれないけど、作戦決行までどうかこらえて欲しい」
「ヲ……分カッタ。確実ニ成功サセルタメニ、準備ハ必要」
「いつでも行けるよう、心構えだけはしておいてね。
……じゃあ、うちの艦隊に会いに行こうか」
全然話進んでねえじゃねえか馬鹿野郎!!!!(自虐)
自分としてはこれくらいが書く上で丁度いい、というかスタミナが程よく続くんですよね。
もし、もっと長い方がいいという意見があれば頑張りたいと思います……。
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今回もお付き合いいただき感謝です。