バッツ達がタイクーンへ到着して飛空艇から降りると、すぐにレナが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、バッツさん」
「ただいま」
笑顔を向けるレナに、妙に照れくさい気分のバッツ。カインが鼻で笑ったのに気づいて咳払いで誤魔化す。
「レナと話がしたくてな、俺もついて来た」
「あら、カイン兄様。嬉しいです」
バッツに向けたものと同じ笑みをカインにも向けるレナ。二人を横目にバッツは遅れてやってきたガラフとファリスに歩み寄る。
「よお、バロンはどうだった?」
「ああ、楽しかったよ」
という表現が正しいのかはわからないが、かの有名な八軍団――しかも、その長達と場を同じくするということは旅を始めた頃には想像すらできなかった貴重な経験だった。
「しかし、よいのか?竜騎士とお姫様にイチャイチャさせといて」
「別にそんなんじゃないだろ…」
いやらしい表情のガラフから目をそらしてバッツは吐き捨てる。
「んだよ、男じゃねぇなぁ」
「だから、そんなんじゃねえって」
ファリスの非難にムキになって声が大きくなってしまう。
「どうかしました?」
流石に聞こえてしまったようで、レナが丸い瞳でこちらを見つめている。
カインが面白そうに微笑を浮かべているのが妙にムカつく。
「ああ、いや…別に…」
騒がしいファリスの腹部に肘を叩き込みながら誤魔化す。
「おやおや、随分と賑やかで」
芝居がかった口調で出てきたエドガー。後ろのムスタディオは興味深そうに飛空艇を眺めている。
「ああ、すみません。すぐに戻ろうと思ったんですけど…」
「いやいや、構いませんよレナ姫。かの有名なバロンの飛空艇が来るというので一目見たかっただけです」
エドガーはレナに向けていた笑顔を消して、真剣な眼差しで赤い翼の飛空艇に視線を移す。
「お初目にかかります、エドガー王。私はバロン王国軍『赤い翼』の団長セシルです。こちらは、竜騎士団長のカインです」
「なるほど、君達が――確かに若いね」
「恐縮です」
「ハハハ、そんなに堅くなる必要はないよ」
深くお辞儀をするセシルに笑うエドガー。そのエドガーはまたも急に表情を変えてバッツを見る。
「貴方がバッツ殿だね?」
「ええ、そうです…」
王様に名前を呼ばれる心の準備をしていなかったバッツはぎこちなく返事をする。
「わざわざ会議室に戻ってする話ではないから、ここでさせてもらうよ。レナ姫たち――つまり、バッツ殿以外のクリスタルの戦士達はリターナーに加盟して世界の脅威と対抗することになったのだが、バッツ殿はどうされる?」
「ああ、そういうことなら構いませんよ。俺もレナ様達と一緒に戦います」
表情に出すほどではないが、レナにとっては意外だった。バッツなら一緒にクリスタルの戦士として戦ってくれるという妙な確信はあったのだが、ここまで迷いなく決めてくれるとは思っていなかった。
「感謝する。これからよろしく頼むよ」
「ええ、こちらこそ」
バッツとエドガーの間に熱い握手が交わされる。あてのない旅の中で突然与えられた世界を守るという役割に酔っている気がして思わず苦笑を浮かべる。
エドガーは目を細めてバロンの騎士二人に視線を送る。
「構わないかな、バロンの騎士達」
「バロン軍も世界の危機に対抗すべく事を進めているところです。そのためにフィガロ王国――いや、リターナー加盟国とも手を取り合う必要があるでしょう。だとしたら、バッツたちがどこの所属になるかは…些末事でしょう」
セシルの返答に表情を変えないエドガー。予想通りの答えだったのだろうか。中々腹の底の見えない王様だ。
「お二人とは、近いうちにまた会うことになりそうかな?」
「そうでしょうね」
先程のバッツらのように固く手を握り合うセシルとエドガー。軍の幹部ということもあってか、王様相手にも緊張している様子一つないセシル。
「ふむ、タイクーンでゆっくりしようと思っていたが、そういう雰囲気でもないらしいな」
カインに至ってはこの有様だ。同年代だと言うのにこの肝の据わり様。バロンの騎士様は流石である。
「そういうことでしたら、明日までタイクーンにいてもいいですよ?」
「バロンもそう落ち着いていられる状況ではないのでな。レナの顔が見られただけで十分さ」
あら、とレナが表情を明るくする。後ろにいる海賊と爺がどんな表情をしているのか、バッツは簡単に想像できてしまい面白くない。
「さて、お城に戻りましょうか。カイン兄様達も、もう少しここに居られるのでしょう?」
「フッ、もちろんだ」
レナを先頭にタイクーン城へ戻る一行。
バッツはなんとなく皆から少し遅れて後についていくことにした。
「バッツ、ちょっといいか?」
あれから皆で食事を済ませたあと、案内された客室でここ数日――レナと出会ったあの日以降を振り返っていたときに部屋の外からファリスに呼ばれる。
「ああ、入れよ」
「悪いな、こんな時間に」
バッツは椅子をベッドの前まで移動させ、自分はベッドに腰をかける。
こんな時間――いつの間にか窓に映る景色は闇に包まれていて、時計が示す時刻から、すでにバッツが今日だと思っていた日は昨日になっていた。確かに、こんな時間にファリスは何用だろうか。
「いや、なんだ…その…まあ、雑談でもしに来たってわけだ。王城なんてさ、落ち着かないだろ?」
照れくさそうに視線を迷わせながらファリスは椅子に座る。
なるほど。ファリスの気持ちはよくわかる。
バッツもついこの間までは城とはほとんど無縁の生活を送っていた。
「なんだ、寂しくなったのか?」
「まあ、そんなところだな」
先程――とは言っても、いつの間にか数時間も経っていたらしい――の仕返しというわけではないが、冗談でからかってみるとファリスがあっさり認めるものだから肩透かしを食らうバッツ。
「ところでよ、バッツは何で姫様たちと一緒に……?」
「ああ――」
なるほど、お互い同じ疑問を抱いていたわけか。
クリスタルに選ばれた4人の中で旅人のバッツと海賊のファリスだけ動機が薄いように見えるのは確かに仕方のないことだろう。
「――なんとなくってのは流石に半分冗談だけど……死んだ親父が、どうやらクリスタルに関わりがある人間だったみたいでさ」
「親父、か……」
不意を突かれたのか、一瞬ファリスが目を丸くする。
「ああ、俺が旅人をやってるのも親父の影響でさ。結局、俺は親父が何をしてたのか知りたいだけなのかもしれないな」
「そうか…変なこと聞いて悪かったな…」
「気にすんなよ」
バツが悪そうなファリスに思わず苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、ファリスは何でレナ様達についていくことにしたんだ?」
「俺も、親父のことが知りたいから、かもしれない――」
ファリスの父親、と言われるとカインとの会話を思い出す。
「へぇ、ファリスの親父さんはどんな人なんだ……?」
「知らねぇ」
あまりにあっさりした回答にバッツの思考が一瞬止まる。
「知らない、って――」
「流石に説明が不足しすぎてたな。俺、拾われたんだよ。海賊に。だから知らないんだ、本当の親のこと」
バッツは、ファリスの親が竜騎士かもしれないというカインの発言を伝えようか迷ったが、流石にそれくらいはファリスも考えただろうと思いとどまる。
「ってことは、ファリスの親父さんはクリスタルに関係がある人なのか?」
代わりに新たに生まれた疑問を口にする。
「かもしれない、って話だ。本人に直接聞いたわけじゃないしな」
先程の父親のことを知らない、と言う話が本当ならばそうなのだろう。
「もしかして、ファリスの親父さんはタイクーンの関係者か?」
「多分、な……」
これでファリスが思いついたように同行を申し出たことに合点がいった。レナがタイクーン――竜騎士を擁する国のお姫様であることと自身の竜を従えた事実を結びつけたのだろう。
だが、それだけならファリスはこのままタイクーンに残るはずだ。ただのタイクーン関係者ではなく、クリスタルとも関わりのある人物だったのだろうか。
ファリスの父親について思案が止まらないが流石にこれ以上は踏み込むべきではない気もした。
「なあ、ファリス…」
「ん、どうした?」
「俺たち、まさか兄弟じゃないよな……?」
「は?」
ファリスがアホを見る目をバッツに向けている。
いや、流石に冗談ではあるが、クリスタルに関わりがある人物がそういるとは思えない。バッツの父親はタイクーン王と関係がある。つまり、自分の父親がファリスの父親の条件を満たしそうに思えてしまったのだ。
「悪い悪い!今のは冗談だ!」
「ははっ、バッツ、お前面白い奴だな」
目を細めてファリスがこちらをじーっと見つめる。
なんとなくだが、宝物を見つけたときもファリスはこういう顔をするのではないかと思った。
それは鋭い刃物を思わせるような普段の表情ではなく、美しい長髪も相まってかどこか気品が漂うお嬢様のようだった。
「ははは、そりゃどうも」
ファリスの発言ではなく表情に心を乱されて、バッツは微妙な顔を見せる。
僅かな沈黙の後、ファリスが勢い良く立ち上がる。
「ありがとな、付き合ってくれて」
「気分が晴れたならよかったよ」
「ああ、じゃあな、バッツ。おやすみ」
「おう」
ファリスが部屋をあとにし、沈黙が帰ってくる。
彼の来訪前後で異なることといえば、洗髪剤由来と思しき良い香りがバッツの鼻をくすぐることくらいか。
「アイツ、髪長いもんなぁ……」
ほとんど何もなかった回になりましたね…(汗)
追記(2017/10/31)
タイクーン城内のシーンを追加しました。タイトル変更もしました。