二つのガンダールヴ、一人は隷属を願い、一人は自由を愛した   作:裸足の王者

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第4話:トリスタニアの休日

二つのガンダールヴ 一人は隷属を望み 一人は自由を願った

 

第4話:トリスタニアの休日

 

 

トリステイン魔法学院外周部、はずれの森

 

 

鳥や虫の鳴き声に混じり、地面を掘削するゴリゴリという音や、土砂を積み重ねる音が響く

その巨体に宿された圧倒的なパワーと、切れ味鋭い爪で、どんどんと地面を掘って穴を深くしていくジャガナート

それを荷物に座ってぼうっと見ているマチルダ

 

そう、彼女はオスマンに辞表を提出し、ここに来ている、今はもうフリーの身分であり、彼女が腰かけているトランクには、大量の金貨が詰まっていた。

マチルダの隣には人間大のゴーレムが立ち、日傘を持っている

隣の空き地ではゴーレム達がせっせと土木作業を行い、フーケの住まいを作っていく、ちょっとしたログハウスだ。

 

「さっきから熱心に、何を掘ってるんだい?」

「この地下には風石の大鉱脈が眠っておる」

「へぇ」

「情報収集に向かわなくて良いのか?」

「連中が真昼間っからウロウロしてると思うかい?」

「ふむ、愚問であったな」

 

 

突然穴を掘っていたジャガナートが停止し、前足をしげしげと見つめる

 

 

「どうかしたかい?」

「爪が折れた」

 

 

穴を掘りすぎて爪が折れてしまった様だ

しかし、しゃべっている間に下から新しい爪が生え出て来る

 

地面には黒光りする1メイル30サントほどの爪が残された

 

 

「マチルダよ、この爪を錬金と固定化を駆使して1本の剣に仕立ててはもらえぬか?」

「別にかまわないけど、代金はもらうよ、でも、これだと反りの内側が刃になっちまうだろうね」

「構わぬ、ショーテルと呼ばれる剣の一つの形だ、できれば外側にも刃を付けて欲しい」

「へぇ…物知りなんだね」

 

だがこの後、フーケはこの仕事を引き受けたことを心から後悔する

恐ろしく硬いのだ、素材が、そのため、少しの加工を施すにも莫大な魔力が必要となり、作業は難航する

剣は何日かして完成したが、マチルダは頭から湯気を出しながらジャガナートに追加料金を請求した

 

 

■■■

 

 

虚無の曜日 トリステイン魔法学院 貴賓室

 

やわらかな日差しが窓から差し込み、朝の訪れを告げる。

レースのカーテンを通り抜けた光が、床にモザイク模様を形作る

 

鳥たちのさえずりが小さく遠く響き

まさしく、最高の朝の訪れである

 

「サイト、起きて、サイト、起きなさい」

 

春眠暁を覚えず

 

「う~ん、あと5分…」

 

 

珍しく寝起きの順番が逆転している、何時もなら才人がルイズを起こしている

あいも変わらずルイズは才人のキングサイズベッドを占領し、才人は床にマットを敷いて寝ている、オスマンに追加のベッドを申請したが、すぐには納品されないのだ。

 

 

「今日は王都へ買い物に行くのよ、起きなさい、早く出ないと帰りが遅くなるから」

「むにゃ…」

 

 

いつものクセで日曜日はスイッチが完全にオフになるようだ、剣の修行をしててもやはり日本人である

最初は優しく起こしていたルイズであったが、だんだんと頭に血が昇ってくる

 

ベッドから降り、サイトの両足を掴み、引っ張る

ずるずると頭がマットからズレて行き、ゴンと音がして頭が床に落ちる

恨めしそうな顔でようやく目を覚ました才人は、寝ぼけ眼で辺りを見回す

 

 

「目は覚めたかしら?」

「あ、ああ、おはようルイズ」

「トリスタニアに行くわよ、あなたの服を買わないと」

「武器も頼むよ」

「あなたの剣があるじゃない」

「あれは小太刀と言ってな、いわば予備の装備なんだ」

 

 

才人はデルフリンガーとの再会を心待ちにしていた

口は悪く、遠慮会釈の無い、空気の読めない

 

だけど、最高の相棒

命を失う直前まで、共に闘った相棒

 

 

"前回"と違い乗馬も習っていた才人は、馬具を調整し、多少の違いに戸惑いこそすれ

尻や腰を痛める事も無かった

 

「よし、じゃあ、使い魔の俺が先行する、ルイズに何かあったら困るからな」

「へえ、なかなか気が利くじゃない、見直したわ」

 

高慢なセリフを吐いてはいるものの、ルイズの顔は嬉しそうだ

 

「いくぞ!はあっ!それっ!」

 

才人が馬に鞭を入れ、馬は勢いよく走りだす。

 

「やるじゃない!」

 

その後ろ姿を見たルイズは、ちょっとした悪戯心をもたげる、自分の馬に鞭を入れ、フル加速状態へ移行する。

先行する才人の馬との差は徐々に縮まり、ついに馬首と馬体が重なる、後ろを振り向いて驚いた才人はさらに鞭を入れる

いつの間にか、競争状態へなってしまった。

 

2頭の馬がトリスタニアへの舗装された道を駆け抜ける、才人もルイズも体重が軽いため、馬は楽々とトップスピードに達する

才人の乗馬フォームは、及第点をもらえる程度だが、ルイズのそれは一流の騎手のそれだ。

鐙にかけた足と、体重移動、馬の揺れに合わせた体の動きで、見事にバランスを取り、馬の負担を軽減している。

 

 

「ルイズは乗馬上手いよなあ」

「当たり前よ、年季が違うわ」

 

 

才人がさらに鞭を入れて追いすがるが、体重が軽く、さらに技量も上なルイズの馬はさらに速い

2頭の馬がギャロップで駆ける軽快な音を辺りに響かせながら、2頭の差はじわり…じわりと広がって行く

 

 

2つの風が街道を疾駆する、才人は頬をなでる春の風を感じ、風にほのかに混じる甘い香りを感じ、その口の端を心持持ち上げた。

だが、馬を全力疾走させていられる時間は短い、二人は休憩も交えて、2時間程度でトリスタニアに到着する。

 

 

"前回"見て知っている事だが、改めてブルドンネ街は狭い

狭い道の両側にさらに露天が軒を連ね、狭い道をさらに狭くしていた

そこに大量の人間が歩き回るのである、もはや混沌であった

 

 

才人は、行きかう人々の目をよく見ながら行動していく

よからぬ事を考えている人間の目は口ほどに物を言う

最も、それすら感じさせないほどの猛者もいるわけだが

 

 

懐に手を伸ばしてくる不心得者には、麻痺毒を塗布した手裏剣でチクリとお見舞いしてやる

その器用な手は当分麻痺し、仕事にならないだろう。

 

 

サイトはルイズの手を引き、人ごみから抜け出し、ひとつの露天に寄った

威勢のいい露店のおばさんは目の前の色とりどりの香辛料を指して商売用の笑みを浮かべている

 

「ゲルマニアからいい香辛料が入ってきたよ!」

 

それを聞いた才人は顎に手をやり、にやりと犬歯を覗かせる。

 

「オバちゃん、この中で一番辛いのはどれ?」

 

一握りの白い唐辛子 …のようなものを手に入れた才人はほくほく顔だ

 

 

「ねえ、才人、香辛料なんて何に使うの?」

「へへ、小うるさいメイジを黙らせるために使う」

 

何の事かさっぱり理解できないルイズは頭上に?をたくさん浮かべていた

 

 

そして二人は服屋で服を買い、"前回"と同じように武器屋に入る事になる

ただし、"前回"と違い、貴族用の服を才人に買い与えた

 

 

「恩に報いるのは当然よ」

 

 

素直になれないのは、今回も"前回"も変わらない

最も、才人が変な勘違いする事が少なくなった分だけ、二人の関係はマシになるのかもしれない

 

 

■■■

 

 

トリスタニア裏路地

 

 

「きったねえ、くっせえ、洪水のモンモランシーに洗い流してもらえよ」

「あはっ、それいいかも」

 

 

冗談を言い合いながら二人が武器屋へと向かう

衛生観念のあまり進んでいないハルケギニアでは、細菌感染の事など知られているはずも無く

汚物やごみが普通に路地に放置されていた

 

 

「確かピエモンの秘薬屋の隣に…」

「あれじゃねえか?」

 

 

"前回"の記憶がある才人は、すぐに看板を見つけ、中に入る

昼間だというのに店内は薄暗く、パイプを片手にカウンターに肘を付いた店主がジロリと睨む

 

 

「貴族様がた、あっしの店になにか御用で?ウチは何もお上に逆らうような事をした覚えはありやせんぜ」

「客よ」

「ほっ、こりゃおったまげた、昨今は貴族様も剣を使われるんで?」

「いや、俺が使う」

「なるほど、従者に持たせる訳ですな」

 

 

先ほどとは打って変わって商売用の笑みを貼り付けた主人が、店の奥から美麗なレイピアを持ってくる

今にも揉み手を始めんばかりの表情だ

 

 

「最近はトリステインに、かの有名な盗賊"土くれのフーケが"出没するそうですなあ」

「土くれのフーケ?」

「おや、お嬢様、ご存知無いんで?何でも相当な使い手のメイジで、貴族から専門に盗みを働いているそうでさぁ」

「これなんかこちらの従者様にお似合いだと思いますぜ」

 

 

ファッションのために武器を身に着けるわけではないのにと才人は思わず苦笑する

苦笑いを浮かべたまま腰にレイピアを装着する

 

鞘から抜くと、シャランという澄んだ音が響く

ルーンが反応し、その剣の最適な構えを教えてくれる。

 

 

「綺麗な剣ね、うん!これなら私の隣に居ても恥ずかしくないわ、これいくら?」

「へえ、こちらなら金貨で…」

「待った待った!待ってくれよ」

 

 

すぐに商談を始めたルイズに才人が待ったを掛ける

 

 

「どうしたの?もっと綺麗なのがいい?」

「いやいやいや、違うんだ。確かにこの剣は綺麗だ、けど、武器として役に立つのか?」

「う~ん」

「それでしたら、ウチ一番の業物がありまさあ!」

 

 

店主が心得たとばかりに店の奥に飛び込み、1.5メイルはあろうかという装飾過剰な大剣を持ってきた

 

 

「こちらはかの有名なゲルマニアのシュペー卿が鍛えた名剣でさあ!鉄でも切れるって評判ですぜ」

 

 

才人はその剣を見て微かに眉をひそめる、"前回"フーケのゴーレムを切ろうとした時、1発で折れてしまった剣

キュルケが買い、ルイズとひと悶着起こした原因の剣

モットの屋敷に乗り込んだものの、武器ではなく、装飾品であったため、全くルーンが反応しなかった剣

こんなゴミは、さっさとブチ折っておくに限る

 

才人が右の眉を持ち上げ、口の端に微かに笑みを浮かべる

 

「じゃあさ、親父、なんか斬って見せてくれよ、そしたら多分ご主人様も納得するぜ?」

 

笑顔満面の主人が店の奥から太さ5サントほどの木切れを持ってきて えいっとばかりに振り下ろす

いくら装飾用の剣といえども、この程度の木切れは切れる

どや顔のおっさんに向けて才人が言い放つ

 

「アホかオッサン、んなもんマルトーさんの料理包丁の方が良く切れらぁ!」

 

 

そう言った才人は、一山いくらの叩き売り品の山に向かい、1本の錆びた剣を掴み上げカウンターに置く

 

 

「このボロ剣を斬って見ろよ」

「おい!ボウズ!ボロとは言ってくれるじゃねえか、もやし見たいな身体しくさって!」

「うお?剣が喋った!?」

 

 

実際は知っていてやっているのだが、さも知らなかったかのように芝居を打つ

 

「お前ぇみたいなもやしは、棒でも振ってやがれ」

 

その悪口雑言を耳にした店主は怒りで顔を真っ赤にし、怒鳴り散らす

 

「やいデル公!お客様に向かってなんて口の聞き方しやがる!貴族様に頼んで溶かしてもらうぞ」

 

 

「おうともさ!やれるものならやってみやがれ!」

 

 

店主と剣がまともに喧嘩をしているその様子に、呆気に取られていたルイズが口を開く

 

「インテリジェンス…ソード?それにしてもえらく口が悪いのね」

 

ルイズが呆れている間にも、剣と店主の言い争いはどんどんとヒートアップしている。

 

「おうやってやる、すぐやってやる!今からてめえは真っ二つだ!」

 

 

店主が頭からピーと湯気を出しながらシュペー卿の大剣を頭上に振りかぶり、力いっぱい振り下ろした

そして、大剣の刃がカウンターに転がった

 

 

「どうだ!この野郎!ざまあみやがれってんだ!」

「見事ね…」

「おっさんおっさん…」

「へえ、なんでしょう」

「それ…」

「へえ、この剣ですか?」

「…ああ、カウンター良く見てみろよ」

「…へえ、ですからデル公が真っ二つに… のああああああああああああああああああ!!」

 

デル公と呼ばれた剣は、鍔の金具をカチカチと鳴らしながら、言い放つ

 

「今頃なにほざきゃがる!ボケが」

 

「おっさんおっさん、こんなナマクラを俺のご主人様に売りつけようとしてたのかよ」

 

デルフリンガーと才人のダブルツッコミが容赦なく店主を追い詰める

 

 

「うえええ、あああああ、うううう、どうかご容赦おおお!!!」

 

 

店主は鼻汁やら目汁やら、いろんな汁をたらしながらご容赦をとすがりつく

大枚をはたいて購入した剣はナマクラだし、貴族から無礼討ちをされそうだし、史上最悪の厄日である

 

 

結局才人は、デルフリンガーと、レイピアを手に入れる事となった

 

 

タダで

 

 

しかし、その後、時間差で店を訪れたキュルケとタバサが、店で2番目の業物を買っていったため、武器屋倒産の危機は免れたようである

さらにタバサは、装飾剣の柄が金やプラチナであることや、埋め込まれている宝石の価値を指摘した

店の親父はまた、様々な汁を顔中から流しながらタバサに感謝し、"本日閉店"のカードを扉にかけ、引き出しから取り出した酒瓶を直接呷った。

 

 

■■■

 

 

自分と才人の服を買い、帰り道、才人とルイズが談笑している

 

 

「それにしても、その剣、もう少し何とかならないのかしら?サビサビでかっこ悪いじゃないの」

 

 

「やかましい、小娘、まな板!」

 

 

「おまけに口は悪いし、…なんですって!!」

 

 

「はは、まあまあルイズ、剣と喧嘩してもしょうがないだろ」

 

才人は笑いながら、意識して左手でデルフリンガーの柄を握り、口を開く。

 

「なあ、相棒よう、俺が何だか分かるよな」

 

突然真剣に語り始めた才人をルイズは眉根を寄せて見つめるも、沈黙を守る。

 

「おでれーた…、てめ、使い手か!」

「ああ、これからよろしく頼むぜ」

 

 

トリスタニアの大通りを、2人と1本が賑やかに歩いていく

傾きかけた日差しが、二人をやさしく照らしていた

 

 

■■■

 

 

その日の夕刻、トリステイン魔法学院はにわかに活気付き、華やかな雰囲気がかもし出されていた

 

フリッグの舞踏会である

準備のため、貴族の女子たちは湯浴み、着飾り、メイクを入念に行っていた

男子も同様で、いつになく上等の服を張り込み、香水などふりかけてみたりする

 

好きなあの子をダンスに誘おうと、必死なのだ

 

ただ、表向きは華やかな舞踏会の準備も、一歩裏方に入れば修羅場であった

 

「マルトーさん、芋むき終わったぜ!」

「おう!すまねえなサイト! おい、グラタン用のチーズが足りねえぞ!」

「サイト、すまんがこの皿洗っておいてくれよ!」

「あいよ~」

「サイト、この鍋も頼むぜ。」

「おう」

「サイト~、オーブン用の薪が足らねえ、悪いがまき小屋までひとっ走り行ってくれねえか?」

「おっけ!」

「おい貴様ら!サイトが居るからといってサボってんじゃねえだろうな!」

「「そりゃないですよ親方!俺らサイト君のお陰で大助かりなんですから

  まあ、普通なら終わったら死ぬところが半殺しで済むって所ですかね」」

 

厨房のコックたちの声が見事にハモる

 

 

「そろそろ豚の丸焼きを蒸し焼き釜から出しておけよ!次は熱油かけてサクサクに仕上げるんだからな!」

 

そして、薪を大量に抱えて往復していたサイトにマルトーから声が掛けられる

 

「サイト!ここはもういい、お前は舞踏会の準備をしろ!バッチリ決めろよ!」

「ああ、ありがと!じゃ!おっさき~!おつっした~!」

 

 

部屋に帰ったサイトは、手早くルイズに買ってもらった服を着込み、櫛で髪を梳かし、ワックスで整える

 

すると、部屋の隅から声が掛けられる

 

「おお?相棒、何事だ?えらく念入りにめかしこむじゃねえか」

「デルフも行くか?フリッグの舞踏会だよ」

「ふん、俺ぁ剣だ、誰かに振ってもらわなきゃ価値はねえ、舞踏会にゃ用事はねえよ、それよりも、俺はガンダールヴの左腕だ、だからえーと」

「なんだよ、何が言いたいんだ?」

「……忘れた」

「やっぱ置いて行くか?」

 

才人がレイピアを腰のベルトに固定しながら、半目で睨む

 

「そう言うなよ相棒、俺はこれでも6000年存在してるんだぜ?細かい事ぁ忘れちまってもしょうがねえだろ」

「…?まあよく分かんねえけど、行くべ」

 

才人がデルフを掴み上げ、背中に掛ける

 

背中に大剣、腰にレイピア、服は盛装という、とてつもなくちぐはぐな格好である

 

 

会場では、真正面のゲートから着飾った貴族たちがちらほらと現れ始めていた

ダンスの相手を獲得した組である

 

才人はそれを後目に、裏の使用人口から入り込む

 

その際、厨房から口笛が飛び、シエスタが黄色い歓声を上げる

マルトーは忙しい合間にワインセラーから取っておきを引っ張り出し、才人に持たせてくれた。

 

才人は礼を述べて厨房から出、例のバルコニーに陣取る

ちゃっかりと、食べ物は用意済みである。"以前"と違うのは、そこにグラスが2個あること

 

壁に寄りかかり、二つの月を眺めながら微笑む才人を見て、デルフが茶々を入れる

 

「へへへぇ、なかなか様になっとるがな、相棒」

「ふん」

 

そして、主役たちの登場するころには会場はすっかり賑わい、楽師たちが奏でる音楽が流れていた

そして、入り口の蝶ネクタイ、赤タキシード男が登場する人間を紹介していたのだが……

 

 

「ゲルマニアから来た微熱の太陽!ボーイズキラー!キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー嬢のおな~り~!」

 

 

"前回"と違い、何かノリノリな様子である

 

 

「ガリアから来たクールビューティ!真紅のドレスがその白き肌を引き立たせる!タバサ嬢のおな~り~!」

 

 

「彼女いない暦16年!自称ぽっちゃり系!スマイリングマスコット!マリコルヌ・ド・グランドプレ様のおな~り~!」

 

 

「顔は良いがオツムはカラッポ、最近"鉄騎"の二つ名で呼ばれ、ますます調子に乗る、武だけで名をはせる脳筋グラモン家が三男!ギーシュ・ド・グラモン様のおな~り~!」

 

途端に会場に笑いが広がり、顔を真っ赤にしたギーシュが男の胸倉を掴み上げる。過去にギーシュと何かあったのかという勢いの紹介だ。

 

 

「香り高き香水の調香師、その縦ロールをセットするのに20エキュー!モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ嬢のおな~り~!」

 

そんなに使ってないわよ!と、今度はモンモランシーが男に詰め寄っていく

 

「ラ・ヴァリエール家が三女、シルクの美髪と、女神の美貌、おお…始祖よ!美の女神よ!願わくば彼女に胸を与えたまえ!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」

 

途端に爆発音が轟き、悲鳴が上がり、それっきり紹介の言葉は聞こえなくなる

まるでそれが開始の合図であったかのように、楽師たちが踊りの音楽を奏で始める

 

 

沢山の花がダンスフロアに咲き乱れ、そしていくばくかの壁の花ができあがった

 

 

そしてその光景を酒の肴に、酌み交わす大人たち

 

見ると、ルイズの美しさに惹きよせられた男が数名、ダンスを申し込んでいる

ルイズは丁寧にそれを辞退し、壁の花をいくつも作り出す

 

今までは、蔑みの視線で見られていた彼女が、好意の視線を向けられる

ジャガナートと才人の召喚によって彼女も少し変ってきたのかもしれない

才人はそんなルイズを上から見守り、微笑む

そんな才人を見てデルフがいらぬ茶々を入れる

 

「おい、相棒!見てないでおめーも踊れよ」

「馬鹿言え、相手が居なきゃ踊れねぇだろ」

 

 

そこに、額に少し汗が光り、初夏の向日葵のような明るい笑顔を浮かべたルイズがテラスに上がってきた

 

「今年は3人もダンスに誘ってくださったわ!こんなの初めて!その…半分はサイトのお陰…だから…その」

「は~はは、馬子にも衣装言うんじゃ」

「うるさい!」

 

途端にルイズの蹴りが飛び、柄が足と壁に挟まれたデルフが呻く

 

「痛ってぇなあ!」

 

そんなデルフを無視し、ルイズがスカートの端をつまみ、優雅に一礼する

 

「サイト…じゃなくて、ジェントルメン…一曲お付き合いいただけますか?」

 

才人が満面の笑顔で応える

「ああ、喜んで!」

 

ホールの中央に進み出て、クローズドポジションでダンスを始める二人

密着度も高く、お互いの表情を見ることのできる体勢だ

そして、ルイズはサイトのステップの巧みさと、リードの上手さに驚く

 

「驚いた、サイトってダンス踊れたの?」

「ああ、以前少し習っていてな」

 

本当はなかなか覚えられずに猛練習をした才人であったが、それは言わなかった

身体が変に傾く度に耳元でブーブー爆音を立てるあの忌々しい機械を思い出し、心の中で盛大にしかめっ面をした。

 

そして、ややうつむき加減でルイズがぽつりぽつりと話し始める

 

「その……、ありがとう」

「ん?何が」

「魔法失敗して落ち込んでる時に……慰めてくれて」

「ああ、その事か、使い魔が主人を気遣うのは当然だろ?」

 

才人が"自分で思いつく最高にかっこいい微笑み"を浮かべる

ハルケギニアに来る前に鏡の前で何度も練習し、小学校で実践し、何人かの女の子を落とした笑みだ

俺ってかっこいい、状態である

 

「そうね、サイトは立派な使い魔よ、私の大事な使い魔…」

 

一方、テラスに置き去りにされたデルフは、特に文句を言うでもなく、静かにしていた

 

「おでれーた、使い魔が主人のダンスの相手を務めるたぁ、おでれーた」

 

そのつぶやきは、音楽に乗って夜の風に乗り、消えていった。

 

 

踊りを終え、才人とルイズはテラスでワインを楽しむ、ルイズはワインのラベルを見て驚き

才人はその味の良さに驚いた

 

 

宴も終わりをむかえ、部屋に戻った才人はごそごそと自分の荷物をまさぐっていた

最近は当然のように貴賓室に上り込み、さも自分専用という様子で才人のベッドを占拠しているルイズが声を掛ける、

 

「あんたなにやってんの?」

「ん?ああ、そういや俺のお母さんからルイズへのプレゼントって言ってたのを思い出してな」

「なんであんたのお母様が私の事を知ってんのよ」

「細かい事は気にすんな、ジャーン!」

 

そういって才人はシャンプーとリンスのセットを取り出す。一方のルイズは怪訝な表情を浮かべたままだ

 

「なによそれは?」

「これはな、シャンプーとリンスって言ってだな」

 

そう言いながら才人はディスペンサーを左に回してロックを解除し、シュコシュコと何度か押す

すると、ほんの少しだけシャンプーが出てくる、それを指に取り、ルイズに見せる

 

 

「何これ!すごく良い香り!何の香りかしら?果物みたいだけど」

 

香りをかいできゃあきゃあとはしゃぎだすルイズ

コスメ用品に目が無いのは、どこの年頃の女の子も変らないという訳である、才人の説明は続く

 

 

「でだ、これで髪の毛を洗う、それからこっちのリンスを付けて、しばらく待つ、そして洗い流す、すると、あら不思議、髪の毛がきらきらサラサラになります。といってもルイズには必要ないか」

 

 

と言い終わるか終わらないかの所で、ルイズは着替え一式と洗髪セットを持って部屋から飛び出して行ってしまった

帰ってきてからも、髪の毛のサラサラ加減と、その香りの良さに至極ご満悦だった

パーティーが終わってから風呂に入っていた女の子達に質問攻めにされたと言っている

 

 

「ねえサイト、あなたの母上はこんな高級な品物毎日使ってるの?一体どこの豪商なのよ」

「ははは、豪商って、そんなんじゃねーよ、俺の住んでた所ではみんなそれを当たり前に使ってるのさ、ちなみに、男用もあるぜ?」

「ふうん、ロバ・アル・カリイエって凄く豊かな国なのね」

 

 

ルイズの中でロバ・アル・カリイエについて誤解が一つ深まった

その想像図の中では、男も女もみんな髪の毛がさらさらきらきらで、良い香りを振りまき、満面の笑顔で歩き回っていた

 

 

■■■

 

 

翌日、早めに目を覚ました才人は、ぼんやりと天井を見ながら考える

ようやくオスマンから、比較的質素なベッドの入荷を告げられ、先日部屋に運び込んだものだ

なんという皮肉だろう、"前回"よりもルイズに好かれているため、ベッドに寝させてもらう事にはなりそうにない

 

(そういえば、"前回"はここでルイズに襲い掛かったんだっけな…、しかもルイズの部屋で、そりゃ嫌われるよな)

 

どんな女の子でも、夜這いされて喜ぶ子はごく稀だ、よほどのMか、よほどの色狂いか

ましてや知り合ったばかりで、ようやく友情が芽生えようかというその時に……どうみてもトラウマ物である

 

腕枕をしたサイトが、ベッドの端から少しだけ見えているルイズの顔に目をやる

 

(かわいいよなぁ…、何してても可愛いんだから、犯罪だよな)

 

そして、元気になりかけた自分に気付き、慌てて飛び起き、頭を振り振り朝の鍛錬に向かう

重さと使い勝手を再確認するため、今日はデルフリンガーが鍛錬の友だ。

 

 

学院の外れの森では、巨大な竜が寝そべっている、その横で鍛錬を始める才人、その裂帛の気合が朝もやの中に木霊する

何とはなしにそれを眺めていたジャガナートが声を掛ける

 

「我は剣術は知らぬが、巧妙に組み立てられた剣であるな」

 

そこへ、振り回されているデルフリンガーが相槌を入れる

 

「ああ、今度の相棒は強ええ、それにこれほど基礎ができとる相棒も珍しい」

 

振られながらしゃべるため、ますます聞き取りにくい

 

 

「それはそうと、才人、恐らく本日アンリエッタが学院に来る、そしてワルドもな」

「ああ……忘れもしねえ!あの野郎!」

 

 

犬歯を剥き出しにして唸る才人をみてジャガナートがたしなめる

 

「落ち着け、才人、アルビオンの潜入には我は同行できぬ、ゆえに、綿密な打ち合わせが必要だ」

「なんでだよ…」

「たわけ、このような巨体で何が潜入だ、アルビオン人の目が全て節穴であるのなら話は別だが、今回、我は別行動だ、恐らく最後の最後で合流する事になろう」

「マジかよ…」

 

少し不安げな表情を浮かべる才人に、ジャガナートがからかう様な声色で話しかける

 

「どうした?我がおらぬと不安か?童よ」

「うるせえよ…そうじゃねえよ、ただ……」

「ただ、何だ?」

「今の俺の腕で勝てるのかと、いつも自分に問いかけてるんだけど、分からねえ、不安なんだ、"前回"は夢中だった、気がついたらアイツの腕を切り落としてた」

「才人よ、むしろ我は、其の方が不安だとこぼした事に安堵しておる」

「どういう意味だよ」

「自信に満ちておったならば、此度のアルビオン行きは腕づくででも止める所であった。不安なのは、己とよく向き合っている証拠、己を知っておると言う事だ、其の方に一つだけアドバイスがある」

 

才人は真剣なまなざしで、ジャガナートの言葉を待つ

 

「他人の受け売りだが、"切り札は見せるな、見せるならもう一つ奥の手を持て"最も、誰の言葉であったか、とんと思い出せないが…な」

「分かった」

「最初の広場での決闘、それからワルドの偏在の出現、いずれも彼奴のしたいようにさせておけ、其の方は実力を隠し、虎視眈々とチャンスを狙え、誰かを守ろうなどと自惚れるなよ、ワルドを無効化することに全力を傾けろ」

「分かった!俺の師匠が言ってた、"能ある鷹は爪を隠す" あれと一緒だな?」

「ああ、その通りだ」

 

その後、ジャガナートはウェールズを説得するための言葉を、才人と共に考え、アイデアを練り上げていく

 

 

■■■

 

 

一方そのころ、ゲルマニアへの外遊から帰還途中のアンリエッタ姫は、トリステイン魔法学院へ向かっていた

マザリーニの情報網によると、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが見たことも無いほどの巨竜を召喚したとの話だ

 

ぜひともルイズの協力を得て、竜の力を使い、上手くすればゲルマニアと同盟しなくても良いかもしれない

あるいはあのアルビオンを覆う不吉な影を払拭できるかもしれない、そう、安易に考えていた

 

マザリーニ枢機卿は、そんな姫の様子を見て怪訝に思い、話しかける

 

「姫殿下、本日はご機嫌がよろしいようで、何よりでございますな」

「ええ、古くからの親友に会えますもの、それに…」

「それに、何ですかな?」

「何でもありませんわ」

 

マザリーニは、姫に聞くまでも無く、全て把握していた、恐らく、アンリエッタ姫はラ・ヴァリエール嬢の協力を取り付け、アルビオンの革命派を滅ぼし、結婚の話を白紙に戻そうと考えていると

しかし、そう簡単に行くのだろうか?そもそも、コントラクトサーバントが行われているのか?確かめなくてはならない点が多くあった

 

 

■■■

 

 

トリステイン魔法学院講堂

 

いつものようにルイズをエスコートし、朝食を取り終えた才人は講堂に付いて来ていた

鎖と首輪でつながれることも無く、鞭でしばきまわされる事も無い、平穏な日常である

 

能ある鷹は爪を隠す、などと言ってはみたものの、才人もまだ17歳、遊び盛りである

じっと自重している事など難しい。確かこの後キュルケが吹き飛ばされて…と考え始める

 

そうしているうちに授業開始の鐘が響き、教壇へ教師が進み出てくる

 

 

"疾風"のギトー

 

 

黒いローブとマントに身を包み、長髪の隙間から辺りを見回す視線は刃のように鋭い、実力はスクウェアクラス

しかしながら生徒からの人気は低い、その風体を見て(こやつ出切る…)などと思う子供はいないのである

 

「では授業を始める、知っての通り、私の二つ名は"疾風"疾風のギトーだ」

 

生徒全員が、ギトーの威圧的な雰囲気に飲まれ、しーんと静まり返る

それを満足そうに眺めたギトーは言葉を続ける

 

「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」

「虚無ですわ」

「伝説の話をしているのではない、現実的な答えを聞いている」

 

その言葉にキュルケは一瞬不快な表情を浮かべたが、すぐにそれは不敵な笑みへと変る

 

「火に決まってますわ、ミスタ・ギトー」

「ほほう、どうしてそう思うのかね?」

「全てを燃やし尽くせるのは、炎と情熱、そうじゃございませんこと?」

「残念ながらそうではない」

 

ギトーは腰に差した杖をすばやく抜き、右半身に構えてこう言った

 

「試しに、この私に君の得意な火の魔法をぶつけてきたまえ、その高名なツェルプストー家の赤毛が飾りでは無いことを証明するよい機会だ」

「火傷じゃすみませんわよ?」

 

キュルケの挑発的な笑みが顔から消え去り、表情が消え去る、極限の集中をしている証拠だ

胸の谷間から杖を抜き、呪文の詠唱を開始する、周りの空気が陽炎のように揺らめき、その赤毛が炎のように踊る

杖の先に発生した小さな火の玉は膨張を続け、ついには直径1メイルを超える火球へと成長する

教室の中で魔法を撃ち合うなど正気の沙汰ではない、余波を恐れた生徒たちが慌てて机の下に隠れ、風メイジの生徒はエアシールドを展開する

 

そして、キュルケの呪文が完成する、轟々と唸りを上げて直進する火球がギトーに迫る

しかしギトーはその顔に薄笑いを浮かべたまま、避けようともしない、その口は小さく呪文を詠唱し続ける

そしてあわや激突という瞬間に、ギトーは杖を振り、完成した呪文を解き放つ

烈風が巻き起こり、魔力量の多く込められた風はキュルケの火球をかき消し、さらにその余波がキュルケを吹き飛ばす、講堂の階段にしりもちをつかされたキュルケは、不満げに両手のひらを空に向ける

 

だが、それを無視したギトーは自分の講義を開始する

 

「諸君、風が最強たる所以を教えよう、簡単だ、風は全てをなぎ払う、火も水も土も、風の前では立つことすらできない……、なんだ?貴様は?使い魔風情が私の講義を遮るとは、何を考えている」

 

才人はギトーの講義の途中で、手をまっすぐに挙げ、起立する

 

「これはミスタ・ギトー、"使い魔風情"がお言葉を遮ることをお許し下さい」

 

才人は優雅に一礼し、言葉を続ける

 

「これより、私は、我が友、ジャガナートをここに呼びます、彼の岩をも溶かすブレスを、ぜひその最強の風にて吹き飛ばして見せてください、"最強"の風使いミスタ・ギトー」

 

それを聞いたギトーはジャガナートの威容を思い出す、山脈のような身体、赤く炯炯と輝く6つの目

2メイル近い爪、そしてその恐るべき顎を

 

ギトーは青くなったり白くなったりを繰り返し、塩をされた魚の切り身のように汗を垂れ流す

その膝は震えて打ち合い、コツコツという音を響かせる

 

それを見た生徒達は、クスクス笑いを始める

 

「魔法の系統最強論なんて不毛ですよ、んなもんパワーがあるほうが勝つに決まってるでしょ」

 

その言葉を皮切りに、教室中が爆笑する

 

「ちょっ…ちょっと!サイト!やりすぎよ」

 

そういいながらもルイズの口元も、笑いを隠しきれないでいびつにゆがんでいる

 

ちょうどその時、講堂の扉が再度開き、頭に金髪ロールの馬鹿でかいカツラを載せたコルベールが現れる

 

「あややや、ミスタ・ギトー、失礼しますぞ、ん……?何事ですかな?これは?」

 

コルベールは教壇まで歩いてゆき、ギトーの目の前に手をかざし、反応が無いので肩を叩く

 

 

 

突如

 

 

 

「うわああああああああああああああああ!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ギトーの絶叫が響き渡り、それにびっくりしたコルベールが飛び上がり、その拍子にカツラが転げ落ちる

その様子が余りにおかしかったので、生徒達がさらに爆笑する

 

それを見たコルベールは眉を吊り上げ、生徒達を叱責する

 

「静かにしなさい!静まらんかこわっぱども!ええい、大口を開けて笑うとははしたない、貴族とはいかに可笑しくとも、下を向いて口元を隠して笑うものですぞ!これでは王室に日頃の教育が疑われる!」

 

いつもは温厚なコルベールの一喝に、生徒達も静まり返る

 

「え~、おほん!本日はこの学院始まって以来のよき日になります、恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

 

そしてコルベールが一呼吸置き、さらに話し始める

 

「したがって、粗相があってはなりません、これより学院を挙げて歓迎式典の準備を行います。よって、本日の授業はこれ以降全て中止、生徒諸君は正装し、正門前に整列すること」

 

生徒達の歓声が上がり、コルベールが慌てて静止する

 

「お静かに!ただし、姫殿下が、皆様の使い魔達をご覧になりたいとの事です、御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨き!また使い魔たちの毛並みを整えておくように!では、解散!」

 

その一言でほぼ全員が真顔に戻り、自分の使い魔達を呼び寄せる

中には言う事を聞かない使い魔に、涙目になる生徒もいたが

 

そして、時は過ぎ、正装し終った生徒達が正門前に整列する

皆一様に使い魔の手入れを行い、やけに毛並みが良くなった使い魔達はつやつやしていた

 

才人も例外ではなく、貴族用の服を着せられ、レイピアを腰に差し、ルイズの後ろに控えていた

ただし、その腕にはキュルケが纏わりついていたが

 

なにせ才人の行動範囲が、貴賓室、厨房、早朝鍛錬、講堂程度しか無く、訪ねていってもことごとく空振りだったため

キュルケが誘惑しようにもチャンスが無かったのである

 

「サイトから離れなさいよ!はしたない!ツェルプストー!」

「い・や・よ、サイトにだって意思はあるのよ?選択の自由があるのよ?」

「場をわきまえなさいよ!全く、ゲルマニア人って下品なんだから」

 

いつまでもぎゃいぎゃいと続きそうな言い争いに才人が割って入る

 

「まあまあ、とりあえず整列しようぜ、キュルケも、学院のゲルマニアの代表なんだからな」

「あら、言うじゃないダーリン、ますますスキになったわ~」

 

甘い言葉を囁きながら、そのメロンのような胸を才人の腕にぐいぐい押し付けてくる

才人は心の中で般若心経を唱えて対抗する、ルイズがまた抗議の声を上げる

そんなどたばた劇をよそに、アンリエッタ姫殿下は到着し、衛士が王女の登場を告げる

 

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーっ!」

 

さすがのキュルケも才人の腕を放し、姿勢を正す

最初に出てきたのが姫ではなく、マザリーニであったという手違いがあったものの

続いて出てきたアンリエッタ姫の美しさに、生徒達から歓声が上がる

 

アンリエッタ姫はにっこりとよそ行きの笑みを浮かべ、白い手袋に包まれた可憐な手を振る

 

「あれがトリステインの王女?私の方が美人だし、スタイルもいいじゃない」

 

キュルケがつまらなそうに呟く

そして再度才人の腕を取り、才人の煩悩を刺激する行為を再開する、才人は般若心経を再開する

タバサは、周りの喧騒を無視し、一人座り込んで本を読んでいた

 

 

「ねえ、ダーリンはどっちが美人だと思う?」

「どっちって、そうだな、アンリエッタ姫は白百合、キュルケはハイビスカス、ルイズは桜って所か?そもそも比べるもんじゃねーし、ああ、3つとも俺のいた国にあるお花な」

 

才人はそういいながらルイズの横顔を見る、その頬は桜色に染まり、一人の貴族を目で追っていた

立派な羽飾りのついた帽子、漆黒の魔法衛士隊のマント、凛々しい顔立ち、鷹のような鋭い目付き

 

 

ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵である

 

 

分かっていた事とはいえ、才人はちくりとした嫉妬を心の中に覚えた

 

「ねぇねぇ、ダーリンそれってどんなお花なの? ねぇってば、サイト?…サイト?」

 

ますます纏わり付いてくるキュルケ、しかし才人の眼は氷のように冷え切り、心の中で青い炎が燃え盛る

その視線は、グリフォンに乗ったワルド子爵を正確に捉える

肌が火にあぶられるような、それでいて背筋に氷を押し付けられたような感触を味わったキュルケが黙る

 

「あぁ~ん、その目付き、そんな目をするダーリンも素敵!」

 

黙ったのもつかの間、キュルケは才人の腕を離し、思い切り抱きついてくる

そのため、才人はワルド子爵に向けていた、焼け付くような憎悪の放射を中断させられる

キュルケに邪魔される数瞬前、才人の視界にオレンジ色の炎のようなものが見えた

その炎は、眼に映る全ての人に纏わりついて見えた

 

「おかしいな……、今なにか赤い陽炎の様なものが見えたんだが…」

 

 

 

一方、アンリエッタを警護していたワルドは、凶悪な魔獣が自分に狙いを定めているような錯覚を覚えた

慌てて辺りを見回し、嫌な気配を感じた方向に眼を向けるも、そこにはスタイルの良い赤毛の女に抱き付かれ

困惑の表情を浮かべる冴えない男と、きらきらした眼差しを向けてくる婚約者の姿しか無かった

仕方なく、婚約者に笑顔で手を振っておく、今のは一体何だったのだという疑問を残したまま

 

時刻は昼近く、生徒達は再度正門前に整列し、それぞれ自分の使い魔を近くに置いている

アンリエッタ姫は、目前に並んだ使い魔と跪いた主に、それぞれ祝福の言葉を述べ、使い魔たちに触れていく

そして、ついにルイズの番が訪れる

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

「お久しゅうございます、アンリエッタ姫殿下」

 

ルイズは跪き、後ろに控えたサイトも同じように跪く、そんな二人にアンリエッタの不思議そうな声がかけられる

 

「あら、ルイズ、あなたは何を召喚したの?聞く所によるとそれはそれは立派な使い魔を召喚したとか」

「お恥ずかしながら…召喚したは良いのですが、主と認められず、まだコントラクトサーヴァントはできておりません」

「まあ、そうだったの、私もその強情な使い魔さんを一目見てみたいわ」

「姫殿下の仰せの通りに致します」

 

ルイズより深々と頭を下げ、サイトに小声で命令する

なんとしてでもジャガナートをここに連れてきなさい、しかし命令しても聞いてはくれないぞと会話していると

アンリエッタ姫から声を掛けられる

 

「ルイズ、こちらの殿方は?」

「これも使い魔です、私の」

「え?」

 

アンリエッタの目が点になり、手で口を覆ったまま止まってしまう

そんなアンリエッタに、才人が自己紹介をした

 

 

「お初にお目にかかります、アンリエッタ王女殿下、ラ・ヴァリエールが使い魔、サイト・ヒラガと申します、以後お見知りおきを」

「殿下、この者は気もききませんし、冴えない風貌ですが、剣を少々使い、おまけに竜の言葉を解するのです」

「竜の言葉を?」

「はい、その通りです、サイト、ジャガナートをここへ、姫殿下の仰せよ」

 

 

才人がジャガナートを呼びに行っている間、トリステインのVIP達が椅子に腰掛けて待つ

机が用意され、紅茶と茶菓子が並べられる、そして周りを魔法衛士隊が警戒していた

 

やがて、遠く、地響きのような音が聞こえ、それがだんだんと大きくなってくる

遠くの森から鳥達が慌てて飛び立ち、我先にと逃げ惑う

ついには、グリフォン隊のグリフォンまでもが騒ぎ始め、さおだちになる幻獣を魔法衛士隊が必死でなだめる

 

ルイズはジャガナートが言う事を聞いてくれた事に心底安堵した

 

そして、ついに激しい地響きは大きな縦ゆれに変り、アンリエッタのために用意されていた紅茶のカップまでも

ひっくり返ってしまい、召使達が拭き布を持って右往左往する

身体の軽いマザリーニは、振動するたびに尻が椅子から浮いていた

 

 

やがて城壁の切れ目に、ジャガナートの巨大な頭が見え始める

首の後ろに乗っているサイトがまるで小人の人形のように見えた

 

 

グリフォンたちは震えながら地にべったりと伏せ、全く役に立たなくなってしまった

マザリーニ枢機卿でさえ、口を大きく開けたまま空を見上げるばかりであった

 

現れたジャガナートは輝く6つの目で辺りを睥睨する

ワルドと目が合ったジャガナートは、さらに視線に力を込める

 

ワルドはというと、氷柱を背中に押し込まれたような感触を味わっていた、先ほどの殺気とは桁が違う

目を逸らしたい、けれど身体が言う事を聞かない、口の中に鉄の味が広がるのを感じた

軍人の常で、彼我戦力差を分析していたのだが、結論は死、それも一瞬で殺される映像しか思い浮かばなかった

 

ワルドをたっぷりと威圧し、脂汗を搾り取ったジャガナートはゆっくりと首を地面に下ろし、才人が下りやすくする

やがて、硬直状態からようやく脱したアンリエッタが、ルイズと才人を前に呼ぶ

 

「お…驚きましたわ、まさかこれほどとは、すばらしい使い魔を召喚しましたわね、ルイズ」

 

アンリエッタの前に跪き、ルイズが応える

 

「もったいないお言葉でございます、姫殿下」

「ルイズ・フランソワーズ、私のおともだち、貴女ならきっとできるわ、この竜を従え、あのアルビオンの恥知らず共を焼き払ってくれることでしょう」

 

それを聞いていたマザリーニがはっとした表情を浮かべ、アンリエッタを制止した

 

「お待ちくだされ!殿下!そう軽々しく…」

 

そう言いかけたマザリーニの声を遮ったのは、腹に響く重低音の、怒りに満ちた声だった。

 

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