少佐殿の性格から考えて、すんなりと配属なんてありえないでしょう。
「では、本題に入ろう。まず、貴官は明日付けをもって本極東基地航空大隊大隊長に任命される。これが辞令だ。」
目の前に座る藤堂司令官から1枚の書類が渡される。
国際連盟傘下の対FF特務機関名義で作成された辞令には、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐を航空大隊大隊長に任ずる旨が記されている。
だが、ターニャは第二〇三大隊の大隊長だ。そうでなくてもこんな良くわからない組織の大隊長など到底受け入れられるものではない。
「藤堂大佐殿、小官は現在帝国軍より第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長を拝命しております。また、現時点でその任を解くような命令は受領しておらず、この辞令にも現在の職務を解くような記載もありませんが。」
それに対し藤堂大佐は次のように告げる。
「伝達がうまくいっていないようだな少佐。少佐は現在も帝国軍の第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長だ。現下の状況に鑑み、出向というかたちで本基地に配属される。無論、対FF特務機関の指揮下に入ってもらうが、貴官の帝国軍の軍籍はそのままだ。あと、大隊実務については既に副長のヴァイス大尉に引継ぎが完了しているとの報告を受けている。まさか、ダキアや北方ノルデン、ライン戦線で航空魔導大隊を率い絶大な戦果を挙げた貴官が、航空大隊を指揮する自信がないとでも。」
「はい、いいえ、そうではありません。小官は航空魔導士官です。航空と名がついても空軍士官でない小官が戦闘機を主力とする航空大隊を指揮する資格はありません。参謀将校課程は修了しておりますので、基地付きの作戦参謀ということであればまだ理解できますが、大隊長というのは小官の職責からして疑問を呈さざるを得ません。それとも、本基地にも航空魔導士が大隊規模でいると?」
ますます状況がつかめない。いままで真面目に対応してきたが、夢か何かなのだろう。状況がおかしすぎる。きっとブレスト軍港強襲を断念せざる得なかった絶望で寝込んで変な夢でも見ているのだろう。ターニャはならばと自分の目の前に置かれている芳しい香りを漂わせている珈琲をあおる。夢の中でとはいえ代用珈琲ではない珈琲を飲める機会だ。醒める前に飲んでしまおう。ああ、よい豆を使っている。
「少佐、用意した珈琲は口にあったかな。そう睨まないでいただきたいな。」
藤堂大佐とかいう男がまだしゃべっている。夢ならば大抵こういったものを飲んだり食したりすれば目が覚めても良さそうなものだが、飲んだ珈琲はセレブリャコーフ少尉に淹れてもらっている珈琲には劣るが味も香りも上等なそれ、ケーキも一口食べてみたが、新鮮なフルーツと本物のクリーム、混じりけのない小麦が使われたやわらかいスポンジ、夢にしてはリアルな感覚に、ターニャはやはり夢ではないのかと思い直す。
上官の前である意味無礼な対応をとってしまっているターニャに対し、藤堂大佐は言った。
「やはり、なかなかすんなりとは受け入れてもらえないようだな少佐。まあ、こんな状況に放り込まれてすんなり着任を受け入れるようなら、貴官を私が知っているデグレチャフ少佐に似た何か別の存在と思っただろう。」
「藤堂大佐殿、何を言われているのでしょうか。」
ターニャは藤堂大佐を見返す。彼の表情から笑顔は消え真顔になっていた。
「少佐、今から話すことは貴官以外の誰にも聞かせたくない。持っている演算宝珠でこの部屋に対する防諜を施すことは可能か。できるのであれば、速やかに行ってほしい。誰にも、この世界の誰にも聞かせたくないのだ。そして、その話さえ聞いてくれたら、少佐、貴官も納得する。少なくとも、この基地で大隊長となることが最も合理的な判断だとわかってくれる。お願いだ、いや、命令だ。演算宝珠を起動し司令官室に防諜術式を発現せよ」
やはり、この藤堂大佐とやらは何かを知っている。そして、それを教えてくれるというのだ。聞く必要がある。少なくとも不明だらけの現状の判断材料を提供してくれよう。ターニャはそう判断した。
「了解しました藤堂大佐殿。すぐに防諜術式を施しましょう。効果は最大で30分ほどですが十分でしょうか?」
「十分だ。頼む」
デグレチャフ少佐はエレニウム97式を取り出し、防諜術式を起動した。
防諜術式は原作では出てきてませんが、通信や映像記録など様々な使われ方をしている以上そのような使い方ができてもおかしくないと考え、出しました。
編隊少女の世界と異なる幼女戦記の世界、他の誰にも聞かせるわけにはいきませんから。