僕には妹は居ない。妹どころか、兄も姉も弟も居ない。
でも、可愛らしい妹分なら居る。小さい頃から仲良しで、僕の事を兄の様に慕ってくれる女の子。
名前は夕立。不思議な名前だけど、僕からすればよく慣れ親しんだ可愛らしい二歳年下の女の子。
夕立は僕と違って元気いっぱいで活発で太陽みたいな女の子。僕はどちらかと言うと、夕立みたいに活発じゃ無ないし、明るくも無い。よく外に出て運動を楽しんでいる夕立とは違って、部屋で音楽を聞いたり読書をしている方が好き。
でも、幼馴染のよしみか、はたまた可愛い妹分の為に知らぬ間に自分も張り切っちゃうのかは自分でもはっきりとしないけど、夕立に誘われるとついつい断る事が出来ずに一緒に外出してしまう。
夕立のエメラルドの瞳がキラキラと輝くのを見ると、僕の心も弾むから。夕立が太陽の光を受けて輝く亜麻色の髪が綺麗だから。いや、それも言い訳かな。夕立が僕と一緒にいるととても楽しそうに笑ってくれるから。
僕は外に出る事も、運動をする事も得意じゃ無いけど、夕立と一緒なら不思議と楽しく感じる。ちょっと言いすぎになるかもしれないけど、夕立と一緒なら何でも出来る気さえする。
とまぁ、妹分をの良さを語ろうと思えばいくらでも語れるけど、今はこれくらいで止しておこう。夕立は僕の可愛い妹分だってことだけはわかって貰えたら嬉しい。
「おにーちゃん?」
そんな事を考えながら歩いていたら、隣に居た夕立が顔を覗きこんできた。
「ぼうっとしてるけどどうしたの?」
「何でもないよ」
「ふーん…」
不思議な物をみるかのような視線を僕に向けてくる夕立に僕は苦笑いを浮かべる。
今日は夕立と一緒に映画を見に行ってその帰りにクレープの移動販売を見つけたから、それに寄り道している最中だ。
アニメとかを中心に見てる夕立にしては珍しく、ドラマ系の映画を見ようと言って来た。と言っても、多分漫画を実写映画化した物だと思うけど。
映画は中々面白かった。夕立のような年頃の女の子が好きそうな学生の青春系のラブストーリーと言った所。夕立に感想を求められたから、思いつく限りを言ってみたけど、夕立が不満そうに頬を膨らまして「そういう感想が欲しかったわけじゃないっぽい」と言われてしまった。
それからと言うもの、夕立は不機嫌になってしまったのだ。理由はよくわからないけど、何とか機嫌を直せないかと思ったらクレープの移動販売を見つけた。だから、夕立に一緒に食べないかと誘った。食べ物で釣るのは卑怯かも知れないけど、原因がわからないし、教えてくれないし、そんな僕が情けなさ過ぎて嫌だし。でも、それ以上に夕立が不機嫌な顔のままなのが嫌だった。
何とか夕立を説得して一緒に食べる事が出来た。それで機嫌を直してくれるかはわからないけど、夕立が喜んでくれるならそれで構わない。
夕立の注文したクレープはトッピングが沢山で今にも溢れ出てしまいそう。
「わわっ!!クリームが溢れるっぽい!?」
ちょっと指でクレープの生地を押しただけで、生クリームが溢れそうになってしまう。追加で生クリームは流石にやりすぎだと思ったけど、慌ててクレープに噛り付く夕立は可愛らしいので良い物が見れた。
夕立に習う様に僕もクレープを齧る。
「うん。おいしい」
「おいしいっぽい!」
「よかった」
「おにーちゃんの少し貰っていいっぽい?」
「うん。召し上がれ」
ほんのりと顔を赤く色づかせて恥ずかしそうにする夕立の口許に僕のクレープを持っていく。
食べさせあいっこ位、昔からしてるのにとか思ったりして僕は笑みを零す。
いつもは大きく口を開けて食べる夕立が、僕が食べていた箇所を小さく噛みちぎると口許を手で隠しながら僕のもとから離れていく。
「う、うん。美味しいっぽい」
「うん。よかったね」
ちょっと言葉に詰まった事が気になったけど、夕立の満面の笑みが嘘をついているとは思えない。僕の好きに選んだクレープだけど、夕立の好みに合う物だった様で何だか嬉しい。
そのまま何も言わずにクレープを互いに食べ続けていたけど、ふと夕立が言葉を零した。
「おにーちゃん」
「うん?」
「夕立、おにーちゃんの事…その…大…好き……ぽい」
「うん。僕も夕立の事が大好きだよ」
可愛い妹分の夕立。嫌いになる筈がない。
でも、夕立はまた頬を膨らまして僕の事を可愛らしく睨む。
「おにーちゃんは乙女心の勉強が足りないっぽい!!」
夕立はぷんぷんと可愛らしく怒りを露わにする。
「えぇ…彼女も居ないし仕方ないじゃないか。僕と一緒にいる女の子は夕立、君しか居ないよ」
「……ふん!!」
ついにそっぽを向いてしまった夕立。彼女の長い髪の隙間から覗く耳は怒りからか紅葉色に染まっていた。
イメージは妹以上の存在として見て欲しいけど、中々抜け出せない幼馴染