幻獣守護の任を終えたロックとザックスは、一足先にアジトに戻っていたエドガー――ムスタディオはエドガーと別れてフィガロに戻っている――から、タイクーン王女達――クリスタルの戦士の話を聞いた。
「なに、セフィロスと戦っただと…!?」
その話を聞いたザックスの珍しく感情の篭った声にロックは目を丸くする。
セフィロスといえば、最強のソルジャーとして名を馳せる英雄だ。おそらくそう歳は離れていないザックスは、ソルジャー時代に面識があってもおかしくはない。ザックスのリアクションは、二人の関係がそれに留まるものでないことを示しているが。
「ほう、珍しいな。君がそういう反応をするのは」
エドガーもロックと同じ感想を持ったらしい。ザックスの反応は――短い間しか関わりがないとは言え――今までの彼からは想像もできないものだった。
「俺のことはどうでもいい。それよりも――」
「だったら、直接彼女らに聞いてきたらどうだ?」
「言われなくても――」
バッツ達のいるリターナーアジトの客室の扉が勢いよく開かれる。
「あんたらか、セフィロスと戦ったってのは」
「あん?誰だお前?」
突然の来訪者に喧嘩腰のファリス。おそらくリターナーの関係者だろうからやめてほしいが――
「ザックス…『何でも屋』だ」
何でも屋――職業なのだろうか――のザックスは、ファリスの態度を特に気にするでもなく正体を明かす。
「ザックスさんですね。私は――」
「あんたらの名前は興味ない。セフィロスと戦ったんだろう?奴は今どこにいる」
名乗ろうとしたレナを遮るようにザックスが言い放つ。やれやれ、と呆れた様子でガラフが立ち上がり――
「さてのぉ…止めを刺したと思ったら、消えてしまったんじゃよ。しかも人間でない何かに変わっての。じゃから、セフィロスが今どこに居るかワシらにもわからんのじゃよ。ワシはセフィロスとやらのことはよく知らんが、アレが本物だったかどうかも――」
「そうか――」
ガラフの言葉を受けてザックスはしばらく考え込み――
「悪かった。じゃあな」
バツが悪そうにしながら部屋を後にする。
「何だったんだアレ?」
「まあまあ…」
相変わらず不機嫌なファリスをレナが宥める。
「ソルジャー――だよな。あの青い瞳は」
魔晄を宿した証である青い瞳。
話に聞いたことはあったが実物は初めて見た。セフィロスの瞳も同じ青を纏っていたのかもしれないが、あの状況でそれを確認する余裕はなかった。
「そういや、バッツも目が青いよな――」
バッツの双眼を覗き込みながら、ファリスが静かに呟く。
ファリスの言うとおり、バッツも碧眼なのだ。だからソルジャーという存在がなんとなく気になっていたのだが――
「でも、ぜんぜん違うだろ?アッチはなんというか、本来人間のものじゃない不思議な感じというか――」
「まあ、言いたいことはわかるぜ」
バッツが彼をソルジャーであると断定したのは単に瞳が青いからではなく、そこに宿る光が人のものとは思えない神秘を纏っていたからである。
「それにしても、神羅のソルジャーまで擁しているとは…さすが、エドガーさんですね…」
どこか複雑な笑みを浮かべながら、レナがつぶやく。
打倒ガストラ帝国のためのリターナーである。しかし、今回のクリスタルの件まで予測して戦力増強をしていたのではないか、と思わせるのがエドガー=ロニ=フィガロという男だった。
「どんな事情があったかは知らないが、天下のソルジャー様が味方に付いてくれるってんなら頼もしいじゃねぇか」
ケタケタと軽快な笑い声を飛ばすファリス。どこまで本気かわからない物の言い方ではあるが、皆――記憶喪失のガラフを除く――が思うことでもあった。
風の神殿で遭遇したのが本物かどうかはわからないが、クリスタルにセフィロスがかかわっている――しかも、こちらに都合の悪い形で、となれば戦力が過ぎることなどない。しかし――
「私達の敵は一体何なのでしょうか……」
セフィロス、ガストラ帝国、それぞれが関係しているようには思えないが、あまりにタイミングが合いすぎている。それ以外の何者かの、大きな悪意が裏で渦巻いているような嫌な予感にレナは身震いした。
アジトの客室が沈黙で満たされる。
誰もレナの疑問の答えなど持っているはずがないのだ。
「失礼するよ――っと、取り込み中でしたかな?」
客室にやってきたエドガーは、お得意の爽やかな笑みでバツの悪い空気をごまかす。
「いえっ、そんなことは――何か、ありましたか?」
エドガーの来訪に慌てて立ち上がり平静を装うレナ。それに対して、笑みを崩さないままエドガーが答える。
「ええ、例の魔導の少女――ティナが目を覚ましました。なので、今から来ていただけないだろうか。そうだな、流石に全員はマズいので、レナ姫と――」
「じゃあ、俺が行きますよ」
エドガーからしてみれば素性のよく知れない3人から選びあぐねていたところ、バッツが名乗り出る。
「では、レナ姫とバッツ殿、ついてきてくれ」
バッツとレナはエドガーに連れたって客室を後にする。部屋を出る直前に振り返った先で、ファリスが謎のサムズアップをしていた姿にバッツは少しだけ後悔をする。
「ティナはまだ目覚めたばかりで安定していない」
「やはり、操りの輪の後遺症が…?」
「おそらくは――だが、我々リターナーにとっても貴重な情報源、且つ戦力になるかもしれない存在だ。うら若き乙女に負担を強いるのは心苦しいが、あまり悠長なことを言っていられる状況でもないのでね」
「そう、ですね…」
苦笑いを浮かべるエドガーに、これまた苦虫をかみ潰したような顔のレナ。ティナと呼ばれている少女は、ガストラ帝国が所有する"操りの輪"という精神操作器具により、無理矢理帝国兵として戦わされていたらしい。
バッツも、ガストラ帝国の噂くらいは耳にしたことがあるが、まさかそこまで非人道的な行為に手を染めている国だったとは想像もしていなかった。自分の平和ボケっぷりに多少の腹立たしさを覚えるが、これからはそうもいられない。クリスタルの戦士として選ばれた理由はわからないが、これだけの力を手に入れたのだから、力を持つものとしての責任は果たさなければならない。
「失礼します」
バッツが思いに耽っている間に医務室へとたどり着き、エドガーがノックの後に部屋の戸を開けて中に入るのにバッツたちも続く。
「おお、来たか――」
医務室では、ティナと思しき少女がベッドの上で上体を起こしており、その傍らには青い装束とバンダナを身にまとった青年――リターナーのアジトにやってきたときに紹介されたが、ロックと言う名の青年である――と、今しがたエドガーの来訪に反応した、立派な髭を備えた壮年の男性が立っていた。
「ええ、バナン様。クリスタルの戦士を2名連れてまいりました」
「エドガーよ、高々神官崩れの男に一国の王が敬称など……いや、まあいい……しかし、まさか本当にタイクーン国のレナ王女が――そして、そちらの青年も――」
「バッツ=クラウザーです」
エドガーに様付けで呼ばれた、おそらくリターナーにおいてかなり地位の高いバナンと呼ばれた男に対し、バッツは自身の名を名乗りながら頭を下げる。
「私は、バナン。このリターナーの指導者をしておる。して、お主等に来てもらったのは他でもない、この魔導の娘――ティナを見てもらおうと思ってな」
「私達に、ですか……?」
別に魔導技術について詳しい訳でもない自分たちが呼ばれた理由がわからず、バッツと同じ疑問を抱いたレナが言葉を返す。
「うむ――これでもミシディア出身の元神官での、今ここで魔法学の話をするつもりはないが――要するに、お主等が得たクリスタルの力とこの娘が宿す魔導の力は、元を辿ればこの世界――星の力ではないか、と考えている。故に、その根源を同じとする力を持つもの同士、引き合わせることで何かお互い感じるものがあるのでは、と思ったまでだ。どうにも、この娘――ティナは帝国にいた間、つまり生まれてからの記憶がほとんど無いという。我々としては少しでも手がかりがほしいのだよ、クリスタルの力にしても幻獣の力にしても」
クリスタルの存在を知っている者にとっては、クリスタルが世界の力の化身であるという考え方は殊更魔法学や星命学に傾倒しておらずとも、何となく信じている話である。そして、魔導技術の根幹を担っている幻獣についても、それは同じようなものだ。
それにしても、ティナも記憶喪失とは――隕石から現れクリスタルの戦士に選ばれた老人、そしてクリスタルと同じく世界の力を元とする幻獣の力を身に宿す少女が揃って記憶喪失とは、これは本当に偶然なのだろうか。
「うん――私からもお願いしたの。何でもいい、自分のことが少しでもわかれば、って――」
ここでバッツ達が医務室に来てから言葉を発していなかったティナが口を開く。その声は二十歳に満たない少女のものとしても、か細く透き通るようでいてどこか不安定さを感じる。
「なるほど、そういうことでしたか。はじめまして、ティナさん。私は、レナ=シャルロット=タイクーン。名前の通り、タイクーンの王女です」
「ありがとう、レナ。私は、ティナ=ブランフォード。ガストラ帝国の……兵士だったわ」
「俺はバッツ――」
二人が挨拶を交わし、レナがティナの手に自分の手を重ねたのを見たバッツが続いて挨拶を切り出したその刹那、3人の五感がこの世から切り離される。頭に流れてくるのは、太古の記憶。バッツ達はこの感覚を知っている。風の神殿のクリスタルの間で戦士に選ばれた、あのときと同じ。
だが、今回はあの時よりももっと鮮明にイメージが流れ込んでくる。青い鎧を身にまとった騎士が白銀の甲冑の騎士と刃を交えている。
「おい、どうした?」
エドガーの問いかけにより、バッツ達が我に返る。
「すみません……急に、知らない記憶が頭の流れ込んできて――知らない誰かと誰かが、戦っている……そんな記憶が」
「なんと…!ふむ、やはりクリスタルと魔導の力は同質のもの……そして、ティナに流れる魔導の力も本物というわけか……」
唸りながらバナンが立派な髭を撫でる。
「ティナ、大丈夫かい?君のそのきれいな顔が苦痛に歪むのはこれ以上見ていられない。ほら、ベッドに横になってくれ」
「ええ、そうするわ」
「…………」
「?」
「―――」
言葉を失いエドガーを見つめるティナとレナ。最も、その表情から二人の心の内は全く違うものだと予想できるが。
「コホン――では、私達は一旦戻ります。私達がいるとティナさんに余計な負担をかけてしまうかもしれないので」
「あ、ああ……呼び出しておいてすまないが、そうしてくれると助かるよ」
何やら落ち着かない様子のエドガーに、不自然に整った笑顔を向けてレナは医務室を後にする。
「じゃあ、失礼します……」
何だか変な空気に、バッツもぎこちなく挨拶をして部屋を出る。
久しぶり過ぎて色々と忘れている部分もある中、設定を掘り下げるような話だったのでこれで良かったのかどうか……