ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。


夏とスワンと文学

 

 正斗たちが尊と、そしてグラファイトから例の話を聞いた数日後。

 

「夏ですね、愛香さん!」

「………………………………そうね」

 

 元気に……それはそれは良い笑顔で話しかけるトゥアールに、ド反対のなんとも言えない顔で返す愛香。

 

 季節は6月、春の麗かな風にも少し熱が混じってくる頃合いだ。通常、高校生はこの月に制服の移行期間がある。

 

 陽月学園もそれは例外ではなく、いつものように登校する彼女達もブレザーとネクタイを着用せずに半袖になっていた。

 

「やっぱり若い女たるもの、露出はしないとですね!」

「ソウネーソウデスネー」

「あっれぇ愛香さんどうしたんですかぁ?元気がありませんよ?私の胸揉みます?」

 

 ほんの三日前までのしおらしい様子は何処へやら、いつものように超ハイテンションで煽り倒すトゥァール。

 

 ヘイヘーイとわざとらしく目の前に来て胸を揺らしまくるトゥアールに、当然愛香の額に青筋が浮かぶ。

 

「そう、ならお望みどおり揉んでるわよそのまま引きちぎったらぁ────────!」

「おっと危ない」

 

 戦闘のプロでも見えるかどうか怪しい高速の手捌きは、しかし華麗な動きで見事にかわされた。

 

 なっ、と愛香が目を見開く間にトゥアールは一瞬で背後に回り、胸をあろうことか愛香の頭の上に置く。

 

「ふぃー危ない、危うく私のアイデンティティがハーフになるところでした」

「あ、あんたどうやって……!」

「おやおやぁ?今の愛香さんの突きは脇が緩かったので簡単にかわせましたよぉ?これもその寂しい胸を隠す聖なる鎧(ブレザー)がないからですかねぇ?」

「ぐっ…………!」

 

 ギリッと歯を噛み締める愛香。おおよそ年頃の恋する少女が朝っぱらの登校の道でして良い顔ではない。

 

 しかし図星であった。知っての通り胸が慎ましやかな愛香は、ちょっと胸の部分を盛れるブレザーの消失により元気がない。

 

 そのため、いつもならばこの憎たらしい異世界から来た戦友を一撃で沈められるはずがかわされてしまった。

 

 なお、別の理由も関係している。昨日姉の年上の友人とその妹が泊まりに来て、彼女達の胸部装甲の厚さに絶望したのである。

 

 特に陽月学園大学部のトップカリスマとも言われるちょっと特殊な髪型と花の飾りの女性はそれはもうでかかった(小並感)。

 

 なお、そのマリアという心を寄せる男性のいる女性に、彼氏持ちとして色々と根掘り葉掘り聞かれたこともちょっとだけ疲労に関係している。

 

「くっ、このっ、悍ましいもの人の頭に乗せてんじゃないわよ!」

「当たりませんねぇ当たりませんねぇ!これはもう私の勝利も目前ですねぇ!」

「うが──────っ!」

「二人とも、朝から元気だなぁ」

 

 姦しい美少女達のじゃれあい(片方殺意全開)を見て苦笑するのは、肩に学生鞄を担いだ総二。

 

 周囲にちらほらと見える同級生達と違うことなく、半袖に身を包んだ総二は見てくれは実にイケメンであった。

 

 カイデンの鍛錬とシミュレーションで鍛えられた体は、龍兎程でないせよ逆三角形に引き締まり、腕にはしっかりと筋肉がついている。

 

 元々ツインテールへの凄まじい愛さえ目を瞑れば優良物件なのだ、もしも愛香がいなかったら、モテていたかもしれない。

 

「でもトゥアールも元気になったみたいだし、いいかな」

「こんのっ、いい加減ヤられなさいよ!」

「あーはっはっはっはっ!今ならこの胸でビンタもできちゃいますよぉ!」

「……うん、よかったんだ」

 

 実に醜く、そして決して相入れることのないだろう(モノ)同士の争いから目をそらす総二。

 

 そんなふうに現実逃避をかます総二の後ろには当然、正斗とその片腕に自分の腕を絡めゲームをするパラドがいる。

 

「あ、ミュ◯ツー落ちた」

「ええ、ですので…………」

 

 最近ハマっている某ポケットなモンスターゲットだぜを楽しむパラドに対し、今日も今日とて何処かへ電話をする正斗。

 

 薄い紫色のカーディガンを羽織ったパラドと、彼女から誕生日に貰ったヘアピンで長い髪をセットして端正な顔がより露わになっている正斗。

 

 実に絵になるカップルだ。実は校内にはこの二人を未来永劫見守り隊などというものも存在していたりする。

 

「あら、おはようございますわ皆さん」

「あ、エリちゃんだ。おっは〜」

「お、おっは〜?ですわ」

 

 前方で愛香とトゥアールの死闘(笑)が繰り広げられつつ進んでいると、学校にほど近い場所で慧理那が合流する。

 

 その後ろには当然、グラファイトがいる。ちなみに尊は仮にも教師の一人なので、少し早く学校に行っていた。

 

「おはよう会長」

「はい、おはようございます観束くん。今日も良い天気ですわね」

「ああ、そうだな……って、大丈夫か?なんかクマができてるけど……」

「えっ?あっ、だ、大丈夫ですわ!少し夜更かしをしまして……」

 

 総二の指摘に、言われた通りほんの少し目元にクマのできている慧理那は小さな手で顔を隠す。

 

「ああ、慧理那さんじゃないですか!今日も可愛らしいですね!」

「え、ええ、ありがとうございます。その、それは平気なのですか?」

「ええ、今の愛香さんの攻撃なんてへでもありませんよ」

「このっ、このっ!」

 

 ヘッドロックをかけられて頭頂部を慧理那に向け、手だけひらひらと振るトゥアール。慧理那の顔が少し引きつった。

 

「あ、ところでどうです?()()()()の調子は」

「そ、その、あまり芳しくなくなくて」

「そうですか、残念ですねぇ」

「なーにが残念よ、会長に変なもの教えこんで!」

 

 愛香がさらに締め付けるが、トゥアールはHAHAHAと笑うばかりで全く効いた様子は見受けられない。

 

 実は昨日、トゥアールはあるものを慧理那に勧めたのだ。それは……いわゆるエロゲー、18禁でうふーんなアレだった。

 

 エレメリアンのことを知るためとかグラファイトも興味が……とか、例の件の反動もあってはっちゃけたトゥアールは色々吹き込んだ。

 

 無論グラファイトにすぐに処されたが、グラファイトのためにと言われた慧理那はエロゲーについて調べ出してしまった。

 

 結果、こうして寝不足である。なお、正斗が冗談で幻夢のエロゲーを進呈しようと言って睨まれたこともここに記しておく。

 

「うふふ、いたいけな幼女がいけないことを知って赤面する……じゅるり」

「ふんっ!」

「アイハブアアッポーッ!?」

 

 ギロチンの如く固められたトゥアールの脳天にグラファイトのかかと落としが決まった。プッと吹き出す総二。

 

 そんなこんなで騒いでいるうちに、校門の前までついた。そこには他の登校中の生徒も大勢おり、いつも通り正斗達に注目する。

 

 流石に大勢の観衆の前でヘッドロックをかけるのもアレ……それに密着していると格差を思い知るので……腕を解く愛香。

 

「ふふん、今日は私の勝ちのようですね」

「チッ」

「なんで負けたのか明日までに……ってもう明確でしたねオホホホホ「おっ、トゥアールちゃんだ」ひゃふっ!?」

 

 悪女さながらに高笑いしようとしていたトゥアールが、背後から聞こえた声にピシッ!と硬直した。

 

 そのまま下手な人形のような動きで、後ろを見る。そこにはやはり、彼女の予想通りの人物……龍兎がいた。

 

「よっ、おはようトゥアールちゃん。今日も元気そうだな」

「あ、ははははははははははははいそそそそそそそそそそうですねねねねねね」

「ハハッ、なんでそんなガチガチなんだよ。もっと肩の力抜こうぜ」

 

 ポン、と肩に手を置く龍兎。その瞬間ボンッ!と爆発音をたててトゥアールの顔が真っ赤に茹で上がった。

 

 龍兎は首を傾げるも、「じゃ、教室でな」と言うと先に行ってしまった。後には固まったトゥアールが残される。

 

「へー、ふーん、ほー」

「なんっ、なんですかっ愛香さんその顔はっ!」

「いやぁ?べっつにい?」

「むっき──────!ナイチチの愛香さんのくせにムカつきますぅ!」

 

 今度は愛香がニヤニヤし、トゥアールが真っ赤な顔で喚き立てるという構図が出来上がる。総二は呆れを含んだ笑いを浮かべる。

 

「あはは、トゥアールちゃんかーわいー」

「はい、それではそのように……失礼します」

「あ、エム。電話終わった?」

「ああ、すまないなほったらかしにして」

「んーんー、別にいいよ。それで……どうなの?」

「上々、だ」

 

 ニヤリと笑った正斗は、愛香にまくし立てる赤面のトゥアールとグラファイトを交互に見る慧理那を見やる。

 

 

 その笑みの意味を知るのは、まだ二人だけだ。

 

 

 ●◯●

 

 

 場所は変わり、アルティメギル基地。

 

 本来は、人々から属性力(エレメーラ)を奪い、糧とするエレメリアンたちが会議をし、世界の侵攻を相談するホール。

 

 そこは現在、別の意味でのこの世の地獄と化していた。画面の中から無限に飛び交う嬌声と、甘ったるい少女の声と共に。

 

 

 

『ゲームクリア!おめでとう、お兄ちゃん♪』

 

 

 

 そのうちの一つ、妹もののゲームをプレイしていた一組の隊員たちのパソコンからほとんど同時に甲高い声が溢れた。

 

 それは、ここ数日間の苦行の終わりを告げる声。ピピ、と椅子と尻をくっつけていた磁力が消え失せ、二人の戦士はキーボードに突っ伏す。

 

「よ、ようやく、終わった、ぞ…………」

「その、ようだ、な……」

「ふ、よくぞ、付き合って、くれた、な……」

「貴様こそ、な……」

 

 言い合う彼らは全身傷だらけ、まるで死闘を繰り広げた戦士の如く。まあ、精神生命体なので精神ダメージが肉体に直結しているのだが。

 

 この二体のエレメリアン、それぞれ属性が妹属性(シスター)義妹属性(シスターインロウ)であった。

 

 似て非なる属性であったためか、他の全く違う他の組よりも比較的ダメージは少なく、笑って互いの健闘を称え合う。

 

「グッ!?」

 

 そのうちの一体が、突然立ち上がった。そうすると胸元をかきむしり、苦しみ始める。

 

「どっ、どうした兄弟!?」

「何かが、体の中から、ぐおおおおおっ!?」

「い、いったいどうし……ガァッ!?」

 

 次の瞬間、カッ!と一人目、遅れてもう一人の胸も光り輝いた。その正体は、エレメリアンの命である属性玉(エレメーラオーブ)だ。

 

 属性玉(エレメーラオーブ)はどんどん光を強くしていく。その様子に、他のエレメリアンたちもゲームの手を止めて振り返った。

 

「ぐぁあああああああああっ!!!」

「ぐおぉおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 そして、光が絶好調に達したとき。エレメリアンたちの全身を、体の中から発生したように現れた黒い炎が覆い尽くした。

 

 地獄の業火の如き黒炎は、やがてその姿が見えなくなるほど強くなっていき……前触れなくふっと消え失せる。

 

 後には……全身の傷は残っているものの、その身を漆黒に染めた二体のエレメリアンがいた。未到達者(リーチャー)に達したのだ。

 

 エレメリアンはそのまま気を失い、倒れかけたところを部屋の中に等間隔に立っていた黒い昆虫型エレメリアンたちが支える。

 

「また一人到達したか。よし、自室へと連れてゆけ。ゆっくりと休ませるのだ」

「「ハッ」」

 

 ダークグラスパーの命にキビキビとした動きで気絶したエレメリアンたちを担ぎ上げると、ホールを後にする美の四心(ビー・テイフル・ハート)の隊員たち。

 

 ドアが閉まる瞬間までその後ろ姿を見守っていたエレメリアンたちに、カンッ!とダークグラスパーは鎌の底を床に振り下ろした。

 

「そうら、次はお前たちだ!さっさとクリアせぬか!」

『ハ、ハハッ!』

 

 ダークグラスパーの恫喝に等しい命令に、さっさと解放されたいこともあってエレメリアンたちはマウスを動かした。

 

 おそらく総二たちが聞けばその場で泡を吹くだろう神・三大試練が一つ、《エロゲ・タガイニ・ミセアー・ウ》は順調に進んでいる。

 

 開始からすでに一週間、その間に元は満席だったホールの椅子は、達したものたちにより既に三分の一ほどが無人と化していた。

 

 まさに驚異の成長スピード、いや根性というべきか。エレメリアンたちは着々と進化をしていたのだ。

 

 まあ、椅子にダークグラスパーの力で固定され、逃げようとするものならひたすら性癖を音読で某露されるということもあるのだが。

 

「くははは、良い、良いではないか!このまま行けば全員強くなることは間違いなし!実に良い!」

 

 必死こいてエロゲーをクリアすることに躍起になっているエレメリアンたちを見下ろして、ダークグラスパーは満足そうだった。

 

 大仰に手を振り上げ、己が作戦の成功具合に満足する。その手際の良さは、流石は首領補佐というところか。

 

「その、ダークグラスパー様。一度休まれては……」

「何を言うかスパロウギルディ、この者たちが頑張っているのだ、けしかけた妾がいなくてどうする」

 

 スパロウギルディに豪快に笑うダークグラスパー。実のところ、彼女はただエレメリアンたちを虐めているだけではなかった。

 

 部下が頑張っているなら自分もと、食事や風呂、鍛錬以外の時間はほぼここに立ったままでいる。直立睡眠なんて離れ業もやっていた。

 

 部下と共に苦しいこと……なお自前……を乗り超える。そうすることでこそ、尊敬を集められるというものだ。

 

「とはいえ、流石に一度体をお休めになった方が……」

「……ふむ。まあ、部下の言葉を聞くのも上に立つ者の務めか。よかろうスパロウギルディ、貴様の顔に免じて少しだけ席を外す」

「それはよろしゅうございます」

「では、後のことは頼んだぞ」

 

 スパロウギルディに監視を引き継ぐと、黒いマントを翻してダークグラスパーはホールを後にする。

 

 

 

「ダークグラスパー様」

 

 

 

 廊下を出てすぐ、背後から声をかけられた。ダークグラスパーはゆっくりと振り返る。

 

「む、お主は……あのドラグギルディのところの白鳥の小僧か?」

「お久しゅうございます、ダークグラスパー様」

 

 優雅に礼をするのは、かつてドラグギルディの門弟として研鑽を継いでいた若き白翼の片割れ、スワンギルディであった。

 

「ふははは、随分と様変わりしたものよの」

「ええ、これも全てはポセイドギルディ様のお陰ゆえ」

 

 かつて純白に輝いていたその体は限りなく漆黒に染まり、かつてのドラグギルディを彷彿とさせるものになっていた。

 

 イグレットギルディ共々ポセイドギルディのもとで別の神・三大試練に挑戦していた彼は、こうして無事に進化をしていたのだ。

 

「ふふふ、よくぞあの試練に耐え凌いでいるものよ。かの〝百合の大王〟ですら途中で放棄しかけたものを」

「ははっ、全てはアルティメギルのために……して、ダークグラスパー様」

 

 スワンギルディは、どこからともなく携帯電話を取り出す。そしてパカリと蓋を開けると、驚くべき言葉を言った。

 

「この私めと、メルアドを交換していただけませぬでしょうか?」

「──貴様。その意味を知ってのことか?」

 

 ダークグラスパーの体から殺意が立ち昇る。されどスワンギルディは怯むことなく続けた。

 

「ええ。貴方様はその資質ありと認めたものとしかメルアドを交換をしないと、ポセイドギルディ様から聞き及んでおりまする」

「むぅ、爺め……」

「であればこのスワンギルディ、その栄誉に預かるだけの資質があるとお見せしたいのです」

 

 そう言い切るスワンギルディを、ダークグラスパーはじっと見つめた。眼鏡の奥の瞳が怪しく光を放つ。

 

 

 

 ザンッ!

 

 

 

 突如、スワンギルディの横を斬撃波が通り過ぎた。されど、白鳥の戦士は微動だにせず携帯電話を構えている。

 

「……ほう。なかなか気概はあるようだな」

 

 泰然としたスワンギルディの姿勢によかろう、とダークグラスパーは笑い、振り上げた鎌を収めた。

 

 そうするとグラスギアの収納スペースから自らの携帯電話を取り出し、スワンギルディの携帯をひったくると打ち込み始める。

 

 神速もかくやというスピードで打ち込まれ、物の数分で返された。早速自分の携帯を覗き込むスワンギルディ。

 

「こっ、これはっ!?」

 

 そこには、電話番号とメールアドレスどころかとんでもない量の個人情報が書き連ねてあった。

 

 身長、体重、好きな物、嫌いな物、挙げ句の果てにはスリーサイズ──凡そメルアド交換ごときで到底知らせぬこと。

 

(な、なんという重さ……!これが首領補佐殿の実力の一端というわけか──!)

 

「スワンギルディ、貴様を一角の戦士として認めてやろう。ゆめゆめ、妾のメールへの返信を怠らぬことじゃ」

 

 結構ヘビィなことを言い残し、ダークグラスパーは踵を返すと颯爽とマントを翻してその場を後にした。

 

 遠ざかる後ろ姿を足音と共にしばらく見送り、スワンギルディはハッと我に帰ると深く頭を下げる。

 

 

 

 

 まあ、このような感じで……アルティメギルの方も着々とパワーアップをしていた。

 

 

 

 ●◯●

 

 

 時は大きく流れ、放課後。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 グラファイトは現在、物陰からとある書店の様子を伺っていた。

 

「…………よしっ、いきますわ」

 

 その視線の先にいるのは……書店の入り口で、何やら小さく両手の拳を握って、自分を鼓舞している慧理那。

 

 なぜ、いつもはすぐ側で護衛をしているグラファイトがこのようなことをしているのか。その理由は昼頃まで遡る。

 

 トゥアールがいろいろ吹き込んだ結果、エロゲーやそれに準ずるものに興味を示すようになった慧理那。

 

 結果、何を調べたのかエロ本にまで到達してしまい、エロゲーは無理(グラファイトが全力で止めた)でもそれならばと言い出したのだ。

 

 結果、放課後にこのようにして書店にまで足を運んだ次第である。現在トゥアールの舌を引っこ抜けば良かったと後悔している。

 

「まったく、余計なことを……」

 

 グラファイトとて、いつかは()()()()ことを学ぶのも必要だとは思っている。ただキッカケがアレすぎるのだ。

 

 いいや、あるいはそんなものなのかもしれない。だがあの痴女はそのうちシメるなどと物騒なことを考えるグラファイト。

 

「…………ん?」

 

 そんなこんなでいつもより少し離れた護衛を行っていると、不意にグラファイトはある方を見た。

 

「ほう、とても素晴らしい……」

 

 さほど離れていない、曲がり角の電柱の裏。そこから慧理那を見つめる男がいたのだ。

 

 人間態でも非常に良いグラファイトの目は、男の姿を鮮明に映し出す。中年ほどの男は、全体的に茶色い装いをしていた。

 

 フクロウの羽飾りをさしたテンガロンハットに、同じようにフクロウを彷彿とさせる毛皮調のジャケットとズボン。

 

 なかなか珍しい格好をした男は、熱心に慧理那を観察している。グラファイトはスッと目を細くした。

 

 見た所、見合い話が破談になった相手の差し金ではないし……バグスターであるグラファイトにははっきりと()()が見えている。

 

「ふっ、はっ!」

 

 そのため、グラファイトは某スーパーな兄弟の赤い兄のように路地の壁を蹴って屋上まで駆け上がった。

 

 二階建のそのビルの屋上から、さらに跳躍。そして未だ気づかぬ男めがけてまっすぐに飛んでいき──

 

「ハァッ!!!」

「ぬぅっ、曲者かっ!」

 

 グラファイトの蹴りは、果たして寸前で気づいた男が両腕をクロスすることで防御された。

 

 しかしその勢いは止まらず、男の背後に積み上がった箱もろともその奥の路地まで後ろに吹き飛ばす。

 

 華麗に着地したグラファイトは、男を追いかけて路地の中に走り込む。少しすると、裏のひらけた場所まで出た。

 

 そこに一人、悠然と立つ男。やってきたグラファイトに不敵な笑みを向ける。

 

「ふっ、良い蹴りだった。貴様、武人だな?」

「そういう貴様こそ、エレメリアンだな? 見た所、龍美のように進化しているらしいが」

「いかにも。我が名はオウルギルディ、滅びゆく文学属性(ブック)を胸に抱きしもの。そして……ダークグラスパー様が側近の一人」

 

 ピクリ、とグラファイトは眉をあげる。超越者(ネオ・エレメリアン)の時点で要注意人物だが、さらに彼女の側近ときた。

 

 しかし、今度は疑問が湧いた。そのようなアルティメギルの要注意人物が、白昼堂々歩き回っているとは。

 

「貴様の目的は、やはり慧理那のツインテール属性か」

「然り。しかしそれだけではない、あのような素晴らしいツインテール属性を持つ少女が文学に触れようとするその瞬間をこの目に焼き付けたかったのよ」

「なるほど、いつも通りの貴様らだな……だが、慧理那に近づくものは許さん。俺が貴様を倒す」

 

 懐からバグヴァイザーⅢを取り出し、片手にグリップを装備する。そうするとAボタンを強く押し込んだ。

 

 不気味な待機音が、路地裏に響く。ほう、とオウルギルディが目を細める中、グラファイトはグリップにバグヴァイザーを合体させた。

 

決闘(ゲーム)……開幕(スタート)

 

 

《INFECTION !‼︎》

 

 

 

《Let’s G A M E ! Bad G A M E ! Dead G A M E ! What’s your 〝N E M E〟 !!?》

 

 

 

《The 〝B U G S T E R〟 !!!!》

 

 

 

 グラファイトの全身を真紅の気泡が覆い隠し、グレングラファイト……未知のレベルXの力を持つエレメリアン態へ変貌させる。

 

 龍戦士に変態したグラファイトはグレングラファイトファングを腰だめに構えると、オウルギルディめがけて叫んだ。

 

「さあ、死合おうぞ!」

「ほう、お前はあの少女の騎士(ナイト)……いや、その姿を見るに番人というところか。面白い!」

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 突撃するグレングラファイト。ほんの一瞬で3分の2ほどの距離を縮め、オウルギルディに肉薄する。

 

 並のエレメリアンならば反応が遅れるところ、しかしオウルギルディはジャケットの裾を翻し、己の得物を引き抜いた。

 

 それは、見た目に違わないリボルバー銃。あやや銃口が大きなそれのハンマーを下ろし、グラファイトに照準を合わせる。

 

 

 

 ドンッ!!!

 

 

 

 銃口から飛び出す白い弾丸、しかしグレングラファイトは己が双牙でそれを切り裂いてオウルギルディを──

 

 

 ガキン!!!

 

 

「──っ!? なんだと!!」

 

 切り裂けは、しなかった。グレングラファイトファングはリボルバー銃の銃身に受け止められていた。

 

 そして銃身にぶつかった箇所には──切り裂いたはずの白い物体。やや粘着質なその物体の正体は──

 

「トリモチだと!?」

「はっはっは、まだまだ行くぞ!」

 

 至近距離で受け止めているのとは反対の銃を発砲。反射的にかわしたグレングラファイトの顔の横をトリモチ弾が通り過ぎる。

 

 体制が緩んだところに、オウルギルディは後ろに跳躍すると二丁同時に乱射。無数のトリモチが降り注ぐ。

 

「くっ!!」

「ははは、どうしたどうした!」

 

 動きを制限されてはまずいと、グレングラファイトはトリモチを回避する。オウルギルディは高笑いした。

 

 それから、グレングラファイトの一方的な逃走劇が始まった。縦横無尽に降り注ぐトリモチをひたすらにかわす。

 

 側から見れば滑稽だが、グレングラファイトは最初の弾でその粘着性の高さを把握しているために必死だった。

 

「そうら、避けてばかりでは俺は倒せんぞ!」

「舐めるなァァァアアア!!!」

 

 煽ろうとするオウルギルディに、グレングラファイトは叫びながらトリモチを回避すると着地、双牙を地面に叩きつける。

 

 それは紅蓮爆龍剣の最初の構え。しかしグレングラファイトは炎を纏った双牙を回さず、そのまま()()()()()

 

「ハァアッ!!!」

「ぬうっ!?」

 

 トリモチ弾を蒸発させて突き進む炎の龍に命の危機を感じ、オウルギルディはリボルバー銃の照準を同じ場所に定める。

 

 そしてどちらも連写し、トリモチ弾を一つに固めるとそれを即席の盾にして炎の龍を相殺してみせた。

 

「フン、どうだ!」

「フハハハハ、見事! なかなかやるではないか!」

「今度はこちらが行くぞ!」

「ああ、いくらでもかかってくるが──」

 

 そこで、オウルギルディは言葉を止めた。双牙を構えていたグレングラファイトは訝しげに首をかしげる。

 

 しばらく停止していたオウルギルディは、やがてため息をつくと銃を回転させて腰のホルスターに納めた。

 

「どうやらここまでのようだ」

「なんだと!?」

「ダークグラスパー様より帰ってこいとの仰せなのでな」

 

 言いながら、オウルギルディは帽子を抑えてその場で跳躍。グレングラファイトが目で追いかけると、近くのビルの上に着地する。

 

「また合おう、炎を操る龍戦士よ!次は決着をつけようぞ!」

 

 そう言い残して、オウルギルディは何処かに飛んで行ってしまった。後には拍子抜けした紅蓮グラファイトが残る。

 

 数分して、ため息を吐いたグレングラファイトも変身を解除した。気泡に包まれ、元のグラファイトの姿に戻る。

 

「これは正斗に要報告だな……と、そういえば慧理那は」

 

 踵を返して、急いで書店の方へと戻るグラファイト。かなりの時間が経っているが、どうなっただろうか。

 

 少し遠回りして最初の裏路地に戻り、そこから確認する。すると、ちょうど書店から慧理那が出てくるところだった。

 

 何やら沈んだ様子であり、そのまま少し残念そうな顔で帰っていった。どうやら目的のものは手に入らなかったようだ。

 

「……いや、そもそもの話未成年だから買えるはずもなかったか」

 

 正斗とてその系統のゲームのプログラミングとストーリー構成、キャラクター作成などはしている。

 

 が、そこ止まりだ。一応まだ17歳……才能に対して年齢がおかしいが……なので、実際にいろいろとやるのは開発部である。

 

 その事実にホッとしながら、グラファイトはふとあることを考える。

 

(もし、慧理那がそういうことに興味を深めた時。俺は……)

 

 どのように接するだろうか。優しくか、あるいは少しいけない妄想を──

 

「って、そんなわけがあるか!」

 

 自分の頬を一発殴って頭の中のイメージを吹き飛ばすと、グラファイトもまた慧理那の後を追いかけて帰路につくのだった。




慧理那のツインテールを解く騒動、その後のことは次回に回します。

解かれたツインテール、慧夢のところへ怒鳴り込むグラファイト。そして正斗の企みは加速する。

次回「消えたツインテールと、始まり」

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