戦闘をやっと書き切ることができました
高速で黒色の戦闘機が接近してきている。
敵機は一機たが、周辺のフーファイターを統率している可能性のあるボス級という強敵、今回襲来したそれの戦闘能力は普通のフーファイターの五倍だというありがたくない情報が告げられている。
高速の戦闘機、その脅威はネームドの一個中隊に相当するだろう。唯一救いがあるとすれば、航空魔導士と違い複雑な機動をとられることがないことぐらいだ。幸い、敵機は鳩森小隊の戦闘空域とは逆方向からの進入、最初から遠慮なくいくべきだろう。魔力を演算宝珠に限界まで充填する。
「あれなるは、人類の敵。神を穢すもの」
ターニャは短機関銃を構えつつ、空間座標を把握する。
「主よ、今まさに良き人々を滅ぼさんとする黒き災厄の翼を撃ち堕とす力をしめしたまえ」
信仰心に満たされる喜びと精神を蝕まれる苦痛を噛み締めながら、ターニャは北方ノルデンで撃ち落としたこのある爆撃機であれば数機は落とせるであろう術式を展開した。爆裂反応を含む術式が発動し敵機は爆煙に包まれる。
だが、術式以外の爆発音がないことからターニャは瞬間で仕留めきれなかった判断、高度をとりつつ反転する。現時点ですでに高度は一万五千だが、上をとられれば負ける躊躇することはできなかった。
「あの威力の術式に耐えるか、硬すぎるだろう。フーファイターの戦闘機とはやはり見た目通りのものではないということか。ただ、全くの無傷ではないようだな。」
すれ違い様、爆煙の中から姿を見せる黒い機体を見て舌打ちをする。だが、出てきたフーファイターの機体には、数か所の損傷、風防ガラスの割れが確認できる。
ターニャが操縦席に人らしきもの、それも、小柄な操縦士が乗っているのを見たとき、感じたことがない違和感が前方よりターニャを襲う。これが感応波だろうか。不快、不安、恐怖といった感情が沸き起こるが、ターニャは歯を食いしばし耐えてみせた。
だが、その時、機銃の掃射音がした。
「なっ、今真下にいたはず。」
有り得ないことに敵機はターニャの後方そしてわずからながらも上にいた。念のため、防殻を厚めにしておいたことで撃ち抜かれることはなかったが、衝撃は四〇㎜の対空高射砲並、もし、エレニウム九五式でなかったら、まず撃ち落とされていたのは間違いなかった。
「火力、装甲、機動力、いずれも人の操るものではないな。なまじ黒いだけの普通の戦闘機に見えるからか敵の能力を甘く見積もりすぎたな」
ターニャは光学術式を放ち牽制しつつ、乱数回避機動と防殻で攻撃を避けながら考える。
回避機動をとりながら、あれを撃墜するだけ術式を構成するのは困難であり、そのためには、援護を受け、一旦、後方に下がる必要があると判断、無線で確認する。
「デグレチャフ少佐より、司令官。増援の到達予定は。なお、敵機の防護は極めて強固、また、機銃も対空高射砲並極めて強力。対応するための術式構築には時間を要する。」
これに対する地上の藤堂司令官からの回答は、ユンカース大尉の小隊は当初予定どおり到達するものの、戦闘中であった鳩森小隊は、敵機殲滅に成功したが残弾数僅少のため基地へ帰投したとの内容、基地からの増援が予定通りなのは朗報だが、残念なことにできればと期待していた鳩森小隊の支援は受けられないことが確定した。
しかたがない、増援が来るまで防御に徹しよう。
エミリア・ユンカース大尉率いる小隊が戦闘空域到達したとき、目に入ったのはおおよそ戦闘機では不可能な機動をとり続け回避と牽制攻撃をするデグレチャフ少佐と、損傷しながらもその機動に追いすがる黒いフーファイターの機影であった。
ボス級のフーファイターとは、通常は小隊で応戦する。それをデグレチャフ少佐は救援までの間、単機での戦闘を行い、しかも、僅かではあるが優位をとっている。エミリア・ユンカースは驚きつつも無線で呼びかける。
「デグレチャフ少佐、ユンカース小隊到着。これより戦闘に入る。」
「救援感謝する。可能であれば一時後退したいが、問題はないか。」
デグレチャフ少佐からの回答は、交代ではなく一時後退、今の状態は通常の私達であれば後継にまかせて帰投するタイミングのはず、エミリア・ユンカースは単機でボス級と戦闘をしてなお継戦の望むデグレチャフ少佐の責任感の強さにフーファイターの出現で全てを失ってしまった尊敬する祖父のかつての姿をつい重ねてしまう。
エミリア・ユンカースは極東基地の最先任である私たちが奮戦しなければならないという思いを抱き、小隊各員に呼び掛けた。
「小隊各員、只今から戦闘に入る。少佐殿の奮戦に応え我々の活躍をしっかり見せようではないか。」
ターニャは、救援の到着により一旦後退できたことで体勢を立て直した。
敵機であるフーファイターには、かなりのダメージを与えたが、未だ尋常ではない攻撃力と防御を保っている。ユンカース小隊と交替できたことにより再度の術式を組む時間的余裕ができた。初回の攻撃以降は、回避と牽制攻撃に留めたため、残存魔力はまだ余力があるが、流石に最初に放ったような術式はあと一回が限度だ。さらに言えば、エレニウム九五式を用いての短時間で二度の術式の展開は精神汚染の観点から避けたい。
そう考えながら、ユンカース小隊の戦闘を確認する。
だが、後方から確認すると、隊長機らしきメッサーシュミット戦闘機が自分の光学術式と同程度の攻撃をしたものの、他の戦闘機が、一旦、強力な魔導反応の後攻撃せず離脱したり、機会を伺うような不可思議な行動をとっている。
ターニャは小隊長であるエミリア・ユンカースに状況を確認する。
「ユンカース大尉、デグレチャフ少佐だ。状況を確認したい。撃墜は可能か」
「敵機の装甲は予想以上に強い、敵機の回避能力の低下やこちらの命中や会心補正の強化を図っても撃墜には最低でも三から四ターンはかかると推定されるのである。」
「ユンカース大尉、時間的はどれくらいか?」
「順調にいけば四八〇、しかし相手の能力が不明。強力な混乱や強化を使われた場合、・・・すまぬ、攻撃を受けた。反撃する!」
ターニャは、帝国と全く異なるこちらの世界の空中戦について測りかねていた。今のやりとりからも、難戦となる可能性が高い。更に、無線からは芳しくない会話が聞こえる。
「被弾した!」
「ロドルフィン、大丈夫か」
「大丈夫だ、私は問題ない!」
「うわっ、熱い、引火した!」
「グリンリー、経戦は可能か」
「まだ、いけますよ。小隊長」
ターニャは、このまま不利な状況が続き、誰かが撃墜された場合、こちらでのキャリア形成に支障があるのはと思い始めた。今後のこの世界でのキャリアとエレニウム九五式による精神汚染を天秤にかける。そういえば、藤堂司令官は私をこの基地の大隊長に任命するといっていた。もし、今日の戦闘で誰かが撃墜でもされた場合、味方も守れぬ新参の無能者となってしまう。そして大隊長を務めることに対する反感が湧き、侮られる。そして、統率できないまま無能の烙印を押され最前線で酷使も有り得る。あの司令官がいかに私の前世を知りファンだと言っていたとはいえ、失望させたら、案外と恐ろしいことになるかもしれない。ファンとは勝手な期待を押し付け勝手に失望する危険な存在、安心するわけにはいかない。再度術式を組む。今度は、残存魔力をほぼ全力で打ち込むこととした。
「デグレチャフ少佐より、司令官及びユンカース小隊各員へ。いまより再び攻撃に入る。司令官、空間爆撃警報。」
「司令官よりデグレチャフ少佐、まさか空間爆裂術式を使用する予定か」
「司令官、その通りだ。味方機は敵より一〇〇〇以上の距離をとることを要請すする。」
「デグレチャフ少佐へ了解した。ユンカース大尉、デグレチャフ少佐からの要請により空間爆撃警報を発令する。牽制しつつ当該区域より離脱、敵機より一三〇〇の距離をとり待機せよ」
「司令、どういうことか説明してほしいのである」
「デグレチャフ少佐が特大の攻撃を行う。ユンカース小隊各員へ巻き込まれないように注意せよ」
ターニャは決心し再び残存魔力のほぼ全てを演算宝珠に充填する。
「去ね、不逞の者。ここは主の尖兵が守護する空。なおも吾らを撃ち滅ぼそうするのならば神の制裁を与えん。
主よ、今ここにその御力を示し、敵を撃ち滅ぼす力を吾に与えたまえ。」
祈りの言葉とともに、強大な術式が形成される。
「ユンカース小隊各員、衝撃に備えよ。神は我等と共に。勝利を祈らん」
意思に関係なく出る紙をたたえる言葉に怒りを覚えながら、ユンカース小隊の後退を確認したのち、敵であるフーファイターに向け術式を発動させた。
「主よ、今まさに破魔の光が怨敵を浄化せん」
激しい爆音と共に、敵フーファイターは戦闘機の部品をまき散らしながら地上に落ちていく、撃墜できたようだ。緊急脱出装置も働かなかったようだしあの感じであればまあ助からないだろう。だが、念のために言っておこう。
「投降するならば、戦時規定に基づき捕虜の権利を保証する」
私は国際法を順守する軍人なのだからな。
デグさんは、こちらの世界の戦闘をまだわかっていません。
いかに有能でも、今日来た世界で異なる理で動く世界を一日では理解できません、