「なるほど、それでそちらの御三方と現在バロンにおられるバッツ殿がクリスタルの力を得た、と――」
タイクーンの会議室。
フィガロ王エドガー=ロニ=フィガロはレナの話を聞いて唸っている。俄には信じ難い話だとはレナ自身ですら思っている。
「それって見せてもらったりとかできないんですか?」
頭の後ろで手を組んだポーズでヘラヘラと聞いてきたのは、エドガーと共にタイクーンへやってきたフィガロ王国の技術者――フィガロでは「機工士」と呼ぶらしい――の青年ムスタディオ=ブナンザだった。レナの左隣に座る補佐官から息が漏れたのがわかる。きっとあまりいい顔はしてないだろう。
「ええ、構いませんよ。こちらの二人に同席させたのは、そのためですから」
レナがガラフとファリスを指して言うと、二人揃って頭を掻きながら軽く頭を下げる。
「ところで、そちらの紫髪の――」
「ファリスは男ですよ、エドガー様?」
ファリスに熱い視線を送るエドガーに不自然なまでににこやかな笑顔を向けるレナ。レナに言葉を遮られたエドガーは目を丸くして――
「私の目も随分と鈍ってしまったようだ」
などと溜息をつく。
「誰が女だコラ」
ドスの効いた声を出しながらファリスが立ち上がる。
「ちょっとファリス…"一応"王様なんですから…」
「チッ…」
「レナ姫も随分と逞しくなられたようで…」
トホホと涙を流すエドガーに、ファリスは行き先を失った怒りが自然消滅して椅子に座り直す。
「んで、力を見せると言ってもどうすればいいんじゃ?まあ、簡単な魔法なら」
ほれ、とガラフは上を向けた掌から少し離れたところに小さな火球を出してみせる。
「ああ、そうですね。エドガー様は私に魔道士としての素養がないことをご存知ですよね?」
レナは両掌で空気を掬うようにして、氷塊・火球・雷電を代わる代わる召喚する。そして、ファリスは指を鳴らしてエドガーの前に雷撃を繰り出す。
「おっと……なるほど、魔法の発動には世界へのアクセスが必要と言われていますね。つまり、世界の力の化身とも言えるクリスタルに選ばれたことによって世界との繋がりができた――と言うところでしょうか」
エドガーはファリスの仕返しに驚きながらも、レナ達に施されたクリスタルの恩恵について自分の見解を述べる。
エドガーの言った"世界"とは人々の住む空間のことではなく、その空間を内包する上位存在――所謂"神"のことである。
魔道士曰く、魔法とは術者の力をそのまま具現化したものではなく術者の心象を世界に伝えることでこの世界で起こりうる様々な事象――魔道士達はこれを"世界の記憶"と呼ぶ――の一部を再現してもらうものであり、そのために魔法には対応する詠唱が必要らしい。
今レナ達が見せたものは、現在の魔法体系には存在しないほど軽微なものであるが、それでも魔法――即ち世界の記憶の具象化には違いない。それを詠唱なしで行ったと言うことは、レナ達の世界との繋がりは一般的な魔道士に比べてかなり強いということだろう。
「流石に、今の私がファイガなどの上級魔法を使用したら一発で魔法力が枯渇してしまうか、そもそも発動すらできないでしょうけどね」
同じく魔法の原理について理解のあるレナは困惑しているであろうエドガーの心中を察して苦笑いする。
「でも、なんでクリスタルはレナ様達に力を授けたんでしょうね?」
相変わらず軽い調子でムスタディオが疑問を発する。
レナの表情が僅かに曇る。
そう、わからないのだ。クリスタルが破壊されたことに関係があるのは間違いないだろう。しかし、何故クリスタルが壊れたのか。あの場にいたセフィロスが壊したのだろうか。だとしたら何が目的なのか。同時期に出現した隕石との関連は。その中にいたガラフがクリスタルに選ばれたのも何かの因果か。
何1つ確かな事などないのだ。
「それはわかりませんが、風のクリスタルが砕け散ってしまったことは事実です。そして、それが何らかの悪意あるものによってなされていることであれば、私達の使命はそれを阻止することなのではないか――と考えています」
まるで書物の話のようだ。だが、そうとしか考えられない。
「だとしたら、俺達フィガロ王国もレナ様に協力しなきゃ――ですよね、エドガー様?」
「ああ、そのつもりで私達はタイクーンまで来たのだからな」
流石にレナ達に起きたことまでは推測できなかっただろうが、エドガーも風の異変を風のクリスタルとすぐに関連付けたためにタイクーンへ親書を送り、急ぎ今回の会合を取り付けたとのことだった。
「でも、世界の脅威はクリスタルの危機だけじゃないんですよねー…」
「ガストラ帝国ですか?」
勿体ぶったムスタディオの発言にレナが問いかける。
「正解です」
ムスタディオは正解者にピストルを真似た指を向け、エドガーがそれを叩く。
「単刀直入に申し上げましょう。クリスタルに迫る危機とガストラの脅威に対抗すべく、フィガロ王国とタイクーン王国で同盟を――リターナーに加盟していただけないかと考えています」
リターナー――フィガロ王国とドマ王国、そしてエブラーナ王国が主導する反ガストラ同盟。爆発的に軍事力を増強しているガストラ帝国が未だ大きな動きに出られていないのはリターナーの存在があるからだった。
そのリターナーの一角であるフィガロ――エドガー王がタイクーンに同盟を持ちかけてきたと言うことは、ガストラ帝国の牽制も限界に来ていると言うことだろうか。
「先日、ナルシェで氷漬けの幻獣が発見されました。そして、魔導技術発展の好機と見たガストラは幻獣捕獲の任務を決行する――という報告が帝国に潜入している構成員から上がりました」
レナの疑問に答えるようにエドガーがガストラ帝国の近況について説明する。やはり、相当きな臭い動きをしているようだ。
「でしたら、タイクーンで会議を行っている場合ではないのでは…?」
「それについては、信頼できる者を向かわせてあります」
しかも、元ソルジャーの傭兵も雇ってるんですよ、とムスタディオがエドガーの説明に付け足す。
「なるほど、幻獣については心配ないということですね。そして、リターナーですが、現在タイクーン王が行方不明であり国政は不安定――とまでは行きませんが、何が不安要素となるかわからないため出来る限り現状を維持したいと考えております。ですから、国としては形だけリターナーに加盟させていただいて、その代わりと言ってはなんですが、我々クリスタルの戦士を構成員としてリターナーに加入させていただく、ということで手を打ってもらえませんか?もちろん、ここに居ないバッツさんについては本人に聞いてみないことにはわかりませんが」
補佐官の顔が険しくなる、がこれはエドガー達がタイクーンに来る前に決めていたことだった。ファリスとガラフの承諾も得ている。王に加えて王女まで不在とあっては国としてどうなのかというのは尤もな話だが、世界の危機は即ち国民の危機でもある。補佐官も理屈ではわかっていたので、レナの強い意思を見せられたこともあって認めざるを得なかった。
「もちろん、願ってもないことです」
エドガーが深く頭を下げる。さすがのムスタディオもこの時ばかりは礼儀を見せる。
「それでは、バッツさんが戻ってきたらリターナーの本部へ向かいましょう」
斯くして、フィガロ王国とタイクーン王国の同盟――もとい、リターナーへの加盟が決定した。
政治だとか国政だとか全然詳しくないのでツッコまないでいただけると助かります(-_-;)
ちなみにレナ達が披露した魔法もどきを通常の魔道士が発動するための詠唱は「燃えろ」だとかそのくらいのもので済みます。炎(氷、雷)的なものがぼやっと世界に伝わればOKってな感じです。