幼女戦記×編隊少女   作:アル・ソンフォ

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第18話:Dr.エリノア(1)

 ターニャは、大隊長用として与えられた部屋で、この基地の操縦士達をどう教導するか考えていた。

 地獄のような訓練を耐え鍛え上げた規律のある第二〇三遊撃航空魔導大隊の代わりが彼女達とは、頭が痛い。この基地にいる操縦士達全員を先程初めて見たわけだが、あのような短時間の着任挨拶の場ですら姿勢を正しくし続けることができない。それどころかヒソヒトと私語を交わしている始末、あまつさえ飴を舐めている隊員がいるに至ってはあきれるしかなかった。

 確かに、操縦士たる彼女たちは個々の戦闘能力は高いのかもしれないが、統制というものがまるでなっていない。まずは、基本の初歩の初歩である規律というものを教え込まなくてはならないだろう。

 

「少佐殿、どうされたのですか。難しい顔をされていますが。」

セレブリャコーフ少尉が、分厚い資料の束を抱えて戻ってきた。これから会いに行くDr.エリノアへ渡す資料だ。この世界で受領したあのエレニウム工廠の新式魔導具に関する資料なども含まれている。

 

「ああ、すまない。ここの操縦士達をどう訓練するか考えていた。壇上から見ていて貴官も感じているとは思うが、規律というものを初歩から教えなくてはならないようだ。全く、どうしたものか。」

ターニャは、肩をすくめる。

「少佐殿、まだ少し時間もあるようですし、珈琲をお持ちしましょう。今日も忙しくなりそうですし、小休止しなされてはと。」

「誠にありがとう。気が利く副官がいると大変助かる。できればこちらでも戦闘に際しては貴官とツーマンセルを組みたいのだが、難しいのだな。」

ターニャは残念そうに、セレブリャコーフ少尉を見上げる。

「はい、少佐殿。申し訳ありません。エレニウム九七式演算宝珠では新式魔導具と併用しても高度の問題から戦闘機との編隊は困難とのことです。現状、戦闘機と編隊可能なのは少佐殿ただお一人かと。」

「謝ることはないぞ、少尉。空中で戦えない分、貴官には操縦士達の訓練で働いてもらう。なかなか困難な任務だぞ。」

ターニャは笑みを浮かべてセレブリャコーフ少尉に返答する。見知らぬ世界でもこの気の置ける副官がいる。有能な部下とはなんと心強いものだろう。

 

 

 時を暫くして一戸瀬補佐官に案内されたDr.エリノアの研究室は、あからさまに怪しい雰囲気を醸し出していた。

 笑顔のままの補佐官に促され、副官と共に入室すると、あからさまに怪しい機器や薬品が雑然と置かれた研究室には、藤堂司令官といかにも怪しげな汚れた白衣を着た女性がいた。

 

「吾輩はこの基地の技術顧問にして研究者であるエリノア・ユンカース・アーベントロートだ。デグレチャフ少佐、君のことは知己のシューゲル博士から聞いているよ。なんでも、そのエレニウム九五式減算宝珠とやらの開発に深く尽力したそうではないか。」

 

 あからさまにMADそうなぼさぼさの銀髪の女性研究者の口からあのMADなドクトルの名前が出てきたことにターニャは思わず驚いてしまいターニャは反応が遅れる。すると、その女性研究者は怪しげな液体が入ったフラスコを持ったまま近づいていて、ターニャをまじまじと観察し始める。ターニャはその突拍子もない行動に動けなくなる。

 

「Dr.エリノア、興味深いことはわかるが少佐から離れてくれないか。」

藤堂司令官が慌てて止めに入る。

「ドクトルは興味があるものには、突っ走ってしまう傾向があるのでね。デグレチャフ少佐、申し訳ない。」

「吾輩はただ観察しようとしただけだぞ、何もしていないではないか。」

全く反省の色も見せず、Dr.エリノアは不機嫌な顔をする。

 

「本当に驚かせて済まない少佐。改めて紹介しよう彼女が当極東基地の技術顧問でフーファイター研究者であるDr.エリノアだ。ドクトルには操縦士達の潜在能力の向上、捕獲したAFFの研究、運用、監視などを行ってもらっている。大変優秀な研究者なのだが時として怪しげな研究に人を巻き込むことがあるのが欠点といえる。」

「司令官、失礼なことを言うなあ。吾輩がまるで歩く厄災の様ではないか。吾輩はただただフーファイターとの戦いに勝つための研究をしている過ぎないのだがね。」

 

 これはシューゲル博士と同類だ。司令官とDr.エリノアのやり取りだけを聞いて思わす帰りたくなったターニャであったが、表面上はいつもの冷静な表情で挨拶を行う。

 

「挨拶が遅れてしまいましたね。Dr.エリノア、お初にお目にかかります。小官はターニャ・フォン・デグレチャフ、帝国軍魔導少佐を拝命しております。小官はこのたび当基地の航空大隊大隊長に任じられましたのでその挨拶に伺いました。対FF作戦遂行のため兵站総監部の許可のもと、演算宝珠及び魔導具に関する性能資料を持参しております。」

 

 ターニャはセレブリャコーフ少尉に持たせていた資料をDr.エリノアに渡すよう指示する。

 しかし、Dr.エリノアはその資料を流すように読むと机に放り投げる。

 

「藤堂司令官、君もこれを読んだのかい。優秀な性能ということはわかるが、肝心の機構とか核心部分が書かれていない。」

「昨日読んだがDr.エリノア、やはり技術的なものの開示は問題があるのだろう。」

「まったくと言っていいほど技術面の記載がない資料など吾輩には興味がないな。詳細を知るためにはその演算宝珠とやらを分解したいね。」

ターニャの胸元にあるエレニウム九五式を見るドクトルの眼は、獲物を狙う獣のそれだ。自己の興味のためならば他人の迷惑など顧みないタイプの人物とターニャは確信する。

 

「Dr.エリノア。残念ながらエレニウム九五式を含め演算宝珠や魔導具はわが軍の最高度の軍事機密に該当するものですので、本国の許可なく触らせるわけにはいきません。その性能資料さえも本来でしたら特秘に該当するものであります。ご理解いただきたい。」

 

「残念だねデグレチャフ君。吾輩にまかせてもらえばより素晴らしい性能を付加できるのだが。」

「お申し出は有難いのですが、エレニウム九五式はまさに偶然の産物。神とやらの奇跡というものです。変に手を加えればどうなることか。同調が崩れて魔力が暴走すれば最悪この基地ごと吹き飛びませんが。」

 

 エレニウム九五式はあの存在Xの呪いの産物だ。下手にいじればどうなるか分からない。

 

「しかたがないな。では、デグレチャフ君。君のステータスを吾輩にも再度測定させてもらえないか。君に関する資料にも記載があったのだが、昨日の戦闘データと合わせて検証するためには最新の測定データが必要だ」

Dr.エリノアが指差す先には、魔導適性の有無を確認する装置と同じ形状をした装置がある。

 

「流石に見覚えがあるようだね。操縦士達の特殊技能の精神力も、航空魔導士の魔力も根源は同じものだ。この装置はドイツで魔導適性を測定する装置を吾輩が改造したもので、属性や各種ステータス値、スキル効果、特殊技能がわかる。そうだ、君の副官、セレブリャコーフ少尉だったかな?魔導士で女性ならばFF耐性があるはず。彼女も測定しよう。」

 

 




おまけコント8:
デグさん:「なんでこんなに更新が遅くなった。エタったと思われるぞ。2回目とはなさけない」
作者:「申し訳ない」
デグさん:「で、理由は」
作者:「コラボをきっかけに始めた編隊少女のほうにはまりまして・・・」
デグさん:「はっ?」
作者:「はい、編隊少女側のキャラの性格を深く知ろうとしているうちに、イベントを頑張り過ぎました。」
デグさん:「この話を作り始めたのは貴様だ。きちんと描き切るまで監視する。さあ、続きだ。」

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