「じゃあなー!!」
「おうまた明日!!」
「おい部活はどうした!?」
「休むことは伝えてあるって!じゃあな!!」
ホームルームを終えて俺は一目散に校門から学校の敷地を飛び出す。部活を休むことは予め部長と顧問に伝えてある。最近熱いから熱中症気味でかったるいと誤魔化してきた。部長と顧問の先生が優しい人で良かった。他の運動部じゃ、この理由じゃ休むことは許してくれないし、今の全力の走りを見られたら十中八九引き止められるだろう。
とは言え学校から出てしまえばこっちの物、後はスーパーによってお見舞いの為の果物でも買えば第一ミッションは完了。そんなわけで夏風邪にいいと言うバナナとキウイを買ってスーパーからも一目散に立ち去る。
第一ミッションは終了。後はメインミッションのみ!
そんなわけで俺が向かったのは、自分の家―――では無くお隣さんの家。この家に、夏風邪を引いて今日の学校に来れなかったひとがいる。
インターホンを鳴らすと、おばさんが出迎えてくれる。
俺の息を切らして肩で呼吸をする姿と手に持ったスーパーの袋でお見舞いに来たことを察してくれたようで、いつも悪いわねと遠慮がちに言われながらも家に上がらせて貰った。
おばさんにお見舞いの品を渡して俺は二階に行って、その人の部屋の前に立つ。一息ついて、ドアをコンコンと叩く。
「ん…、来てくれたの?本当に悪いね…。良かったら入って来てくれるかな?」
孤独から解き放たれたように弾む澄み渡るような声。長年の付き合いとノックの仕方で自分が来たことは彼女にはお見通しのようだ。
「しぐ姉、入るぞー」
ドアノブを回して中に入ると、黒と白の水玉模様のパジャマを着た黒髪の儚い雰囲気を纏う少女、時雨姉がベッドに腰かけていた。
時雨姉は昔から病弱な所はあるけど、お隣さんのよしみか、勉強がわからないと言えば教えてくれたし、小さい頃は家の中が中心だけど遊んでくれたりもした。だから、俺の中の相性はしぐ姉。俺にとって頼りになるお姉さんの様な人。
「しぐ姉、もう平気かな?」
「うん。今朝よりは熱も下がったし、食欲も戻ってきたよ。いつも心配してくれてありがとうね」
ふんわりと花が開くような笑みをしぐ姉。笑い方から見ても無理をしている様子は無いから、俺もホッとする。しぐ姉がノックの音で俺だとわかるように、しぐ姉の笑い方次第で無理している事がわかるくらいには気心が知れた仲だから。
それからは、今日の学校であった他愛の無い事をしぐ姉に話す。ちょっとした事や、下らない事でもしぐ姉は笑ってくれるから、俺もついつい話し込んでしまう。
「あっ、そうだ」
しぐ姉から借りた物があった。忘れないうちに返さないと。
「この本ありがとう」
しぐ姉の趣味の一つに読書がある。俺は国語の成績が悪く、その根幹には読書嫌いがあるのではないかとしぐ姉に言われたから、しぐ姉のおすすめの小説を読むことにしてる。
「うん…。その…どうだったかな?」
しぐ姉は受け取った本で口許を隠しながら、何処か期待するような、不安そうな表情でオレの感想を伺う。
「その…二人が結ばれてよかったかなーって…あはは…」
と言っても、俺は読書感想文でここが凄かったしかかけない残念読者なので、こんな感想しか言えない。
本の内容としては何というか、恋愛小説だった。ある少女が年下の幼馴染と結ばれる為に四苦八苦する話。この本が国語の成績アップに繋がるかはわからないが、しぐ姉は病弱な所はあるけど頭は俺何かより良いから間違った方法では無いと思う。
「………にぶちん」
「へっ…?」
しぐ姉が何か言った気がするけど、気を抜いてて何もきいて無かった。
「何でもないよ。ただ、君はもうちょっと人の気持ちを知るべきだよ。…僕のとか」
「ちょっ、どういうコトだよしぐ姉!?俺はそんなに冷血な人間じゃないって!?それに、しぐ姉の事なら誰よりもわかってるつもりなんですケド?!」
「っ!き、君は…わかってるようでわかって無いんだから…。もういいよ。僕はまた寝るから。何だかまた熱が出ちゃったみたいだよ」
「えぇっと…その…。お大事にしぐ姉。身体を大事にしっかり療養してくれよな」
熱が出たと言われればもはや為す術はない。しぐ姉にお大事にと声をかけて退室していく。
それにしても、人の気持ちがわからない人間だと思われてたのは心外だ。今度それを見返してやらなければ。
イメージは病弱なお姉さん的な幼馴染。