ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】 作:熊0803
どことも知れぬ、空でも海でも大地でもない普通の人間ならば感知すらできない時空の狭間に彼らーー『アルティメギル』の秘密基地は存在していた。
「リザドギルディが倒されただと!?」
「馬鹿な、あり得ぬ!」
「油断したというだけでは説明がつかんぞ、どういうことだ!?」
基地であり移動母艦であるそれは神秘と科学の結晶であり、同時にエレメリアンたちの住まうコロニー。基地は決して人目を忍んで隠匿しているのではなく、人間には見ることすら叶わない神殿……聖域というべき場所だ。当然、現在は総二たちの世界に停泊している。
現状解説に戻ろう。バン!と乱暴にテーブルを叩いたバク型のエレメリアンの張り上げた声を皮切りに、周りのエレメリアンたちもざわざわと騒ぎ立てる。彼らが今いるのは一面鈍色の大ホールであり、あたかも企業の会議室のように丸テーブルが置かれ個性豊かな姿形をしたエレメリアンたちが揃っていた。
彼らは今、予想だにしない事態に面している。まさか、斬り込み隊長のリザドギルディが意気揚々とこの世界での
「むうう、どういうことだ!この世界、事前調査では文明レベルはそこそこだが属性力のレベルはこれまでにないほどの高数値、理想的な環境、そう結論づけたはずではないのか!?」
あちらこちらからも怒号が飛び交い、いよいよ収拾がつかなくなっていた。
今一度、彼らについて説明しよう。
エレメリアン。
あらゆる生物の進化系列から逸脱した彼らは精神力が結晶化し、自我と肉体をもった存在。いわば
献血と同じく支障がない程度に抽出しするのが鉄則とされている
その中でひときわ強大な組織こそが、アルティメギルである。すでに数多の世界を渡り、今正斗たちの世界にやってきた邪悪の軍団だ。
「静まれい!」
「戦士ともあろうものが、精神を乱すとは何事か!」
突如、竜の姿に似た白と黒、対極の体色の二体のエレメリアンが騒乱を一喝のもとに叩き伏せた。途端水を打ったように静かになるホール内。
「ド、ドラグギルディ様、バハムギルディ様」
ただ座っているだけで凄まじい闘気を発散させる、ドラグギルディ、バハムギルディと呼ばれたその竜戦士たちは、その身に刻んだおびただしい量の傷も相まって他のエレメリアンとは格が違うことがうかがえる。そんな彼らは静かに頷き、まずドラグギルディが落ち着き払った様子で語り始めた。
「……リザドギルディの力は、師である我がよく知っておる。それを打ち負かすほどの戦士が、密かに存在していたということだ」
「これを見よ。偶然かあえてなのか、生き残った映像記録役のアルティロイドが持ち帰ってきたものだ」
ドラグギルディに追随してバハムギルディが手をあげると、ホール前方に設置された大型モニターに映像が映し出された。とても鮮明なその映像には、変身した総二とパラドが勇ましく戦う姿が踊っている。それを見たエレメリアンたちはおおおお…と一斉に感嘆の声をあげた。
「な、なんと麗しき…まるで、リングの上で舞う
「リザドギルディ殿は、この者たちに……むうう、あの力と片方の幼子のツインテールならば頷ける」
「これが、この世界の
「神が生み出した偶然としか言いようがあるまい。事前に知れる文明レベルなど、あくまで表層の物。その世界の理、常識を超越した戦士が一人二人存在したとて、なんら不思議はあるまい」
「ですが、これまで我らを脅かした同じような戦士達はすべからく我々の手でーーおぉぉこれは!?」
ガタガタッ、と物々しい音を立てて屈強な戦士たちが立ち上がった。モニターが六分割され、獰猛な笑みを浮かべる
やや。
ううむ。
おお、これは。
……リザドギルディを悼んでいたはずが、完全に戦士たちの品評会となっているのは突っ込んではいけないのだろう。せめて、リザドギルディが満足のいく死だったことを切に願う。
「この二人の戦士……未知の凄みと、襲名めいた因縁が同居しておる。そうは思わぬか、兄弟よ」
挑発的に言うバハムギルディに、ドラグギルディは腕組みをして口端を釣り上げた…ように感じた。豪放でいかつい外見に似合わず、油断なく画面を見つめるその目には知性の光が滲む。
「まさに。して、如何様にするバハムギルディ?他の者たちも、怯えて尻尾を巻き、他の世界へと旅立つか?」
心にもないことを言い薄ら笑うドラグギルディに、バハムギルディを含めた一同は答えは決まっている、とばかりに不敵な微笑みを返した。
「何を言うか
「フッ……愚問だったな同好の士よ。ならばあの幼子のツインテールともども、この世界の
オオオオオオ………!!!
どいつもこいつも、暑苦しいほどに潔い者ばかりであった。雄叫びをあげる部下たちを見ながら、愉悦と狂気が入り混じった表情でドラグギルディも高らかに笑うのだった。
(……それにしても。この世界で、何か俺の運命が変わる予感がする)
その心に、一抹の不安を乗せて。
彼らはアルティメギル。世界を超越し人類に仇なす、非常の怪物たちーーーの、はずである。
●◯●
…なるほどな。異世界より来訪せし異形の侵略者たち、か。
そして……
「自らの世界も滅ぼされた、か」
俺の言葉に、静かに頷くトゥアール。よく出来ている話とも思うが…あいにく、俺はパラドたちを生み出した影響か他者の心を感じ取る力を持っている。なので、これまでの話が嘘偽りないことがわかっていた。
「私の世界の人間は、その全てが
滅ぼされたのは物理的な命にあらず、奪われ征服されたのは人々の心、というわけか。
改めて考えると、
様々なものが存在するそれは、精神エネルギーが凝縮したものであり、誰もが持つ心の拠り所と同時に活力の根底でもある。失えばそれに伴い肉体も…例えば一生ツインテールにできなくなる。あまつさえ、その負の部分がそれらを奪う怪物となるのだから恐ろしいどころの話ではない。
だが、それのおかげで俺はパラドや家族と思っているバグスターたちと出会うことができ、トゥアールは全属性力の中で最強たるツインテール属性を核にしたテイルギアを生み出せた。何事にも、メリットとデメリットがバランスはどうであれ存在するということだ。
ふむ…それにしても、総二は凄まじい。男でありながらテイルギアを動かせる程のツインテール愛を持っているのだから。俺が昔から世界一のツインテールバカと思っていたのはあながち外れではなかったようである。
「
俺が
「私は早くに被害に遭ったので、アルティメギルが
世界を守るまでには至らなかった、というわけか。
「トゥアールは、研究者なのか?まだ世界にない技術を研究するなんて、めちゃくちゃ頭いいんだな。俺たちと同い年くらいに見えるのに」
「年齢は秘密ですよ♪」
唇に指を当て、ウィンクして答えるトゥアール。だが、一つ物申したいことが俺にはある。
「おい、俺も数年前にガシャットを作り上げたぞ?」
「「「いや、正斗(マサ、あなた)は常識外だから(ですので)」」」
なぜだ。総二と愛香はともかく、トゥアールにまで論外と言われるとは。傷ついたので、パラドの膝枕で癒されることにしようそうしよう。
「もう、しょうがないなあエムは」
傷心にかこつけてパラドとイチャつきはじめた俺を見て呆れたようなため息をつき、三人は話を続けた。
「一度奪われ、吸収された
「…分かったよ。利害の一致っていうにはこちらの恩恵が大きすぎる気がするけど、トゥアールの世界の仇を討つために、そして俺たちの世界を守るために。この力、ありがたく使わせてもらう」
「はい!遠慮なくお使いくださいこの身体!!」
「「いい加減にしろこの痴女がぁ!!!」」
これでもかというほどのドヤ顔で決めたトゥアールを愛香は鞭のようなしなやかさで組み伏せ関節を極め、俺がそこへハイキックを入れた。部屋の壁まで吹っ飛んでいくトゥアール。が、すぐに復活してこちらを向く。
「ちょ、あなた落ち込んでたんじゃないんですか!?」
「ふん、そんなものパラドに一瞬膝枕されれば全快するわ!それにな、総二に使われていい身体を持つのは愛香だけだ。そこんとこよく覚えとけ!」
「覚えさせんでいいわ!」
その後もくだらないこと…主に愛香とトゥアールの喧嘩に俺が割り込む形で…でギャーギャーやかましく騒いでいると、ふとあることに気がついた。それを確認するため、総二へと目線を向ける。後ろで淹れ直してきた紅茶の愛香のものだけ明らかに変な状態で、それをキレた愛香にぶっかけられて悲鳴をあげてる痴女がいるが気にしない。
「そういえば総二、ここまで騒いでおいてなんだが未春さんは大丈夫なのか?」
こう言ってはなんだが、総二の母観束未春は喫茶店アドレシェンツァの経営しかり、普段の様子しかりノリで生きている人間に思える。そんな彼女がこの状況を見たら、面白がってからかうに違いない。
「………………………………………あっ」
ようやく思い出したのか、しまったという表情をする愛香と顔を青くしていく総二。パラドは先程から傍観者となっていたが、それはさすがに気にかかったのか立ち上がって確認に行こうとした。
パラドが部屋の扉を開けると、そこにはーー
「「…………………………」」
丁度、同じように手を伸ばしていた未春さんと鉢合わせをした。…あー。これは、全部聞かれてたパターンか。パラドの行動を見守っていた総二、愛香は未春さんの姿を見て目を見開いていた。
硬直し、ドアノブから手を離したパラドを含めた部屋の中にいる全員に未春さんは意味ありげな笑みを浮かべーー
「ーー話は聞かせてもらったわ!」
「聞いてんじゃねえええええええええええええええええ!!」
一度扉を閉め、何事もなかったかのように勢いよく開け放っていう未春さんに案の定、総二が雄叫びをあげる。うん、同情するぞ総二。
「息子のプライベートをなんだと思ってんだ!」
「愛香ちゃん以外の女の子連れ込んだから、なにやら面白展開になるに違いないと思ったのよ!」
ビシッと人差し指と中指の間に親指を入れるエモーションをする未春さんに呻く総二。おおかた、裏口から入ってきた時点でバレバレだったということだろう。現場の目撃者に限らず家にも警戒すべき対象がいるなど、普通は思うまい。
「どこまで聞いた!何を聞いてた!?」
「何度も女の子の悲鳴が聞こえてきたわね。むふふ、総ちゃんも正くんも乱暴にしちゃってぇ」
「…諦めろ総二、全て聞かれているようだぞこれは」
ちなみに乱暴狼藉を働いていたのは俺たちでなく、余さず全てそこの彼女です。
「ニュースでやってた事件、あなたたちが解決したんですって?」
「なんでそれを疑いなく信じられるんだ!?」
…確かに。その目で見て、そして戦った総二とパラドはともかく、話を盗み聞きしただけで信じられるなど普通ならどうかしているぞ。
だが、それまでの言動から俺はある仮説を立てはじめた。もしや未春さんは…
それぞれ別のことを考えているだろう俺たちを置いて、未春はふぅ…と深く息を吐いた。普段見ることのない真面目な顔をする彼女に、総二は何かを悟ったようにビクリとする。
「とうとう、この日が来てしまったのね…」
「…まさか母さん、ずっと前から知ってたのか……?俺が、テイルギアの装着者として選ばれるって…!!」
「ううん、そこまでは」
真顔のまま全否定する未春さん。当然それにキレる総二。
「なんで思わせぶりなこと言ったッ!?っていうか、話聞いてねーじゃん!!」
「え?
「完全に理解してんじゃねえかどっちだあああああああああああああああ!!って、そういえば母さんもエレメリアンのことは知ってるのか…」
そう、パラドたちを紹介する際にエレメリアンの存在は観束家、津辺家、神崎家の人間に知れ渡っている。だがそれを鑑みても、盗み聞きとしては驚愕に値する理解力だった。
「……夢だったのよ」
口の端からよだれを滲ませながら、恍惚とした表情で天を仰ぐ未春さん。ああ…やはり、俺が先程心の中で立てた仮説は当たりか。
「母さんはね、中二病をこじらせたまま大人になった人間なの。世界を守るヒロインになることを夢見ながら過ごし、やがてそれは叶わず一児の母となったわ。でもね、その夢は全てへその緒を通して、あなたに託したから」
「生まれる前の我が子に何してんだよ!!」
今までこれほどまでに、親から受け継いだものの中でいらないだろうと思ったものがあるだろうか。少し工夫すれば生涯忘れることのない親子の感動的な会話となっただろうに、でてきたのは側から見ても総二に同情してしまう若かりし頃の過ちだった。
「そして、死んだ父さんもまたーーー末期の中二病患者だったのよ」
「溜めて言うようなことか!?……父さんもこじららせてたのかよっ…!」
「私たちはみるみる恋に落ち、思う様自分たちの中二をぶつけ合い、求めあったわ。父さんもそれはそれは強くヒーローに憧れた人でね。自分がヒーローになった時の設定をつぶさに作り、話してくれたわ。終いには、パワーアップする時のシチュエーションがどうとかまで語ってくれた」
「やめろおおそろそろ仏間に走ってって父さんの遺影叩き割りそうだああああああ!!」
まるで超音波に脳を犯されるように悶え苦しみ、頭蓋を握り抑える総二。外から聞いているこちらでも脳の血管が詰まるとは言わないまでも顔が引き攣る回想だった。
その後、未春さんが敵対した組織の少年とわかりあって恋に落ちる展開に憧れるだの父さんはその反対だっただの他にも色々なシチュエーションの相違で激しくぶつかり合っただの、結局ついに別れそうになった時総二がお腹にいたとわかってデキ婚だっただの、そのあとはそれまでのことが嘘かのように仲睦まじかった、子は鎹とはよく言ったと聞いたところで、総二が叫びながらエクトプラズムを吐きそうな顔で崩れ落ちた。それを慌てて受け止める愛香。お疲れ様です。
しかし、おそらく地球の平和よりも重い何かが双肩にのしかかっているであろう総二に未春さんは追い討ちをかけるように話を続ける。鬼畜か。
「もう一つ、大事な話があるの。いい機会だし、言っておくわ」
「……え?」
「ねえ、総ちゃん……あなたは長男なのに、どうして総〝二〟なんだと思う?」
悲しそうな顔をして言う未春さんに、今度こそ真面目な話だと思ったのかはっとする総二。本人もこれまで気になっていたことなのだろう、真剣な表情で悩み始める。
しかし……俺は知っていた。昔、たまたま酔った未春さんにその話を聞いた俺は、そのくだらなすぎる真実を。
「……はっ!俺には、生まれて来るはずだった兄さんや姉さんがいたのか!?」
総二の問いかけに、未春さんは首を横に振り……
「父さんと母さんの共通の思いだったの。『あ〜、ホントの中二の頃が一番楽しかったな』って。そんな過ぎ去った良き日への郷愁が、生まれて来るあなたの名前に〝二〟の文字をつけさせたのよ……」
「なんでその事実を墓まで持ってってくれなかったかなぁ!!?グレるぞ!普通の思春期んの人間がこんな立て続けにおもしろ出生秘話聞かされたら次の日にはもうグレてるからなっ!!」
あまりにもあまりな事をクソ真面目な顔でのたまう未春さんに叫ぶ総二。だがその後本当は
●◯●
結局、その後アルティメギルという巨大な組織との戦いのバックアップ…例えば出撃補助、戦闘のモニタリング、各種メンテナンスなど…をするためという名目で、研究所も兼ねた秘密基地を観束家の地下に建造することとなった。
それに必要な資材は正斗が自分の様々な研究、開発も協力してくれるのならとすぐに揃え、中二病が人の形をしているような未春の許可もあり、地盤も適切と言う事で一晩で終わらせるとトゥアールは作業に入った。その時異世界の科学者の技術力に全員が舌を巻いたのは言うまでもない。
次にトゥアールの今後住む場所についてだが、これも未春の全面肯定で観束家に住まうこととなった。その時色々悶着があったが、正斗と愛香による制裁があったとだけ記しておこう。
そして現在、正斗は自宅へと先に帰り、色々なことがありすぎでグロッキーな総二は部屋で愛香に慰めてもらい、正斗からある事を頼まれたパラドは観束家のリビングにてぼーっと考え事をしていた。主に正斗のことをだが。普段恥ずかしがっている姿ばかりを見るが、こちらも大概正斗脳である。
もひゃん。
めめぽっぽ、ぷりょん。
きょぱー。きょぽー。
りょろむみんみんみんもへー。
「…いや、どんな効果音よ」
どこからか聞こえてきた形容しがたい珍音に、思わずツッコミを入れるパラド。別に正斗並みかそれ以上の科学技術を持っているトゥアールが工事をしているのだから心配はしていないが、このどうテキストに起こしても音感を疑われそうな掘削音を聞いているとなんとなくむず痒い気分になって来る。
それからしばらくして、ぱったりと音がやんだ。ようやく良いタイミングが訪れたかと、パラドはソファから立ち上がりパンっと両手のひらを打ちあわせると粒子と化し移動して、屋根にいたトゥアールの横へと出現した。
「やっ、トゥアールさん」
「……え?きゃぁっ!?」
月を見上げ、美しい両眼の端に涙を光らせていたトゥアールはいきなり現れたパラドに驚き、危うく屋根から転落しそうになる。パラドは慌てて彼女の体を支え、屋根の上へと引き戻した。
「大丈夫?」
「は、はい…ありがとう、ございます」
トゥアールはお礼を言いはしたものの、すぐに俯いてしまった。その様子を見たパラドはやれやれと肩をすくめ、トゥアールの横へ腰を下ろす。怪訝そうな顔をするトゥアールに、彼女はふっと微笑んだ。
「そんなに
「だ、だぶ…?」
「総二くんと愛香ちゃんのことだよ。総二くんが『
ぴっと指を立てて説明するパラドに、なんとか納得するトゥアール。そのままくらい表情で、ぽつりぽつりと彼女は話し始めた。
「な、なるほど……………はい。正直、胸が張り裂けそうでした」
「それは、
「っ!? な、なぜそれを!」
「この姿をしてても私はエレメリアン。あなたの中に
おどけた様子でいうパラドに、トゥアールはそういえばそうだったと思い直す。そして、先ほどのように途切れ途切れな声音で少しずつ自分のことを話し始めた。
かつて、自分がツインテールの戦士だったこと。しかし力及ばず敗れ、あることにより心の隙ができた時を突かれて自分の
「命の次に大切な、私のツインテールを託せる人が男性だったんです、恋に落ちても、仕方がない、でしょうっ……!」
愛香と喧嘩をしている時や正斗にツッコミを入られる時の姿は何処へやら、弱々しい失恋した少女の姿で泣きじゃくる彼女を、パラドは優しく抱きしめて頭をさすった。一瞬驚くが、トゥアールは声を押し殺して泣き続ける。
「…私は、実体化してすぐに正斗と結ばれたからあなたの気持ちを完全に理解はできない。でも、辛かったのはわかる。だから思う存分、泣いて良いよ」
「………あなたは、なんでそんなに強いんですか?良性とはいえ、エレメリアンなのに私に寄り添うなんて…」
当然といえば当然の疑問に、パラドは少し苦笑した後あることを語り出した。自分の中で一番辛くて苦しい、しかし大切なその思い出を。
「……昔ね、一度だけ正斗と大喧嘩したことがあるの。その理由は、私が正斗にふさわしくないって言ったから」
正斗は、本気でパラドのことを愛している。一人の女性として、人間として、自らが生み出したものとして、言葉にできないような無数の意味で、深い愛情を彼女に抱いている。それはパラドとて同じことであり、むしろ心が形となったような存在である彼女こそ真の愛というものを知り、感じ、彼と同じく抱えているのだ。
だが、当然彼女も悩むことはあった。不安を抱くことも。その理由は、自分がエレメリアンであるから。いくら人間の姿をして、人間と同じ体をしていても、自分はエレメリアンなのだと。それが溜まりに溜まり、ある時ついに爆発してしまった。
「あの時、私は泣きながら正斗にいっぱいひどいことを言った。本当は思ってもないことをたくさん言ったの。それに、正斗は一度だって怒らなかった」
「………」
しかし穏やかな表情で彼女の負を受け止める正斗に、情緒不安定だった当時の彼女はヒートアップして決して言ってはならないことを言ってしまった。その時こそ、彼女が最初で最後に、彼の逆鱗に触れた瞬間だった。
「こんなに苦しいならいっそのこと、消えたい。そう言った瞬間、初めて正斗は私を叩いた。泣きながら、怒ってた。あの時のビンタ痛かったなぁ」
「…それは」
「うん、そう。私を誰よりも愛してくれる正斗にとっては、それは絶対に許されざることなんだと思う。…私を叩いた後、正斗は呆然とする私を抱きしめて言ったんだ」
ーーー二度とそんなことを言うな。お前はお前であり、それ以外はなんの関係も意味もない。エレメリアンだからなんだ。人でないからなんだ。そんなことで俺のお前への愛は揺るがないし、決して離しもしない。お前が嫌だと言ってもな。
「だから、消えたいなんて言わないでくれ…正斗は、そう言った。だから私は、強くあることにしたんだ。いつだって胸を張って、正斗の隣に立てるように」
「……お二人は、とても強いんですね」
「まさか。強いのは正斗だけ。私はただ見栄っ張りなだけだよ。…でもね、時にはその見栄は心を強くする薬にもなる。だからトゥアールさん、心を強く持って。諦めるなら諦める、2番目でもTTのものになりたいって言うならめげない。わかった?」
しっかりと目を合わせて言うパラドに、トゥアールは涙をぬぐいぶんぶんと何度も頷いた。そうすると早速
「…さて、と」
彼女を見送ったパラドは、月光に照らされた天上の美貌を真っ赤に染めながら屋根から移動した。
彼女が頼まれたこと…正斗にトゥアールを探ることと、おそらく失恋しているだろうから元気付けて来いと言われなければ、決して惚気じみたことなど彼女は自分からは言わないのである。よって羞恥心がオーバーヒートしかけながら、彼女は屋敷へと向かい粒子となって向かっていった。
「……全部聞こえてたんだけど、どうしよう」
「………あたしたちは何も聞いてなかった。そう言うことにしておきましょう。…でも、覚悟はしておいたほうがいいかもね」
彼女がそれを聞いていた二人の男女が、いたことに気づくのは、もう少し後の話である。
オリエレメリアン登場。伏線もありです、
感想をいただけると嬉しいです。