鳥の魔物が守護していた――のかはわからないが――階段を上がった先で大きな扉が待ち構えていた。
カインが扉を開けると淡い光がバッツ達を包む。光源は、床に散らばった小さな結晶のようだ。
「クリスタルが…砕け散ってる…」
「そんなっ…!」
レナが悲痛な声上げて扉の先――砕けた散ったクリスタルの欠片に向かう。刹那、異様な気配。カインが槍を投げ捨て、レナを突き飛ばす。寸前までレナの首が存在していた空間を銀閃と反響音が通り過ぎる。
バッツ達が武器を構えてクリスタルの間に入ると、見知らぬ男が一人。腰まで伸びる銀の長髪、黒のロングコート、そして異様な長さの刀。
「セフィロス――」
カインが口にした名前。この場のガラフ以外おそらく全員が知っている。人の限界を超えた戦士"ソルジャー"――その中でも最強と称される男、セフィロス。
「突然失踪したと聞いていたが、まさかクリスタルを砕いて回っていたとはな…」
最強のソルジャー、セフィロスの失踪。神羅カンパニーは否定していたが、軍事力を誇示するかのようにあらゆる重要任務に出動していたセフィロスが突然表舞台から姿を消した、とその噂は瞬く間に世界中へ広がっていった。
「世界の理――クリスタル。"約束の地"はもうすぐ――」
カインの言葉を意に介さず、独り言を吐くセフィロス。やはりクリスタルが目的でこの場所に来ていたようだが、その言葉の意味をバッツは理解できなかった。
「なんとか言ったらどうだ!」
セシルが投げた槍を受け取ると、カインがセフィロスへと跳躍。高速の槍がセフィロスを捉える――はずだったが、カインの槍は金属音を伴って弾き返される。
「おぁっ!」
勢い良く槍を弾かれ、捩れた身体のままカインは無理矢理床を蹴る。勢いを取り戻したカインの肉体が肩からセフィロスに突っ込む。
突進のエネルギーを受けたセフィロスが後ろへ飛ぶ。セフィロスは宙に浮いたまま体勢を立て直し着地する。
「ぬうっ!」
セフィロスがしゃがんだ状態から立ち上がる隙にガラフが接近。首を狙う。
セフィロスは手をついて顔を引くように体を後ろに倒す――と同時に脚を伸ばしてガラフの足元を払う。
「っ…!」
体勢を崩したガラフが慌てて顔を守るように剣を縦に構えると、強烈な音が耳を打つ。
「くぅ…!」
剣に与えられた衝撃が腕を痺れさせる。セフィロスの長刀の最適な間合いより随分内側の筈だが、なんという威力か。
刀と剣を迫り合わせたまま、ついた手で床を押してセフィロスが起き上がる。交叉する刃の下から、両手で剣を握るガラフの無防備な胴体にセフィロスの拳が刺さる。
蹌踉めき後退するガラフ。鮮やかな金属音が聞こえたかと思えば、ガラフが吹き飛びながら腹部から血が噴き出す。
「がはっ…」
ガラフの身体がクリスタルの間の床の上に墜ちる。
「おぉおおおおおっ!!!」
セフィロスが次の行動を起こす前にカインが割り込む。すぐさま突き出された槍をセフィロスは刀で防ぐが、カインはお構いなしに刀の上からセフィロスを押す。間合いからセフィロスが離れる前に槍を回して一撃叩き込もうとするが、セフィロスの刀が先にカインを捉える。
(クソッ――)
レナの隣まで吹き飛ばされたカインの鎧には無数の刀痕が刻まれていた。
(見えなかった…)
バッツにはセフィロスが刀を一振りしたようにしか見えなかった。格が違いすぎる。カインとガラフの二人がこうもやられるものか。だが――
「クリスタルを砕いたのがコイツなら逃げる訳にはいかないよな…」
息を乱しながら立ち上がるカインの前にファリスが立つ。
「うおおおおっ!」
カットラスを強く握りしめて、ファリスが駆ける。
またもセフィロスが刀を
「ちっ…!」
カットラスを横にして盾代わりにするが、到底防ぎきれずにファリスの身体に刀痕が刻まれていく。
「はぁああああっ!!!」
ファリスを攻撃している隙にバッツはセフィロスの横に回り込む。
「くらえっ!」
セフィロスを目掛けたバッツの剣は、セフィロスの背後から回ってきた長刀に阻まれる。セフィロスは腕と刀を体に巻き付けるような体勢から身体を翻し、その回転力で突きを放つ。
バッツはセフィロスの刀に沿って剣を滑らせながら更に前に踏み込む。
「うおぁっ!!!」
足を止め、全身の力を余すことなく剣に伝え、その一撃をセフィロスの腹部に叩き込む。
ズバンッ!
勢い良く肉の切れる音。激しく吹き出す血。だが、セフィロスは顔色一つ変えずにバッツに蹴りを入れる。
「がっ…!」
セフィロスの蹴りが腹にめり込み、無理矢理空気を吐かされる。威力を逃すために後ろに飛ぶが、完璧に合わせることはできずにバッツは石畳の上を転がる。
その隙を逃すまいとセフィロスがバッツに迫るが――
暗黒
セシルの暗黒波がセフィロスを飲み込んでわずかに押し返す。
「くっ……!」
セシルが剣を床に突き立てる。相当無理をした一撃だったのかセフィロスを見ることもできずに俯いて肩を上下させている。
「………」
セフィロスは感情を宿していない目で、一番近くのバッツにゆっくりと歩み寄る。まともに抵抗できないバッツを一撃で斬り殺すべく大きく刀を引く。
「ダメーっ!」
叫び声。セフィロスとバッツの間に飛び込むレナ。振るわれるセフィロスの刀。バッツの手がレナに伸びる。ダメだ、間に合わない。
レナは、己の死を前に目を瞑る。しかし、死の瞬間は訪れなかった。何処からともなく現れた光の球体がセフィロスの刀を阻んでいる。
「これは…?」
謎の光球に目を丸くするレナ。
「オイ、なんだよこれ!」
「光じゃ」
「温かい」
ファリスとガラフ、そしてバッツの前にも光――レナを凶刃から守ったものと同じ光が浮いている。表情は全く変わらなかったが、不気味に思ったのかセフィロスは後ろに飛び退く。
「クリスタルが!」
カインの声に皆がクリスタル――正確にはその欠片に視線を向ける。
「光ってる…?」
ここに来たときの淡い光とは違い、力強く眩い光を放つクリスタル。
「な、なんじゃ!」
ガラフの前に漂っていた光が、ゆっくりとガラフの身体に重なり黄色に光って消える。
――土の心『希望』
どこからともなく声が聞こえる――いや、バッツ達六人の頭の中に直接響いてくる。
「うおっ、俺もか!」
次は、ファリスが光に包まれる。今度は一瞬赤く光って。
――炎の心『勇気』
二人が光に包まれたのを見て、レナは自分から光を受け入れるように手を伸ばす。レナの光は青く光って消えていく。
――水の心『いたわり』
「ってことは――」
最後に残ったバッツの光は緑に輝いてバッツに飲み込まれていく。
――風の心『探求』
「今のは、何だったんだ…?」
突然の出来事で何もわからないのに不思議と落ち着く。
セフィロスはこちらを警戒して刀を構えている。まさかこれについて何か知っているのか。それとも、得体の知れないものを恐れているのだろうか。
光球の出現と共に輝き出したクリスタルは何だったのだろう。クリスタルの欠片に視線を戻す。すると、クリスタルの欠片がゆっくりと宙に浮いて、バッツ達を取り囲むように旋回し始める。
「な、なんだよ!」
欠片たちは空中で動きを止める。バッツ、レナ、ガラフ、ファリスの前に移動する。そこで一度強い輝きを放ち、それぞれ四人の身体に吸収されるように消えていく。
「クリスタルの欠片が…バッツ達に…!」
今にも倒れそうなセシルが、絞り出すような声で驚いている。
再び謎の声がバッツ達に語りかける。
――正しき心を持つ者たちよ。貴方に、クリスタルに宿る古の戦士達の力を授けます
「古の戦士達の力?」
「な、なにを言っとるんじゃ…!」
「わけわかんないぜ……」
「これは、クリスタルの声……?」
聞いたこともない謎の声。言ってる事もわからないはずなのに、何故かそれを理解できる。いや、違う。知っている。クリスタルの意思がバッツ達に流れ込んでくる。
「悪い、カイン、セシル。話は後だ。まずはアイツを何とかする」
「よくわからんが。クリスタルに助けてもらったってことか」
カインは現状必要なだけの理解をし、残りの詮索は後に回す。
「みなさん。まずは傷を癒やします」
レナが目を瞑り手を前に翳すと、光と共に先端に赤い宝石をあしらった杖が出現する。レナは目を閉じたままその杖を握り――
「"清らかなる生命の風よ失いし力とならん――"」
詠唱を行うレナの魔力が視覚化させるほど急激に高まる。
「――『ケアル』」
レナが杖を天に掲げると、白い光となった魔力がレナの身体から解き放たれる。優しい光が六人を包みその体を癒やす。
「これは…!」
「回復魔法!」
身体に力が蘇る。
レナには白魔道士としての力はないはずだ。そのレナが、魔法では他国に劣ってるとはいえバロンの白魔道士と遜色ない回復魔法を行使した。そのことにカインは驚きを隠せなかった。
「俺がセフィロスの攻撃を捌く」
バッツが剣を構えて駆け出す。それを迎え撃たんとセフィロスも刀を構える。セフィロスの刀の間合いに入ったバッツはそのままセフィロスに肉薄する。振るわれる凶刃。銀の閃光がバッツの眼前に迫る。
ナイトアビリティ・護りの盾
バッツの左手に半透明の光の盾が現れる。その盾はバッツに一切の衝撃を与えることなくセフィロスの刀を弾く。
セフィロスの両手が思いっきり跳ね上げられる。
シーフアビリティ・ダッシュ
先ほどまでバッツの後方にいたファリスがセフィロスの目前に音もなく出現する。バッツに弾かれた勢いを殺せないセフィロスに、ファリスはカットラスの連撃を叩き込む。
「……」
限界まで伸び切った腕にようやく自由が戻ったセフィロスはファリスに向かって刀を振り下ろす――
が、セフィロスの身体が炎に包まれて攻撃が止まる。
「ほっほっほ、ワシを忘れてもらっては困るわい」
樫製の杖をセフィロスに向けるガラフ。先程の炎はガラフが放った魔法――ファイアだった。
「いくぜ!」
モンクアビリティ・格闘
バッツとファリスの手から武器が光となって消える。かわりに、両名の拳に光が宿り――
「「おらぁっ!!!」」
ズドン!
激しく音を立てて踏み込まれた両者の足。そこから拳に力が伝わり、二つの正拳がセフィロスの腹にめり込む。
セフィロスは体をくの字に曲げてクリスタルの間の壁まで吹き飛ばされる。
「あれは、なんだ…」
床に落ちたセフィロスがぐにゃりと形を変える。人の形を失い、肌は腐った肉を思わせる色と質感へ。
そしてセフィロスを象っていた肉塊は闇となって消えた。
「人間じゃないな。偽物か――それとも」
セフィロスの正体は気になるが、それよりもバッツ達に発現した謎の力だ。セシルとカインは武器を収めてバッツ達の元へ。
「今の力は?」
「俺達にもよくわからないんだけど。どうやらクリスタルに宿されていた戦士の力が俺達に受け継がれたらしい」
「にわかには信じがたい話だが――」
おそらくどんな説明をされても、カインはバッツ達がセフィロス相手に使った力に納得することはできないだろう。
「とりあえず、タイクーンに戻ろう。風のクリスタルは砕かれ、その欠片もバッツ達に取り込まれた――のかはわからないけど、実物は失われてしまった。タイクーン王の行方は気になるけど、とりあえずここにはいないみたいだ。レナ様、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です」
レナはセシルの提案に賛成しながらも、不安な表情のまま胸元できゅっと拳を握る。何を思ったのか、バッツはそのレナの手を取って握りしめる。
「大丈夫さ。タイクーン王がクリスタルの異変を予感してここに来たのなら、きっとまた会えるさ」
「バッツさんっ…!?」
「わ、悪いっ…つい…!」
レナの顔が赤くなったのにつられるようにバッツも顔が熱くなる。なんてことを、と慌ててレナから離れる。
「おーい!イチャイチャが終わったんなら早く出ようぜ?」
ファリスが扉の外でニヤニヤしながらこちらを見ている。イチャイチャなんかしていません!と赤い顔のままレナの反論が飛び、バッツ達もファリスに続いてクリスタルの間を後にする。
詠唱はオリジナルではなくFFTからです。
追記(2017/09/13)
Ch.2-Aに合わせて、クリスタルの力の表記を変更しました。イメージとしてはDFFACのバッツのようにその場その場でジョブ(古の戦士)の力を引き出して戦う感じです。黒魔法白魔法使用時の表記を消したのは、その後に詠唱と魔法名が続いてクドいというのもありますが、魔法に関してはジョブの力とは別の理由で使えるようになったということにしてしまおうと思いました。