ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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今回も色々と詰め込んでますよ〜。
楽しんでいただけると嬉しいです。


参上!燃えろドラゴン!

 

 

 〝ツインテイルズ〟をハリウッドが映画化、あの幻夢コーポレーション系列の会社と連携〟

 

 

 

  アルティメギル首領の直属の戦士であるダークグラスパーとの邂逅を果たした翌日。神崎邸の食堂に集まった俺たちが見たのは、巨大なテレビのワイドショー仮面に映し出されたそんな言葉だった。

 

「な、何ィッ!?」

 

  黙々と野菜を頬張っていた総二が驚きの声を上げ、バンッ!と机を叩きながら立ち上がった。そして食い入るようにテレビの画面を見ていた。

 

  まあ、無理もないだろう。朝起きたら突然自分たちが映画化されるのが決定していたのだ。よほど肝の座ったやつでないとあっさりと受け入れはしまい。

 

  そんな総二の隣にいる愛香も驚いているが、こちらにまた黙ってたわねと言わんばかりのジト目を向けてくる。俺は気にせず箸を進めた。

 

「あら麗奈さん、総ちゃん達がスクリーンデビューするんですって」

「ふふーん、そうみたいね。まあ我が愛しの息子なら、映画史に残る名作を作ること間違いなしよ♪」

 

  今日はこちらにきている未春さんは呑気に笑いながらそんなことを言い、母さんは自信ありげな顔をしてこちらにウィンクをしてくる。俺は苦笑しながらも頷いた。

 

  そう。今や世界的に有名な総二たちツインテイルズだが、ついにあのハリウッドから共同制作のオファーが来た。勿論俺は二つ返事で了承、映画関係の系列会社と計画を進めている。

 

  以前から我が社所属の役者は個人として度々契約をしていたが、こうして大々的に連携するのは初めてだろう。世界有数とはいえ、生まれて十数年程度の会社となど稀だろう。

 

  このせっかくの機会を使い、俺は映画界にも幻夢コーポレーションの存在を強く認識させるつもりでいる。すでに国内では有名だが、海外ではそうでもなかったからな。

 

  俺の夢は、世界中の人間がゲームに限らず、俺の作ったもので笑顔になってくれること。全力で取り掛かるつもりだ。

 

  無論、一切の妥協はしない。クリエイターとしての力を最大限に活用し、最高のものを作ってみせよう。

 

  頭の中で何十ものプランを展開しながらスクリーン公開を楽しみにしていると、ふと斜め前に座っているトゥアールが俺の左隣を見ているのに気づいた。

 

  それはパラドではない、彼女はすでに朝食を食べ終え、俺の片腕に手を回してゲームをしている。つまりトゥアールが見ているのは別の人物だ。

 

 そしてその人物とは……

 

「はぁ……すごいだろ、最高だろ、天っ才だろ?」

 

  昨日トゥアールと見つめ合っていた、女のような顔をした茶髪の男だった。片手で朝食をかきこみながら、もう片方に持っている小さな円筒形の容器を見てうっとりとしている。

 

「……………」

 

  そして、それを見ているトゥアールの顔もうっとりとしていた。頬は赤く染まり、顎に手を添えて濡れた瞳で男を見ている。

 

  トゥアールは昨日からずっとこんな様子である。料理人のバガモンがいるため食材のレパートリーが多く、基本的にこちらで集まって食べているのだが、夕食の際もこのような感じだった。

 

  あいにくその時男は研究室にこもっていたが、その肉体を思い出しでもしていたのか虚空を見つめ、幾度もため息を吐いていた。

 

  今のトゥアールを見れば、おそらく誰であろうとどんな状態かは一目瞭然だろう。むしろ、これでわからないのは相当な鈍感だ。

 

  トゥアールと男が直接話したのは一度のみ、昨日秘密基地で顔を合わせたときのみ。それなのにこうまでなるとは、世の中面白いものだ。

 

  定期的にパラドに相談していたことを知っていた身として、仲間のようやく拓けた新しい道に満足な気分でいると、ニュースでキャスト紹介が始まったのが聞こえた。

 

  今回の映画のキャストにおいて最も重要なのは、テイルレッドのキャスティングだろう。メインとなる彼女がどうなるかが重要になってくる。

 

  しかし、テイルレッドは見た目小学生。それほどの年で激しいアクションをできるものなど到底いない。

 

  そうなると必然的に大人の女優、もしくは体型の近い女優が選ばれることになるのだが……

 

 

 

『テイルレッド役:月読調』

 

 

 

  テロップに書かれていたのは、我が社所属の女優の名前だった。画面には、ハリウッドの役者たちと並ぶ彼女の姿が写っている。

 

  年齢的には俺たちとそう変わらない彼女は有名な歌手であり、同時に実力派の女優でもある。その身体能力が非常に高いことで知られているのだ。

 

  また、身長は152cmと比較的小柄で、少々高いもののテイルレッド役にはぴったりだろう。極め付けに、彼女はアルティメギル襲来以前からのツインテール。

 

  そんな彼女は、演技以外の時のクールな立ち振る舞いからは考えられないほど役になりきることができ、今回も期待大での抜擢だった。

 

『たとえどんな役だろうと、絶対になりきってみせる。特に今回は世界中から期待が集まっているから、より一層頑張らせてもらうわ。皆、楽しみに待っていなさい』

 

  堂々とした態度で言う彼女に、テレビの向こうで記者たちから拍手が上がるのが聞こえた。本当ならそういうことはしないものだが、ひとえに彼女の真摯さがもたらしたものだろう。

 

「ああ、そういえば総二。月読君がテイルレッドとしてインタビューをしたいと言っていたぞ」

「えっ!?マジで!?」

「うむ。彼女は知っての通り、自分が演じる全ての役を徹底的に調べ上げてから演技に入る。そのため、できる限りテイルレッドのことを知っておきたい、と」

「う、うーん……わかった、考えとく」

 

  難しい顔をしながらも頷く総二に感謝する、というと再びテレビに目線を戻した。

 

『テイルブルー役:クルルシファー・エインフォルク

 

 テイルイエロー役:セシリア・オルコット

 

 テイルパラドクス役……』

 

 

  その後もどんどんキャストが紹介されていく。誰もかれもが期待の新星であったり、すでに名前の売れている若手の俳優ばかり。

 

  そして……今回の映画は、テイルレッド、テイルパラドクス、テイルブルーなどのツインテイルズのみならず、俺の変身する〝仮面ライダー〟も存在する。まあ、厳密に言えばパラドも仮面ライダーなのだが。

 

  他にもグラファイトなども日本の俳優が演じる中、俺こと神崎正斗を演じるのは……世界的知名度のベテランアクション俳優、デック・ニールソン。

 

  テイルパラドクスを演じるオスカー女優の隣にいる彼は筋骨隆々で角刈りだ。俺も鍛えてはいるが、外見的にはあちらの方が強そうである。

 

 

『僕は、監督からラブコールを受けたんだけど、その後あの神崎社長からも是非と頼まれたんだ!まさか本人が応援してくれるとは思わなかったけど、その分やる気は十分だよ!ちょっと彼に比べたら僕はごついかもしれないけど、演じきってみせるさ!』

 

 

  ニカッ!と笑ってサムズアップするニールソン氏に、パラドとトゥアール、隣の男以外の食堂にいる全員がこちらを振り向く。

 

 

「正斗、お前マジか……」

「ああ、本気(マジ)だ。知っているだろう?俺は自分の作るものに、一切の妥協はしない」

「やっぱりマサはマサね…」

 

  呆れとも諦めともつかぬ様子でやれやれと首を振る二人に俺は不敵な笑みを浮かべ、画面を見るよう促した。呆れるのはまだ早い、終わりではないのだから。

 

『どうも、黒龍剣帝ドラゴラスを演じる黒咲龍美です』

「「はぁぁぁあああぁああああぁああああぁああッッ!?!!?』

 

  絶叫する総二と愛香。画面の向こうでは、腕組みをした龍美が堂々とした佇まいで自信満々の笑顔を浮かべていた。

 

『ミセス・タツミは本物の元エレメリアンという話ですが……』

『事実だ。この中には私を恐ろしく感じるものもいるだろう。しかし私は敢えて言う、私だからこそ誰よりもこの役は努められると。お前たちの感じる恐怖を、今度はスクリーンにて演じてみせよう!』

 

  外人の記者に向かって、拳を掲げながら堂々と宣言する龍美。それに、他のキャストたちも苦笑い混じりに拍手する。

 

「どーりでいないと思ったら……」

「正斗は正斗だけど、あいつもあいつだよな……」

 

  天を仰ぐ二人。俺はくつくつと喉の奥で笑いをかみ殺す。こういうのに必要なのはインパクトとサプライズ性、大成功だろう。

 

  その後、インタビューの最後になんと役者全員が、撮影用のプロップを使って変身の真似をするという豪華な締めとともに、ツインテイルズの映画のニュースは終わりを迎えた。

 

  そして次の瞬間、パッ!と画面が別のものに切り替わって、週一で行われている新人アイドルの紹介コーナーへと移る。

 

『続いては、デビュー間もないのにブレイクの予感!新人アイドルの紹介です!』

「おおっ!」

 

  キャスターの声とともに画面に映った少女の姿に、総二が歓喜の声を上げる。そして愛香にギリギリと脇腹をつねられていた。

 

  俺も画面に目を向ける。するとそこにいたのは、一際目を惹きつけるツインテールを持つ少女だった。総二が興奮するのも頷ける。

 

  決して野暮ったさを感じさせない、ハイソな黒縁眼鏡。下品でない程度に露出の多いフリフリの衣装に身を包み、おさげのようにツインテールを胸元に垂らしている。

 

  そんな少女の()()()()()()()()ツインテールは、総二風に言うのならば本物のツインテールだった。ツインテイルズが現れてから後天的にツインテールにしたものが多い中、確固たるツインテールの存在を感じる。

 

  コンタクトしたらもっと可愛いのではないか?と問いかける女子アナに、笑顔でコンタクト?死ねばいいのにと毒舌を返す少女。どっと会場が湧く。

 

『ところで、目標にしている先輩などはいますか〜?』

『そうですね……〝ポッピーピポパポ〟さんが、今のところ私の目標です』

『おお、トップアイドルと名高いあの、幻夢コーポレーションの!それはすごいですね〜』

 

  感心する仕草を見せる女子アナ。すると、画面の向こうの会場の中央に、突如黄色いノイズが走る。そしてそこから、ピンク色の髪をした派手なドレスを着た美少女が姿を現した。

 

『はーい!呼ばれて飛び出てポッピーピポパポだよ!ピポッ♪』

「えええええええええええ!?」

 

  今度は愛香が立ち上がった。そして眼鏡の少女を誘い、音楽とともに歌い始めたポッピーを食い入るように見つめている。まあ、さっき起きた時は家にいたのだろうしな。

 

  俺の属性力(エレメーラ)の一つ、歌唱属性(シング)から生まれたバグスターであるポッピーピポパポは普段津辺家に住んでおり、アイドルとして活動している。

 

  そしてバグスターと公表して以降、ポッピーはこのような演出を取り入れるようになった。まさに電子アイドルならではのパフォーマンスに、人気はうなぎ登りだ。

 

「……ふむ。それはそれとして」

「エム、どうかしたの?」

 

  問いかけてくるパラドになんでもない、と答えると画面に目を移す。そして今一度少女……その後ろをじっと見た。

 

  タレントや芸人が座る席の中、一人の女性がいた。かなりの長身で、()()()()()()を少女同様に胸元に垂らしている。

 

  マネージャーなのか、スーツに身を包んだ女性は少女とポッピーを見比べて手元の手帳になにやら書き込んでいる。

 

  そこからは、人間とは思えないほどの集中力が伝わってきた。試しにゲムデウスに両手を貸して見てみれば……。

 

  ……ふむ、やはりか。一応、この仮定を確立させるために、ポセイドギルディに連絡を取っておくか。

 

 

 ●◯●

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

  授業の終わりを知らせる鐘の音が、教室中に響いた。

 

  それを聞いた瞬間、集中していた生徒たちの空気は弛緩し、黒板にチョークを走らせていた教師の手が止まる。

 

「それじゃあ、今日の授業はこれで終わりだ。クラス委員、号令頼む」

「はーい。起立、礼!」

『ありがとうございましたー』

 

  クラス委員の女子の方に続いて立ち上がった生徒たちが挨拶をすると、頷いて教師の方が出て行きます。するとすぐに教室は騒がしくなりました。

 

  時刻は昼時。先ほどの授業が午前中の最期の授業で、ようやくそれを乗り越えた生徒たちは昼食にありつきます。

 

  仲の良いクラスメイトたちと机を寄せ合い、談笑して弁当を広げ始める中ーー私ことトゥアールは、とある方向を見つめていました。

 

  その先にいるのは……一人の男子生徒。愛すべき幼女でもなく、大切な友人である総二様と愛香さんでもなく、今日入ってきたばかりの転校生です。

 

  その人は、男にしては中性的な顔立ちをしていて、きっと女装をしていても気づかないのではないかというほどです。

 

  茶色い髪は特徴的な髪型で、いったいどんな風に作っているのだろうと不思議に思います。けれど、その髪型はその人にとても似合っていると思えました。

 

「なあ万堂、一緒に食わねえか?」

「おう、いいぜ」

 

  話しかけたクラスメイトの男子に、彼は天真爛漫な笑顔を浮かべて答えます。その眩しい笑顔に、私は思わず熱い溜息を吐きました。

 

  立ち上がった彼はとても身長が高く、正斗さんより頭半分ほど優っているでしょうか。ブレザーを腰に巻き、ネクタイをゆるく巻いていて、ちょっと不良のように見えてしまいます。

 

  まくった袖からは逞しくも洗礼された筋肉の乗る腕が覗いていて、体も細いながらも逆三角形で逞しいです。

 

「ーい……おーい、トゥアールー?」

「……はっ!?」

 

  クラスメイトと話す彼を見つめていると、不意に肩を揺すられていることに気がつきます。我に返って見上げれば、そこには愛香さんがいました。

 

  津辺愛香。この世界での私の最大の友人である、ツインテイルズの仲間。同時に、この世界に来て当初は好きだった、総二様の最愛の女性です。

 

  普段から何かと私に凶悪な技をかけてくる彼女ですが、ぼーっとしている私を見て心配そうな顔をしています。

 

  ……傍若無人に見えて、なんだかんだ言って優しいんですよね、愛香さんって。だから心の中で密かに親友って呼んでるんですけど。

 

「ちょっとあんた、大丈夫なの?お腹痛いならトイレ行って来たら?」

「……別にトイレじゃないですよ。むしろ愛香さんこそ腹筋大丈夫なんですか?昨日の夜も総二さまと沢山……」

「ちょっ、あんたこんなとこで何言ってんのよ!」

 

  ギリギリとアイアンクローをかけてくる真っ赤な顔の愛香さん。その指は私のこめかみを確かに捉えていました。

 

「ってちょっ、マジで痛いです!骨から鳴っちゃいけない音が鳴ってます!さっきまでのふわふわした気分が一瞬で覚めてあだだだだだだだだ!?」

「うっさい!この変態ロリペド科学者!」

「あああぁああ、本当に頭蓋骨砕けますってこの万年発情期の総二様依存症!」

「にゃっ、にゃにおおおおおおおおお!」

「いぎゃあぁああああああああぁああああぁああ!!!」

 

  しばらくの後、ようやく愛香さんのアイアンクローから解放されて地面に撃沈する。耳にはふぅ、ふぅ!という愛香さんの荒い息遣いが聞こえて来た。よっぽど恥ずかしかったんでしょう。

 

  しばらく床に伸びていましたが、痛みが引いてくると頭を抱えながらゆっくりと起き上がります。あー痛、私じゃなかったら脳みそがスプラッタなことになってましたよ。

 

「いててっ、手加減してくださいよ愛香さん。総二様には優しいくせに」

「今更何言ってんのよ。ったく、変なことばっか言ってんだから」

 

  腰に手を当てて溜息をついた愛香さんは、ほら、一緒にご飯食べるわよと誘ってくる。愛香さんが親指で示す方では、すでに総二様と正斗さんが食べ始めていました。

 

  愛香さんに頷き、自分の鞄からバガモンさん特製の弁当を取り出そうとして……影も形もないことに気づきました。見れば、水筒もありません。

 

  どうやら私としたことが、うっかり忘れてきてしまったようです。普段なら絶対にありえないのですが……まあ、理由はわかりきっています。

 

「……すみません、忘れたみたいなので購買で買ってきます」

「え? 何あんた、忘れたの? 珍しいわね」

「あはは、すみません」

 

  総二様たちにも断りを入れると、私は教室を後にして購買部へと向かいました。途中、彼にも見られている気がしたので自然と足早になります。

 

  購買部に行くと、運悪くお弁当は軒並み買われていました。店員のおばあさんに聞くと、運動部の生徒が早弁をしたり物足りなかったりして買っていってしまったそうです。

 

  仕方がなく、野菜ジュースと焼きそばパンを購入して購買部を後にしました。そして教室に戻ろうとして……不意に足が止まります。

 

  教室に戻れば彼がいて、おそらく私はまだ見てしまうでしょう。ツインテール兼愛香さんバカで鈍感な総二様は気付かないでしょうが、確実に正斗さんは気がついています。

 

  あの完璧超人……超神?のニヤリとした顔を想像して、私はトゥアルフォンでやはり一人で食べる旨を伝え、中庭へと向かいました。

 

  階段を何度か降り、廊下を歩いてたどり着いた中庭は、一本の木が立っている暖かそうな陽光の満ちる場所です。

 

  端の方にあるベンチに腰掛け、一つ溜息を吐く。そして自分の胸に手を当てて、昨日からの自分の様子を振り返ってみる。

 

  私がこうなったのは、あの男の人のせいだ。〝万堂龍兎(ばんどうりゅうと)〟という名を持つ彼は、少し前まで海外にいた正斗さんの従兄弟である。

 

  初めて彼の顔を見た瞬間、身体中に電撃が走るような感覚は今も鮮明に思い出せる。それから、私はおかしくなった。

 

  会議が終わった後、気がつけば、ぼーっとしながらずっと彼の顔を思い浮かべていた。いつのまにか食事をとってお風呂を済ませ、寝る準備を整えて、気がついたらベッドの中にいたのだ。

 

  いつまでたっても彼の顔は頭から離れなくて、結局寝付けたのはベッドに入ってから二時間後。それは翌日の今日になっても変わることなく、四六時中彼のことを見ていた。

 

  彼のことを考えると熱に浮かされたようにぼうっとして、頬が熱くなってくる。そして胸が締め付けられるような、そんな感覚を覚えるのだ。

 

  この感覚がなんなのか……それがわからないほど私は子供ではありませんし、一応認めているつもりでいます。

 

  なぜなら…これは、総二様を初めて見た時と同じ感覚なのだから。一度経験して答えを見つけ出したものが、理解できないはずがない。

 

 

 

  きっと私は……彼に、万堂さんに一目惚れしてしまったのでしょう。それも今回は総二様のように明確な理由なくなんの前触れもなく突然に。

 

 

 

  いつかはまた人を好きになる日が来るとは思っていました。けれど、まさかこんなに早く来るとは思いもよらなかったです。

 

 

 

  顔も知らなかった相手を唐突に好きになる。人生に二度もそんな体験をするなんて、一体誰が予想できるでしょう。

 

  ……いえ。実は、以前からその名前は知っていました。この世界にやって来るに当たって、情報収集をする過程で、正斗さんに引けを取らないとんでもない人物として。

 

  8歳の頃からジュニアのボクシングチャンピオンとして世界的知名度を獲得し、10歳で大学を飛び級で卒業。その後、物理学者として名を挙げた。

 

  その身一つで世界を転々とし、ありとあらゆる格闘技大会で優勝を納めながら、5桁に登る発明品と論文を発表している。一部では〝天災〟と呼ばれているらしい。

 

  発明品はどれもが国際社会に大きく貢献するものであり、さらに申請した発明品の特許料から莫大な寄付をして、貧困している発展途上国を一気に裕福な国にすることもあったらしい。

 

  そのため、特許料や大会優勝の賞金とは別にしばしば謝礼金として国から相当なお金をもらっている。調べれば調べるほど、彼を讃える記事はいくらでも出てきた。

 

  記事の一つでは、神崎正斗があらゆる方面で歴史に残る大成功を収めている〝神〟ならば、万堂龍兎は世界最強の〝文武両道〟、なんてものもありました。

 

  文字通り、〝天が二物を与えた存在〟。正斗さんのお母様の、双子の妹から生まれた彼はまるで示し合わせたかのように規格外の才能を秘めていたんです。

 

  最初に好きになった人は世界一のツインテールバカで、その次は人並み外れた人。ここまでくると、もはやそういう星の元にいるのだと思えてしまいます。

 

  けれど、すぐに接することはできませんでした。まさかこんなにもいきなり来ると思っていなくて、気持ちが動転しています。

 

  それに今は、イースナも現れている。アタックをかけていいのかという迷いとツインテイルズとしての責務、板挟みの状態で余計怖気付いてしまっている。

 

「はぁ……私はどうしたらいいんでしょう」

 

  ごちゃごちゃとした胸の内を憂いながら、袋を開けて焼きそばパンをかじります。あ、これ美味しい。

 

「どうかしたんですかぁ〜?」

「えぇ……実は悩み事がありまして」

「それは大変ですねぇ〜」

「ええ、たいへ……」

 

 ……ん?

 

  いつのまにか、自然に誰かと話していたことに気づく。おかしい、ここには私以外は誰もいなかったはずなのに。

 

  ばっ!と横を振り返ってみれば……そこに座っていたのは、洗礼されたフォルムの、複雑なディテールの施された黒い体躯をした蝶の羽を生やした怪人が座っていた。

 

「ッ !?」

 

  エレメリアン!?なぜここに……!いや、奴らは世界中どこにも現れる。ここに現れたとしてもなんら不思議はない。むしろ今まで現れなかったのが不思議なくらいだ。

 

  息を飲んだ私は一瞬でそう思考すると、とっさに飛びのいて謎のエレメリアンから距離を取る。すると、黒い蝶のエレメリアンは不思議そうに首を傾げた。

 

  よっこいせ、と腰を上げたエレメリアンは警戒して身構える私に恭しくお辞儀をする。どうしてこう、こいつらは無駄に紳士なんでしょう。

 

「初めまして〜、私プシューケーギルディと申しまして〜、一応ダークグラスパー様指揮の美の四心(ビー・テイフル・ハート)の隊員をやらせてもらってます〜」

美の四心(ビー・テイフル・ハート)……!」

 

  ギリシア語で蝶を意味する名を名乗ったエレメリアンの言葉に、思わず驚きに声を上げた。

 

  美の四心(ビー・テイフル・ハート)。それは元アルティメギル先遣隊隊長ドラグギルディ、龍美さんから以前聞いた、アルティメギルにある四つの軍の一つ。

 

  四頂軍と呼ばれるその軍隊は一体一体が一騎当千のエレメリアンで構成された部隊であり、首領の勅命を受けて各世界に侵攻する存在だ。

 

  しかし、龍美さん曰く四頂軍の中にも序列があり、上位二つの部隊と他の二つの部隊には大きな実力の隔たりがあるらしい。

 

  そして序列二位の部隊こそが、美の四心(ビー・テイフル・ハート)。イースナにより鍛えられ、超越者(ネオ・エレメリアン)の一歩手前まで進化した猛者たち。

 

  そのうち強力な部隊が投入されることは予想してましたが、まさかこんなに早いとは…!現役を引退している私では、到底勝てない!

 

  即座に身を翻して正斗さんたちに連絡を入れようとするが、しかし突如空から降ってきた何かによって退路が防がれる。

 

  それは、漆黒の鉄板だった。まるで壁のように分厚く高く、そして中央には唇の型がとられている。

 

  振り返ってみれば、プシューケーギルディの背後には同色の小型の鉄板が大量に浮遊していた。想像するに、奴の属性力(エレメーラ)は唇に関係するものですか。

 

  ……これはまずいですね。認識撹乱の結界でも張ってるのか、鉄板が落ちた時に轟音を立てたのに誰も来ません。

 

「うんうん、いいですね〜……あの〜、少しお願いがあるんですが」

「お、お願い?」

 

  おうむ返しに聞く私に、プシューケーギルディは頷いて。

 

「あなたの〜唇をいただきたいのですよ〜」

「………………………はっ?はあぁあああぁああああぁぁっ!?」

「大丈夫です〜、すぐにすみますので〜」

「〜〜っ!」

 

  申し訳ありません〜とペコペコ頭を下げながらも近づいて来るプシューケーギルディ。私は後ずさりする。やっぱり嫌いです、この変態ども!

 

 

 

  万事休す、仕方なしに簡易転送装置を使って適当なところへ逃げようとした、その瞬間ーー

 

 

 

 

 

「オラァッ!!!」

 

 

 

 

  そんな声とともに、背後から破砕音が聞こえきました。

 

 

 ●◯●

 

 

  気合のこもった声とともに耳に響く金属が破壊される音に、私はバッ!と振り返る。すると、プシューケーギルディの鉄板が粉々になるところでした。

 

  地面に黒い破片が転がり、代わりにストレートに拳を伸ばしきった一人の人間の姿が視界に映り込む。よく注視すると、握った拳には何かが握られていました。

 

「ふぃ〜、思ったより柔かったな」

 

  それまでの体勢を崩し、体を引いたその人は握った拳をぷるぷると振り、中性的な顔に勝気な笑顔を浮かべる。その顔に、私は思わず息を呑んだ。

 

  突如プシューケーギルディの鉄板を破壊した人物……それは、今私が絶賛片思い中の、万堂龍さんその人だった。

 

  …ていうか今、あの人素手で鉄板殴り砕きましたよね?あの分厚い鉄板を、拳で?本当に正斗さんの血筋ってどうなってるんでしょう。

 

  規格外な正斗さんたちの血筋に研究者の血を騒がせていると、ゴキリと首を鳴らした万堂さんはこちらに歩いて来る。思わず身構えてしまった。

 

  スタスタとこちらに歩いてきた万堂さんは、私の前に立つとプシューケーギルディから守るように手をあげる。そして真剣な顔でプシューケーギルディに語りかけた。

 

「白昼堂々女子高生を狙うとは、随分と活動熱心なようで?」

「……あなた本当に人間ですか〜?私の鉄板、一応鉛くらいの密度があるんですけど〜」

「おう、れっきとした人間だぜ……ま、こいつのおかげもあるけどな」

 

  不敵な笑みを浮かべる万堂さんは握りっぱなしだった拳をひらいて、その中に持っていたものを指でつまむと見せつけるように揺らす。

 

  それは、小さな円筒形の容器だった。白いキャップに黒い台座と蓋、長方形の出っ張りのついた、ドラゴンの彫り込まれた半透明のガラス。その中では白い液体が揺れている。

 

「うっし、そんじゃあ……ちょっくらウォーミングアップといきますか!」

 

  その言葉とともに、万堂さんは一歩プシューケーギルディの方へと踏み出し、凄まじい速度で突進していきました。

 

  どこからかシャカシャカという音を伴い、テイルギアの動きを見慣れている私でさえ目が霞むほどの超スピードで疾走した万堂さんはプシューケーギルディに拳を繰り出します。

 

  しかし、プシューケーギルディはそれをたやすく手で弾く。しかしその時すでに万堂さんは次のモーションに移っていて、弾丸のようなアッパーが顎に炸裂。

 

  わずかによろけたプシューケーギルディを見逃さず、アッパーに使った右手で頭部を鷲掴みにすると片足をバネにジャンプ、膝蹴りを叩き込む。

 

  ゴキョッ、とめり込む音が聞こえるが、しかしプシューケーギルディはぬっと手を伸ばして万堂さんを引き剥がし、鉄板で攻撃しようとした。

 

  しかし、万堂さんは飛んできた鉄板を足場にして一回転、つま先を首筋に抉りこむ。それどころか鉄板を掴み、プシューケーギルディの顔面に叩きつけた。

 

 さしものプシューケーギルディも、自分の鉄板はこたえたのかよろめく。その隙に万堂さんは距離をとって、容器を持った手を振ってシャカシャカと音を鳴らした。

 

 苛立つように荒々しく腕を振ったプシューケーギルディは、次々と鉄板を飛ばす。一般人でないとわかったのか、容赦のないそれを驚異の身体能力でかわす万堂さん。

 

 鉄板を回避、もしくはその圧倒的なパンチで破壊しながら万堂さんは突き進んでいき、ついにプシューケーギルディに肉薄すると怒涛の連続攻撃を繰り出していった。

 

 鉄板の嵐が吹き荒れる中、隅に退避した私は万堂さんとプシューケーギルディの凄まじい攻防に目を奪われた。

 

 万堂さんが長い四肢で変幻自在の攻撃を放てば、プシューケーギルディはそれを流水のような滑らかな動きで回避、いなしていく。

 

 それでもかわしきれないのか、少しずつプシューケーギルディの黒い体には傷がついていった。

 

「いや〜、手厳しいです、ねっ!」

「おっと!」

 

 プシューケーギルディが大きな鉄板を左右から叩きつけるようにして操作したのを、プシューケーギルディの胸をけって回避する。そして連続でバク転をし、私の近くに戻ってきた。

 

「ふぅ、よーやく体があったまってきたぜ」

 

 立ち上がった万堂さんは、ぐるぐると腕を回しながら余裕そうに首を回す。頼もしいその背中に、状況も忘れ見惚れてしまった。

 

「はぁ、はぁ、本当に強いですね〜」

「くくっ、こっからが本番だぜ?」

 

 

 ギャーオ!

 

 

 少し疲弊した様子のプシューケーギルディに万堂さんがそう笑った瞬間、新たな声が耳に響いた。一旦万堂さんから視線を外して、鳴き声のした方を見る。

 

 すると、どこからか小さな機械のドラゴンがそこに現れていた。3枚二対、合計6枚の羽を使って飛んでおり、角ばった胴体に短い4本足と細長い頭、尻尾がついている。

 

 謎のロボドラゴンは万堂さんに向かっていくと、頭上を飛び回ってから差し出された手に着地した。

 

「さあ、ウォーミングアップは終わりだ。こっからは本気(ガチ)でいかせてもらうぜ?」

 

 そう言うや否や、万堂さんは懐から黒と銀、赤色で彩られた長方形のバックルを取り出し、腹に押し当てる。すると自動でベルトが伸長し、装着された。

 

「それは……」

「まあ見てな」

 

 思わず呟く私に不敵に笑む万堂さんは、顔の横に容器を持った手を構えると再びシャカシャカと降り始めた。すると、なんと空中に数式が現れて流れていく。

 

「さあ、試合を始めようか」

 

 その全てがなんらかの法則を表していることに目を引かれているうちに、万堂さんは容器を振るのをやめて台詞を言い、指でキャップを正面にセットする。

 

 カシャンッ!という子気味良い音を立ててロックされた容器は逆さにされ、いつの間にやら尻尾と頭の折りたたまれたドラゴンの体の穴に差し込んだ。

 

 

《BURN UP !》

 

 

 ドラゴンから鳴り響く男の声。同時に、ドラゴンのボディの側面に容器に彫り込まれていたドラゴンが空中に投影される。

 

 それを、万堂さんは腰に装着したドライバーに差し込んだ。まるで正斗さんが変身した時のような光景を、私は食い入るように見つめる。

 

 

《RAGNAROK DRAGON!》

 

 

  テンションの高い声がドライバーから流れ、軽快な変身待機音が響き始めた。それに乗るように万堂さんはドライバーのレバーを回していく。

 

 

 キュリリリリ……

 

  すると、試験管のような管がドライバーから伸びて、まるでコンテナのような形に展開していく。そこを、白色の液体が通っていった。

 

  液体はコンテナの背面と前面に集まっていき、最後には万堂さんの体の前方と後方に半分になっている鎧、そして側面に白い翼を持つドラゴンを作り出す。

 

 

《ARE YOU READY!?》

 

 

  それまで加速度的に鳴っていた待機音が終わり、ドライバーから言葉が再び吐き出された。気づけば、万堂さんの一つ一つの行動に釘付けになっている私とプシューケーギルディ。

 

  私たちが見守る中、万堂さんは数回肩をほぐすような動作をした後、握った両手の拳を打ち合わせ、胸の前でクロスすると叫んだ。

 

  そう……自分をヒーローに変える、その言葉を!

 

 

 

「変身!」

 

 

 

 

《BURN UP THE WORLD!GET RAGNAROK DRAON! YEAH!》

 

 

 

  叫ふ万堂さんが両腕を腰だめに構えると、鎧が前方と後方から迫ってきて合体、コンテナの側面からドラゴンが移動し、背中に取り付き、頭と胴体にさらに鎧が重ね着される。

 

  変身が完了すると、万堂さんの纏った鎧からは白い蒸気がそこかしこから噴き出した。すぐ近くにいた私は、思わず手で顔をかばう。

 

  そして蒸気が消え、再び視線を戻した時……そこには、正斗さんのゲムデウスとも、クロノスとも違うアーマーを纏った、一人の戦士がいた。

 

  最後に纏ったドラゴンには白地に黒い炎が描かれており、まるでジャケットのようだ。それに繋がる背中の部分には、骨のような白いヒレが三本飛び出している。

 

  その中間にある両肩まで届くアーマーは、横に二本の爪のようなものが飛び出している。それは元の肩アーマーの装飾と絶妙な調和を生み出している。

 

  その下には合体した時に一つになった、下に向かって尖った斜めに線の入った白い装甲が覆っており、さらに体は黒い漆黒のスーツが体を守っていた。

 

  体のアーマーにつながった黒い装飾のついた肩アーマーに、二の腕には同じ形の、左腕には炎の踊るリングをつけている。

 

  前腕には白く輝く非対称のアーマーをつけ、背中のものとよく似た鋭く黒いエッジがついている。比較的シンプルな右腕とは反対に左腕には黒い炎をかたどったかのような装飾が足されていた。

 

  また、それは黒いアンダースーツに包まれた両足の太ももの装甲の右足の方にも走っている。膝下にも白い装甲が斜めに組み合わさってついていた。足首には白いリングと、その下の足は白い具足が包んでいる。

 

  最後に頭部は、ドラゴンの横顔が向き合ったかのような鋭く尖ったクリスタルのような白い両目に口の部分には白いマスクが装着され、額には黒いドラゴンのような装飾が施されている。そこから頭頂部にかけて白い装甲が後頭部の付け根まで届いていた。

 

  それが、万堂さんの纏った鎧の全貌。まさにドラゴンそのものを着込んだようなその姿は、えもいわれぬ存在感を醸し出している。

 

「っしゃあ! 仮面ライダーバハムート、白き気高き竜の意思を継ぐ、天っ才格闘家だ!以後よろしく!」

 

  ドン!と胸のアーマーを叩き、ドラゴン型の複眼の横でジェスチャーをする、万堂さん改め仮面ライダーバハムート。

 

  呆気にとられる私に構わず、バハムートは雄叫びをあげて警戒するプシューケーギルディに向かって突進していった。その速度は、先ほどの数倍以上。

 

「なっ、速ーー」

「オルァッ!」

 

  もはや初動しか見れないような速度で踏み込んだバハムートは、次の瞬間にはプシューケーギルディの懐に潜り込んで拳を叩き込んでいた。

 

  ドンッ !という鈍い音とともに、バハムートたちを中心にして剛風が吹き荒れる。長い髪が激しく揺れ、白衣の裾が翻った。たった一発のパンチなのに、この威力はいったい!?

 

「ガハッ……!?」

「まだまだいくぜ!オラオラオラオラオラァァァァァァァァァアアァッッッ!」

 

  そこからは、バハムートの一方的なワンサイドゲームでした。進化したエレメリアンのはずのプシューケーギルディは手も足も出ずにサンドバッグになっています。

 

  バハムートの繰り出す攻撃は一つ一つが非常に重く、中庭の全てを荒々しい風が撫でていきます。かくいう私も、心までその風に揺らされているような錯覚を覚えました。

 

  バハムートのパンチが当たるたびに鈍い音が聞こえ、キックが決まるたびにプシューケーギルディの外骨格から破片が飛び散る。その様は、まさに荒れ狂う暴竜。

 

  荒々しい戦いっぷりに……しかし私は、心の底から魅入られていた。それは果たして、圧倒的な力からか、それとも戦っているのが万堂さんだからか。

 

  どちらかは定かではないが、彼の戦いは人の心を惹きつけるものがあった。正斗さんのゲームとはまた違う、圧倒されるほどの完成度ゆえに。

 

  無駄の一切を排除した最適最大の攻撃は、それ自体が鉄壁の防御壁としての役割を果たしており、プシューケーギルディに一切の付け入る隙を与えてはいない。

 

 

「ぐっ、はあ、はぁ、ごふっ……」

 

 

  ものの数分で、強力無比の力を持つはずの美の四心(ビー・テイフル・ハート)隊員、プシューケーギルディは満身創痍となっていた。

 

「これで終いだ、とくと味わえ!」

 

  バハムートはベルトに取り付けられたレバーの赤いグリップを握り、勢いよく回転させていく。すると返信した時と同じ何かを組み上げていくような音が響き、背後に東洋の龍が出現した。

 

 

《READY GO !》

 

 

「勝利の法則が決まった今の俺は……負ける気がしねえ!ハッ!」

 

  腰を落とし、腕を水平に広げた体制から飛び上がったバハムートに、龍が大きく口を開けてブレスを吐いた。

 

  それに背中を押されたバハムートは、プシューケーギルディに鋭い延髄蹴りを放つ!

 

 

《RAGNAROK FINISH!》

 

 

「オルァアアァアアアアァアアアアァアアアアァアアアアァアアアアァア!!!!!」

「ぐ、っわぁあああぁああぁぁああっ!」

 

  バハムートの蹴りを受けたプシューケーギルディは吹き飛んで、校舎の壁に激突する。炎の余韻を残しながら、スタッ、とバハムートが着地した。

 

「ふう、試合終了だ!ありがとうございました!」

「あ、あはは〜……ワンサイドゲームな試合でしたね〜。あっ、そういえばダークグラスパー様から戦力の把握をしてこいって言われてーー」

 

 

 ドッガァァァァァアアァアアアアァアアン!

 

 

  何かを言い切る前に、プシューケーギルディは爆発四散した。後に残ったのはプシューケーギルディだった粒子と、地面に転がった属性玉(エレメーラオーブ)だけ。

 

  バハムートはそれを拾うと、ベルトからドラゴンを引き抜きました。すると、アーマーが消えて万堂さんの姿が現れます。

 

「サンキューな、バムさん♪」

 

 

 ギャーオ!

 

 

  手から飛び出して飛んだドラゴンの鼻をつついて万堂さんが笑えば、ドラゴンはその指の周りを一回転すると飛んでいきました。

 

  それを見届けた万堂さんは、属性玉(エレメーラオーブ)をポケットにねじ込むとこちらに歩いてきました。

 

「大丈夫か?立てる?」

 

  私の前まで来た万堂さんはそう言って、私に手を差し出して来ました。近くにある万堂さんの顔にどきりとしながらも、私はその手を取る。

 

「ええ、ありがとうございまーー」

 

 

 グラッ

 

 

  ……あれっ?ずっとしゃがみこんでたから、足が痺れてーー。

 

 

 

 

 

 

 

  チュッ

 

 

 

 

 

 

 

 ……………え?

 

  次に私が現実を認識した時……すぐ目と鼻の先に、驚いた表情の万堂さんがいました。鼻孔を男性特有の匂いが突きます。

 

  って、そ、そんなことより。いったい私は今、何をしているのでしょうか。どうしてこんなに万堂さんと距離が近いのでしょう。

 

  それに、唇になんだか柔らかい感触が……そこまで考えたところで、私の思考はようやく現状に追いつくことができました。

 

 

 

 私……今、万堂さんとキス、しちゃってる?

 

 

 

「〜〜〜ッッ!?!!?」

 

  あまりに理解不能な事態に、私の脳みそはオーバーヒートを起こしました。とりあえず、本能的に速攻で離れる。自分でも驚くくらい早かったです。

 

  そして自分の唇を触って、そこに残る感触に羞恥心を掻き立てられながら万堂さんを見る。すると、彼は呆然とした顔で固まっていた。

 

  それを見てさらに恥ずかしくなって、私はあたふたと何か言い訳をしようと頭を働かせて働かせて、限界以上に何かを絞り出そうと躍起になって。

 

「…………………………きゅぅ」

 

  処理能力の限界を超えて、地面に倒れました。そのまま、どんどん意識が遠のいていき、視界に映る青い空が黒く染まっていきます。

 

「ーーーはっ!? お、おい、大丈夫か!おいっ、おいーーー」

 

  万堂さんが近寄って来て何か叫んでいるがしましたが……そこで、私の意識はぷっつりと途切れたのでした。




はい、こんな感じでございます。
かなり好き放題したなぁと思います。
そしてトゥアール、ついに新たな恋に目覚める!
変な箇所もあると思いますが、何卒容赦を。
龍兎の簡易的なイラストです↓


【挿絵表示】


着々と進んでいくダークグラスパーの部隊強化。
一方、慧理那には縁談話が複数持ち上がっており……?

次回「生徒会長の苦悩、闇の処刑人の特訓」

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