皆様、デグレチャフ少佐をお迎えする用意はできていますか?
>>>西暦一九四二年六月二十日午前 極東基地<<<
ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐が見たものは、滑走路に並ぶ国籍も様々な戦闘機であった。
先程見たフォッケウルフ Ta152と並ぶハインケル He219、メッサーシュミット Bf109Gの様なドイツ機はまだいい。帝国はドイツに極めてよく似た国家だよく似た機体があってもまだ理解できる。ライン戦線でⅢ号戦車に類似した戦車も見かけたし、開発されていてもおかしくはない。フランスのドボワチン D.510も戦闘中に鹵獲したのかもしれない。だか、英国のスピットファイア Mk.Vb、ソ連のイリューシン IL_2、アメリカのF6F ヘルキャットなどの戦闘機が並んでいるのは全く理解ができない。潜在的敵国の連合王国や連邦、今次大戦に不干渉の合州国の機体が堂々と隠すこともなく帝国の基地に駐機していることに違和感を抱かない帝国軍人などいたら耐え難い無能とさえいえよう。
「なんだこれは・・・」
ターニャがひとり呟いた時、後ろから聞きなれた声がした。
「ここにおられたのですか、探しましたよ」
「セレブリャコーフ少尉か、ここに並ぶ戦闘機は一体・・・」
振り向いて声をかけた人物を見たとき、ターニャは驚愕を噛み殺しいつもの軍人然とした姿勢がとれた自分を心の中で誉めた。理不尽な転生以後、驚くことなどもはやないとさえ思っていた自分に対してである。
「せ、せぶれりゃ?し、失礼しました。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐でいらっしゃいますでしょうか?私は鳩森 美羽少尉。司令官の命により少佐をお迎えに上がりました。」
そこにはセレブリャコーフ少尉ではなく「大日本帝国海軍」と書かれた制帽にセーラー服に白いホットパンツという軍服調のファッションに身を包んだ笑顔の日本人美少女が手を差し向けていたのだった。
「帝国軍第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐だ。お迎えとは?それに貴官の所属は?そもそもここは西部方面軍所属の帝国軍基地ではないのか?」
と名乗る少女はまるで前世の日本のアニメか漫画に出てきそうな制服を身に着けているが、ここは少なくとも軍の施設だ。いかにコスプレめいた服装であろうが軍人として扱うのが無難であろうとターニャは問い返す。
「はい、少佐。私は日本海軍よりフーファイター殲滅の命を受けFF特務機関極東基地に出向しております。確かに本基地は大日本帝国の領土内にありますが、FF特務機関にも日本軍にも西部方面軍という組織はありません。」
フーファイター?極東基地?ターニャは意味が分からない言葉に困惑し、そして大日本帝国と言われ、初めて自分がそしてこの鳩森少尉という少女が何語でしゃべっているのか気が付く。
「申し訳ありませんが、司令官がお待ちです。こちらへついてきてください。ご案内いたします。」
彼女は日本語で話している。そしてターニャ自身もライヒの言葉でなく十数年ぶりとなる日本語を使っている。
「ああ、案内を頼む」
皆目事態はつかめないが、ターニャは案内を任せることとした。少なくともその司令官という人物は自分がここに着任することを知っている。そしてこの鳩森少尉という少女も私を「ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐」と認識している。
であるならば、ここは司令官に会うというのが合理的判断といえるであろう。少女に気付かれぬように演算宝珠を起動させてみたが正常に作動している。短機関銃も担いだままだ。何らかの罠であろうが、自分のみ単機であれば逃げ切ることは可能、情報収集の好機とみるべきであろう。
「ところで少尉、今日は何日で今は何時だ。遠方からの着任だ。時差ボケをおこしてしまったかもしれない」
司令官室へと向かう通路でターニャはなにげなく確認する。ここが帝国でないことは確実だが、今までいた世界でないことの確認のためだ。
「遠路はるばるご苦労様です、少佐。本日は昭和17年、あっ、西洋の方でしたね。本日は1942年6月20日午前8時20分であります」
「ありがとう。時刻を確認してよかったようだ。手持ちの時刻が1時間ほどずれている」
ターニャは時計を取り出し時刻を合わせるふりをする。ライヒの文字が刻まれたその時計は、停戦命令を受けロッカーにこもった午後6時20分から1時間ほどしか進んでいなかった。しかし、昭和17年とはおかしなことをいう。昭和の時代にこのようなタイプの美少女がいるとも思えない。今は気にしないでおこう。
「それでですか。お迎えの場所におられなかったのは。」
「手間をかけてすまなかった。司令官室はまだかな?」
ターニャは冷静を装いつつ進む。ほどなくして司令官室と書かれた扉の前に着いた。
鳩森少尉は、扉の前にいた灰色と紺色を基調とした制服に身を包んだ少女に声をかける。
「一戸瀬補佐官。鳩森少尉は本日着任されるターニャ・フォン・デグレチャフ少佐をお連れしました。」
「ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐殿、司令官がお待ちです。こちらへどうぞ」
補佐官だという少女が扉を開けようとする。
「ご苦労。ところで一戸瀬補佐官。ここへ来るまでに少々手間取ってしまった。司令官殿をお待たせしてしまってはいないだろうか?」
「はい。いいえ、大丈夫です。8時30分と聞いておりますので、丁度5分前です」
状況は分からないが少なくとも遅刻などという失態はしていないようだとターニャは安堵する。
補佐官という少女に促され、少尉という少女とともに幼女とさえ言われてしまう少佐の自分が着任の挨拶をするのか、ある意味、冗談の様だなと心で思いつつターニャは入室する。
そこには、日本海軍の第一種軍装を着用した30前後の男性士官が書類作業をしていた。階級章は大佐、胸元にはいくつかの略綬と傷痍記章があるのが見えた。
「司令官。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐をお連れしました」
司令官と呼ばれた男は椅子から立ち上がるとターニャに向かいこう言った。
「FF特務機関極東基地司令官藤堂守大佐だ。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐、貴官の着任を心から歓迎する。」
コラボ設定で編隊少女の世界が1942年という設定であることがわかりましたので、昭和15年から昭和17年に変更しました。