ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

24 / 32
2ヶ月以上更新ないとか、死罪ですね、ええ。
今回から第3章です。
楽しんでいただけると嬉しいです。


【第三章】THIRD STAGE!!!
闇の処刑人、ダークグラスパー


 Welcome to the new game!

 

 Next is〝THIRD STAGE〟

 

 Are you ready?

 

 GAME START!!!

 

 

 ●◯●

 

 

「ふぅ……ようやくついたな」

 

  空港の出口から茶色のキャリーケースを引いて出てきたその青年は茜色に染まり、落ちかけた夕日が暖かく輝く空を見上げ、そうひとりごちる。

 

  その青年は、わりと目立つ容貌をしていた。180センチを超える高身長にすらりとした体。服に包まれ覆い隠されたその体はその実、着痩せしているだけで筋肉の鎧に覆われている。

 

  切れ長の瞳に白い肌、薄い唇にすっと真っ直ぐに通った鼻梁。まるで黄金比のように完璧な位置に収まっている顔のパーツは一つ一つが美しく、その男特有の低音の声がなければ女にしか見えないだろう。最も特徴的なのは、一部が細かく編み込まれたその茶髪だろうか。

 

  その身に纏うのは白と赤のコントラストの入ったロングTシャツに首には青いスカーフ、灰色のフードがついた茶色いトレンチコート、腰には縦横にストライプの入った赤い薄手の上着を巻きつけ、黒いスリムパンツにくるぶしの上までを覆う紐のブーツを履いている。

 

  そんな特徴的な格好をした青年を、空港にいた他の人間達がひそひそと囁きあいながら見ていた。悪意によるものではない、好奇の視線だ。中には写真を撮っていたりするものもいる。

 

  二つの……いや、三つの意味で世界的に有名である青年にとってそうして人々に注目されるのは既に慣れたことであり、気に留めることもなくうーんと呑気に伸びをしていた。

 

 

 ギャーオ!

 

 

 ガルルルル!

 

 

  そんな青年のキャリーケースの一部分がまるで扉のように開いたかと思うと、鳴き声をあげながらそこから二つの小さな何かが飛び出してくる。それは機械仕掛けの獣であった。

 

  一つは白色のドラゴン型。円筒形のスロットと炎の意匠のついた角ばった形状の胴体から太く短い四本の足と細長い首と尻尾が伸びており、三枚で一つの一対の翼、計六枚の翼で中を自由自在に動き回っている。

 

  二つ目は黒い豹のような形状のものだ。ドラゴンに比べてややスマートな形状であり、尻尾と頭部は同じ構造だが細い四本の足の根元には折り畳むことのできる機構が備わっていた。

 

  人工知能を搭載し、既に自我を持つに至っている二つのマシンは片や文字通り羽を伸ばし、片やその下をぐるぐると回りながら金属の尻尾を振って10時間以上のフライトから解放されたことを喜んだ。それを見て薄く笑う青年。

 

  マシンの造り主である青年は自分の発明品がじゃれ合う姿を見て微笑みながら、コートのポケットに入ったものを取り出す。それは、ドラゴンの顔が彫り込まれた白い液体入りのボトルと、黒豹を模したマスクとスーツをつけた人間が胸の前で腕をクロスする絵が彫り込まれた黒い液体入りのボトル。

 

「さて、いくぞお前ら。社長のとこに挨拶しに行かなきゃな♪」

 

 

 ギャーオ!

 

 

 ガルルルル!

 

 

  青年は上機嫌な様子でそのボトルをシャカシャカと振り、ドラゴンと黒豹を伴いその背に視線を集めながら空港を後にするのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

「あの人……トゥアールの意志を継いだ戦士達よ。妾の元へは来ないか?」

 

  クラーケギルディ改めシャドウギルディとリヴァイアギルディ……二体の幹部エレメリアンとの激闘の余韻がいまだ燻る工場跡に現れた、白衣を翻す謎の少女。

 

  頑強装甲グラスギアと自ら呼称する黒い鎧を纏った彼女…ダークグラスパーの言葉は、普通ならば理解に時間を要するものであった。なぜなら自らを、アルティメギル首領直属の戦士と名乗ったのだから。

 

  見たところ、どう見ても人間だ。ゲムデウスの力を応用して龍美のように人間の姿をしたエレメリアンではないか探るが、正真正銘人間の少女だ。

 

  そして先ほど彼女からもたらされた言葉から、こいつはトゥアールの知己でもあるようだ。また、彼女の意志を継いだという言葉からこちらの…特に総二のテイルギアのコアの正体に気づいている可能性が高い。

 

  それをわかっているのか、総二…レッドは神妙な顔をしながらブルーをかばうように一歩前に立ちテイルカリバーを構え警戒する。イエローも負傷した肩を抑えながらもキッとダークグラスパーを睨んだ。

 

  何にせよ、まだ情報が不足しすぎている。俺もいつでもバグヴァイザーを取り出せるように準備をしながら一歩前へ出て、彼女に語りかける。

 

「君は一体何者かね? なぜ我々をアルティメギルに誘う?」

「ふむ……貴様は確か、神崎正斗といったか? 貴様のゲーム、いつも楽しませてもらっているぞ。妾がこうして直接褒めるなど、初めてじゃ」

 

  ほう。予想はしていたが、エレメリアン側にも俺のゲームは流れているらしい。まあ、別にそれはいい。何であろうと、ゲームを楽しんでくれるのならばそれは俺にとって大切な顧客だ。

 

「お褒めにあずかり、感謝する。私の最も得意とする所なのでね、全ての作品に最高のものであるという自信を持っている」

「ふはは、良い自信じゃ。それにしても……なるほど、貴様が戦士達のパトロンというわけか」

「まあ、そのようなものだ……話を戻そう。君は先ほどトゥアールの名前を出したな? もしや、彼女と同じ世界から来たのか?」

 

  俺の言葉に初めて超然とした態度を崩し、少し驚いたような顔をするダークグラスパー。しかしすぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「……流石じゃな。その通り、妾はかつてトゥアールの世界にて彼女の一番の信奉者(ファン)を自負していたものじゃ。なあ、そうじゃろう?………トゥアール」

 

  笑みを崩さぬまま、ダークグラスパーは漆黒の手甲に覆われたそのしなやかな腕を振り上げ、俺の後方……総二達よりさらに後ろを指差す。

 

  反射的に全員で後ろを振り返ると……イエローとシャドウギルディの先頭により倒壊した廃工場跡の大きな瓦礫の中から、人影が白衣の裾を翻しながら姿をあらわした。

 

  そして姿を見せたその白衣の人物は……まるでツインテールのように左右に張り出した翼を携えたマスクを被った女性、仮面ツインテール……もとい、トゥアールだった。どうやらこちらに来ていたらしい。

 

  瓦礫の陰から出て来たトゥアールは一瞬逡巡するように立ち止まり、しかしすぐに足を踏み出すとこちらに近づいてきた。そして総二の横に立つと、仮面を脱ぐ。

 

  中から現れるのはいつも見ている外見()()()美しいトゥアールの顔。彼女が頭を振るのに伴い、その長い銀髪が揺れる。そうして顔を表したトゥアールは、イースナの方を真剣な顔で見やる。

 

「……久しぶりですね、イースナ。随分と様変わりしたようですが」

「ふっ、そういう貴方こそあの完璧なツインテールではないではないか……やはり新たな戦士に、その愛を託したか」

 

  少し物憂げな表情で語るダークグラスパー。本名はイースナというらしい彼女は、どうやら一発でトゥアールのツインテール属性がないことを見抜いた。俺と同じように属性力(エレメーラ)を見れるのか。

 

  それから、トゥアールとイースナ……ダークグラスパーの静かな応酬が始まった。少し疑問に思う部分もあったが、まあ概ね理解はできた。

 

  それを要約するとこうだ。まずダークグラスパーことイースナが属性力(エレメーラ)を失わず未だ健在なのは、完全に侵略が完了する前にアルティメギル側についていたかららしい。客観的に見れば賢明な判断だろう。

 

  次に何故トゥアールのオリジナルシステムであるテイルギアに酷似したグラスギアを纏っているのかというと、ずっとトゥアールを見ていた彼女の心の力が眼鏡に影響を及ぼし、摩訶不思議な力が宿っていたのだとか。ちなみに名前は神眼鏡(ゴッドめがね)である。

 

  その眼鏡を変身ツールへと改良したイースナはテイルギアの記憶を元にグラスギアを作り上げ、それを纏うことでダークグラスパーとなったらしい。その強大な力を体から溢れ出るオーラより感じ取れる。

 

  質疑応答を繰り返す二人のそばで、俺は思考を回転させる。とりあえず現状把握できていることは彼女がこれまでのどの敵よりも強いであろうこと、そしてトゥアールの重度のファンだということだ。

 

  ダークグラスパーの佇まいからは一切の隙を感じることができなかった。ただ突っ立っているだけに見えてその実、決して油断していない。おそらくギアの力がなくても、相当な強さを持っている。

 

  しかし、そうなるとダークグラスパーがアルティメギルにいる理由がわからない。彼女の言葉からして従わされているわけではなく、何か目的があって取り入ったのだろうが……。

 

「今度はこちらから質問じゃ。何故、戦うことを放棄した?いや、放棄したのではないのであろう。それは貴方の愛を受け継いだそこの戦士からわかる。相変わらず幼な子が好きなこともな」

「…これは、私なりの贖罪です。自分の世界を、そこに住まう愛すべき幼な子(ひとびと)を守りきれなかった、私への罰。私はこの世界の戦士に、全てを託したのです」

 

  ……一部口から出た言葉と違う意味を内包したものがあったような気がしたが、まああえてスルーしよう。それにあながち口から出まかせというわけでもなさそうだしな。

 

  そんな風に考える俺に対して、トゥアールの言葉を聞いたダークグラスパーはちらりと総二を見たあと、その隣に寄り添うブルーがゲーマーとともに纏ったテイルギアを見てふっと笑む。

 

「……心に留まらず、テイルギアまで次代の戦士に託すとは、その覚悟は半端なものではないようじゃな。まあ良い、今の貴方の真意が知れただけでもここに来た意味はあった。そうじゃ、そのついでにアドレスも教えてくれぬか?」

「…え、なぜアドレス?」

 

  俺が疑問に思ったことを、総二がそのまま呟いてくれた。きっと俺と総二だけならず、他の人間も思っただろう。何故当然アドレスを聞くのか?と。

 

  ごく自然な会話の流れでトゥアールのアドレスを要求し始めたダークグラスパーはどこからともなく携帯電話を取り出していた。形状は普通のスマートフォン、しかしスレ跡や色のくすみからしてかなり年季の入った代物だ。

 

「貴方が戦士として戦わないというのであれば、それでいい。ただこうしてまた出会えた記念として、貴方を刻みつけておきたいのじゃ。ああ、ちなみに妾のアドレスは変わっておらんぞ?」

 

  なおも不敵な笑みを浮かべたまま言うダークグラスパーに、沈黙していたトゥアールの答えはーー。

 

 

 

「ーーーーーーーワタシ、イマ ケイタイ モッテマセン」

 

 

 

  どこまでも安易かつ棒読みな逃げ口上だった。あまりに見苦しい言い訳に、思わずずるっと体のバランスが崩れかけた。総二達に至っては本当にずっこけそうになっている。

 

  そんな誰がどう考えても嘘とわかるトゥアールの返答に、わかっているのかわかっていないのかダークグラスパーは悲しそうな顔をしてスマホを持った手を下ろした。

 

「そうか……残念じゃ。てっきり昔のようにいつも持ち歩いているものと思っておった」

「ハイ、ソウデスネ」

「懐かしいのう。貴方はいつも幼き女子達にメールアドレスを配り、写メを送るよう言っておった。妾を含め、皆貴方に気に入られようとして酷いことにもなったものだ」

 

  ビクッとトゥアールの肩が震える。俺は自分の視線が氷点下以下まで下がっていくのがわかった。ほう、これは後で少し話をする必要がありそうだな。

 

  とはいえ、今はトゥアールのアドレスを手に入れられないと悟ったのかダークグラスパーは大人しく携帯電話をしまって、今度はこちらに顔を向ける。

 

「さて……では次は、本来の役割を果たすとしよう。改めて問おう、次代の戦士達よ。妾の元へ来る気はないか?いや、少し違うな。妾とともに、内側よりアルティメギルを支配しないか?」

 

  そう言い、手を差し出すダークグラスパー。そんな彼女の問いに思わず驚いて目を見開く。まさかとは思っていたが、やはりそこが彼女の目的か。

 

  そうして与えられた質問に対する、俺とトゥアールを除いた総二たちツインテイルズの返答はーー。

 

「……悪いが、その提案には乗れない。俺は自分の手でこの世界を、ブルーのツインテールを守るって決めてるんだ」

「…あたしもよ。レッドが世界中のツインテールのために戦い続ける限り、あたしはずっと隣にいて支える。あんたの誘いになんか乗らないわ」

「愚問ですわ!ヒーローたるもの、正道を行き、人々を脅かす強大な悪に立ち向かってこそ!悪に屈することなど絶対にしませんわ!」

「ふむ、そうか……ならばよい。今日のところは引き上げるとしよう。ではトゥアール、また会おうぞ。ああ、ちなみにアドレスは変えておらぬからな」

 

  三人の拒絶に割とあっさりと諦めたダークグラスパーはトゥアールに一度挨拶をすると白衣を翻して踵を返す。そして突如その背後に現れた極彩色のゲートの中に消えていった。

 

  ダークグラスパーが去ると、それまで周囲を支配していたプレッシャーが消え、元どおりの茜色の夕日が照らすただの廃工場跡地へと戻る。思わずふう、と口から息が漏れていた。

 

  とりあえずイエローに回復のエナジーアイテムを使って肩の傷を癒すと、総二達二人を労う。そうした後は、ポツンと立ち尽くしているトゥアールに近づいた。

 

  トゥアールは瓦礫の上、ダークグラスパーが消えていった空間を見つめている。その目には複雑かつ悲しげな色が浮かんでおり、その沈鬱そうな表情と相まってかなり暗く感じる。

 

  そんなトゥアールの肩を、俺は軽く叩くことで我に返した。残念な箇所もかなりの頻度で目立つが、彼女は友人だ。落ち込んでいるのを放ってはおけまい。

 

「随分と面白いファンを持っているな」

「あ、あははは。現役時代もかなり凶悪なストーカーでしたけど、今は別の意味で恐ろしそうですね」

 

  後頭部をかきながら誤魔化すように笑うトゥアール。それに気付きながらも、俺はそうかと端的に返した。あまり深く突っ込むのはこの場でなくてもいいだろう。

 

  そうしているうちに三人が近寄ってきたので、俺は一度息を吐き、気分をリセットし全員を見渡して笑顔を浮かべた。

 

「とりあえず、一旦帰るか。話はそれからだ」

 

 

 ●◯●

 

 

 所変わって、総二の母である未春さんが経営する喫茶アドレシェンツァ。総二の家でもあるその場所の地下にはツインテイルズの秘密基地があった。トゥアールの作った特製のものだ。

 

 スーツのポケットの中に持っていた簡易的な転送装置を使いすぐさま帰投した俺たちは、変身を解除するとすぐさまその秘密基地に直行した。

 

 裏にあるエレベーターより地下へと降りて、コンソールルームへと入る。扉が開くとお馴染みコスプレをした未春さんと母さんが顔を見せてお疲れ、といってきた。奥にはパラドたちもいる。

 

 未春さんは気にいったのかこの前と同じ悪の女幹部のような格好をしており、それを神堂に見られた総二は体の全ての穴からエクトプラズムを垂れ流す勢いで絶句していた。

 

 また、現在進行形で俺を抱きしめている母さんはそれとは逆にどこぞのファンタジーちっくな白い学生服と長い金髪のウィッグを着ている。どうやったのか数週間で肌の色も白くなっていて、その完成度の高さが伺えた。当たり前だが、全くもって違和感は無い。

 

 それに苦笑はするが、総二のような顔はしない。すでに神堂は母さんの趣味を知っているし、社員も知っているので今更隠す必要も恥じることもない。むしろここまで似合っていると誇らしくすらある。

 

 俺をよく知るものは分かるだろうが、俺は相当なマザコンだろう。ついでにファザコンでもある。俺はその両親に対しての愛情を隠すつもりはさらさらない。

 

 と、そんな事は後回しにして。くしゃみでも出ようものなら一緒に魂まで排出してしまいそうな顔をしている総二の背中を押して、中の会議用の机へ向かった。するとタイミングよく近くのトレーニングルームへのドアがスライドして開く。

 

 そしてそこから、身長の高い一見女にも見える男が汗をタオルで拭きながら現れた。下半身は黒いスリムパンツに裸足、上半身は下着一枚というワイルドな格好だ。

 

 どうやら先ほどまでトレーニングをしていたようでシャツは汗で透けており、その盛り上がった胸筋と六つに割れた腹筋がよくわかる。極限まで鍛え抜かれたその体は細身であるのにも関わらず、非常に力強かった。明らかに格闘家の体格だ。

 

「ふぃ〜、空の旅で凝り固まった体をほぐせたぜ……ん?お、帰ってきた」

 

 満足げな声を漏らしていたその男は俺たちに気がつき、笑みを浮かべてよっと片手を挙げた。俺は苦笑しながらそれに答える。

 

 簡易的な挨拶をした男は俺から視線を外して順々に後ろのメンバーを見渡していき……そして、あるひとりを見た瞬間ピシッと硬直した。瞠目し、手に持っていたタオルを取り落とす。

 

 一体同士とのかと、その方向を振り向いてみれば…そこにいたのは、トゥアールだった。そして彼女もまた、同じような顔をして男を見ている。いや、これはむしろ惚けているのような……

 

 …もしかして。いや、それはないか。だが俺自身似たようなものなので可能性がなくもないだろう。まあ、後で聞いてみればいいことだ。

 

「二人とも、どうかしたか?」

「「っ! い、いや、なんでもない…えっ?」」

 

 俺の白々しい問いかけに、ハッと我に返って慌てた様子で同時に答える二人。偶然の重なりの二人は驚いた顔をして違いを見て、すぐにプイッと顔をそらした。ああ、これは確定か。

 

 ニヤニヤとなりそうになる表情を冷静という仮面で覆い隠し、男を促してシャワー室へと向かわせる。残りの困惑している…一部ニヤニヤしている…メンバーを座らせて会議を始めた。

 

「さて。改めて神堂、おめでとう。見事な戦いだった」

「いやぁ、仕事終わった後見てたけど、いいバトルだったよ。今度一緒に訓練しよっか?」

「はい、ありがとうございます神崎くん、それにパラちゃん。これからもよろしくお願いしますわ」

「…良い戦いっぷりだったぞ」

「あ……は、はい!」

 

 グラファイトに褒められて照れながらも笑顔でコクリとうなずいて答える神堂に、ある程度仲の良い母さんが大勝利だったねー!と言いながら抱きつく。母さんは神堂のことを以前から気に入っていた。

 

 少し困った様子ながらも褒められて嬉しいのか笑顔を浮かべる神堂。未春さんもウンウンとうなずいて、総二と愛香にパラド、桜川氏、勝手に出てきていたホログラムのジャーヴィスがパチパチと拍手をする。

 

 そうして一通り神堂のことを褒め称えると、いよいよ本題に入ることにした。すなわち、あのダークグラスパーことイースナという、トゥアールの知り合いのことについてだ。

 

 そう思い全員が彼女の方を向くが、しかし彼女はぼーっと虚空を見ていて上の空だった。目の焦点はあっておらず、心なしか頬が赤い。その原因は……まあ、あれしかないだろう。

 

  その理由を知っている俺はんんっ!とやや大きな咳払いをする。するとようやくトゥアールは正気を取り戻して、慌てた様子で俺たちを見回した。

 

「あっ、すみません、少し考え事をしてました」

「そうか。別にいいが、説明をしても大丈夫か?」

「は、はい。といっても、私も混乱していて何が何だか……」

 

  言い淀むトゥアール。その圧倒的な情報処理速度でいくらでも話していられる彼女が戸惑うほどか。本格的にあのイースナとやらが気になってきた。

 

「まず最初に、あの子はイースナ。私が元いた世界……つまり故郷の世界の幼女(じゅうにん)です」

 

  おい、またルビがおかしかったぞ。俺だけではなく、隣にいる総二も直感で感じたのか首を傾げている。

 

「エレメリアンに狙われていたところを助けた時に知り合った子なのですが……」

「ちょっ、ちょっと待ってください!トゥアールさんも、ツインテイルズなんですの?」

 

  挙手をして質問をする神堂。そういえば彼女には、まだトゥアールがこの世界に来る前の経緯を話してはいなかったな。ちょうどよい機会だ、話しておこう。

 

  トゥアールに目配せをして、話していいかどうか問う。今の彼女ならば大丈夫だと判断したのだろうか、トゥアールはコクリと静かに頷いた。許可をもらったので、俺は彼女のことを話し始める。

 

  かつて故郷である別の世界でたった一人で戦っていたこと。敵の計画に敗れ、何もかもを奪われたこと。引退し、自らのツインテール属性をテイルブレスにして総二に託し、なおかつ自分のテイルギアを愛香に託したこと。

 

  俺は一言一句逃すことなく、自分の記憶から懇切丁寧に説明をする。神堂は笑顔であったり悔しそうな顔だったりと、一人百面相をしながらも真剣に聞き入っていた。

 

「……と、いうわけだ。理解できたかね?」

「つまり、トゥアールさんは次世代に意思を託した前時代のヒーローというわけですね!燃えますわ!」

 

  ぎゅっ、と拳を握ってワクワクとした様子で声を上げる神堂に、俺はまあそういうことだと微笑む。ちなみに彼女の背後に直立不動の姿勢で立っていたグラファイトは胸を押さえながら顔を背けていた。わかりやすい奴め。

 

「本題に戻りましょう。そうして総二様にツインテール属性を託したわけですが……彼女はそれを見抜いていました。それにあの瞳…おそらく、私の知るイースナではない。彼女は何かとてつもない力を秘めていることは間違いないでしょう」

「ふむ、それに関しては俺からも意見がある。一つ、ゲムデウスの力ではあの眼のことは解析しきれなかった。あまりにも複雑なものでね、後五秒あればどうとでもなったのだが」

「相変わらず規格外ですね……」

 

 それが俺の取り柄だからな。

 

「他にもいっぱい素敵なところ、あるけどねー?」

「ありがとう、パラド……何にせよ、底の知れない強さを秘めているのは間違いないだろう。加えて、洗脳や騙されているわけではなく自らの意思であちら側にいる。それも、アルティメギルを掌握するために」

 

  普通ならば、そんな奴は受け入れられないだろう。だが奴らの首領の直属の戦士を担うだけの力があるとすれば、多少のことはどうとでもなる。まあ、それはそれで逆に不自然な点ではあるが。

 

  しかし確実に彼女には何かアルティメギルを使って何かをしようという思想があることに間違いはない。少なくとも、人間の支配でないことを祈ろう。事実、それをできるだけの力が彼女にはあると推測できる。

 

  しかしその可能性は低いと俺は考える。希望的観測だが、未だにトゥアールのことを尊敬している節があったし、俺たちの力を足してアルティメギルの征服を目論んでいることからもそれは考えにくい。

 

  まあ、それはそれとして問題もある。未知の瞳の前に、彼女の纏っていたグラスギアなるもの。解析したところ、あれはテイルギアと同等か、それを凌駕するスペックを持っている。

 

  彼女自身の弁からして、メガネの能力でテイルギアを解析、その規格を完全に複製(コピー)とはいかないまでも自分好みに調整して作り上げたものだろう。おそらくアルティメギルの属性力(エレメーラ)変換技術も使っていると思われる。その戦闘能力は測り知れない。それを思考しながら総二達に説明していく。

 

「だが、その戦闘力を買って登用されたというだけでは理由が弱く、理解し合えない奴らが受け入れるとは考えにくい。何か引き入れられるだけの価値のある取引があったはずだ」

「さすが正斗、視点が違うな」

「まあ、仕事柄な。さて。ここで問題なのは……お前達が人間と戦えるか、ということだ」

 

  俺の言葉に顔をこわばらせる面々。相手はアルティメギルに属するとはいえ明確に俺たちと同じ人間、戦う際に迷いが生じるだろう。

 

  では相手がエレメリアンだからいいのかと言われたら、それは違うだろう。確かに客観的に見れば変態だが、彼らは信念を持って戦い、俺たちはそれに答えて全力で迎え撃ち、真正面から破っている。

 

  実は常日頃から総二達にはエレメリアンだから別にいい、という固定概念を持たないようにと言い聞かせてある。存在が違うとはいえ、その心は俺たちと同等だ。そこには確かな命の重さがある。

 

  その重みをわかった上で、総二達も俺も戦っている。口ではあれこれ言うものの、そこには尊敬が必ず存在している。当然、俺も、源流は同じパラド達も。それは龍美の存在やポセイドギルディとのことが証明しているところだ。

 

  それは逆説的にいえば、ダークグラスパーにも当てはまることだ。彼女が人間だからといって、本気でこちらを倒しにくるのなら遠慮しすぎることはない。

 

  大事なことは、自分たちと相手両方のことを考えること。自分と相手は同等であるという思考を持つことだ。俺はビジネスにおいて何よりそれを大事にしている。

 

  まあわかりやすくいえば、自分の命と信念を賭ける以上は、迷いを切り捨て自分がどうしたいか、相手とどう向き合うかを考えなくてはいけないのだ。

 

  俺はビジネスとして、そして仲間として彼らを可能な限り人にすることで受け入れると決めた。全ては救えない。それでも俺ができる範囲なら、共存を望むエレメリアン達をこの手で救っていく。

 

  ダークグラスパーにしたってそうだ。まだまだ謎が多く正体のわからない相手ではあるが、彼女の目的の方向性によっては彼女をひきいれようかと検討中である。

 

 

 閑話休題。

 

 

  それを改めて口に出して説明をすると、総二といつもは真っ先に拳で理論を語る愛香も熟考をしている様子だった。よしよし、二人とも成長してきているな。

 

  そしてそれは、神堂にも言えることだ。彼女は同じ力を持った、人間の敵幹部との運命の戦いとでも考えていたのか期待するような顔をしていたが、俺の言葉を聞いてハッとして考え込んだ。

 

  彼女の力の源であるヒーローへの憧れ、それの起因となった創作の中の英雄達。そこからこういうシチュエーションに燃えるのは仕方がないが、それは現実に存在する相手の命を軽視する行為だ。その重みを、何一つ理解できてはいない。

 

  相手は特撮の中に出てくるキャラクターではない。正真正銘、命を持ち、心を持った存在。それを特撮番組と一緒にしては、相手を侮るのと同義だ。だからこそ、しっかりと考えてもらいたい。

 

  そうしてうーんうーんと唸るメンバーを見ながら、俺は彼ら彼女らの答えが出るのを待つのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  所変わって、異空間に存在するアルティメギル基地。そこでは今、意気消沈した戦士達によるツインテイルズ品評会が行われていた。

 

  先遣部隊隊長ドラグギルディ、バハムギルディに続いてリヴァイアギルディ、クラーケギルディまでもがツインテイルズの前に敗れ去った。それに一部を除き、残された戦士達の心は折れた。

 

  本来ならそれを率いる立場であるポセイドギルディはスワンギルディとイグレッドギルディの鍛錬にかかりきりになっており、しばらく姿を見てはいない。それがより戦士達の士気を奪っていった。

 

  作戦会議と称した何かに寄り集まったエレメリアン達は一様に大ホールに集まっており、そこのスクリーンに大きく映し出されているツインテールを靡かせるツインテイルズ……特にテイルレッドに野太い歓声を上げている。

 

  自らの信念のもと鍛え抜かれた戦士達を歯牙にもかけずに蹴散らし、あるいはギャラリーの女性にもみくちゃにされているものもある。挙げ句の果てにはやけに高クオリティなプレゼン映像まで付いていた。

 

  やれ美しいだの、いや美という言葉では形容するのに陳腐すぎるだの、守護者ではなくもはや女神であるだの、屈強な戦士達がひたすらにスクリーンを眺め口々に叫ぶ。おそらく常人が見れば卒倒するであろう。

 

  そうしてひたすらにテイルレッドの映像を堪能した一同は、次にテイルブルーの映像に移る。先ほどのテイルレッドほどではないものの、それなりの歓声が上がっていた。

 

  それもそうだろう。彼らとて武人、彼女の完成され卓越された戦いを見れば美しさすら感じる。紫色の骨鎧と青いスーツが見事な調和を醸し出しており、それはさながら地上に舞い降りた戦女神(ヴァルキリー)の如し。

 

  激しくも清流のように滑らかな動きに伴ってその青いツインテールが縦横無尽に揺れ踊り、それにつられてエレメリアン達は感嘆の声を漏らす。

 

  だが、何よりテイルブルーの映像の中で彼らの心を揺り動かしたのは……

 

「ふむ、やはりブルーはレッドと共にいてこそ一番映えるというものよ」

「然り。互いが互いを信頼して背中を預け合い、全力を発揮する。まさに愛のなせる神技であるな」

「やはりレッド×ブルーこそ至高か……!」

 

  このエレメリアン達は、よくわかっている。もしこの場に正斗がいれば激しく同意しただろう。彼は常に冷静沈着であるが、二人達のことを心の底から愛しているのだから。

 

  そしてテイルブルーの映像が終わり、その次は言わずもがな……テイルパラドクスである。テイルパラドクスが画面に映った瞬間、レッドと同等ほどの歓声が上がった。

 

  レッドと共に初期メンバーである彼女はその大人びた顔に浮かぶ勝気な性格とゲームを楽しむようなテンポの良い戦いっぷりから、ツインテールでないにもかかわらず彼らの人気を集めている。それこそ、レッドに勝るとも劣らぬほどに。

 

  テイルパラドクスの変幻自在、圧倒的な戦いを見て心を熱くした一同はそのまま次の映像へと移る。スクリーンに映ったのは……不敵な笑みを浮かべる正斗の姿。

 

  堂々とした様子のその写真に収まらず、圧倒的な力を振るったゲムデウス状態、そしてつい最近一度のみその姿が確認されたプロトクロノスの変身の映像もある。

 

「……この男については、言うまでもあるまい」

「うむ……」

 

  間違いなく、ツインテイルズの中でも最強の戦力。支援者に徹し、その戦いに参加することは今の所ほとんどないが、能ある鷹は爪を隠すを地でいく規格外の存在だ。エレメリアンである彼らをして、人間であるか疑わしくなる。

 

  特にゲムデウスは、未だ彼らにとって畏怖の対象となっていた。ポセイドギルディや、彼らが謁見を許されることのないアルティメギル首領に匹敵、あるいは凌駕するのではないかというほどのその力は、その嘲笑と共に深く心に刻みついている。

 

  だがそれとは別に、実は正斗は人間として彼らに尊敬を持たれていた。それは言わずもがな、その圧倒的なゲームクリエイターとしての才能。

 

  ここにいるほぼ全員が、幻夢コーポレーションから発売されている、自らの属性に沿ったゲーム……エロゲーをプレイし、そのこれまでのどの世界でも見たことのない完成度の高さに目を見張っていた。

 

  当たり前だが、正斗はほぼ全てのジャンルのゲームに手を出している。それも中途半端ではなく、全てが完璧以上のクオリティ。ことゲーム開発において、正斗は一切の妥協を許さない。その強靭な意思がゲームにも宿っており、エレメリアン達はそれを感じたのである。

 

  つまり正斗は相容れない存在でありながら、そのゲームへの情熱でエレメリアン達の心までをも掴んだのだ。事実、一部のエレメリアンは正斗のことを社長と呼んでいた。

 

  そうして良い意味でも悪い意味でも彼らの心に残っている正斗の映像が終わり、最後はテイルイエロー。新参である彼女は当然最も映像が少ない。

 

  そしてその映像とは、クラーケギルディの進化した姿であるシャドウギルディとの激戦である。初戦の不甲斐なさを見事に払拭したその見事な健闘でエレメリアン達を唸らせていた。

 

  雨あられと全身に装着された銃器から武器を解き放ち、映像越しでも圧倒的な力を感じるシャドウギルディに一歩も引かぬ超至近距離での戦闘。見事な戦闘術は、彼女の頭脳の良さを際立たせる。

 

  かと思えば、使い物にならなくなった銃器を全て脱ぎ捨てる判断力と剣一本で真っ向からやりあう勇気。漆黒の刺突と雷速の刺突が乱れ飛ぶ様はまさに嵐。シャドウギルディとイエローでなくては、こうはなるまい。

 

「新戦士、テイルイエロー。なかなかの曲者よ」

「神に祝福されたとしか思えんツインテールに、戦いの化身とでもいうべき恐るべき成長速度。これほどの戦士、そうはいまい」

「加えて、露わになった後のあの体……きっとリヴァイアギルディ様が見れば心の底から歓喜したであろう」

 

  リヴァイアギルディがクラーケギルディを守りレッドの必殺技を受けた時点で、映像は正斗により改変、散ったことになっている。よもや人間になるとは誰も思うまい。

 

  そんな風に口々に各々の戦士への感想を口にする彼らだが、肝心の作戦は何一つ決まってはいない。最初からそうであるが、これはもはや作戦会議とは名ばかりの別の何かだった。

 

  その後二時間ほど経った頃で会議?は終わりを迎えそうになる。あまりにも情けないその姿に、隅にいた先遣部隊参謀、スパロウギルディは肩を落としていた。

 

  戦意を失い、末期寸前の状態であるアルティメギル部隊。かつてはあのツインテールを必ず手に入れると燃えていた目には逃避と変わらない仮初めの炎が宿るのみ。かの海の神に連れていかれた義兄妹の姿も……ない。

 

  ここまで、だった。スパロウギルディは瞑目し、もはや諦めかけそうになったその時ーー。

 

 

 

 

 

「一同、控えよ!」

 

 

 

 

 

  突如、諦観に支配された空気を吹き飛ばすかのごとく凛々しく、どこか戦慄を覚える女性の声がホールに響き渡る。反射的に顔を上げるスパロウギルディ。

 

  同じようにエレメリアン達が振り返ると、ホール後方の入り口に見慣れぬ戦士の姿があった。仁王立ちしているその戦士は、俯瞰して比べるとその異質さが目立つ。

 

  これまでのエレメリアンはすべからく動物、または神話上の獣の姿を得て固着したかのような姿だった。だが、その戦士はそれとは明らかに違う。

 

  色鮮やかな左右二対、計四枚の羽根に、対象の細やかな模様。顔の上半分を占める巨大な複眼に、鋭いトゲのような口。それは明らかに昆虫の蝶をモチーフとした戦士だった。

 

「ま、まさか……!?」

 

  その戦士を見たスパロウギルディは、狼狽した声を上げる。彼がいるということ、それはとある事態を意味するからだ。

 

「知っておられるのですか、スパロウギルディ殿!?」

「ーーアルティメギル四頂軍の一つ、美の四心(ビー・テイフル・ハート)……!あの方の、直轄の部隊!」

 

  スパロウギルディの様子に気づいた近くにいたエレメリアン……アリゲギルディは、スパロウギルディの言葉を聞いて驚いたような顔をしながら再度戦士を見た。

 

  蝶形のエレメリアンのさらに後ろになカマキリのような全身棘と刃物で武装されたエレメリアン、アリのような堅牢な外角で覆われている巨漢の戦士もいる。

 

 

 

 コツ、コツ、コツ……

 

 

 

  得体の知れぬ雰囲気を醸し出す彼らは、どこからともなく足音が聞こえると傅いた。そしてその彼らの忠誠に答えるように、ホールに一つの存在が現れる。

 

  それは、彼らの異質さすら可愛く感じるほどの衝撃をもたらした。なぜなら、入ってきたのはーー禍々しい黒いアーマー……頑強装甲グラスギアと、白いマントを纏った人間の少女だったのだから。

 

「に、人間っ!?」

 

  驚く声を上げるエレメリアン達。突如現れた少女……ダークグラスパーはすっと流し目で彼らを見やり、その唇に不敵な笑みを浮かべた。

 

「左様。妾の名はダークグラスパー、首領の意思を伝える者」

「首領様の!?」

 

  ざわめきが大きくなる。そんな一同に、ダークグラスパーは黒い粒子とともにどこからともなく悍ましい紫色の輝きを湛える巨鎌を取り出して石突きをホールに打ち付けた。

 

 

 

 ガンッ!!!

 

 

 

「「「っ!?」」」

「ーー静粛にせよ、有象無象ども。それともこの鎌の錆となるか?」

 

  ダークグラスパーの言葉に、エレメリアン達は怪しく煌めく鎌を見て言葉を失う。ダークグラスパーは満足そうに頷き、言葉を続けた。

 

「今より首領補佐として、妾がこの部隊を指揮する。これは首領の意思である。異論反論は一切認めぬ。それでも文句があるのなら、反逆とみなし容赦なく切り捨てる」

 

  有無を言わさぬ威圧に、もとより黙していたエレメリアン達は反論の言葉を飲み込んで立ち尽くした。本能的にその先にある死を悟ったためだ。

 

  じっとエレメリアン達を見渡したダークグラスパーは、ふんと鼻を鳴らすとホールの中を進む。モーゼのごとくエレメリアン達は道を開けていく。彼女のオーラがそうさせていた。

 

  それでもなお不満を覚えたエレメリアン達はその背中を襲ってやろうかとも思いかけたが、しかしその隙だらけなのに全く隙のない暴力的な不気味さを持つ後ろ姿に即座に潰されることとなった。

 

  事実、彼らとダークグラスパーには達人と門を叩いて間もない茶坊主のごとき決定的な力の差が存在していた。その差を感じることこそが、この場において命を拾うことに直結する。

 

  それに乗じて彼女は迷いのない足取りで進んでいき、やがてダークグラスパーはとあるエレメリアンの前で立ち止まった。そしてその顔にほんの少し柔和な笑みを浮かべる。

 

「……久しいな、スパロウギルディ。達者であったか?」

「これは、ダークグラスパー様。たかが老兵ごときの名を覚えてくださり、ありがとうございます」

「謙遜はするな。貴様の老獪さは妾もよく知るところじゃ、それで今後妾を支えてくれれば、それで良い」

「はっ、仰せのままに……」

 

  綺麗な礼をするスパロウギルディ。役に立つ参謀を手に入れたダークグラスパーもまた、うむと静かな声で頷いた。

 

  いきなり現れたかと思えば一瞬でスパロウギルディを取り入れたダークグラスパーに、畏怖の念を覚えるエレメリアン達。しかし、それを表には出せない。

 

  ふと、そんなエレメリアン達にダークグラスパーが不意に振り返る。思わず体をこわばらせるエレメリアン達。ガチガチに固まった彼らを、ダークグラスパーはゆっくりと睥睨した。

 

  しばしの間エレメリアン達を見渡したダークグラスパーは、ふぅと一つ息を吐くと軽い動作で大鎌を持った左手を横薙ぎに振るった。本当に、ただ腕を上げただけのような動作。

 

 

 

 スパァンッ!

 

 

 

  しかしーー次の瞬間、スクリーンがひとりでに両断された。左右に分かれたスクリーンは、ぷらぷらと所在なさげに虚しく揺れる。それを見て絶句するエレメリアン達。

 

「……これは、ほんの実演をしたまでじゃ。妾の全力は、こんなちゃちなものではない。そのことをよく心に刻みつけよ」

「「「……………」」」

 

  ダークグラスパーの言葉に、エレメリアン達は自然にこうべを垂れていた。彼らは本能的に悟ったのだ、もし下手なことをすれば自分たちがスクリーンと同じ末路をたどることを。

 

  賢明な判断を選択したエレメリアン達に、少しは使えそうか、と認識を改めたダークグラスパーは、話を次の段階に進めるため、それまで体から発していたオーラを抑えると咳払いする、

 

「んんっ、さて……心折れし惨めな敗兵達よ。貴様らに問おう。貴様らには、まだ心の残り火が残ってはいるか?」

「残り火、と言いますと……?」

「無論、貴様らの戦士としての矜持に決まっておろうこのたわけワニめが」

「ワニ!?」

 

  問いかけに対して帰ってきた返答に驚くアリゲギルディをよそに、ダークグラスパーは声高に語る。

 

「貴様らは自分が恥ずかしくはないのか。戦って勝てない相手を前にして、諦観に支配され心を屈したことを惨めに思わないのか?同じ立場になれば、妾は恥じるがな」

「っ……それは…!」

 

  キッと睨むように見上げてくるエレメリアンに、ダークグラスパーはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。

 

「悔しいだろう?負けたくないだろう?このまま腐っていきたくはないだろう?何もできず、その生に意味を見出せず散っていきたくはないだろう?」

「だ、だが彼女達とは圧倒的な差が……!」

「だからどうした。妾もかつて、圧倒的な力を前に何もできなかったことがある。だが諦めず、ここまで這い上がってきた」

「ダーク、グラスパー様が……?」

 

  ダークグラスパーの言葉に、困惑の声を上げるエレメリアン。そのさざめきにダークグラスパーは今一度石付きを床に叩きつけ、腕を振り上げ宣言する。

 

「そうじゃ。妾にできて、貴様らにできないはずがなかろう。貴様らの唯一の取り柄は、そのひたむきな信念だけであろう。ならばそれを燃やせ!燃やして燃やして燃やし尽くして、一矢報いよ!自分たちはお前達にやられるだけの存在ではないのだと、幾多の世界を滅ぼしてきた強者であると、その残り火を業火に変えて証明してみせろ!」

 

  ダークグラスパーの放った言葉に、エレメリアン達の胸にボッ、とそれまで消えかけていた炎が宿った。そうだ、全て彼女の言う通りではないか。自分たちは何を諦めていたのだ。

 

  少しずつ、エレメリアン達の顔が変わり始める。それまで諦観に緩みきっていた表情は引き締まっていき、熱がその体に行き渡っていく。両目が、かつての輝きを取り戻していった。

 

  やがて、熱情のボルテージは最大限に高まっていき、彼らは完全に元の姿を取り戻した。雄叫びを上げそうになるのをこらえ、ダークグラスパーを見る。

 

  ダークグラスパーは不敵な笑みを浮かべ、三度石突きを打ち付けた。そして高らかに宣言する。

 

「そうだ、その調子だ!貴様らはなんだ!」

「「「我らはアルティメギル!最強の侵略者なり!」」」

「では問おう、貴様らはツインテイルズごときに屈するか!」

「「「否、否、否!」」」

「そうだ!心を燃やせ!我らは無敵、たかが一世界の守護者に負けることはない!あのもの達のツインテールを奪うのは誰だ!」

「「「我らだ!」」」

「ならばそれが口先だけではないことを証明せよ!妾に従え!そうすれば貴様らを勝利へと導いてやろう!」

「「「ダークグラスパー様万歳!ダークグラスパー様万歳!」」」

 

  今や灰色になりかけていたアルティメギル基地は熱という色を取り戻し一丸となり、拳を振り上げダークグラスパーを湛えていた。それに答えるように、ダークグラスパーもまた大鎌を振り上げる。

 

「ならば貴様らは今から我が同胞!共にこの世界を侵略しようぞ!」

「「「オォォオオォォオオオオッ!」」」

 

  雄叫びをあげるエレメリアン達。ダークグラスパーは大仰に白衣を翻し、その歓声を背に受けながら虫型エレメリアン達を引き連れホールを後にしたのだったーー。

 

 

 ●◯●

 

 

  ダークグラスパーは廊下に出ると、そのまま基地の最奥へと向かう。途中で虫型エレメリアン達と別れ、そして突き当たりまでたどり着くと眼鏡のブリッジを指で押し上げた。

 

  瞬間、身に纏っていたグラスギアと白衣は消え失せ、代わりに赤いラインの走った光沢のある黒いジャージを着た黄金の片目を持つ眼鏡の少女ーーイースナが姿を現した。

 

「……ふふっ、ちょろい連中」

 

  くすり、と口の端を上げて笑ったイースナは壁に触れ、光のゲートを出現させて空間を隔てた自分の部屋へと足を踏み入れた。例のエロゲーがうず高く積まれた部屋である。

 

  かつて謀反を企てたフェンリルギルディが断罪されたその場所に侵入したイースナは、エロゲーに覆い隠された壁の一つに手首から先を振るう。

 

  するとエロゲーが横にずれて、扉が現れた。その扉を開けると、先にあったのはトレーニングルーム。ありとあらゆる器具が揃っており、その本気度が伺えた。

 

  イースナはジャージを上下両方脱ぎ、スパッツと鳩尾から上しか隠していないインナーのみの姿になると扉のすぐ横にかけてあるハンガーにかける。そして一歩トレーニングルームに足を踏み入れた。

 

  露わになったイースナの体は、非常に美しいものであった。平均より膨らんだ胸と安産型の肉付きの良い尻、引き締まったウェストと四肢。うっすらと筋肉の線が浮かんでおり、鍛え込まれているのがわかる。

 

  イースナはまず、柔軟体操をするとランニングマシンで準備運動がてら30キロほど走った。それも限界値に近い速度だ。適度に汗をかくと、次は上半身の運動を始めた。

 

  腕立て伏せに始まりベンチプレス、インクラインプレス、腹筋、体幹……10種類以上のトレーニングをインターバルを挟みながら千にも上る回数をこなす。下半身も同様に徹底的に鍛えていった。

 

 

 

 ウィーン……

 

 

 

  そうしてイースナがトレーニングをし、懸垂をしているタイミングでいきなり扉が開いた。そして何かが部屋に侵入するが、気にも留めず続けるイースナ。

 

  部屋に入って着た何者かは、鉄を石に打ち付けたような硬質な音を音叉のごとく反響させながら室内を歩いていく。自己主張の激しい足音だ。

 

  怪音を立てながら歩くその存在は、イースナの隣にガシャンと立った。ライトに照らされ、その全身が鈍く輝く。それは、エレメリアンではなかった。無論、人間でもない。

 

  角ばった屈強な体躯と、そこから伸びる豪腕。生物の構造に反して太ももよりふくらはぎの方が太い脚部。V字を描く頭部には鋭角な眼鏡のような双眼が輝いていた。

 

  背中には鋭い形状の白銀の片翼が広がり、それを際立たせるように鋭いツインテールが伸びている。そしてその全てが、銀色と黒の金属で構成されていた。

 

  鎧ではない。中身もすべて、余すことなく無機質な金属。ロボットと形容するのが正しいその存在は、ジッとイースナのことを見て話しかけた。

 

「いやぁ、今日も頑張るなぁ、イースナちゃん」

 

  屈強なその体躯には凡そ似合わぬ、キャラを作りすぎたアイドル声優のような甲高い声での関西弁がロボットから発せられる。きっとこの場に正斗がいれば首を傾げただろう。

 

「ふっ……ふっ……」

「って、ありゃりゃ。いつも通り集中してて聞いてへんわ、この子」

 

  ロボットを歯牙にもかけず、汗だくになりながらも懸垂を続けるイースナ。細い腕には筋肉が盛り上がり、腹部にはうっすらと六つに割れた腹筋が浮かび上がっていた。汗に濡れたその顔は、しかしどこか色気がある。

 

  仕方がなく、ロボットはしばらくイースナのトレーニングが終わることを待っていた。そう時間がかからず、規定回数に達したイースナは器具から手を離して着地する。

 

「はぁ……はぁ……」

「ほい、イースナちゃんお水」

「はぁ、はぁ…ありがとう………」

 

  ロボットは自らの右腰を叩くことでせり出した引き出しから水とタオルを取り出し、両手を膝について荒い息を吐くイースナに手渡す。それを受け取ったイースナはごくごくと喉に冷たい水を流し込んでいった。

 

  一気にペットボトルである水一本を飲み干したイースナは、タオルで汗を拭うと早々にトレーニングを再開、壁に立てかけてある大鎌の模造品を持つと振るい始める。やれやれと肩をすくめるロボット。

 

  専用の椅子に座ったロボットは生身でオリジナルと同じ重さを持つ鎌を軽々と振り回し、縦横無尽に振るうイースナを見ながら話しかける。

 

「そんで、どうやった?つかみは順調かいな?」

「……概ね、いつも通り。単純で、掌握しやすい」

「そっかそっか。本で必死に人心掌握術勉強しといてよかったなぁ」

「…そうだね、〝メガ・ネ〟」

 

  うんうん、とまるで子供の成長を喜ぶ母親のように腕組みをして頷くロボット。イースナは内心苦笑しながら、なおも鎌を振るう。

 

  今更だが、このロボットはメガ・ネ。正式名称をメガ・ネプチューンMr.Ⅱと言い、イースナの作った眼鏡属性をコアにしたロボットだ。常にイースナとともに世界を渡っている、

 

  しばらく鎌の風切り音がトレーニングルームを支配していた。メガ・ネはただひたすらにイースナを観察し、イースナは無我の境地に達しながら鎌を手に乱舞する。

 

「……今日、トゥアールさんに会った」

「えっ、ホンマかイースナちゃん!よかったやん!」

 

  唐突に静寂を破りポツリと呟かれたイースナの言葉に、メガ・ネはパチパチと金属の手で拍手する。本当に母親のような反応にイースナは苦笑した。

 

「…でも、一緒にポセ爺の言ってた男にも会った」

「へえ、そうなんか……ん?イースナちゃんが人の話するなんて珍しいやん」

「……あの男、もしかしたら協力者になるかもしれない」

「ほへー、ようやく見つかったんか」

「うん」

 

 

 ビュンッ!

 

 

  返答とともに、イースナは鎌を振り下ろして動きを止めた。肩で息をしながらも、その眼鏡の奥に隠されたオッドアイに鋭い輝きを宿す。

 

 

 

 

 

 

 

「…私が、全部支配する。私は支配者(グラスパー)。私は私なりのやり方で、全部を終わらせる。トゥアールさんの、そして、師匠の、仇を……!」

 

 

 

 

 

 

 

  ……今、この世界に全てを支配し、全てを取り戻すことを決意した最強の敵が舞い降りた。




こんな感じで始まりました第3章、乞うご期待を。

現れた謎の戦士、ダークグラスパー。それに伴うように、新たな戦士が到着する。

「さあ、試合を始めようか!」
《ARE YOU READY!?》

次回「参上!燃えろドラゴン!」

感想をいただけると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。