ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】 作:熊0803
楽しんでいただければ幸いです。
土曜日の早朝、整理券を手にした人間でごった返す大手ショッピングモールの玩具店のテナント。そこで神堂家に仕えるメイド、
尊の視線の先では彼女の護衛対象であり、尽くすべき主人である神堂慧理那が、もう一人のボディーガードである
二人の格好は休日なので私服だ。慧理那はフリルのついた服に丈の長いスカートで、全体的に清楚な印象を抱かせる。グラファイトは緑や茶色、橙色などで構成された民族衣装じみたものである。左手には籠手をつけ、首には牙のネックレス。中々ワイルドな格好だ。
この時期……ゴールデンウィークが迫った週末は、玩具メーカーが需要を見越しここぞとばかりに新商品を投入してくる時期だ。パワーアップアイテムや新ロボットなどが発売され、子供にせがまれた親御さんや特撮ファンの熾烈な争奪戦が繰り広げられるのである。
ちなみに、この全国チェーンのショッピングモールは、独自の店舗購入特典を配布しており、慧理那がここを選んだのもそれが理由だったのだが、それを知るのは鉛龍だけだ。
ついでに言うと、当然正斗率いる幻夢コーポレーションも新作ゲームやグッズ、放送している特撮の著作権を持っている会社との連携をしてオリジナルキャラクターやコラボキャラクターのデータなどを有料配布している。この時期は利益を上げる重要な時期の一つだ、正斗が見逃す道理はない。
とまあ、それはともかく。買い物なら自分に任せていただければと尊はいつも言うのだが、帰ってくるのはやはり同じ返答で、〝自分で買うからこそ愛着が湧く〟と言うのだ。
別に、尊は一介のメイドである自分が主人の趣味にとやかく言いたいと言うわけではないのだ。むしろ普段生徒会長と同時に神堂家の跡取りとして肩肘を張った生活を送っている分、これほど熱中できるものがあるのだから嬉しく思っている。
しかし、アルティメギルがこの世界に現れてからもう何度も慧理那はその身を狙われている。気軽に外を出歩くのは危険なのだが、しかし屋敷に缶詰になってくれとも言えない。だからこそ、こうしたちょっとした用事なら使用人に任せてもらいたいのだ。
「お嬢様は、ツインテイルズに心酔しているからな……」
ヒーローに憧れる彼女の前に本物のヒーローが現れたのだ、舞い上がるのも無理はあるまい。もし危険な目にあっても必ず彼女たちが助けてくれる、慧理那はそう確信しているのだ。
だが、それ以上に。今えへへと笑いながら普段からは考えられない……それこそ恋する乙女そのものの笑顔を向けている鉛龍を、慧理那は信頼している。尊としては悔しい限りだが、しかし彼が自分など足元にも及ばないほど強いボディガードだというのもまた事実。
そこにツインテイルズという二重の護衛がいるようなものなのだ、慧理那は全く不安ではないのであろう。しかし尊には、そのほかに一つ懸念することがあった。
すなわち、〝お嬢様はもしや、むしろツインテイルズに会うために危険を望まれているのでは?〟と。尊の勝手な心配だが、しかしそうでないとも限らない。難しいところだった。
『メイド長!鉛龍様!今すぐお嬢様をお連れして逃げてください!』
二十八歳、結婚を望む身として
部下のメイドの切羽詰まった叫び声を鉛龍も聞いたのであろう、瞬時に会計を終えた慧理那を横に抱き、いわゆるお姫様だっこの体制でこちらに向かって来た。慧理那は一瞬訳がわからないといった表情をしていたが、しかし鉛龍にお姫様だっこされていることがわかるとかーっと顔を赤くした。だが、それに構っている暇はない。
「メイド!」
「いい加減に名前を呼べ、ややこしい!」
そんなやりとりをしながら尊は鉛龍から投げられた玩具入りの紙袋をキャッチし、鉛龍と並走して走り始めた。脇目も振らずフロアを抜け、階段へと向かう。だがエスカレーターなど使っていては遅すぎる。
ならばーー
「舌を噛むなよ、慧理那!」
「ふえっ!?」
急に名前を呼ばれたことにより赤くなった慧理那に構わず、鉛龍は階段……ではなく、円形構造になっているショッピングモールの3階から円の中心に飛び出した。尊は思わず目を剥く。
だが、当然正体が正斗より生まれ落ちたバグスターたる鉛龍がヘマをするはずもなく、「きゃぁあぁぁっ!」と黄色い声を上げる慧理那に負担がかからないようにしながら壁を足場にして走り、時には反対側にジャンプしてあっという間に一回のエントランスに降り立った。
そのまま反応して開いた自動ドアの隙間をすり抜け、階段を丸ごと飛び越して追いついた尊とともに駐車場に踊り出すが……一歩、遅かった。
「くそ、先回りされたか……!」
「……フン、ならば正面突破すればいいだけのこと!」
モケケーといつ通り奇怪で甲高い鳴き声を上げる黒ずくめの怪人……アルティロイド達に鉛龍はむしろニヤリと口元を歪め、慧理那を尊に任せると突撃していった。さすがの彼でも奴ら相手では太刀打ちできないだろうと思い、尊は制止しようとするが…そんな心配は、無用。
まるで水を得た魚の如く一瞬でアルティロイドに接近した鉛龍は、その拳でアルティロイドの頭を消しとばした。ただの拳撃一つでだ。さすがの尊もぽかんとする。
それからアルティロイド達の中心で、鉛龍は大立ち回りを演じた。文字通り、千切っては投げ、千切っては投げ。心底楽しそうに哄笑を上げながら、向かってきたアルティロイドのことごとくを蹴散らしていく。
「クハハハハッ!どうした、もっとかかってこい!俺を本気にさせてみろ!」
「ーーアルティロイドを生身で倒すとは……侮れぬ人間と見たっ!」
「ッ!」
無双していた鉛龍の背後から、突如別の声が響いた。振るわれた巨大な鋏を鉛龍は直感でかわし空中で三回転後方バク宙を決めて慧理那の前に降り立つ。
つい一瞬前まで鉛龍の立っていたアルティロイドの中心に代わりに悠然と立ったのは、直立した蟹のような姿をしていた。どうやらエレメリアンならしい。蟹型エレメリアンは慧理那を見て声を上げる。
「ほう、これはなかなかどうしてハイポテンシャルな幼女……これだけの強力なツインテール属性を持つ以上、〝あれ〟もさぞかし素晴しかろうな!」
「またか、化け物め!」
思わず尊は叫ぶ。ツインテールツインテールと、理屈はわからないがこのエレメリアンがこれまでのエレメリアン達同様、慧理那のツインテールを目的に襲ってきているのは明白だ。
本来なら、髪型を変えて仕舞えばそれで済む問題。しかして、神堂慧理那にはそれができない理由がある。尊は歯がゆかった。
「我が名はクラブギルディ!ツインテール属性と常に共にある麗しき
「ネープ……え、うなじ!?」
「そこな男……生身でアルティロイドを打ち倒した人間よ!貴様も名を名乗れい!」
鉛龍は尊とアイコンタクトを交わし、それまで外で待機していて駆け寄ってきた部下のメイドに慧理那を託すと二人だけ残ってクラブギルディの前に立ちはだかった。
「クハハ、我が名を聞きたいと言ったな、エレメリアン!ならば教えてやろう!我が名はーー〝グラファイト〟!この世全ての戦いを愛し、またこの命を戦いと……〝とあるもの〟に心を捧げる戦士だ!」
「ほう、戦士とな!?」
「私たちが貴様をお嬢様の元へは行かせないぞ、化け物め!」
「ややっ、妙齢の女性、お主もツインテールを嗜むか!年増のツインテールなど滑稽そのもの、今すぐ立ち去れい!」
「年増って言うな殺すぞ!」
今更だが、クラブギルディに向かい叫ぶ尊はツインテールである。ウェーブのかかったもこもこの髪を頭頂部近くから背中に落とすようにまとめている。首元までの長さで自己主張するそれは、活発さを象徴するかのようなツインテール。
怪物の言う通り、今年二十八歳にもなるため色々と思うことはあるのだが、この髪型は神堂家に仕える誓いを立てたその日から一度も変わらない、尊の誇りの一つだ。そのため、こんな怪物にそれを馬鹿にされては黙っていられない。
だから怒りの叫びと共に果敢に挑もうとしたのだが……その前に、すっと鉛龍……否、グラファイトが尊の前に立ち、声高に宣言した。
「フン、所詮外見しか見ないのが貴様らの限界だ、エレメリアン!」
「何っ!?」
「いいか、メイドのツインテールはこいつが誇りに思うものの一つだ!それを年齢だけで見下げるなど言語道断!貴様らは心そのものの存在でありながら、誰かの誇りを汚すか!」
「む、むぅ……!」
「お前……あとメイドって呼ぶなまぎらわしい」
グラファイトの後ろ姿がどこか格好良く見えてちょっと顔を赤くした尊のツッコミをスルーし、グラファイトはなおも宣言する。
「滑稽だと!?全てのものに髪型は自由であり、ツインテールもまた然り!年齢が少し上だからツインテールではおかしい?ハッ、笑わせるな!ツインテールを誇りに思う心!それが一番大事なのではないのか!どうだ、
「ーーッ!!」
衝撃を受けたようによろよろと後ずさるクラブギルディ。常人が聞いたらほとんど理解できなさそうな会話だ。事実、尊もちょっと混乱している。
「無論、外見も人間の魅力の一つだろう!メイド、美女、そしてツインテール!それらはあくまで誇り高いその心を彩るスパイスでありながら、あなどれん!これらが揃ったメイドのどこが滑稽なのだ?十分魅力的ではないか!」
「なっ!?」
今度こそ尊が顔を真っ赤にした。グラファイトとてバグスターと言う名のエレメリアン、こと心に関することには普段の無口を投げ捨て熱弁する。これで含むところなく、ただ純粋に誇り高き戦士として怒っているというのだから凄まじい。
ちなみに、グラファイトは「まあ俺は慧理那以外は興味がないが」と付け加えようとしたが、なんか尊に後頭部にハイキックをかまされそうだったのでなんとか飲み込んだ。正斗がやったことのある恋愛ゲームで行ってはいけない選択肢というのが記憶として流れてきており、わかっているのである。
クラブギルディはグラファイトの熱弁に押されたのか、やや葛藤しているような唸り声をあげていた。それを見てニヤリと笑い、グラファイトは自分の気迫に気圧されているアルティロイド達に向かっていつの間にやら右手につけていた紫と赤、銀で彩られたそれ……〝ガシャコンバグヴァイザー〟のグリップを操作し銃撃する。
「モ、モケケー!?」
「なぬっ!」
「ハァッ!」
そのまま再び突貫し、グリップの上で上下逆にしてチェーンソーモードになったガシャコンバグヴァイザーを使ってアルティロイド達を蹴散らす。クラブギルディはようやく吹っ切れたのか、グラファイトに攻撃を開始した。
「きゃー!」
グラファイトはそれを応戦しようとするが……しかし、突如響いたメイドの叫び声にそちらを振り向いた。
見てみれば、どこに隠れていたのかいつのまにか現れていたアルティロイド達が慧理那をかばっていたメイドから強引に引き剥がそうとしていた。見たところ、慧理那自身も他のメイドに危害が加えられないよう自ら離れたらしい。
……ブチッ。
グラファイトの頭の中で、何かが切れた音がした。
尊が鬼の形相でそちらに向かい、ミニスカートをはためかせ鍛えられた両足から
「くっ、離せ!」
「先ほど侮ったことは謝罪しよう!だからそこで大人しくしているがいい!これ、そこな幼女をこちらへ連れてこい!」
グラファイトがだらんと両腕を垂らし、顔をうつむかせ棒立ちになっている間にアルティロイド達は慧理那のことをクラブギルディの前に連れてこようとしていた。尊は急変したグラファイトの様子に焦りを見せる。
あわや慧理那がクラブギルディの毒牙にかかるかと思われた、その瞬間ーー
ーーザンッ
「……何?」
「ーーその汚らわしい手で、慧理那に触れるな」
慧理那を掴んでいた二体のアルティロイドが、ガシャコンバグヴァイザーによって切り裂かれ光の粒子となって消滅した。それを引き起こしたグラファイトは憤怒に顔を染め、全身から
その凄まじいまでの憤りと気迫に、クラブギルディを筆頭にアルティロイド達も後ずさった。それを見ながらグラファイトはぺたりと地面に座り込んだ慧理那を抱え、尊の方向へ向かう。
尊を抑えていたアルティロイドがビクゥッ!と飛びのき、グラファイトは無言で鼻を鳴らしながら尊の隣に慧理那を下ろした。そして、安心させるようにその頭を撫でる。
「鉛龍、様?」
「……大丈夫だ。俺がお前を守る。力の限りな…メイド、慧理那を頼んだぞ」
「……あ、ああ」
尊に慧理那を託し、悠然と立ち上がったグラファイトのレシーバーにノイズが走り、予想外の声が聞こえてくる。
『やあグラファイト、お前のレシーバーだけジャックさせてもらった。今そちらに総二達が向かっているがーー』
「ーー必要ない。俺一人でかたをつける」
『……そうか。なら…ッ!』
「……なんだ」
『すまない、別ポイントにエレメリアンが出現した。そちらは全面的に任せる』
「了解した」
それを最後に、レシーバーから声は聞こえなくなる。グラファイトは己の胸に滾る怒りを押さえつけるかのようにレシーバーを握りつぶし、ギロリとクラブギルディを睨み据えた。
「……貴様は、俺の逆鱗に触れた」
「なっ、その凄まじい
「無遠慮にも、慧理那に触れようとした。心の輝きを、奪おうとした。その代償は、貴様の命で支払ってもらうぞ」
そう言いながら、グラファイトはグリップから外したガシャコンバグヴァイザーを仕舞い、代わりに赤と金、黒でカラーリングされた武器……ガシャコンバグヴァイザー
グラファイトは獰猛な笑みを浮かべながらそれを片手で持ち、正斗とは正反対に赤色のAボタンを押し込んだ。すると腹の底に響くような重厚な、不気味な音楽が流れ始める。
その音に誰もが困惑する中、グラファイトだけは冷静にその言葉を呟いた。自らを真の姿へと変える、その言葉を。
「〝培養〟」
言うと同時に、グラファイトはガシャコンバグヴァイザーⅢを右手に握ったグリップにはめ込む!
ガチャン…
《INFECTION !!!》
「
《Let's G A M E !》
さあ、
《Bad G A M E !!》
泥臭い、最高最悪の
《Dead G A M E !!!》
どちらかが死するまで戦い続ける
《What's your 〝 N A M E 〟 !!?》
己の名は……
《The 〝 B U G S T E R 〟!!!!》
龍戦士、グラファイト也ッ!!
短いですね。まあ、オリエレメリアンのためですが。
桜川先生はヒロインにする……かな?
非ログインユーザーの方でも感想を書けるようにいたしました。設定を誤っており、申し訳ありません。
覚醒したグラファイト、そのレベルはーー
「さあ、死合おうぞ!」
次回「究極のDragon Warrior !」
感想をいただけると嬉しいです。